異世界ムフフ滞在記 ~ポンコツでゲイの僕が異世界転移したら、魔法の才能に目覚めた上にイケオジ騎士と相思相愛に!?~

古木クー太

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1章

1-2 砦町の流儀

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 馬に揺られながら、僕は出会ったばかりのイケオジ騎士の背中に必死でしがみついていた。彼の身体が動くたびに汗と鉄、男性的な匂いがふわりと漂い、僕の心臓は場違いにも高鳴った。視線を上げると彼のプラチナブロンドの髪が陽光を浴びてきらめき、鍛え上げられた広い背中はまるで僕を守る盾のようだった。

「あれが我々の拠点、エルドリアの砦だ」

 騎士の低い声にうながされ顔を上げると、巨大な川の流れに抱かれるようにして存在する小さな町が見えた。

「見ろ。町はエルド川の大きく蛇行した内側に築かれている。天然の要害というわけだ」

 彼の言う通り、豊かな水をたたえた大河がまるで町を守るように、三方を囲むようにして雄大に流れている。その川岸に沿うようにして、僕の背丈の三倍はありそうな石壁が築かれているのが遠目にも分かった。

「陸と繋がっているのは我々がいるこちら側だけだ。だから町の入口や防衛設備をこちら側に集中させている」
「はぇ~、かなってるんですねぇ」

(……それにしても、天国にしてはなんだか随分とくたびれているような……)

「……だが、見ての通りあちこちガタが来ている。修復する金も人手も足りん」

 僕の考えていることが伝わってしまったのか、彼は少しだけ自嘲気味にそう述べた。彼の言う通り石壁は所々黒ずんでつたからみつき、崩れたままの部分や木の板で塞がれただけの箇所も見受けられた。石壁の外側は水堀で囲われ、そこに架けられた木製の跳ね橋の先に頑丈な城門が見える。

「町への入口はあの跳ね橋だけだ。夜間や非常時にはあれを引き上げて町を完全に孤立させる」

 城門の上には小さな見張り台が一つあり、そこに門番らしき人影が一人立っているのが見えた。僕たちを乗せた馬が橋に差し掛かると、門番の男がイケオジ騎士に気づき敬礼した。

「お戻りですか。巡回ご苦労様です」
「ああ。……少し厄介な拾い物をした」

 騎士はそう言うと背後の僕を顎で示した。門番は僕の無様な姿を見て一瞬いぶかしげな顔をしたが、彼の言葉にそれ以上は問わず城門の脇にある小さな通用口が開かれた。

「門をくぐってすぐの広場が町の中心だ。工房やパン屋が並んでいる。活気があるのはこの辺りだけだがな」

 彼の言った通り、通用口をくぐると石畳が敷かれたアニメや映画の世界を思わせる町並みが広がっていた。正面には小さな広場があり、その中央の井戸の周りでは町の人々が談笑している。広場を囲むようにつちの音が響く工房やパンの焼ける香ばしい匂いを漂わせる店が軒を連ねていた。

(このいかにもな中世ヨーロッパ感……。それに騎士とか門番とか……。もしかして、僕……なろう小説でよくある異世界転移ってやつをしちゃった……!?)

「そしてあの奥に見えるのが我々エルドリア騎士団の詰所だ。まずはそこでお前の話を聞かせてもらう」

 彼の視線の先には町の最も奥にそびえるひときわ大きく堅牢な建物があった。僕たちを乗せた馬はその広場を抜けまっすぐにその建物へと向かっていく。あそこが彼の言う騎士団の詰所とやらか……。僕はごくりと唾を飲み込んだ。


 詰所の中は外の喧騒とは打って変わって、張り詰めた静寂と鉄の匂いに満ちていた。案内されたのは簡素な医務室。そこで僕はイケオジ騎士から、古いけれど清潔なシャツとズボンを渡された。

「これを着ていろ。……話は我々の長が聞く」

 僕が着替えを終えると、彼は僕を詰所の最奥にある執務室へと連れて行った。そこで僕を待っていたのは、白髪混じりの短髪と顎を覆うように生やされた髭が印象的な、壮年の騎士だった。彼こそがこの騎士団を束ねる長なのだろう。

「──その者が?」
「はっ。街道の外れで賊に襲われているところを保護しました。身ぐるみを剥がされ、もう少し遅ければ危ういところだったかと。……話を聞きましたが、どうも様子がおかしく」

(まずい……。ここが本当に異世界だとしたら、さっきイケオジ騎士に言ったこと……撮影だとかサインだとか……絶対に変な奴だと思われてる……)

 団長は鋭い目で僕を値踏みするように見つめた。その視線は魂の奥底おくそこまで見透かすようで、僕は思わず身をすくめた。

「名は?」

(ここが本当に異世界なら……こういう世界でむやみに苗字を名乗るのはまずいかもしれない。貴族とかそういう特別な人たちだけのものだったら……)

「やま……久一郎と申します」

 苗字の“山岡”を言いかけたすんでのところでとっさに飲み込み、下の名前だけを告げた。僕の不自然な言いよどみに、団長とイケオジ騎士は少し怪訝けげんそうな顔で見合わせた。

「……変わった響きだな。どこの国の者だ?」
「も、申し訳ありません。それが、よく分からなくて……」
「分からん?」
「はい。気がついたらあの麦畑にいて……その前のことも、自分がどこから来たのかも、なんだか頭にもやがかかったみたいに……」

 僕は咄嗟に記憶喪失のふりをした。気が付いたら異世界(?)にいて、おまけに強盗に襲われて……。僕の頭は完全にキャパオーバーだった。この状況を上手く説明できる自信なんてまったくなかったのだ。

「そうか。……では、キューイチロー殿と呼ばせてもらおう。記憶が戻るまで、我々エルドリア騎士団が身柄を預かろう。ダグラス、この者の世話はお前が見ろ。まずは休める部屋へ案内してやれ」
「はっ!」

 団長の口から初めてイケオジ騎士の名前が明かされた。ダグラス、というのか。その名を知っただけで彼との距離がほんの少しだけ縮まった気がした。団長から“殿”付けで呼ばれたことに戸惑いつつも、僕は深々と頭を下げた。


 執務室を出て石造りの長い廊下を歩きながら、ダグラス殿は僕にいくつかのことを教えてくれた。

「先ほどの御方が我らエルドリア騎士団の団長だ。そして俺の名はダグラス。貴殿のことはキューイチロー殿と呼ぶ」
「は、はい。ありがとうございます、ダグラス殿」

 彼の後について歩いていると、やがて僕たちは太陽の光が差し込む広大な中庭のような場所に出た。中庭の向こう側は訓練場になっているらしく、何人もの騎士たちが訓練に励んでいるのが見えた。

 カン! カン! と剣戟けんげきの音が小気味よく響き渡る。僕の目はその光景に完全に釘付けになった。

(う、うわぁ……!)

 そこにいたのはゲームに出てくる騎士そのものだった。皆、ダグラス殿と同じように彫りの深い精悍な顔立ち。日に焼けた肌の上で、汗がきらきらと輝いている。中には上半身裸で一心不乱に巨大な戦鎚ウォーハンマーを振り下ろしている熊のように大柄な男もいて、動くたびに分厚い胸筋や隆起した背中の筋肉が生き物のようにうねっていた。

(す、すごい……! 本物の筋肉が間近に……! ムフフ……! ムフフフフフ……!)

 僕の心の奥底のムッツリスケベな部分が歓喜の声を上げていた。

「あれはトルキス。騎士団一の力自慢だ」

 ダグラス殿が僕の視線に気づいたのか、無骨な指でその熊のような男を指し示した。

「その隣で弓を射ているのがフィン。弓の腕は団一だ」

 彼の視線の先には銀色の髪を風になびかせ、涼しげな顔で次々と的の中心を射抜いている細身の美形がいた。

「……そしてあの二人組がライアス殿とベイル殿だ」

 彼が指し示した先では、黒髪の鋭い目つきの男と茶髪の人懐っこい顔立ちの男が、まるで舞うように剣を交えている。その連携は素人の僕が見ても明らかに他の者たちとはレベルが違っていた。

「彼らは皆、俺の大切な仲間であり、このエルドリアを守る屈強な戦士たちだ」

 彼の声には仲間たちへの誇りと信頼がにじんでいた。

(……なんて素敵な職場……!)

 僕は自分がとんでもない楽園に迷い込んでしまったのではないかと、本気で思い始めていた。彼はそんな僕の内心の興奮など知るよしもなく、僕を騎士団詰所の一角にある小さな個室へと案内した。

「今夜はここで休め。食事は後で誰かに運ばせる。……明日からお前にできる仕事を探してもらう」
「あ、ありがとうございます……その、ダグラス殿……」
「……ああ」

 彼は短くうなずくと部屋を去っていった。


 一人きりになった僕は硬い寝台に倒れ込む。天井の木目を眺めながら今日一日の目まぐるしい出来事を反芻はんすうした。

(一体、何がどうなってるんだろう……)

 会社での失態。突然の土砂降りと閃光。そこまではオボロゲながらに思い出した。だけど気がついたら見知らぬ麦畑にいて、おまけに言葉は通じるのに明らかに日本じゃない場所で屈強な男たちに襲われて……。何もかもが現実離れしていて、まだ夢の中にいるようだ。

 元の世界に帰れるのだろうか。……帰りたいのだろうか。僕を必要としてくれる人などどこにもいなかった、あの世界に。ここでは、少なくとも僕の命を救ってくれた人たちがいる。ダグラス殿のような、モニター越しでしか見たことが無かった逞しく精悍せいかんな男たちがいる。ムフフ。

 不安とほんの少しの期待。そして未知なるものへの微かな興奮。様々な感情が混ざり合ったまま、僕はいつの間にか深い眠りに落ちていた。
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