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古傷

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 渡された鍵で部屋の扉を開ける。少し軋む音を上げながら開いた先は、日当たりのいい部屋だった。

 部屋の中には、2台のベッドと、サイドチェストと小さな机と椅子がそれぞれ備え付けられていた。窓から日差しが入り込み、部屋全体がポカポカと暖かく眠気を誘われるようだ。

「気持ちいい部屋ですね。早く体洗って、アイス食べて、寝ましょう!」

「うん、さっきの子は風呂について何も言わなかったけど、見たところなさそうだよね」

「それなら朔が作ればいいですし、特に問題ないのでは?」

「そうだね」

 まぁその通りだけど、万が一作れなかったらどうするんだ。と思わなくもないが、僕も早くスッキリして寝たいから、大人しく目を閉じて想像する。

 この部屋に入りきれて、時短のために二人で入っても余裕のある大きさの物を。なるべくシンプルがいいな、そのほうが想像がしやすいし。あ、あと保温効果がついてるといいかも。

 もう一つ、洗い場代わりになる物を作らないと。地球の浴室は排水口があったけれど、ここで排水口用の穴を作っても、流れていく場所がなくて床がびしょ濡れになるだけだ。この床は木でできているようだから、最悪、下の食堂まで濡れてしまうだろう。

 うーん、洗い終わった後のお湯をどうするかが問題だなぁ。お湯を溜める場所を作っても、溜めたお湯に使い道なんでないだろうし、結局後で捨てなきゃいけなくなる。それに、この部屋の空いてるスペースに風呂と洗い場を設置したら、他には何も置けないくらいには狭い。

 ああでもないこうでもないと考えた末に、面倒になってしまって適当になったけれど一応できた?かな。そして、薄目を開けて確認する。うん、やっぱり半透明。試しに触る以外でバグの解除ができないか試してみよう。

 一番に思いついたのは痛みや衝撃だ。自分に痛みや衝撃を与える事で現実だと認識させるのはどうだろう。いや、別に現実逃避をしてるわけじゃないとは思うんだけど、いまいち自分でもわからないな。

 物は試しだ。痛いのは嫌だから、なるべく衝撃の方で試そう。まずは……駄目だ、指パッチンが手の平パチンと合わせるのしか出てこない。指パッチンで成功したらカッコよくて嬉しいけど、少し恥ずかしいかもしれない。

 よしやるぞ、と指をスタンバイする。少し緊張してるせいか、ドキドキする胸を落ち着かせられる自信はないので放置して、いざ。

 パチンッ

 おぉ、我ながらとてもきれいに鳴らせた気がする。一時期指パッチンの練習をしてたことがあったからか、僕には理想の指パッチンの音がある。今回はそれを出せたと思う。

 いい加減、目を開けて確認しなきゃいけない。あぁ、嫌だと思いつつ、薄目を開ける。目に映った光景に僕は息を飲み、崩れ落ちた。

 う、うぅ……うわぁぁぁ!つらい、つらすぎる!なんで異世界来てまで、自分の古傷を抉ってんだよ!僕のばかぁ!



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