悪役令嬢の私が聖女だなんて聞いてませんわ!

みや

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今日は学園が休日ということもあり、エリーシカが親しい友人の伯爵令嬢シェリルを王都の自邸に招き、お茶会をひらいていた。
第3王子の婚約者というのもあり、他の令嬢からは距離を置かれているエリーシカはお茶会やサロンに呼ばれる事が少なく、気心を知れたシェリルとのお茶会が癒しのひと時になっていた。


「ねぇ、エリー」
ティーカップを見つめるシェリルにエリーシカは微笑む
「なぁにシェリー」

「貴女の笑い声、あちこちでの茶会で噂になってるんだけど、なにしたの?」

エリーシカは瞬きの間だけ返答に困った。
「特に何もしてないわよ。事が進んで嬉しかっただけ」
「貴女、扇で指し示すだけで、周りが慄くような存在になってきてるわよ」
「第3王子の婚約者というだけで、周りが気を使いすぎなのではなくて?」
「それもあるでしょうけど、殿下を引っ張っていく姿を見て近づきがたいのよ」
「引っ張るね……」

机に座りたがらない殿下を探し、見つければ侍従に指示をだして殿下を捕まえる。
そんな姿は学園での日常であった。
授業すら逃げ出す殿下に嫌気がさしながらも、侍従達からの懇願をむげにはできず捕まえて机に座らせる日々。

「たしかに、エリーが引っ張ってる訳ではないでしょうけど、指示する姿がまるで悪女のよう。とは言われてるわね」
「悪女ね……」
「エリー、悪役をやめない?このままでは悪役令嬢を通り越して悪女って言われるわよ。ただでさえ板についた悪役令嬢になってるのに……」
「シェリー、仕方の無いことなのよ?王家からの指示もあるし……」

シェリーはため息をひとつ落とし、フィナンシェに手をのばした。
「それはあるでしょうけど、あの様子じゃね……」
「そうね……」

シェリーの呟いた、他の王子は真面目で素敵なのに。という言葉にエリーシカの心は少し沈んだ。
エリーシカではどう足掻いても第3王子の婚約者の立場からは逃れられないのが現実だった。
王子側からの婚約破棄がない限りは。
ティーカップに目をやると、水面には憂い気なエリーシカが映っていた。


「あぁもうやだやだ。こんな話はやめて、もっと楽しそうなお話をしましょうか」
シェリーの見せる笑顔にエリーシカもつられて微笑んだ。
「そうね、せっかくのお茶会なのですもの。なにか楽しいお話はある?」

「ここ数年、作物の不作が続いているじゃない?だから、聖女の選定儀式をやるそうなの」
「聖女の儀式を?」
「そう。国内の未婚の令嬢が対象になるそうよ」

この国は降臨した聖女とその騎士によって成された事もあり、聖女の血は王家と伯爵以上の貴族に受け継がれている。
しかし、500年前の危機に選定したのが儀式の記録の最後であり、今では子供たちに読み聞かせるようなおとぎ話となっていた。

「聖女の儀式ね」
「聖女に選ばれたからと言って、何が出来るのか分からないけど、ロマンチックよね」
うっとりとした夢見る乙女の表情をしたシェリルにエリーシカは笑みがこぼれた。

「きっと、ロマンチックな事より現実の問題を解決しろって言われるわ」
「そんな事なら私は聖女にならないわ」
「あら、聖女ならよい人と出会えるかもしれないのに?」
「それなら考えなくもないわね」

あごに手を当てて首を傾げるシェリーにエリーシカは思わず笑ってしまった。

「やっぱりエリーの笑い方は可愛いわ。悪役のような高笑いなんて聞き間違いよ」
「そう……かしら?」
目元の涙を指でそっと拭う姿は普段と違って年相応であり、バラのような可憐さがあった。

「そうよ。エリーは悪役令嬢でも悪女でもないわ」
そう呟くシェリルの声はエリーシカの耳に届かなかった。


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