悪役令嬢の私が聖女だなんて聞いてませんわ!

みや

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「第3王子よ、このような騒ぎを起こして何事か」

国王夫妻と王太子マルスに続いて第2王子ライアンが王族用扉から姿を見せる。

エリーシカが礼をとると、周囲の貴族も慌ててそれに倣った。

「陛下、私はこの娘に婚約破棄を言い渡していたのです」
「婚約者エリーシカよ、それは誠か」
「誠でございます。別室でお話をと申しましても聞き入れては下さらず、このような騒ぎを起こしてしまい、申し訳ございません」

「よい、そなたに非はないであろう。楽にせよ」
陛下のお言葉にエリーシカは礼を深めた。

「この娘は私の愛する聖女リーナに嫌がらせを行ったのですよ!罪人に温情など必要ないでしょう」

真っ赤な顔をした第3王子ソラが国王陛下にくってかかる。
国王は冷めた目で王子を見据えた。

「第3王子よそちらの令嬢は聖女と申したか」
「 ええ、リーナは聖女です。私の妃になるに相応しいのです」

胸を張って答える第3王子に国王は一瞬だけ目を伏せ、王妃は扇を広げると王子から顔を背けた。

その姿にエリーシカは疑問を浮かべる。
王妃は末息子の第3王子を自身の手で育てたという事もあり、とてつもなく甘く第3王子の行動全てを肯定する程であった。
今回の件も第3王子の味方をするのだろうと思っていたが、一言も発しないその姿に違和感を覚えた。

「そうか……衛兵よ!その娘を捕らえよ。聖女を騙るカタル罪人である!」

あっという間に男爵令嬢は拘束される。

「何するの!私は聖女なのよ!」

第3王子ソラは第2王子ライアンの手によって押さえつけられた。
軍に長らく属しており、将軍であるライアンの手からは逃れられずに唸っているだけだった。

「父上!これはどういう事ですか!」

押さえつけられながらも吠えたてる第3王子に王妃は目を伏せ、国王はため息を漏らす。

「聖女はそこの娘などではない」
「嘘よ!私が聖女だって、ルーベ伯爵が教えてくださったのよ!」

エリーシカはそっと扇を口元に当てた。
(ルーベ伯爵……あぁ、王子に甘言ばかり囁く方ね。何度あの方の言葉にのせられて遊びに行かれた事か……。
あちらのご令嬢も積極的でしたし、さしずめ私との婚約破棄と寵愛を受ける男爵令嬢の失脚を狙ったのでしょうけど、今回ばかりはいただけないわね)

どちらに転んでもエリーシカにとっては婚約破棄は決まっていた。
王家が渋ったとしても、今回の件を材料に辱めを受けたといった理由で婚約破棄できる。
そのため、エリーシカは成り行きを見守る事にした。

第2王子ライアンが第3王子を押さえつけたまま静かに言う。
「ルーベ伯爵の虚言も、その娘の虚言も全て調べがついている」

「兄上!リーナは嘘をつくような人ではありません!」
第3王子がなんとか拘束を逃れようと身動ぎしながら叫ぶ。

「王族の婚約者は常に近衛がついているのを知っているだろう!
その娘が言うインクを掛けられた事や階段から突き落としたなど不可能だ」

「兄上!その女は近衛の目を掻い潜ってるだけです!
その証拠にいつも私とリーナの邪魔をする時は誰も連れておりません!」

自慢げな表情をみせる第3王子に、第2王子は怒りを顕にする。

「ついておるわ!婚約者となった令嬢への警護は離れてていても常に着いている!影も共に付けておるのだぞ」

「ライアンよ、もうよい。連れて行け」

国王陛下の声に男爵令嬢を取り押さえていた近衛が令嬢を引きずるような形で広間から連れ出していく。
第2王子も騒ぐ第3王子を引っ張り立たせ近衛に引き渡すと手短に指示を飛ばした。


広間はいまだザワついているが、国王夫妻が玉座に座ると、徐々に静まっていった。



******************

長くなったので一旦切ります。
5話で完結させる予定ですが、もう少し伸びそうです。



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