悪役令嬢の私が聖女だなんて聞いてませんわ!

みや

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広間のざわめきが静まったところで、国王の傍に控えていた王太子が静かに口を開く。

「皆の者この度は騒がせてしまったが、本題の聖女の発表を行う」
ソワソワとしだす令嬢達の中でエリーシカはしっかりと王太子を見据えていた。

「先に申しておく。皆の者も分かっておると思うが、これは神殿にて行われた儀式において神から聖女が誰なのかを啓示を受けたものである」

王太子は言葉を区切ると、第2王子に目配せする。 
第2王子が一歩前に出て口を開く。
「選ばれた聖女は第2王子である私と婚姻する事が神からの啓示の中に含まれていた」

婚姻の言葉に令嬢達が悲鳴を上げた。
エリーシカは悲鳴を上げる者たちの姿を視界の端に捉えながら、全く関係ない事を考えていた。

(婚約破棄の手続きが終わり次第、あれこれ理由をつけて領地に戻るとして……。
あとは、傷物令嬢として婚約は望めないですし、周辺諸国に旅行でも行きたいわね。
悪役を長らく引き受けてきましたけれど、もうお役御免ですしこれからは思う存分好きなことが出来そうだわ)

顔だけはあたかも真剣に聞いているといった澄ました表情を作っているが、頭の中では別のことを考えるというのは、長らくの王子妃教育と、第3王子の言い訳を聞き流すスキルとして、エリーシカがいつの間にか習得していた特技だった。

「伯爵令嬢エリーシカよ、こちらへ」

王太子からの呼びかけに思考を現実に戻したエリーシカは一礼し、壇上を登りながら、なぜ呼ばれたのかを考えるが、嫌な予感しかしなかった。

王太子の傍に来ると、第2王子がエリーシカの隣に立つ。
王太子が広間の人々に向かって宣言する。
「伯爵令嬢エリーシカよ、この度神からの啓示によりそなたが聖女であると示された。これにより、ここに居る第2王子との婚約を発表する」

広間のざわめきと令嬢達の悲鳴が鳴り止まぬ中、エリーシカは混乱していた。

(私が聖女だなんて聞いてませんわ!?!?
こういったものは事前に知らされていて準備をしてから発表ではありませんの????
婚約破棄された私が聖女だなんて……
それに散々悪役を演じてきましたのに、神は一体なにを見てらしたの!?!?)

エリーシカの表情は澄まし顔だが、混乱しておりそのまま固まってしまっていた。

第2王子がエリーシカの目の前で跪き、そっと手を取る。
人々の視線が集中し、ざわめきが鳴りを潜めた。

「エリーシカ嬢、私は長らく貴女の努力を見てきました。 第3王子が今まであの立場に居られたのも貴女の努力と支えがあった事を知ってます。
これからは私のことをライアンとお呼びください」

第2王子ライアン殿下とは第3王子と婚約が決まった幼少期に幾度も机を並べて勉強していた。
抜け出す第3王子を2人して探した事もあり、その途中で2人で迷子になった事もあった。
そんな懐かしき日々を思い出しながら、エリーシカは第2王子ライアン殿下を見つめる。

「ライアン殿下」

「敬称も不要です。
これから私は貴女の夫となるのですから」

展開の速さになんとかついていきながら、エリーシカは言葉をひねり出した。
「そんな、気が早いですわ」

「たしかにそうですね」
ライアン殿下の照れたような笑みにエリーシカの心が跳ねる。

「エリーシカ嬢、私と結婚してくださいますか?」

真剣なライアン殿下の目にエリーシカはクラクラしそうだった。
返事を返そうとするが、なかなか言葉にできず、数秒後に顔を真っ赤にしたエリーシカがなんとか「はい」と言葉を返した。

国王陛下が拍手を送ると、周囲も拍手も拍手をしだし、次第に祝福ムードへと変わっていった。

ライアン殿下に腰を引き寄せられ、見上げると、  耳元で囁かれる。
「愛してます。エリー」

真っ赤な顔をしたエリーシカとニコニコと笑みを見せるライアン殿下の2人に、周囲はお似合いだと微笑みあい、宴は夜更けまで続いた。
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