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運命の出会い
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王都を出れば長いこと一本道だ。広がる田園風景はアミーユにはひどく現実味がなかった。昨日まで見えていた未来が、まったく別のものになってしまった。
一夜明けても思考がうまく働かない。
銀時計が踏みつけにされた光景がよみがえる。それは、愛されたいと願うアミーユの努力のすべてが踏みつぶされたも同然だった。
極寒の僻地での暮らしなど想像もできない。領民は、俺を受け入れてくれるだろうか。
父上の戯言を真に受けて、凍土を開拓して豊かな地にしてみようか。それでも父上は俺を忌々しく思うだけだろう。いっそのことノルデンで私兵を募って、父上を斃しに行こうか。
アミーユから乾いた笑い声が漏れる。所詮夢想だ。
父上が許さない限り王都にはもう戻れない。
なんのために頑張ってきたんだろうな。もうどうにでもなるがいい。
日が落ちても馬車は止まらなかった。いつしか険しい山道を走っている。馬車が揺れてランタンの炎が明滅する。伯爵に忠実な従者は予定された宿場町まで走らせなくてはと焦っているようだ。
山中、いきなり、馬車が止まった。従者の声が聞こえてくる。
「アミーユ様、少々お待ちください。車輪がぬかるみにはまったようです」
従者らは御者台から降りていった。アミーユは鈍い思考で考えた。
今の隙に逃げ出すか。しかし、道もわからぬ山奥で逃げたところで野垂れ死ぬだけだ。
従者はなかなか戻ってこない。うとうとた眠りかけたアミーユは、馬のいななきにはっと目を覚ました。
アミーユが体を起こすと、窓の外にぽつぽつと松明が見えた。
なんだ………?
松明の下には猛々しい男の姿がある。アミーユは、苦笑いをした。
賊か………。
まさか山賊に襲われるとは。ここで卑しきものに殺されるのか。ああ、さすがだ、さすが惨めな人生だな、アミーユ。
自らを嘲る思考に反して、アミーユの体中の細胞が瞬時に目覚めだしていた。
危機において、頭脳、肉体の双方が瑞々しく動き始める。
松明の数は五本。
アミーユは、ドアに飛びついた。
しかし、すでに賊は間近に迫っていた。窓の外に賊の野蛮な顔が現れれば、ドアが開いて、馬車内に侵入してくる。
旅銭を差し出して命を乞うか、抵抗するか。アミーユは一瞬で決断した。
戦うべきだ。
賊の目は暴力に飢えている。おそらく金を差し出しても見逃しはしまい。
そうと決まればアミーユの体は反射的に動く。
アミーユは片足を後ろへと引くと、賊の横腹をしたたかに蹴りつけた。さらに床に手を付き両足を繰り出す。賊を馬車の外へと思いっきり蹴り出した。賊は、そのまま地面に伸びた。
馬車から出て、別の賊が飛びかかってきたところを交わし、素早く引き抜いた小刀で賊の脇腹を刺す。次に後ろから襲い来る影を下から上へと薙ぎあげる。返り血を避けて横跳びし、馬車の後ろに滑り込む。
馬車に身を隠して、松明を探す。
賊はあと二人。
ひときわ背が高く屈強そうな赤毛が目についた。
赤毛が頭目か。
あれを仕留めればば、残る一人は退散するしかない。
アミーユの体は赤毛に向けて飛び跳ねていた。アミーユよりも二回りも大きな体に背中から飛びかかる。
松明を持つ手を叩いて、松明が地面に落ちたところで、膝裏を蹴って、赤毛に両膝を付かせた。背後から赤毛にのしかかり、のど元に小刀を押し付ける。一瞬のことだった。
アミーユが首に小刀を埋める寸前、迷いが生じた。殺すことへのためらいだ。アミーユはまだ人を殺したことがなかった。
ほんのわずかな隙を捉えて、赤毛が動いた。
アミーユの視界が大きく傾き、赤毛に背負われ、前に一回転すると、今度は背中から赤毛に抑え込まれていた。手首を打たれて、小刀を取り落とす。形勢が逆転した。
アミーユは両手を後ろ手に拘束された。完全に捕らえられてしまった。
一夜明けても思考がうまく働かない。
銀時計が踏みつけにされた光景がよみがえる。それは、愛されたいと願うアミーユの努力のすべてが踏みつぶされたも同然だった。
極寒の僻地での暮らしなど想像もできない。領民は、俺を受け入れてくれるだろうか。
父上の戯言を真に受けて、凍土を開拓して豊かな地にしてみようか。それでも父上は俺を忌々しく思うだけだろう。いっそのことノルデンで私兵を募って、父上を斃しに行こうか。
アミーユから乾いた笑い声が漏れる。所詮夢想だ。
父上が許さない限り王都にはもう戻れない。
なんのために頑張ってきたんだろうな。もうどうにでもなるがいい。
日が落ちても馬車は止まらなかった。いつしか険しい山道を走っている。馬車が揺れてランタンの炎が明滅する。伯爵に忠実な従者は予定された宿場町まで走らせなくてはと焦っているようだ。
山中、いきなり、馬車が止まった。従者の声が聞こえてくる。
「アミーユ様、少々お待ちください。車輪がぬかるみにはまったようです」
従者らは御者台から降りていった。アミーユは鈍い思考で考えた。
今の隙に逃げ出すか。しかし、道もわからぬ山奥で逃げたところで野垂れ死ぬだけだ。
従者はなかなか戻ってこない。うとうとた眠りかけたアミーユは、馬のいななきにはっと目を覚ました。
アミーユが体を起こすと、窓の外にぽつぽつと松明が見えた。
なんだ………?
松明の下には猛々しい男の姿がある。アミーユは、苦笑いをした。
賊か………。
まさか山賊に襲われるとは。ここで卑しきものに殺されるのか。ああ、さすがだ、さすが惨めな人生だな、アミーユ。
自らを嘲る思考に反して、アミーユの体中の細胞が瞬時に目覚めだしていた。
危機において、頭脳、肉体の双方が瑞々しく動き始める。
松明の数は五本。
アミーユは、ドアに飛びついた。
しかし、すでに賊は間近に迫っていた。窓の外に賊の野蛮な顔が現れれば、ドアが開いて、馬車内に侵入してくる。
旅銭を差し出して命を乞うか、抵抗するか。アミーユは一瞬で決断した。
戦うべきだ。
賊の目は暴力に飢えている。おそらく金を差し出しても見逃しはしまい。
そうと決まればアミーユの体は反射的に動く。
アミーユは片足を後ろへと引くと、賊の横腹をしたたかに蹴りつけた。さらに床に手を付き両足を繰り出す。賊を馬車の外へと思いっきり蹴り出した。賊は、そのまま地面に伸びた。
馬車から出て、別の賊が飛びかかってきたところを交わし、素早く引き抜いた小刀で賊の脇腹を刺す。次に後ろから襲い来る影を下から上へと薙ぎあげる。返り血を避けて横跳びし、馬車の後ろに滑り込む。
馬車に身を隠して、松明を探す。
賊はあと二人。
ひときわ背が高く屈強そうな赤毛が目についた。
赤毛が頭目か。
あれを仕留めればば、残る一人は退散するしかない。
アミーユの体は赤毛に向けて飛び跳ねていた。アミーユよりも二回りも大きな体に背中から飛びかかる。
松明を持つ手を叩いて、松明が地面に落ちたところで、膝裏を蹴って、赤毛に両膝を付かせた。背後から赤毛にのしかかり、のど元に小刀を押し付ける。一瞬のことだった。
アミーユが首に小刀を埋める寸前、迷いが生じた。殺すことへのためらいだ。アミーユはまだ人を殺したことがなかった。
ほんのわずかな隙を捉えて、赤毛が動いた。
アミーユの視界が大きく傾き、赤毛に背負われ、前に一回転すると、今度は背中から赤毛に抑え込まれていた。手首を打たれて、小刀を取り落とす。形勢が逆転した。
アミーユは両手を後ろ手に拘束された。完全に捕らえられてしまった。
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