玉座の檻

萌於カク

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踏みつけられた銀時計3

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 何が起きたのかもわからず、アミーユは床から父親の顔を見上げた。

 野良犬のように邪険に払われたことに呆然となる。伯爵はアミーユを冷たく見下ろした。

「アミーユ、お前も悪いのだ。お前が平凡な出来であれば、お前に子爵を与えて領地を任せることも考えたが、お前は優秀すぎる。いずれ、ゲイルの邪魔となる」

 ボトリと絨毯に投げつけられたのは銀時計だった。
 立ち上がった伯爵は、アミーユの目の前でそれを踏みつけにした。

 踏みつけられたのはアミーユの心だった。抱いていた望み、父母に認めてもらうこと、物心がついて以来の願いが、粉々に破れた。

 愛してもらおうなんて、ひどい勘違いをしていた。俺はいるだけで邪魔な存在だった………。

 アミーユは起き上がれなかった。長いこと床に横たわっていた。身動きもできないで固まっていた。やがて、銀時計に手を伸ばし、震える手で握りしめた。

♰♰♰

 翌朝、アミーユは出発することになった。長い旅路だが、荷物は少なかった。そもそもアミーユに与えられたものは少ない。士官学校で支給されたものを除けば、ほんのわずかな衣類しかなかった。

 ゲイルが馬車に乗ろうとするアミーユを見つけて駆け寄ってきた。伯爵に見咎められることを気にしているのか、柱の陰にアミーユを引っ張った。泣きそうに顔を歪めている。

 ゲイルの頬にはまだ幼さが残るが、背丈も目方もアミーユを上回っている。体格は母親似に違いない。一方、父親からは茶目に亜麻色の髪を引き継いでいる。
 金髪碧眼のアミーユとは似通ったところがない。そんな弟は昔からアミーユに懐いてきた。

「兄上、私が兄上を迎えに行きますから。私が一人前になったらきっと、兄上を」

 言葉を詰まらせると、ゲイルは、アミーユを抱きしめてきた。
 ゲイルは愛されて育っただけあって、誰からも愛されると信じ込んでいる。

 軽く抱擁を返すと、ゲイルを押し戻す。ゲイル、俺は、お前が憎いよ……。

 アミーユの心うちなどゲイルには理解し得ないだろう。
 アミーユがどれだけ欲しくても手に入れられなかったものを、生まれたときから当たり前のように与えられているゲイル。

 ゲイルは、甘やかされているせいか、その腹には脂肪が何重にも巻いている。馬術も剣術もてんでダメで、学業も落ちこぼれているらしい。それでも、父上と母上の愛を独り占めしてきた弟。

 俺には何が足らなかったんだろう。ずっと考えてきたが、それは努力で得られるものではないと、やっとわかった。生まれながらにゲイルにはあって、俺にはないものがあるのだ。
 
「ゲイル、……元気でな」

 爆発しそうな妬みを必死で抑え込んで、何とか兄としての威厳を保っていた。


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