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運命の出会い2
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赤毛が背後で感心したような声を上げた。
「お前、すげえな。三人をあっという間に倒しちまった。細っこいのにな」
赤毛は、小馬鹿にした声で付け加える。
「だが甘い」
アミーユに倒された三人は、呻き声を上げながら何とか起き上がった。アミーユは賊のどれにも致命傷を与えなかった。
アミーユの自己過信が、仇となった。殺さずとも切り抜けられる。そういう過信が確かにあった。
賊の一人がアミーユを見ながら言った。
「兄貴、こいつ、すげえ上物ですぜ。殺す前に、回しちまいます?」
「へへ、本当だ、俺好みの別嬪さんだ」
赤毛がアミーユを横から覗き込んでそう言う。
こいつらは、穴さえあれば犯せるような野蛮な賊だ。アミーユは奥歯をギリギリと噛んだ。
赤毛は片手でアミーユの懐を探ってきた。銀時計を取り出した。
「これは何だ? 高価そうだな」
赤毛は銀時計を自分のポケットに入れた。
そのとき、赤毛が「うっ」と呻いた。
アミーユが後ろに掴まれた手で、赤毛の手に爪を立てていた。
赤毛の手が緩めば、赤毛に後ろ蹴りを入れて、離れる。小刀を拾い上げると、赤毛に襲い掛かった。しかし、腕でふさがれ、直後、アミーユは後ろに飛んだ。小刀を構えたまま、じりじろと後ろに下がる。
赤毛がアミーユに呆れたような声を出した。
「お前、可愛い顔して、随分勇ましいな」
不意に林からゴソリと物音がした。赤毛が物音のほうを見て、手下に指図する。
「とっつかまえてこい」
賊の一人が林の中に飛び込んだかと思うと、ひと悶着のすえに、二つの影を引きずってきた。
アミーユの従者らだ。林に身をひそめていたらしい。
アミーユは馬車を視界の端に捕らえた。次はどうするか。御者台までの距離を測る。斜め後ろの賊を蹴って、御者台に飛びつけるか。
赤毛に対峙しながら、不意にアミーユはこれまで感じたこともないような感覚を覚えていた。背中がぞくぞくする。カッと熱が上がっているのを感じる。まさか流感か? こんなときに?
ふらりと倒れ込みそうになるのをかろうじて踏みとどまる。
倒れたら確実に殺される。賊が獲物を逃すはずがない。
赤毛は、引っ張ってこられた従者らの上着に手を突っ込んだ。中から革袋を取り出した。
従者らは「あっ」と叫んだ。
赤毛は手のひらに革袋の中身をぶちまけた。ヒューっと口笛が鳴る。
小さな銀貨や銅貨に混じって、金貨があった。
「やったぜ、兄貴」
「20枚はあるぜ」
賊らが小躍りする中、「ギャッ」と悲鳴が上がる。赤毛が従者の足に剣を突きたてていた。
「この金貨をどうやって手に入れた?」
金貨20枚と言えば、従者の身分では一生かかっても稼げない額だ。アミーユの持つ旅銭の数倍もある。
「そういや、従者が金貨なんか持ってりゃおかしいよなあ」
手下らもいぶかしんだ。
アミーユは眉をひそめていた。馬車を振り返る。
馬車の車輪はぬかるみになどはまっていない。従者らの話と食い違っている。
熱で働きが悪くなったアミーユの頭に恐ろしい考えがよぎる。それは赤毛も思いついた考えのようだった。
「まさか、お前ら、主人を売ったわけじゃねえよな」
赤毛の問いに、従者が、滅相もないとばかりに横に振る。
「と、とんでもない」
赤毛は声を荒げて、もう片方の従者の足に剣を突き立てた。悲鳴がつんざく。
「馬と馬車との渡し棒が外れている。お前ら、金髪をここに置いて、自分たちは馬で逃げようとしたな?」
アミーユが馬車を振り返ると確かに渡し棒が外れていた。
赤毛は容赦なく、グサグサと従者らの足に剣を突き立てる。動物のような悲鳴が上がる。
従者は、立っていることも出来なくなり、手下の山賊にもたれるようにして、ズルズルと地面へと沈み込んだ。
「お、お許しを。俺たちゃ、命令に従っただけです。助けて下せえ」
「命令だと?」
「坊ちゃまを山に置き去りにしろと言われたんでさあ」
「誰に言われた?」
アミーユの体がぐらりとかしいだ。頭がふらつく。地面へと倒れ込むところで、赤毛が一歩寄って、アミーユに腕を伸ばしていた。アミーユは赤毛にもたれ込んだ。
アミーユは鈍い頭で考えていた。従者に命令し、大金を払える者。そんなの、そんなの………。
アミーユの唇は震えていた。従者の声を遠くに聞く。
「レ、レルシュ伯でさあ」
「レルシュ………?」
ああ……………!
アミーユは背中を震わせた。
赤毛がアミーユを見る。
「お前の父親か」
アミーユは答えることができなかった。
息子を賊の出るような山にわざと置き去りにさせるのが父親なのか………?
従者らには不運なことに逃げるタイミングがなかったが、俺は父上の思惑通り、無事捕らえられたというわけだ。
山賊に息子がやられたのならば、醜聞になることもなく同情を集めるだろう。
そこまでして俺を排除したいのか………。
どうして家族だなどと思っていたのだろう。あの家を帰る場所だと思っていた。士官学校を卒業すれば当然のように帰り、帰ればいつか受け入れてもらえるとどこかで期待していた。
帰らなければよかった。帰らなければ疎まれることもなかったかもしれないのに。
沸き起こる嗚咽を抑え込んで喉が動く。
そんなアミーユを見つめている赤毛と目が合った。アミーユは目を逸らした。そっぽを向く。
好きにしろ。殺すなら殺せ。
山賊への恨みはない。愚かな我が身が呪わしい。
赤毛がアミーユのあごを捉える。アミーユの顔を赤毛に向ける。赤毛の目がじっとアミーユを見つめた。
「お前は父親に捨てられたってことか」
声には同情めいたものも嘲りもない。ただ不思議そうな顔をしている。赤毛は銀時計を取り出した。
「俺はこれを見たことある。これは国王から贈られた褒賞だ。お前はずいぶんと優秀なんだろう? どうして捨てられたんだ?」
アミーユは黙っていた。
やがて、赤毛は愉快そうに笑った。
「では、俺がお前を拾おう。その命、俺のために使え。お前は家に戻れ。そして父親を殺せ。爵位を奪え。伯爵になれ」
アミーユは赤毛を見つめ返して、しばたいた。
「俺はダンだ。お前は?」
アミーユは声が出せなかった。もう一度赤毛が訊く。
「俺はダンだ。お前は?」
「ア、アミーユ」
答えると、赤毛の黒い目が細くなる。並びの良い歯が見えて、赤毛が笑ったのだと気づく。その黒い目は松明の光を宿して赤く光る。その黒目を見つめているとアミーユの胸が波打つのを感じた。
「よし、アミーユ。良い子だ。俺を裏切るな」
赤毛はそう言うと、剣を振りかぶって、大きく横に薙いだ。従者らの首が二つとも落ちた。
「お前、すげえな。三人をあっという間に倒しちまった。細っこいのにな」
赤毛は、小馬鹿にした声で付け加える。
「だが甘い」
アミーユに倒された三人は、呻き声を上げながら何とか起き上がった。アミーユは賊のどれにも致命傷を与えなかった。
アミーユの自己過信が、仇となった。殺さずとも切り抜けられる。そういう過信が確かにあった。
賊の一人がアミーユを見ながら言った。
「兄貴、こいつ、すげえ上物ですぜ。殺す前に、回しちまいます?」
「へへ、本当だ、俺好みの別嬪さんだ」
赤毛がアミーユを横から覗き込んでそう言う。
こいつらは、穴さえあれば犯せるような野蛮な賊だ。アミーユは奥歯をギリギリと噛んだ。
赤毛は片手でアミーユの懐を探ってきた。銀時計を取り出した。
「これは何だ? 高価そうだな」
赤毛は銀時計を自分のポケットに入れた。
そのとき、赤毛が「うっ」と呻いた。
アミーユが後ろに掴まれた手で、赤毛の手に爪を立てていた。
赤毛の手が緩めば、赤毛に後ろ蹴りを入れて、離れる。小刀を拾い上げると、赤毛に襲い掛かった。しかし、腕でふさがれ、直後、アミーユは後ろに飛んだ。小刀を構えたまま、じりじろと後ろに下がる。
赤毛がアミーユに呆れたような声を出した。
「お前、可愛い顔して、随分勇ましいな」
不意に林からゴソリと物音がした。赤毛が物音のほうを見て、手下に指図する。
「とっつかまえてこい」
賊の一人が林の中に飛び込んだかと思うと、ひと悶着のすえに、二つの影を引きずってきた。
アミーユの従者らだ。林に身をひそめていたらしい。
アミーユは馬車を視界の端に捕らえた。次はどうするか。御者台までの距離を測る。斜め後ろの賊を蹴って、御者台に飛びつけるか。
赤毛に対峙しながら、不意にアミーユはこれまで感じたこともないような感覚を覚えていた。背中がぞくぞくする。カッと熱が上がっているのを感じる。まさか流感か? こんなときに?
ふらりと倒れ込みそうになるのをかろうじて踏みとどまる。
倒れたら確実に殺される。賊が獲物を逃すはずがない。
赤毛は、引っ張ってこられた従者らの上着に手を突っ込んだ。中から革袋を取り出した。
従者らは「あっ」と叫んだ。
赤毛は手のひらに革袋の中身をぶちまけた。ヒューっと口笛が鳴る。
小さな銀貨や銅貨に混じって、金貨があった。
「やったぜ、兄貴」
「20枚はあるぜ」
賊らが小躍りする中、「ギャッ」と悲鳴が上がる。赤毛が従者の足に剣を突きたてていた。
「この金貨をどうやって手に入れた?」
金貨20枚と言えば、従者の身分では一生かかっても稼げない額だ。アミーユの持つ旅銭の数倍もある。
「そういや、従者が金貨なんか持ってりゃおかしいよなあ」
手下らもいぶかしんだ。
アミーユは眉をひそめていた。馬車を振り返る。
馬車の車輪はぬかるみになどはまっていない。従者らの話と食い違っている。
熱で働きが悪くなったアミーユの頭に恐ろしい考えがよぎる。それは赤毛も思いついた考えのようだった。
「まさか、お前ら、主人を売ったわけじゃねえよな」
赤毛の問いに、従者が、滅相もないとばかりに横に振る。
「と、とんでもない」
赤毛は声を荒げて、もう片方の従者の足に剣を突き立てた。悲鳴がつんざく。
「馬と馬車との渡し棒が外れている。お前ら、金髪をここに置いて、自分たちは馬で逃げようとしたな?」
アミーユが馬車を振り返ると確かに渡し棒が外れていた。
赤毛は容赦なく、グサグサと従者らの足に剣を突き立てる。動物のような悲鳴が上がる。
従者は、立っていることも出来なくなり、手下の山賊にもたれるようにして、ズルズルと地面へと沈み込んだ。
「お、お許しを。俺たちゃ、命令に従っただけです。助けて下せえ」
「命令だと?」
「坊ちゃまを山に置き去りにしろと言われたんでさあ」
「誰に言われた?」
アミーユの体がぐらりとかしいだ。頭がふらつく。地面へと倒れ込むところで、赤毛が一歩寄って、アミーユに腕を伸ばしていた。アミーユは赤毛にもたれ込んだ。
アミーユは鈍い頭で考えていた。従者に命令し、大金を払える者。そんなの、そんなの………。
アミーユの唇は震えていた。従者の声を遠くに聞く。
「レ、レルシュ伯でさあ」
「レルシュ………?」
ああ……………!
アミーユは背中を震わせた。
赤毛がアミーユを見る。
「お前の父親か」
アミーユは答えることができなかった。
息子を賊の出るような山にわざと置き去りにさせるのが父親なのか………?
従者らには不運なことに逃げるタイミングがなかったが、俺は父上の思惑通り、無事捕らえられたというわけだ。
山賊に息子がやられたのならば、醜聞になることもなく同情を集めるだろう。
そこまでして俺を排除したいのか………。
どうして家族だなどと思っていたのだろう。あの家を帰る場所だと思っていた。士官学校を卒業すれば当然のように帰り、帰ればいつか受け入れてもらえるとどこかで期待していた。
帰らなければよかった。帰らなければ疎まれることもなかったかもしれないのに。
沸き起こる嗚咽を抑え込んで喉が動く。
そんなアミーユを見つめている赤毛と目が合った。アミーユは目を逸らした。そっぽを向く。
好きにしろ。殺すなら殺せ。
山賊への恨みはない。愚かな我が身が呪わしい。
赤毛がアミーユのあごを捉える。アミーユの顔を赤毛に向ける。赤毛の目がじっとアミーユを見つめた。
「お前は父親に捨てられたってことか」
声には同情めいたものも嘲りもない。ただ不思議そうな顔をしている。赤毛は銀時計を取り出した。
「俺はこれを見たことある。これは国王から贈られた褒賞だ。お前はずいぶんと優秀なんだろう? どうして捨てられたんだ?」
アミーユは黙っていた。
やがて、赤毛は愉快そうに笑った。
「では、俺がお前を拾おう。その命、俺のために使え。お前は家に戻れ。そして父親を殺せ。爵位を奪え。伯爵になれ」
アミーユは赤毛を見つめ返して、しばたいた。
「俺はダンだ。お前は?」
アミーユは声が出せなかった。もう一度赤毛が訊く。
「俺はダンだ。お前は?」
「ア、アミーユ」
答えると、赤毛の黒い目が細くなる。並びの良い歯が見えて、赤毛が笑ったのだと気づく。その黒い目は松明の光を宿して赤く光る。その黒目を見つめているとアミーユの胸が波打つのを感じた。
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