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サースデン戦役
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物語の結末がアミーユの頭から離れない。
これからアミーユが起こす政権の混乱に乗じて、盗賊団は拡大する。
庶民まで暴動を起こすようになるが、最後には盗賊団の首魁は捕まり斬首となる。
アミーユもまた破滅し、王都に平和が戻り、すべて丸く収まる。
俺は悪役主人公 なのだ。最後には滅ぶしかない。
だが、ダンまでも滅ぶのか。
俺、だと?
いや俺じゃない、俺は逆賊アミーユではない。
王位簒奪など、そんな野望など、欠片もない。
3妃を害するつもりもない。
俺は逆賊アミーユとは、違う。逆賊アミーユは、強く猛々しく、誰かを愛する心もない。
しかし、俺は弱く情けなく、愛する人を失う不安でいっぱいだ。
俺の望みはただ一つ、ダンとともに生きること。それだけだ。
アミーユの白皙に悲壮感が漂っていた。
♰♰♰
「レルシュ少将、貴殿の考えはいかがか。何やら顔が青いが、作戦に不満がおありか」
目を上げれば、将校らの視線が一斉にアミーユに向いていた。
将官の集まる参謀会議。その途中だというのに、アミーユは気もそぞろになっていた。
王宮に隣接する軍務府の本館会議室。
ここもまた王宮同様、絢爛豪華なつくりになっている。
真昼間だというのにまばゆいシャンデリアが輝き、床には絹織物が敷いてある。
軍務府に自分の執務室を持つのは師団長クラスのみ。アミーユも一角に自分用の執務室を持っていた。
伯爵家に生まれ、若くして少将で第一師団長。軍務府にも部屋がある。誰もが憧れる立場だ。
だが、俺は、もうこんなところから逃げ出したい。ダンを連れ出してどこか田舎に引きこもってしまいたい。
伯爵も少将も、要らない。
次の新月の夜には、ダンを縛り付けてでも、田舎に連れていこう。
もう何度もたどり着いた答えを念じて、目の前の議題に思考を戻す。
国境防衛の話だったか。どこぞの領主が、独立を宣言したとかいう話だったか。
「拙策を申し上げれば、反乱者サースデンに、全軍を投入すべきかと考えます。我がアクランド王国には、サースデンの十倍以上の兵力があります。サースデンは10年前にも反乱を起こしています。今回は数の力で圧倒し、二度と反乱などという気を起こさないように叩き潰すのが得策かと思います」
アミーユが口を閉じたときには、参謀会議の空気が冷え切っていた。誰もが唖然として押し黙り、アミーユを見ている。
少将とはいえ、アミーユはまだまだ若輩者、その発言は期待されていない。もっと適当なことを言えばよかったのか。
静まり返った室内には、やがて失笑が沸き起こる。
「黙ってりゃ、きれいなお人形なのにな」
「美貌の中身は空っぽだな」
「得意なのは国王転がしだけか」
アミーユに聞えよがしに陰口が囁かれる。
アミーユは王都の治安維持しか知らない青二才でしかない。国王の寵愛を得て、異例の出世をしているに過ぎない。
黙っていればよかった。アミーユは後悔して目を伏せた。
王立軍全9師団のうち、第1は王都防衛、第2~第4までは公領(直轄領)防衛、第5以降は国境防衛を任務とする。第5以降は地方領主とともに国境防衛の任に当たるが、地方領主の反乱を監視する役目も担っている。
王都に近いほどエリートだが、実戦を経験しているのは、国境防衛を担ってきた第5以降の師団だ。
地方領主のサースデン伯が、独立宣言したのが二か月前。
その半月後、サースデン伯領配備の第9師団1万人が、わずか数百人になって王都に戻ってきた。
すぐさま第8師団を向かわせるも、先日、第8師団は兵士を半分に減らして逃げ帰ってきた。
サースデン伯の反乱は、箝口令が敷かれて王都では話題にも上ってないが、アデレート宰相以下、軍幹部を大きく動揺させている。
会議で提示された本部案の作戦は、第7師団の投入だった。
それでは、兵を失うばかりだ。全軍を一気に投入するに限る。
アミーユはそう思った。しかし、今のアミーユにとっては、どうでもよいこと。アクランド王国がどうなろうと知ったことではない。
どうでもよいことなのに口を出してしまったことへの後悔しかない。
なので第5師団師長のブラッドリー中将が食いついてきたときには、困惑した。
「実は、私もレルシュ少将と同じ考えなのです。このままでは兵力を消耗するばかり。大軍で一気に叩くのが賢明かと思われます」
ブラッドリー中将は平民からのたたき上げだ。戦場で武勲を立ててのし上がった歴戦の軍人だ。
居並ぶ師団長には、平民出身、すなわちブラッドリー中将同様、武勲でのしあがった者が混じっているが、みな一様にうなづいている。
「だが、全軍を向かわせれば、他の防衛はどうなる」
軍務長官の顔が引きつっている。
こちらは貴族出身だ。
同じく貴族出身の第二師団長は敵意さえ浮かべて、アミーユを見返していた。アミーユに第一師団長の座を奪われて、第二師団長に追いやられたことを逆恨みしているらしい。
ブラッドリー中将は熱意を込めて反論する。
「全軍を投入すれば短期決戦が可能です。防衛に必要な最低限を残して、全軍をサースデンに向けるべきです」
議論の応酬はあったが、歴戦の軍人の経験に勝るものはない。最終的には全軍投入案が支持されることになった。
「では、討伐軍の総司令官を、レルシュ少将とする」
軍務長官のそう告げる声を耳にして、アミーユは、しばし唖然としていた。
これからアミーユが起こす政権の混乱に乗じて、盗賊団は拡大する。
庶民まで暴動を起こすようになるが、最後には盗賊団の首魁は捕まり斬首となる。
アミーユもまた破滅し、王都に平和が戻り、すべて丸く収まる。
俺は悪役主人公 なのだ。最後には滅ぶしかない。
だが、ダンまでも滅ぶのか。
俺、だと?
いや俺じゃない、俺は逆賊アミーユではない。
王位簒奪など、そんな野望など、欠片もない。
3妃を害するつもりもない。
俺は逆賊アミーユとは、違う。逆賊アミーユは、強く猛々しく、誰かを愛する心もない。
しかし、俺は弱く情けなく、愛する人を失う不安でいっぱいだ。
俺の望みはただ一つ、ダンとともに生きること。それだけだ。
アミーユの白皙に悲壮感が漂っていた。
♰♰♰
「レルシュ少将、貴殿の考えはいかがか。何やら顔が青いが、作戦に不満がおありか」
目を上げれば、将校らの視線が一斉にアミーユに向いていた。
将官の集まる参謀会議。その途中だというのに、アミーユは気もそぞろになっていた。
王宮に隣接する軍務府の本館会議室。
ここもまた王宮同様、絢爛豪華なつくりになっている。
真昼間だというのにまばゆいシャンデリアが輝き、床には絹織物が敷いてある。
軍務府に自分の執務室を持つのは師団長クラスのみ。アミーユも一角に自分用の執務室を持っていた。
伯爵家に生まれ、若くして少将で第一師団長。軍務府にも部屋がある。誰もが憧れる立場だ。
だが、俺は、もうこんなところから逃げ出したい。ダンを連れ出してどこか田舎に引きこもってしまいたい。
伯爵も少将も、要らない。
次の新月の夜には、ダンを縛り付けてでも、田舎に連れていこう。
もう何度もたどり着いた答えを念じて、目の前の議題に思考を戻す。
国境防衛の話だったか。どこぞの領主が、独立を宣言したとかいう話だったか。
「拙策を申し上げれば、反乱者サースデンに、全軍を投入すべきかと考えます。我がアクランド王国には、サースデンの十倍以上の兵力があります。サースデンは10年前にも反乱を起こしています。今回は数の力で圧倒し、二度と反乱などという気を起こさないように叩き潰すのが得策かと思います」
アミーユが口を閉じたときには、参謀会議の空気が冷え切っていた。誰もが唖然として押し黙り、アミーユを見ている。
少将とはいえ、アミーユはまだまだ若輩者、その発言は期待されていない。もっと適当なことを言えばよかったのか。
静まり返った室内には、やがて失笑が沸き起こる。
「黙ってりゃ、きれいなお人形なのにな」
「美貌の中身は空っぽだな」
「得意なのは国王転がしだけか」
アミーユに聞えよがしに陰口が囁かれる。
アミーユは王都の治安維持しか知らない青二才でしかない。国王の寵愛を得て、異例の出世をしているに過ぎない。
黙っていればよかった。アミーユは後悔して目を伏せた。
王立軍全9師団のうち、第1は王都防衛、第2~第4までは公領(直轄領)防衛、第5以降は国境防衛を任務とする。第5以降は地方領主とともに国境防衛の任に当たるが、地方領主の反乱を監視する役目も担っている。
王都に近いほどエリートだが、実戦を経験しているのは、国境防衛を担ってきた第5以降の師団だ。
地方領主のサースデン伯が、独立宣言したのが二か月前。
その半月後、サースデン伯領配備の第9師団1万人が、わずか数百人になって王都に戻ってきた。
すぐさま第8師団を向かわせるも、先日、第8師団は兵士を半分に減らして逃げ帰ってきた。
サースデン伯の反乱は、箝口令が敷かれて王都では話題にも上ってないが、アデレート宰相以下、軍幹部を大きく動揺させている。
会議で提示された本部案の作戦は、第7師団の投入だった。
それでは、兵を失うばかりだ。全軍を一気に投入するに限る。
アミーユはそう思った。しかし、今のアミーユにとっては、どうでもよいこと。アクランド王国がどうなろうと知ったことではない。
どうでもよいことなのに口を出してしまったことへの後悔しかない。
なので第5師団師長のブラッドリー中将が食いついてきたときには、困惑した。
「実は、私もレルシュ少将と同じ考えなのです。このままでは兵力を消耗するばかり。大軍で一気に叩くのが賢明かと思われます」
ブラッドリー中将は平民からのたたき上げだ。戦場で武勲を立ててのし上がった歴戦の軍人だ。
居並ぶ師団長には、平民出身、すなわちブラッドリー中将同様、武勲でのしあがった者が混じっているが、みな一様にうなづいている。
「だが、全軍を向かわせれば、他の防衛はどうなる」
軍務長官の顔が引きつっている。
こちらは貴族出身だ。
同じく貴族出身の第二師団長は敵意さえ浮かべて、アミーユを見返していた。アミーユに第一師団長の座を奪われて、第二師団長に追いやられたことを逆恨みしているらしい。
ブラッドリー中将は熱意を込めて反論する。
「全軍を投入すれば短期決戦が可能です。防衛に必要な最低限を残して、全軍をサースデンに向けるべきです」
議論の応酬はあったが、歴戦の軍人の経験に勝るものはない。最終的には全軍投入案が支持されることになった。
「では、討伐軍の総司令官を、レルシュ少将とする」
軍務長官のそう告げる声を耳にして、アミーユは、しばし唖然としていた。
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