玉座の檻

萌於カク

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守護天使の決意

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 ―――そは、わが守護天使なり。

 国王はアミーユを寵愛する。
 国王暗殺未遂を防いだ褒章を得るとともに、アミーユは少将となり、王立軍第一師団長をも命じられた。
 第一師団は王都防衛が専務のエリートで、これより上は、軍務長官のみとなる。
 
 王都を守るべき第一師団長の俺が、盗賊団の首魁と家族だなんて。
 欺瞞を感じるが、アミーユの心は決まっていた。
 敵同士だと?

 ダンと敵になるわけがない。俺の心は決まっている。俺がダンを守る。
 俺は国王の守護天使ではない、ダンの守護天使だ。
 アミーユは、第一師団長たる地位を、利用することを腹に決めた。

「賊の首魁を絶対に殺すな。必ず生け捕りにして師団長のもとに連れてこい」

 一兵士にまで徹底してそれを通達する。
 貴族にも根回しする。捕らえた賊はすべてアミーユが私財で買い取ると。ただし死体は買わない、と。

「ほう、金を出す価値があるのですかな、やつらめに」
「第一師団の威信をかけて、賊を叩きのめさなければなりません。そのためには金も惜しくはない」
「ほう、レルシュ伯は真面目なお方だ。少将などアクセサリーでしかありますまいに、何も私財を投じることなど」

 貴族のなかには、アミーユのように軍人や文官として王宮に任官する者もいるが、それらのほとんどは、官位を金で買って、自分を飾り立てるのが目的だ。多くは名目だけで、現場には出たこともないものがほとんどだ。

 アミーユの異例の出世も、貴族のコネと金を利用したもの、と思われているに違いなかった。
 確かに貴族の生まれでなければ士官ではなく一兵士からのスタートで、今の立場もなかったが、それでもアミーユは職務をこなして得た地位だ。ダンの情報に助けられたとはいえ。
 この地位に来るまでのアミーユには金もコネもなかったのだ。

 そして、少将になり、金も地位も得たが、アミーユはその金と地位のすべてをダンを守ることにつぎ込むつもりだった。
 お前を失えば俺は死ぬ。
 俺は愛する人を守るために必死なだけだ。

 アミーユは、眼前の貴族に不敵に笑ってみせた。

「私は、悪党を拷問するのが趣味なのです。趣味に金をつぎ込むなら惜しくはない」
「それはそれは、良い趣味をお持ちで」

 貴族は額に汗を浮かべて、苦笑いする。

「捕まえることがあれば、是非とも活き・・の良いままで引き渡し下さい。そのほうが楽しめる」

 貴族は美しい顔をした残忍な少将を、ぞっとした顔で眺めた。

♰♰♰

 アミーユは、ダンとともに暮らすことは諦めた。
 一緒に住むことはおろか、月に一度の逢瀬でも、危険を伴っていたのだ。
 盗賊団の首魁と近しい仲だと知られれば、アミーユは処分される。地位を失い、ダンを守ることもできなくなる。

 ダンが、いつもバルコニーから姿を現す理由に思い至る。
 玄関からの入り方も知らない育ち故ではなく、誰にも見られないためだったのだ。
 怪しい者が自宅に出入りしている、そんな噂が立つだけでも、アミーユに迷惑がかかる。
 港町の別邸を引き払ったのも同じ理由に違いなかった。

 ダンは慎重な男なのだ。
 ダンは盗賊をやめない。けれどもダンはダンで俺を守ろうとしている。俺との仲を続けようとしている。
 この先、どうなるのか。
 はた目には、レルシュ伯は、順調に出世しているように見えるだろう。アミーユは、立身出世の道を突き進んでいる。

 この先、破滅が待っているのか。逆賊アミーユのように。
 そんなはずはないと否定しながらも、形容しがたい不安はある。
 しかし、ダンを守るためであれば、たとえ破滅してもよい。
 それだけは確かだ。
 俺はダンを守る。
 名もなき端役のダンを守る。
 アミーユは、そこで、小さく叫んだ。

 ああ、ああああっ…………!

 膝から床に崩れ込む。
 ああ、ああっ、何てことだ。
 何てことだ、これは。
 ダンは名もない人物ではなかった。確かに名はない。

 しかし、存在する。
 逆賊アミーユの物語にも盗賊団が出てくる。
 その首魁は最後に捕まり、そして………。
 アミーユは床に崩れ落ちたまま、動くことができなった。
 
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