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アミーユの利用価値
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「また会いに来る」
そう言って紳士に成りすまして帰って行ったダンは、今度は軍務府の執務室に現れた。
呆れたことに大佐の軍服を着込んでいる。
また兵士に紛れ込んでいるのか。軍務府はいったいどうなってんだ。
しかし責任者は自分だ。
それにしても、と、ダンを見つめる。
軍服のダンはりゅうとしている。
いつもの町人姿のときもダンは美男だし、紳士姿のときも堂々としていたが、軍服もりりしく着こなしている。
長い手足に、がっちりとした肩、逞しい胸。燃え立つ赤毛は勇ましいのに、その黒目は優しく、口元は甘く緩んでいる。
ダンからは匂い立つような色香があふれている。
ダンを見つめているだけで、アミーユは、体の芯が熱くなっている。
これは俺だけにそう見えるのか? ああ、きっとそうだ。山賊がこんなに良い男のはずがない。
アミーユは人払いすると、ダンにそっと触れた。ダンはしっかりと抱きしめ返してきた。
完全なヒートが起きようとしている。アミーユの体調ももう完全に戻ったのだ。
ダンは、アミーユを胸に抱え上げて執務室の奥のそのまた奥へと連れて行った。
ダンはいつの間にか、幕僚のような顔をして、しょっちゅう、アミーユの執務室に出入りしている。
従卒とも顔馴染みになり、ダンが来れば、角砂糖三個を添えられたコーヒーが、出てくるようになった。
アミーユは内心で首を捻る。
こいつを雇った覚えはないんだけどなあ………?
だが、ダンを見つめる目は、甘く緩んでいる。ダンとの甘い日々に溺れている。
「貴殿に内密の用命があるのだが」
アミーユの声を合図に従卒が部屋を出て行った途端、アミーユはダンに近寄りその胸に体を預ける。
執務室の奥の奥。仮眠室のベッドがきしむ。
ベッドを買い替えようか。ダンには窮屈そうだ。
夜毎に睦み合えば、ヒートはほとんど来なくなった。
発情し獣のように互いの体をむさぼるものではなく、いたわり合い慈しみ合う、そんな甘い情交を結んでいる。
思えば、そのときのアミーユは、ひどくのんきなものだった。つらい出来事を乗り越えて訪れた、束の間の平穏。
ダンとの甘い恋人関係。それに身も心も浸していた。
ある夜、ダンは唐突に切り出した。
「なあ、アミーユ。仲間にならないか?」
「へ………?」
「俺の同志はたくさんいる。平民にも、なかには貴族にも、もちろん兵士にも」
「同志………」
そりゃそうだろう。だから軍務府にもこうやって出入りできるのだろう。紳士姿から、貴族とも会っていることも推測済みだ。
「俺は王政を倒す」
いきなりの不穏な言葉にアミーユは冷水を浴びせられたようにハッと覚めた。
執務室の奥のこの部屋は、ベッドもソファも私財で買い替えて、居心地よく整えている。ダンのためにウイスキーもストックしている。
ここには甘美な時間しか流れていない。
しかし、その甘美な時間が長く続かないことなど知っていた。
だからこそ、目を逸らしていた。目を逸らして甘い日々に溺れていた。
だが、この先に待っているものは。
頭の片隅に追いやっていた物語が再び開く音がした。
「俺は、この国を民衆のものにする」
いずれダンと話し合わなければならないとアミーユも思っていたことだ。ダンの考えていることについて具体的に。
いずれ問題の本質に向き合わなければならないのだ。
「ダンは、つまり、革命を起こそうとしているのか」
「それは一つの策だ」
「アデレート宰相のように、民政を実現したいと思っているのか」
「アデレート宰相………? 残念だがアデレートは違う。アデレートが宰相になって十数年。市民に媚びることはやっても、大きな改革などやろうともしない。アデレートも市民の生き血を吸う側だ」
生き血………。
ダンには貴族は市民の生き血を吸っているように見えるのか。どこの誰がダンに知恵をつけたのだろう。
どこかの指導者のもとにでも入り浸っているのか。
「でも、宰相閣下は、悪い人ではない。俺を助けてくれた」
「アミーユ、アデレートはお前に利用価値がなければ助けない。お前は国の英雄だ。いくらでも利用価値がある」
アミーユは息を呑んだ。ダンを見つめる。
「それは、それは………。お前にとってもそうなのか」
「そう思ってもらっても構わない」
こういうときのダンは決してアミーユから目を逸らさない。まっすぐに目を見て言う。
アミーユのダンへの純情はまたもや踏みにじられてしまった。
愛を囁いて、甘く甘く囁いて、やはり俺を利用するのだ、ダンは。
俺の前に再び戻ってきたのも、俺に利用価値があるからだ。
会いたくてたまらなくなった、などと!
またもや、ダンにしてやられた。
ギリギリと胸を引き裂かれながらも、ダンから離れられない。ダンに逆らえない。
ダンはそれを知っている。
そして、堂々と宣言した。アミーユを利用する、と。
そう言って紳士に成りすまして帰って行ったダンは、今度は軍務府の執務室に現れた。
呆れたことに大佐の軍服を着込んでいる。
また兵士に紛れ込んでいるのか。軍務府はいったいどうなってんだ。
しかし責任者は自分だ。
それにしても、と、ダンを見つめる。
軍服のダンはりゅうとしている。
いつもの町人姿のときもダンは美男だし、紳士姿のときも堂々としていたが、軍服もりりしく着こなしている。
長い手足に、がっちりとした肩、逞しい胸。燃え立つ赤毛は勇ましいのに、その黒目は優しく、口元は甘く緩んでいる。
ダンからは匂い立つような色香があふれている。
ダンを見つめているだけで、アミーユは、体の芯が熱くなっている。
これは俺だけにそう見えるのか? ああ、きっとそうだ。山賊がこんなに良い男のはずがない。
アミーユは人払いすると、ダンにそっと触れた。ダンはしっかりと抱きしめ返してきた。
完全なヒートが起きようとしている。アミーユの体調ももう完全に戻ったのだ。
ダンは、アミーユを胸に抱え上げて執務室の奥のそのまた奥へと連れて行った。
ダンはいつの間にか、幕僚のような顔をして、しょっちゅう、アミーユの執務室に出入りしている。
従卒とも顔馴染みになり、ダンが来れば、角砂糖三個を添えられたコーヒーが、出てくるようになった。
アミーユは内心で首を捻る。
こいつを雇った覚えはないんだけどなあ………?
だが、ダンを見つめる目は、甘く緩んでいる。ダンとの甘い日々に溺れている。
「貴殿に内密の用命があるのだが」
アミーユの声を合図に従卒が部屋を出て行った途端、アミーユはダンに近寄りその胸に体を預ける。
執務室の奥の奥。仮眠室のベッドがきしむ。
ベッドを買い替えようか。ダンには窮屈そうだ。
夜毎に睦み合えば、ヒートはほとんど来なくなった。
発情し獣のように互いの体をむさぼるものではなく、いたわり合い慈しみ合う、そんな甘い情交を結んでいる。
思えば、そのときのアミーユは、ひどくのんきなものだった。つらい出来事を乗り越えて訪れた、束の間の平穏。
ダンとの甘い恋人関係。それに身も心も浸していた。
ある夜、ダンは唐突に切り出した。
「なあ、アミーユ。仲間にならないか?」
「へ………?」
「俺の同志はたくさんいる。平民にも、なかには貴族にも、もちろん兵士にも」
「同志………」
そりゃそうだろう。だから軍務府にもこうやって出入りできるのだろう。紳士姿から、貴族とも会っていることも推測済みだ。
「俺は王政を倒す」
いきなりの不穏な言葉にアミーユは冷水を浴びせられたようにハッと覚めた。
執務室の奥のこの部屋は、ベッドもソファも私財で買い替えて、居心地よく整えている。ダンのためにウイスキーもストックしている。
ここには甘美な時間しか流れていない。
しかし、その甘美な時間が長く続かないことなど知っていた。
だからこそ、目を逸らしていた。目を逸らして甘い日々に溺れていた。
だが、この先に待っているものは。
頭の片隅に追いやっていた物語が再び開く音がした。
「俺は、この国を民衆のものにする」
いずれダンと話し合わなければならないとアミーユも思っていたことだ。ダンの考えていることについて具体的に。
いずれ問題の本質に向き合わなければならないのだ。
「ダンは、つまり、革命を起こそうとしているのか」
「それは一つの策だ」
「アデレート宰相のように、民政を実現したいと思っているのか」
「アデレート宰相………? 残念だがアデレートは違う。アデレートが宰相になって十数年。市民に媚びることはやっても、大きな改革などやろうともしない。アデレートも市民の生き血を吸う側だ」
生き血………。
ダンには貴族は市民の生き血を吸っているように見えるのか。どこの誰がダンに知恵をつけたのだろう。
どこかの指導者のもとにでも入り浸っているのか。
「でも、宰相閣下は、悪い人ではない。俺を助けてくれた」
「アミーユ、アデレートはお前に利用価値がなければ助けない。お前は国の英雄だ。いくらでも利用価値がある」
アミーユは息を呑んだ。ダンを見つめる。
「それは、それは………。お前にとってもそうなのか」
「そう思ってもらっても構わない」
こういうときのダンは決してアミーユから目を逸らさない。まっすぐに目を見て言う。
アミーユのダンへの純情はまたもや踏みにじられてしまった。
愛を囁いて、甘く甘く囁いて、やはり俺を利用するのだ、ダンは。
俺の前に再び戻ってきたのも、俺に利用価値があるからだ。
会いたくてたまらなくなった、などと!
またもや、ダンにしてやられた。
ギリギリと胸を引き裂かれながらも、ダンから離れられない。ダンに逆らえない。
ダンはそれを知っている。
そして、堂々と宣言した。アミーユを利用する、と。
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