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レオナルドとの友情
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その日、夜会の主役は、ジョージ王子だった。
士官学校を終え、真っ白い軍服に身を包んで登場したジョージ王子を、みながうっとりとため息をついて見惚れている。
アミーユは、少将となったジョージ王子を、第一師団長に配属した。いずれ軍を率いる王子の待遇としてはまだ低いくらいだ。
アミーユは、軍服を黒から白へと一新した。
ジョージ王子の金髪は、白い軍服により際立つだろう。
仕立てられた軍服をジョージ王子に届けたアミーユも、ジョージ王子が軍服を肩に羽織るのは見たが、上下を立派に着こなしている姿に目を潤ませる。
アミーユはジョージ王子に立場以上の親愛を抱いている。
ジョージ王子の白の軍服姿にアミーユも大満足だったが、しかし、別の観点から、少々後悔していた。
白の軍服も、民衆の反感を買う一端となるやもしれない。
ここのところ機運は悪くなる一方だ。王侯貴族への民衆の反感が少しずつ表立ってきた。
王室の威信が弱まっていることの表れかもしれない。
盗賊団は現れなくなったが、それと入れ替わりに、民衆が暴動を起こすようになった。
貴族が殺されたり、襲われたりしている。
民衆が盗賊団の真似をし始めたのだ。
軍は手をこまねいて見ているしかない。民衆は兵士らの家族だ。王族の警護はするが、貴族にはそれぞれ私兵を雇ってもらうしかない。
貴族には領地へと引きこもるものも出てきた。
貴族へも税金を課しているのに、貴族を守らないことに反感を抱いているのか、王宮主催の夜会に顔を見せない者も出始めた。
夜会はひところよりも賑わいを失っている。
それでも、華やかな夜会を、開き続けなければならない。王室が隷属者に怯えてはならない、そんな意地も見える。
「よ、軍務長官」
子爵の三男坊レオナルドは、相変わらず腹が突き出ていた。
「久しぶりだな、元気か」
レオナルドは、いつもの調子で声をかけてきた。腹に子がいる、というアミーユの爆弾発言は耳に届かなかったのか、素振りにも見せない。
あるいは、この商売上手は、あらかた見抜いて、飲み込んでいるのかもしれないが、子ども時代のノリで変わりなく接してくれるのには、アミーユも気持ちが助かった。
「来月、船でこの国を発つ。お前もどうだ?」
アミーユは目を見開いてレオナルドを見た。
「唐突だな」
「まあな。俺には継ぐ爵位もねえ。妻と子どもがいるだけだ。外国で一旗揚げようと思ってな」
「土産を待ってる」
レオナルドはアミーユを引っ張って、誰もいない庭の隅へと連れていく。
「お前な、自分がどういう状況かわかっているのか」
「それなりに理解してるつもりだ」
「いや、何もわかってねえだろ。泥妃寄りになったかと思えば、豚妃の家にホイホイ出向いたり」
「だから失礼な呼び名はやめろ」
レオナルドはアミーユに挑戦的な目を向けてきた。
「いやあ、やめねえよ、俺は。あの二人は王宮の癌だ」
アミーユにとっては二人とも敬愛を感ずる女性である。アミーユはムッとする。
「その言い草はないだろう」
「まあ聞け。あの二人は対立し合っているように見えて、その実、果実を分け合っている」
「何が言いたい」
「贅沢をしているのは豚妃だが、豚妃には予算の決定権はない」
「どういうことだ」
「賢い泥妃は豚妃の影に隠れているのさ。わざと王族の予算を多く組んで、自分から目を逸らしてるんだ。泥妃は一見質素だが、あの黒衣の裏には宝石をたんまり縫い付けてるって噂だ」
「それはない。閣下のダンスの相手を何度もした俺が言うんだ」
「あのなあ、これはもののたとえだ」
レオナルドはちょっと呆れた顔をアミーユに向けて言った。
「泥妃は一見質素に見えてるが、とんでもない贅沢を裏でやってる。立場を利用して公金を自分の懐に入れてるのは間違いない。この十数年、税金は跳ね上がるばかり。それが兵士に還元されているか? ないだろ?」
「女性はとかく金遣いが荒いものだ。時代が変われば………」
そこまで言ってアミーユは口を閉ざした。それは、王位交替、すなわち国王の死を意味するからである。
レオナルドは平然と言ってのける。
「老国王が死んでも、リチャード王太子が死んでも、癌は残る」
「ジョージ王子が成長なされば、そのうち………」
「ああ、それを俺も期待していた。そもそも老国王も若い頃はそれなりにしっかりした国王だったはずだ。だから国をうまく治めてきた。亡きフィリップ王子も聡明だったというし、リチャード王子も立派な武人だった。だから、ジョージ王子にも大いに期待できる。だが、ジョージ王子の成長を国民が待ってくれるとは思えん」
「そこまで事態がひっ迫しているとも思えないが」
「膨らみ過ぎた風船が割れることは誰でも予想できるが、割れるタイミングは誰にも予想できない。今や民衆の不満は膨らみ切っている。いいか、泥妃や豚妃に懐いている場合じゃねえんだよ」
「懐いているわけじゃない。アデレート宰相は上司だし、ジョージ殿下は部下で、妃殿下はその母親だ。どっちも仕事だ」
「ともかく、王宮にいる限りお前は巻き込まれる。それどころか、お前を担ぎ上げる声まで上がってる。お前が三つ目の勢力にならないとも限らない」
「俺が?」
「そうだ。お前が王になればいいって声もある」
アミーユはレオナルドを見つめて身動きもできなかった。
王位簒奪………。
やがて声を絞り出す。
「それはありえない! それだけはない!」
レオナルドは白々とした目を向けてくる。
「お前は、国の英雄だ。誰だって思いつくさ。それはまだちっぽけな草の根の声でしかない。だが、いずれ大きくなる。そうなる前に国外に逃げろって話だ。このままだとお前は利用されてポイだ」
「利用されて………?」
「そうだ、泥妃にも豚妃にも、それから、民衆にもな」
民衆…………。
そこに、その渦の近くにダンがいる。
「革命が起きるのか。革命の指導者は、中心人物は誰なんだ………?」
「それは後世、定まるだろう。反乱で終わるかもわからんしな。いいか、最後の忠告だと思って、言ってるんだ。民衆の怒りは激しいぞ。どう転んでも、血が流れなきゃ収まらねえ。お前は渦中の人だ。このままだと、いずれお前も大変なことになる。それが嫌なら、俺と来い」
アミーユはレオナルドを見つめた。
この幼馴染は先を見通して、俺を助けようとしている。
「いけない……、俺は、いけないんだ………」
「どうしてだ。お前は権力に興味がないだろう。お前ともう一人くらいなら乗せられる」
「え?」
「大切な人がいるんだろ」
レオナルドはやはり、すべて見抜いていて飲み込んでいたらしい。
こいつは、俺をΩだとわかっても、態度を変えない。
「ああ、いる」
「じゃあ二人とも乗せてやる」
「俺の大切な人も、おそらくその革命に深く関わっているんだ………。俺は、その人と離れられない」
レオナルドは長々とアミーユを見て、それからため息をついた。
「なるほど、そういうことか。お前、あえて利用されるつもりか」
「何とか目を覚まさせたいと思ってる」
「覚ます、ねえ。夢から覚めてないのは王侯貴族のほうだと思えるがな。わかった。じゃあ、お前の好きにしろ。お前を見捨ててるんじゃない。本心から、お前の好きに生きればいい、と思ってる。俺はもしお前がどんなざまになったとしても、お前を信じているから。そのことを忘れるな」
レオナルドはニカッと笑った。
レオナルドはどこかスッキリした顔をしている。アミーユに対してやれるだけのことをやったとの思いがあるのだろう。
俺がどんなざまになっても………。
たとえ逆賊になっても。
この幼馴染は俺のことを信じてくれる。
「ああ、ああ………!」
レオナルド、俺を信じてくれ。たとえ世間からそしりを受けても、お前が信じてくれるのならば、俺は救われる。
二人の幼馴染同士は、握手を交わした。どちらの目も友情にうるんでいた。
士官学校を終え、真っ白い軍服に身を包んで登場したジョージ王子を、みながうっとりとため息をついて見惚れている。
アミーユは、少将となったジョージ王子を、第一師団長に配属した。いずれ軍を率いる王子の待遇としてはまだ低いくらいだ。
アミーユは、軍服を黒から白へと一新した。
ジョージ王子の金髪は、白い軍服により際立つだろう。
仕立てられた軍服をジョージ王子に届けたアミーユも、ジョージ王子が軍服を肩に羽織るのは見たが、上下を立派に着こなしている姿に目を潤ませる。
アミーユはジョージ王子に立場以上の親愛を抱いている。
ジョージ王子の白の軍服姿にアミーユも大満足だったが、しかし、別の観点から、少々後悔していた。
白の軍服も、民衆の反感を買う一端となるやもしれない。
ここのところ機運は悪くなる一方だ。王侯貴族への民衆の反感が少しずつ表立ってきた。
王室の威信が弱まっていることの表れかもしれない。
盗賊団は現れなくなったが、それと入れ替わりに、民衆が暴動を起こすようになった。
貴族が殺されたり、襲われたりしている。
民衆が盗賊団の真似をし始めたのだ。
軍は手をこまねいて見ているしかない。民衆は兵士らの家族だ。王族の警護はするが、貴族にはそれぞれ私兵を雇ってもらうしかない。
貴族には領地へと引きこもるものも出てきた。
貴族へも税金を課しているのに、貴族を守らないことに反感を抱いているのか、王宮主催の夜会に顔を見せない者も出始めた。
夜会はひところよりも賑わいを失っている。
それでも、華やかな夜会を、開き続けなければならない。王室が隷属者に怯えてはならない、そんな意地も見える。
「よ、軍務長官」
子爵の三男坊レオナルドは、相変わらず腹が突き出ていた。
「久しぶりだな、元気か」
レオナルドは、いつもの調子で声をかけてきた。腹に子がいる、というアミーユの爆弾発言は耳に届かなかったのか、素振りにも見せない。
あるいは、この商売上手は、あらかた見抜いて、飲み込んでいるのかもしれないが、子ども時代のノリで変わりなく接してくれるのには、アミーユも気持ちが助かった。
「来月、船でこの国を発つ。お前もどうだ?」
アミーユは目を見開いてレオナルドを見た。
「唐突だな」
「まあな。俺には継ぐ爵位もねえ。妻と子どもがいるだけだ。外国で一旗揚げようと思ってな」
「土産を待ってる」
レオナルドはアミーユを引っ張って、誰もいない庭の隅へと連れていく。
「お前な、自分がどういう状況かわかっているのか」
「それなりに理解してるつもりだ」
「いや、何もわかってねえだろ。泥妃寄りになったかと思えば、豚妃の家にホイホイ出向いたり」
「だから失礼な呼び名はやめろ」
レオナルドはアミーユに挑戦的な目を向けてきた。
「いやあ、やめねえよ、俺は。あの二人は王宮の癌だ」
アミーユにとっては二人とも敬愛を感ずる女性である。アミーユはムッとする。
「その言い草はないだろう」
「まあ聞け。あの二人は対立し合っているように見えて、その実、果実を分け合っている」
「何が言いたい」
「贅沢をしているのは豚妃だが、豚妃には予算の決定権はない」
「どういうことだ」
「賢い泥妃は豚妃の影に隠れているのさ。わざと王族の予算を多く組んで、自分から目を逸らしてるんだ。泥妃は一見質素だが、あの黒衣の裏には宝石をたんまり縫い付けてるって噂だ」
「それはない。閣下のダンスの相手を何度もした俺が言うんだ」
「あのなあ、これはもののたとえだ」
レオナルドはちょっと呆れた顔をアミーユに向けて言った。
「泥妃は一見質素に見えてるが、とんでもない贅沢を裏でやってる。立場を利用して公金を自分の懐に入れてるのは間違いない。この十数年、税金は跳ね上がるばかり。それが兵士に還元されているか? ないだろ?」
「女性はとかく金遣いが荒いものだ。時代が変われば………」
そこまで言ってアミーユは口を閉ざした。それは、王位交替、すなわち国王の死を意味するからである。
レオナルドは平然と言ってのける。
「老国王が死んでも、リチャード王太子が死んでも、癌は残る」
「ジョージ王子が成長なされば、そのうち………」
「ああ、それを俺も期待していた。そもそも老国王も若い頃はそれなりにしっかりした国王だったはずだ。だから国をうまく治めてきた。亡きフィリップ王子も聡明だったというし、リチャード王子も立派な武人だった。だから、ジョージ王子にも大いに期待できる。だが、ジョージ王子の成長を国民が待ってくれるとは思えん」
「そこまで事態がひっ迫しているとも思えないが」
「膨らみ過ぎた風船が割れることは誰でも予想できるが、割れるタイミングは誰にも予想できない。今や民衆の不満は膨らみ切っている。いいか、泥妃や豚妃に懐いている場合じゃねえんだよ」
「懐いているわけじゃない。アデレート宰相は上司だし、ジョージ殿下は部下で、妃殿下はその母親だ。どっちも仕事だ」
「ともかく、王宮にいる限りお前は巻き込まれる。それどころか、お前を担ぎ上げる声まで上がってる。お前が三つ目の勢力にならないとも限らない」
「俺が?」
「そうだ。お前が王になればいいって声もある」
アミーユはレオナルドを見つめて身動きもできなかった。
王位簒奪………。
やがて声を絞り出す。
「それはありえない! それだけはない!」
レオナルドは白々とした目を向けてくる。
「お前は、国の英雄だ。誰だって思いつくさ。それはまだちっぽけな草の根の声でしかない。だが、いずれ大きくなる。そうなる前に国外に逃げろって話だ。このままだとお前は利用されてポイだ」
「利用されて………?」
「そうだ、泥妃にも豚妃にも、それから、民衆にもな」
民衆…………。
そこに、その渦の近くにダンがいる。
「革命が起きるのか。革命の指導者は、中心人物は誰なんだ………?」
「それは後世、定まるだろう。反乱で終わるかもわからんしな。いいか、最後の忠告だと思って、言ってるんだ。民衆の怒りは激しいぞ。どう転んでも、血が流れなきゃ収まらねえ。お前は渦中の人だ。このままだと、いずれお前も大変なことになる。それが嫌なら、俺と来い」
アミーユはレオナルドを見つめた。
この幼馴染は先を見通して、俺を助けようとしている。
「いけない……、俺は、いけないんだ………」
「どうしてだ。お前は権力に興味がないだろう。お前ともう一人くらいなら乗せられる」
「え?」
「大切な人がいるんだろ」
レオナルドはやはり、すべて見抜いていて飲み込んでいたらしい。
こいつは、俺をΩだとわかっても、態度を変えない。
「ああ、いる」
「じゃあ二人とも乗せてやる」
「俺の大切な人も、おそらくその革命に深く関わっているんだ………。俺は、その人と離れられない」
レオナルドは長々とアミーユを見て、それからため息をついた。
「なるほど、そういうことか。お前、あえて利用されるつもりか」
「何とか目を覚まさせたいと思ってる」
「覚ます、ねえ。夢から覚めてないのは王侯貴族のほうだと思えるがな。わかった。じゃあ、お前の好きにしろ。お前を見捨ててるんじゃない。本心から、お前の好きに生きればいい、と思ってる。俺はもしお前がどんなざまになったとしても、お前を信じているから。そのことを忘れるな」
レオナルドはニカッと笑った。
レオナルドはどこかスッキリした顔をしている。アミーユに対してやれるだけのことをやったとの思いがあるのだろう。
俺がどんなざまになっても………。
たとえ逆賊になっても。
この幼馴染は俺のことを信じてくれる。
「ああ、ああ………!」
レオナルド、俺を信じてくれ。たとえ世間からそしりを受けても、お前が信じてくれるのならば、俺は救われる。
二人の幼馴染同士は、握手を交わした。どちらの目も友情にうるんでいた。
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