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幻の慕情3
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アミーユは戸惑った。
どういうことだ?
パメラ妃は、母だと名乗り出るおつもりか?
不意にアミーユは強烈な慕情に襲われる。
母上……………!
さぞ不安でおつらいことだろう………!
アミーユもその背を抱きしめた。
「アミーユ殿」
パメラは顔を上にあげた。その目は濡れている。パメラはアミーユの頬を両手で包み込んだ。
「その顔をもっとわれに見せよ……。その目をわれに向けよ……」
「はい、ははうえ………」
アミーユは打ち震えながらパメラを見つめた。
母上は俺を頼りになさっている。
アミーユはパメラを励ますように抱きしめた。
「大丈夫です、私にお任せください」
しかし、ときは刻一刻と迫っていたのだ。
壁越しに、アミーユは不穏を感じ取った。
建物内を集団が忍ぶように移動している気配を感じ取った。
来た………!
アミーユに緊張が走る。
アミーユはパメラをそっと押し返すと、自分の口に人差し指を当てた。
「静かに」
パメラも何かを察知したようだった。
アミーユはリチャード国王の衣服の列に手を突っ込んで、奥から薄手のものを引っ張り出すと、それをバサッとかぶった。
「陛下、ここに隠れていてください。私があなたをお守りします」
パメラを衣裳室において、そこを出る。
廊下に出ると、もう集団は気配を隠すこともなかった。階下からは軍靴の足音が聞こえてくる。
廊下に立っていた親衛隊士が何事かと階段を降りていったが、入れ替わりに現れたのは兵士だった。その数、三十人はいる。
アミーユは叫んだ。
「止まれ! 私は、リージュ大将だ。誰の許しを得てここを荒らしているのだ!」
兵士は、アミーユを認識すると答えた。
「閣下! 我々はダニエル国王の命令にて動いております!」
となると、命令を出したのはアデレートだ。どういうルートを使ったのかはわからないが、ダンはアデレートを動かしたのだ。やはり事態は一刻を争っていた。
「即刻中止だ!」
「ですが、これはダニエル国王直々の命令で」
戸惑う兵士に、アミーユは重ねて言う。
「中止だ! 私がすべての責任を追う」
「ですが」
「中止……」
アミーユは後ろから口を抑えられた。
背後の声が言う。
「閣下でも勅命は止められません」
その声はダンのものだった。
やはり来たのか、ダン……………!
ダンは抜かりのない男だ。アミーユは兵士にダンが紛れ込んでいることを予想していた。
「ゆけ」
大佐に化けたダンが兵士らを率いているらしく、ダンは兵士らに告げると、アミーユを傍らのドアの中に押し込み、自分も入ってきた。中は物置部屋になっていた。
「アミーユ、どうしてお前がここに? その服はいったい? 髪に何をつけている」
アミーユがリチャード王太子の衣装室で咄嗟に手に取ったのは、薄手のゆったりとした白いナイトドレスだった。それを身に着けている。そして、髪についているのは匂いからしてチョコレートだ。軍服を脱ぐときに汚してしまったのだ。
アミーユはダンに乞う。
「パメラ妃とジョージ王子を殺すのはやめてくれ」
ダンは冷たい顔で首を横に振った。
「反逆罪は死刑だ」
「ダン! ああ、ダン! 頼む」
「できない」
「あの方は、パメラ妃は、俺の母親なんだ!」
アミーユはダンにすがった。
「えっ?」
ダンは訳が分からないといった顔をしたが、アミーユの顔を見て、憐れむ表情を浮かべた。
「それはできない」
ダンはもう一度言うと、アミーユの体をそっと後ろに押して部屋を出た。追いかけようとしたアミーユはバランスを崩して床に膝をついた。いつの間にされたのか、アミーユは両手を布で後ろ手にくくりつけられていた。
ああ、ダンはいつも抜かりない。
どういうことだ?
パメラ妃は、母だと名乗り出るおつもりか?
不意にアミーユは強烈な慕情に襲われる。
母上……………!
さぞ不安でおつらいことだろう………!
アミーユもその背を抱きしめた。
「アミーユ殿」
パメラは顔を上にあげた。その目は濡れている。パメラはアミーユの頬を両手で包み込んだ。
「その顔をもっとわれに見せよ……。その目をわれに向けよ……」
「はい、ははうえ………」
アミーユは打ち震えながらパメラを見つめた。
母上は俺を頼りになさっている。
アミーユはパメラを励ますように抱きしめた。
「大丈夫です、私にお任せください」
しかし、ときは刻一刻と迫っていたのだ。
壁越しに、アミーユは不穏を感じ取った。
建物内を集団が忍ぶように移動している気配を感じ取った。
来た………!
アミーユに緊張が走る。
アミーユはパメラをそっと押し返すと、自分の口に人差し指を当てた。
「静かに」
パメラも何かを察知したようだった。
アミーユはリチャード国王の衣服の列に手を突っ込んで、奥から薄手のものを引っ張り出すと、それをバサッとかぶった。
「陛下、ここに隠れていてください。私があなたをお守りします」
パメラを衣裳室において、そこを出る。
廊下に出ると、もう集団は気配を隠すこともなかった。階下からは軍靴の足音が聞こえてくる。
廊下に立っていた親衛隊士が何事かと階段を降りていったが、入れ替わりに現れたのは兵士だった。その数、三十人はいる。
アミーユは叫んだ。
「止まれ! 私は、リージュ大将だ。誰の許しを得てここを荒らしているのだ!」
兵士は、アミーユを認識すると答えた。
「閣下! 我々はダニエル国王の命令にて動いております!」
となると、命令を出したのはアデレートだ。どういうルートを使ったのかはわからないが、ダンはアデレートを動かしたのだ。やはり事態は一刻を争っていた。
「即刻中止だ!」
「ですが、これはダニエル国王直々の命令で」
戸惑う兵士に、アミーユは重ねて言う。
「中止だ! 私がすべての責任を追う」
「ですが」
「中止……」
アミーユは後ろから口を抑えられた。
背後の声が言う。
「閣下でも勅命は止められません」
その声はダンのものだった。
やはり来たのか、ダン……………!
ダンは抜かりのない男だ。アミーユは兵士にダンが紛れ込んでいることを予想していた。
「ゆけ」
大佐に化けたダンが兵士らを率いているらしく、ダンは兵士らに告げると、アミーユを傍らのドアの中に押し込み、自分も入ってきた。中は物置部屋になっていた。
「アミーユ、どうしてお前がここに? その服はいったい? 髪に何をつけている」
アミーユがリチャード王太子の衣装室で咄嗟に手に取ったのは、薄手のゆったりとした白いナイトドレスだった。それを身に着けている。そして、髪についているのは匂いからしてチョコレートだ。軍服を脱ぐときに汚してしまったのだ。
アミーユはダンに乞う。
「パメラ妃とジョージ王子を殺すのはやめてくれ」
ダンは冷たい顔で首を横に振った。
「反逆罪は死刑だ」
「ダン! ああ、ダン! 頼む」
「できない」
「あの方は、パメラ妃は、俺の母親なんだ!」
アミーユはダンにすがった。
「えっ?」
ダンは訳が分からないといった顔をしたが、アミーユの顔を見て、憐れむ表情を浮かべた。
「それはできない」
ダンはもう一度言うと、アミーユの体をそっと後ろに押して部屋を出た。追いかけようとしたアミーユはバランスを崩して床に膝をついた。いつの間にされたのか、アミーユは両手を布で後ろ手にくくりつけられていた。
ああ、ダンはいつも抜かりない。
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