玉座の檻

萌於カク

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ディアナ妃の亡霊

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 ダンは居住棟の情報も手に入れていたらしく、兵士らの足音は迷いなく奥を進んでいく。

「ジョージの部屋はこっちだ」
「パメラの部屋はその奥」
「アンの部屋はそのまた奥だ」

 アミーユは聞こえてくる兵士らの声に、ギリギリと胸を苛まれる。

 アミーユは、棚に並んだ瓶を足で蹴り落した。瓶は床に落ちて割れた。欠片を一つ拾い上げて、両手をくくりつける布をこすった。ようやく両手が自由になると、ドアに飛びついたが、ドアは開かなかった。ダンが簡単にアミーユを部屋から出すはずがない。

 アミーユは小窓に飛びついた。ここは二階だ。窓枠を握って、飛び降りた。

 建物の入り口から二階に駆け上がると、廊下の奥に兵士らがいた。阻まれるに違いない。

 手前のドアを開けて入る。南に向いた部屋のバルコニーは地続きだ。この部屋のバルコニーは、パメラ妃たちの部屋のバルコニーにつながっているはずだ。

 バルコニーを明かりの漏れる場所まで駆けた。

 バルコニーからガラス扉越しに中をのぞくと、パメラが兵士に左右から腕を抑え込まれていた。
 その手前に立つダンの後ろ姿も見えた。

 ああ、ダン、やめろ…………!

 パメラの正面に立つダンは、剣の切っ先をパメラの足に向けていた。
 ダンに出会った夜、ダンはアミーユの従者にも同じことをやっていた。ダンは殺すことをためらわない。

 ああっ、頼む、ダン、やめろ。

 ダンの声がガラス越しに聞こえる。

「お前は今から殺される。その前に、命乞いをしてみせろ」

 ダンは恐ろしく残酷だった。
 どうして。
 ダンは、どうしていたぶるような真似を。
 ダンからはパメラへの憎しみが感じられる。

 パメラは憎々しげにダンを見て、そして、わめく。

「われに反逆の意志などない。今、われに手を出せばお前が反逆罪だ」
「ほう、そうか」

 ダンは無情にも、パメラの足に剣を突き立てた。パメラは「ギャッ」と声をあげる。

 ああっ! ダン、やめろ!
 アミーユはガラスを割るためにバルコニーの椅子を持ち上げた。

 パメラの視線が一瞬揺れて、アミーユを捉えた。
 パメラがアミーユを凝視する。
 まるで亡霊でも見る目つきでアミーユを見て怯えた声をあげた。

「ひぃぃええぇ…………!」
 
 兵士らはパメラの目線を追ってバルコニーに振り返った。
 ダンも振り返り、アミーユに気が付いて苦々しい顔をした。

 しかし、その場の注目はすぐにパメラに戻る。パメラは様子がおかしかった。
 一歩窓に近寄ったアミーユを向いて叫び出す。

「ひいええぁっ! ああ………! いあなさま………! ディアあさまァァァァ!」

 パメラは錯乱状態で恐怖におののいた叫び声をあげると、気を失った。
 ダンはそれを見て、兵士にバルコニーを開けさせた。

 アミーユが室内に足を踏み入れたとき、ダンがパメラの足を刺した。
「ギャッ」とパメラが意識を取り戻す。

「ああ、あああ、お許しください! お許しください!」

 バルコニーから現れたアミーユを見て、パメラは叫んだ。
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