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殺人鬼の最期
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アミーユが一歩近づくごとに、パメラはおかしくなっていく。アミーユが別の誰かに見えているようだ。
「ああっ、ああっ、ディアアさまっ、ああっ!」
怯えてそんな声を出したかと思うと、顔を醜く歪ませて、引くついて笑いはじめた。
「ギャハッ、ギャハッ、ディアナ、いまさら何の用だ、ギャハッ、ギャハッ、われを呪いに来たのか、せいぜい呪うがいい、ギイエギイエッ」
パメラは狂気に満ちた笑い声をあげる。誰もが呆気に取られてパメラを見つめている。
「ディアナさま、お許しくださいッ! ギャハッ、ギャハッ、あんたがマリア妃のもとへ持って行ったクッキーは、あんたが焼いたものじゃなかったってことに、やっと気づいたのかい。ギャハッ、ギャハッ、………ああ、うおう、ディアナさま、お許しください!」
パメラ妃はまた気を失い、またダンが剣を突き立てて「ギャッ」と意識を取り戻す。
何だ、これは、何が起きてるんだ?
パメラ妃は俺をディアナ妃と勘違いしている?
ダンがアミーユを手招く。アミーユは手招かれるままに、パメラに一歩、近づく。
「ディアナさま、お許しください! ………ギャハッ、ギャハッ、今ごろ何の用だ。あんたは何も知らないで、毒入りクッキーをフィリップ王子らに届けたのさ。あんたの侍女がクッキーをすり替えたことも知らずにさ。さて、その侍女は誰でしょう、ギャハッ、ギャハッ、この私さ、ギャハッ、ギャハッ」
再びパメラは気を失った。
兵士らは息を呑んでいる。
今、パメラは恐ろしい罪を告白したことになる。
フィリップ王子ら毒殺の真実。
誰も何も口に出せないでいた。
ダンは無造作にパメラの足を剣で突いた。パメラは「ギャッ」と意識を取り戻す。
ダンがパメラに厳しく追及する。
「フィリップ王子らを殺害したのはパメラ、お前だな」
パメラは鈍く光った目をダンに向けた。ぼんやりと答える。
「われは、なにもしらぬぞ? なにもしらぬ」
ダンはパメラの頬を張った。そして、あごを持って自分に向かせる。
「パメラ、どうして、そんなことをした」
「下女のくせに………」
パメラはぼんやりした顔でつぶやいた。
ダンはアミーユを近寄せて、パメラの前に立たせた。
「ディアナ妃に言いたいことはそれだけか」
パメラの顔が狂気に満ちる。
「ギャハッ、ギャハッ、お前なんか、下女のくせに下女のくせに下女のくせに! ギイエイイエッ」
パメラは、充血した目で叫び、アミーユに向けて手を伸ばす。
ダンは、パメラの腕を無造作に払った。
「パメラ、命乞いをしろ、お前の命乞いじゃない。ジョージの命乞いだ。他にも罪があるだろう、告白しろ」
ジョージの名前にパメラは、がくんとあごが外れて顔が長く伸びた。ああああ……ああああ……、ジョージィ……。必死にダンに目で取りすがる。
「ああ、ジョージを、ジョージをお助けください………」
パメラは目からも鼻からも口からも液体を出して、ぐちゃぐちゃになっている。
「殺した人間の名を全部言え」
ダンに小刻みに足を刺されながら、パメラは告白を始めた。
「フィ、フィ、フィ、フィリップでん、かっ……」
「さっさと吐け」
「ソフィッア、……エレナ……、ヘンリーイッ……」
「殺した人の名前もまともに言えないのか」
「エリー、……クラッラ……、ベッス………」
「それは使用人の名前だな」
「はいぃッ! そうですそうでェッす!」
それからパメラは長いこと名前を吐き出した。パメラはフィリップ一家以外にも、数多くの使用人を殺してきたのだ。
誰もがぞっとした顔でパメラを眺めていた。
ようやく告白を終えると、ダンはパメラに言った。
「俺の顔を見ろ」
パメラはダンに焦点を合わせた。
しばらくぼんやり眺めて、驚愕を目に浮かべる。
「あ、あなたは……………!」
パメラはこの世にはないものを見る目つきになった。
「よく覚えていたな、俺の顔を。お前は俺の母を殺した」
ダンはアミーユに視線を向けた。
「パメラ、ディアナ妃をよく見ろ」
パメラはアミーユを焦点の合わない目で見つめると、ぼんやりと言った。
「ええ? リージュ……? どうして、おまえが、ディアナさまのドレスを……、ディアナさまのような髪の色を……」
アミーユがたまたま手に取ったのはディアナ妃のものだったようだ。そして、髪はチョコレート色に染まっている。
パメラはそこでグアッと歯を剥く。
「さてはお前、われを嵌めたな!」
言い終わる前に、ダンに足を刺されてパメラは「ギャッ」と声をあげる。
パメラは今度はアミーユにすがる目を向けた。
「ああ、ああ、リージュ公、お願いじゃ、ジョージを頼む。そなたはわれをいつも見ておった。われに懸想していたはずじゃ。われを自由にしてよいぞ」
パメラはアミーユに言った。アミーユはそれを恐ろしげに見つめていた。
「そうじゃ、リージュ公にはアン王女も与えよう。だからジョージを助けてたもれ」
アミーユはパメラから後ずさった。
ダンの背中に隠れ込み、パメラから身をひそめた。パメラの声が高くなる。
「リージュっ、ジョーッ、ジッを、ジョージッを、ぐふぅ……」
ダンの声が聞こえる。
「残念だな、ジョージはもう死体だ。惨めに命乞いをしながら殺された。今、ジョージの部屋では、兵士がその首でキャッチボールをしている。アン王女は裸にして夜の町に捨てる」
「ぐぶう……ぐぶう……ぎぃやあッ」
それがパメラの最期だった。
「ああっ、ああっ、ディアアさまっ、ああっ!」
怯えてそんな声を出したかと思うと、顔を醜く歪ませて、引くついて笑いはじめた。
「ギャハッ、ギャハッ、ディアナ、いまさら何の用だ、ギャハッ、ギャハッ、われを呪いに来たのか、せいぜい呪うがいい、ギイエギイエッ」
パメラは狂気に満ちた笑い声をあげる。誰もが呆気に取られてパメラを見つめている。
「ディアナさま、お許しくださいッ! ギャハッ、ギャハッ、あんたがマリア妃のもとへ持って行ったクッキーは、あんたが焼いたものじゃなかったってことに、やっと気づいたのかい。ギャハッ、ギャハッ、………ああ、うおう、ディアナさま、お許しください!」
パメラ妃はまた気を失い、またダンが剣を突き立てて「ギャッ」と意識を取り戻す。
何だ、これは、何が起きてるんだ?
パメラ妃は俺をディアナ妃と勘違いしている?
ダンがアミーユを手招く。アミーユは手招かれるままに、パメラに一歩、近づく。
「ディアナさま、お許しください! ………ギャハッ、ギャハッ、今ごろ何の用だ。あんたは何も知らないで、毒入りクッキーをフィリップ王子らに届けたのさ。あんたの侍女がクッキーをすり替えたことも知らずにさ。さて、その侍女は誰でしょう、ギャハッ、ギャハッ、この私さ、ギャハッ、ギャハッ」
再びパメラは気を失った。
兵士らは息を呑んでいる。
今、パメラは恐ろしい罪を告白したことになる。
フィリップ王子ら毒殺の真実。
誰も何も口に出せないでいた。
ダンは無造作にパメラの足を剣で突いた。パメラは「ギャッ」と意識を取り戻す。
ダンがパメラに厳しく追及する。
「フィリップ王子らを殺害したのはパメラ、お前だな」
パメラは鈍く光った目をダンに向けた。ぼんやりと答える。
「われは、なにもしらぬぞ? なにもしらぬ」
ダンはパメラの頬を張った。そして、あごを持って自分に向かせる。
「パメラ、どうして、そんなことをした」
「下女のくせに………」
パメラはぼんやりした顔でつぶやいた。
ダンはアミーユを近寄せて、パメラの前に立たせた。
「ディアナ妃に言いたいことはそれだけか」
パメラの顔が狂気に満ちる。
「ギャハッ、ギャハッ、お前なんか、下女のくせに下女のくせに下女のくせに! ギイエイイエッ」
パメラは、充血した目で叫び、アミーユに向けて手を伸ばす。
ダンは、パメラの腕を無造作に払った。
「パメラ、命乞いをしろ、お前の命乞いじゃない。ジョージの命乞いだ。他にも罪があるだろう、告白しろ」
ジョージの名前にパメラは、がくんとあごが外れて顔が長く伸びた。ああああ……ああああ……、ジョージィ……。必死にダンに目で取りすがる。
「ああ、ジョージを、ジョージをお助けください………」
パメラは目からも鼻からも口からも液体を出して、ぐちゃぐちゃになっている。
「殺した人間の名を全部言え」
ダンに小刻みに足を刺されながら、パメラは告白を始めた。
「フィ、フィ、フィ、フィリップでん、かっ……」
「さっさと吐け」
「ソフィッア、……エレナ……、ヘンリーイッ……」
「殺した人の名前もまともに言えないのか」
「エリー、……クラッラ……、ベッス………」
「それは使用人の名前だな」
「はいぃッ! そうですそうでェッす!」
それからパメラは長いこと名前を吐き出した。パメラはフィリップ一家以外にも、数多くの使用人を殺してきたのだ。
誰もがぞっとした顔でパメラを眺めていた。
ようやく告白を終えると、ダンはパメラに言った。
「俺の顔を見ろ」
パメラはダンに焦点を合わせた。
しばらくぼんやり眺めて、驚愕を目に浮かべる。
「あ、あなたは……………!」
パメラはこの世にはないものを見る目つきになった。
「よく覚えていたな、俺の顔を。お前は俺の母を殺した」
ダンはアミーユに視線を向けた。
「パメラ、ディアナ妃をよく見ろ」
パメラはアミーユを焦点の合わない目で見つめると、ぼんやりと言った。
「ええ? リージュ……? どうして、おまえが、ディアナさまのドレスを……、ディアナさまのような髪の色を……」
アミーユがたまたま手に取ったのはディアナ妃のものだったようだ。そして、髪はチョコレート色に染まっている。
パメラはそこでグアッと歯を剥く。
「さてはお前、われを嵌めたな!」
言い終わる前に、ダンに足を刺されてパメラは「ギャッ」と声をあげる。
パメラは今度はアミーユにすがる目を向けた。
「ああ、ああ、リージュ公、お願いじゃ、ジョージを頼む。そなたはわれをいつも見ておった。われに懸想していたはずじゃ。われを自由にしてよいぞ」
パメラはアミーユに言った。アミーユはそれを恐ろしげに見つめていた。
「そうじゃ、リージュ公にはアン王女も与えよう。だからジョージを助けてたもれ」
アミーユはパメラから後ずさった。
ダンの背中に隠れ込み、パメラから身をひそめた。パメラの声が高くなる。
「リージュっ、ジョーッ、ジッを、ジョージッを、ぐふぅ……」
ダンの声が聞こえる。
「残念だな、ジョージはもう死体だ。惨めに命乞いをしながら殺された。今、ジョージの部屋では、兵士がその首でキャッチボールをしている。アン王女は裸にして夜の町に捨てる」
「ぐぶう……ぐぶう……ぎぃやあッ」
それがパメラの最期だった。
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