玉座の檻

萌於カク

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可哀想な復讐者

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 ダンは剣を投げ捨てるとアミーユに振り返った。

「アミーユ」

 骨が折れるほどに抱きすくめてくる。その目は興奮に赤く燃えている。
 抱きしめたまま押すようにして窓辺まで寄せると、カーテンの中に押し込んだ。殺戮の場所から布一枚隔てた場所で、アミーユを食らうように口づけてきた。

 アミーユはダンの全身が震えていることに気づいた。その体は湯気が上がるほどに熱かった。異常なほど興奮している。
 アミーユは息ができなくなって、ダンの背中をバンバンと叩いた。

「ごめん……、アミーユ」

 ダンは囁くと、カーテンの向こうに顔を出した。
 兵士に声をかける。

「後を頼む」

 そして、ふらふらとアミーユを抱きしめると、カーテンに隠れたまま、バルコニーに押し出した。アミーユを抱え上げると、バルコニーを暗がりへと向かう。
 ダンから冷めやらぬ興奮が伝わってくる。人を殺したばかりだ。ひどい殺し方だった。相手にはそれだけの報いを受ける理由があった。

 ダンの母親を殺した貴族とはパメラだった。
 パメラは殺人鬼だった。

 あの人は、俺の母親ではなかった…………。
 母親ならば息子と関係を持ったり、兄妹で結婚させようとはしない。ああ、しかし、パメラはそういうことも厭わない異常者で、やはり俺の母親であるのかもしれない。
 今のアミーユには整理がつかないことだった。
 
 今はただ、自分を必要としているダンを受け止められるかが不安だった。
 アミーユにはダンの憎しみの深さが怖かった。けれども、異常に興奮したダンを鎮めてやれるのは自分だともわかっていた。そして、この可哀想な復讐者をどうにか鎮めてやりたくもあった。

 バルコニーから真っ暗い部屋に入る。ダンはまっすぐ寝台に向かうと、アミーユをそっと寝かせて、ナイトドレスをゆっくりと脱がせた。
 ダンは興奮のために暴走しそうになる手を、ときおり握ったり広げたりしながら、ナイトドレスを丁寧に折りたたんでサイドテーブルに置いた。

「待て、ダン………」

 アミーユはダンの肩を落ち着かせるように撫でながら、訊いておかなければならないことを口にした。
 返答によっては今すぐダンをおいて去らなければならない。

「ジョージ王子とアン王女はどうなった」

 まさかキャッチボールはないだろう。

「うん……?」

 ダンは不意を突かれてぼんやりしたのち、答えた。

「ジョージは、成人だ。殺さないわけにはいかなかった。寝ているところを殺して遺体はそのままベッドに寝かせてある。えっと、アン王女は、俺もよくわからない。だけど、心配だったから寝室を侍女と親衛隊に囲ませている」

 ジョージの顛末に胸を突かれた。だが、苦しまずに亡くなったのならせめてもの救いだ。アン王女の身の安全は確保されるようだ。

 俺がジョージ国王を殺したことになるのか。ダニエル国王の軍務長官として、兵士を動かして。
 しかし、俺は無事だ。返り討ちされてはいない。物語は別の方向に向いた、のか………?

 アミーユはダンの頭に両手を差し込んだ。ダンは甘えるようにアミーユの胸に頭を摺り寄せてきた。ダンの赤毛は汗に濡れて重かった。
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