玉座の檻

萌於カク

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悪は滅びぬ

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 朝になれば、そこは貴人の部屋らしく、中のしつらえは豪華だった。
 アミーユよりも先に目覚めていたらしいダンは、窓辺に立ち、外を眺めていた。どこから引っ張り出したのか、ガウンを肩に羽織っていた。

 何でも着こなしてしまうダンは、貴人の衣裳をも着こなし、背中からは威風が漂っていた。

 アミーユが起きたことに気が付くとダンは寝台に戻ってきた。アミーユの頬をてのひらで包む。

「俺、ひどいことしなかった? 俺、あんまり覚えていないんだ」

 ダンはいつでもアミーユを丁寧に扱う男だ。
 アミーユは一度も痛みを与えられたことはなく、昨晩もそうだった。それどころか、凄絶な快楽しかダンはアミーユに与えない。

「全然」

 アミーユが笑って首を横に振ると、ダンはアミーユを抱き寄せた。

 ダンは、身の上を話し始めた。ダンは、興奮が収まっている。穏やかな顔で話すダンは、どこか幼く見えた。

「俺は城で生まれた。俺の母は、城の使用人だった。城の住人同士で結ばれて俺が生まれた。だけど母は俺が幼い頃に死んだ。最初は殺されたとはわからなかった。でも、パメラの周囲でどんどん人がいなくなってて、母もパメラに殺されたんだと確信した」

 元気よく鍋洗いをしていた子どもたち。
 幼い頃のダンを、子どもたちの中に見る。
 あの子らのなかにも、親をパメラに殺された子がいるかもしれない。
 アミーユは慰めるようにダンの手を取った。

「パメラ妃は恐ろしい人だったんだね」

 ダンはアミーユの手をそっと握り返す。

「幼い頃はパメラが恐ろしくて恐ろしくて、遠目に姿を見るだけで震えあがった。パメラの気配を感じるのも恐ろしかった。でも、俺が確信したことを父に言ったら父に殴り倒された」
「城で生きるにはそうするしかなかったんだ」
「でも、子どもだった俺は、反発した。それで、城を出た」
「そして、山賊になったのか」

 ダンは首を竦めて笑う。

「まだ小さかったし城に住んでたから街のこともわかんなかった。街には俺のような浮浪児がたくさんいた。助け合って徒党を組んで、そのうち、金持ちを襲い始めた。お前と会ったあの山道は、王都から北に抜ける要所で、貴族を襲うには格好の場所だった」
「それで俺と出会った」
「そうだ」

 ダンは、アミーユの指に口づけてから続ける。

「そのころにはもう俺はパメラを殺そうと思ってた。パメラだけじゃなくて、王室を潰そうとも思ってた。王侯貴族が憎かった。使用人の命は紙よりも薄い。城の中では王族は贅沢三昧なのに、それ以外はみんな凍えてる。城の外では貴族以外はみんな凍えてる。でも、出会ったときのお前は、貴族のくせにどこか凍えてた。だから仲間にしようと思った」
「それで俺はまんまと利用されてきたわけだ」
「そうだ。お前はとても役に立ちそうだった」
「ひどいやつだな……」
「そうだ、俺はひどい男だ。だがお前は俺の足を引っ張る存在になった。お前を想う気持ちを俺は制御できない。俺にとっては困った事態だった。だから一度は離れようと思った」
「それで俺の下宿にはしばらく現れなかったのか」
「でも、お前に会えないのが苦しくてたまらなくなった」

 初めて耳にするダンの内心に、アミーユの胸に込み上げるものがある。
 アミーユが涙ぐんでダンに抱き着くとダンは笑った。

「お前の髪、まだ、チョコレートの匂いがする。俺がちゃんと洗ってやる」

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