玉座の檻

萌於カク

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ダンとの別れ2

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 ダンが軍務府に現れたのはその夜のことだった。

 いつもだ、いつも俺の心を乱しておいて、諦めたころになって現れる。
 アミーユは引っぱたいてやろうと思い、実際に引っぱたいた。

「ひどい、ひどいぞ、お前」

 どうせ引っぱたかれても殴られても、ニヤついた顔で、抱きしめてくるんだこの男は。
 そしてすぐに許してしまうのだ、俺は。

 しかし、ダンはニヤついた顔をしなかった。アミーユの平手をなかったような顔で流して、真顔で告げた。

「アミーユ、準備ができた。お前を王にする」

 ダンは支配者の顔をしていた。

 王だって?

 放せ、そんなのならないっ。

「いやっ、いやだ、はな……」

 ダンはアミーユが言い終わる前に、その口で唇をふさいだ。

「んっ、んっ、むぅーっ」

 ダンはアミーユを隙なく拘束して離さない。抵抗しても抵抗とも受け止められないで、口内を蹂躙される。

 口づけで体は熱くなってくる。ヒートだ。もう一か月も情を交わしていない。今日は新月だ。
 ダンは抜かりない。新月の夜に会いに来た。

「んっ………は……」

 襲いくるヒートに抵抗も失せる。本当は抵抗なんかしたくない。ひたすらダンを受け止めたい。
 アミーユはダンの首に腕を絡ませた。その赤毛に手を差し入れて頭をかき回し始める。
 そうなってからやっと、ダンは唇を外した。ダンは本当にズルい。

「ダン………」

 体が、心が、すべてが、このズルい男を求めてしまう。
 ダンはアミーユを抱き上げると尋ねた。

「足はどうだ?」

 やはり、知っていた。俺が怪我をしたのを知っていた。
 なのにどうしてすぐに会いに来なかった!
 なのに、どうして、今、会いに来た!
 もう離れたくない………。

 なじる気持ちと強く求める気持ちがごちゃ混ぜになってアミーユを苛む。
 寝台に下ろされると、自分からダンを求める。
 ダンは俺がどこを怪我していようとも絶対に痛みを与えてこない。

「ダン、会いたかった」

 アミーユはダンに狂おしく口づけた。ダンは目を細めてその口づけを受け止めた。

「俺もだ、アミーユ」

♰♰♰

 三日月が夜明けとともに消える朝、ダンは甘く甘く囁いていた。

「アミーユ、お前は英雄だ。民衆がお前を必要としている」
  
 アミーユはぼんやりと考える。俺はお前に必要とされたら、それでいい。民衆なんかどうでもいい。

「二日後、両議会が行われる。その場で、ダニエルの廃位とアデレートの追放が決議される。そして、お前が国王に選出される。一代限りの国王だ」

 国王になんかなりたくない。そんな大それたものなどいらない。ただ、お前だけが欲しい。

「アミーユ、ともに、この国を変えよう。あともう少しだ。もう少しでこの国は変わる」
「俺はそんなの......。どうせ、議会の決議など、つっぱねられる」
「そのときはクーデターだ。兵は間違いなくお前につく」
「俺はいやだ……。王都を出る」
「それはさせない」
「どうして………! 俺の自由にしていいだろう」
「ああ、自由にしていい。お前は、自分の自由意志で俺に従うんだ、そうだろう」

 ダンは傲然と言い放つ。
 アミーユは呆れかえっていた。どうして、この男はいつも余裕たっぷりなんだろう。俺は絶対に歯向かわないとでも思っているのか。

 そして、大方ダンの言い分に間違いはないことをアミーユは自覚する。
 これまでも自由意志で動いているつもりできた。なのに、それはすべてダンに誘導されてのことだった。
 ダンに踊らされて、ここまできた。

 しかし、ここから先に待っているのは破滅だ。

「どうして、ダニエル国王を廃位する必要がある? 彼は気の毒な国王だ。ただアデレートに利用されている可哀想な人だ」
「民衆の怒りは収まらない。人身御供がいる」

 人身御供………?
 アミーユは、ダンを見た。この男は何のために、王室を打倒するんだ?
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