玉座の檻

萌於カク

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四番めの子2

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 侍女は侍女ではなかった。この侍女は幸妃の実の娘………! ソフィア本人………!

 どういう経緯かはわからないが、パメラの毒入りクッキーをかいくぐって生き延びて、そして、正体を知られぬように隠して、ずっと母親のそばにいたんだ。

 パメラは殺人鬼だ。正体を知られれば、また命を狙われてしまうかもしれない。
 けれどもこの侍女は、可哀想な母親のそばにいるために、ずっと、姿を偽って。

 ―――幸妃さまと私の姿から、どうぞ目を背けてくださいまし。

 かつらは余計なお世話だった。前髪はわざと重くしていた。まなざしの似通いが気取られぬように。
 アミーユは口を開きかけたが、長らく隠し続けた秘密を安易に暴くことはためらわれた。
 紅茶を一口飲む。

 この侍女、いや、王女ソフィアは、あまりに健気だ。どれだけ見下されても、ずっと母親のそばにいた。パメラに足蹴にされたのも一度や二度ではなかっただろう。
 パメラが死んで、やっと、正体を隠す必要がなくなった。

 本来の自分でいられること、それがソフィアを美しく輝かせている。もっと美しくなることもできるのに、化粧もせずに、王女とも名乗らずに、ひたすら母親に尽くしている。これだけの器量があればどんな幸せでも手につかめるのに。
 アミーユは言わずにおれなかった。

「あなたは、美しい。その身もその心も、本当に美しい。私はあなたの美しさに全く気が付かなかった」

 それを聞くとソフィアの碧がかった青い目はうるみ始めた。

「そんなに女性を褒めるものではなくてよ? あなたはただでさえ女性を恥じらわせるのだから、ぶしつけに褒めるのはダメです」

 ソフィアはまるで本当の姉のように言う。そして、最後に、「ね、アーサー」と付け加えた。
 ソフィアは親しみのこもる目でアミーユを見てきた。そして、はらはらと涙をこぼす。

 ソフィアはみずから秘密を明らかにする。

「わたしは、父フィリップ、姉のエレナ、兄のヘンリーを失いました」
「ああ、ではやはり、あなたは幸妃の娘、ソフィア」

 ソフィアは涙に濡れる目で、アミーユを見つめてくる。

「けれども、弟、アーサーは失いませんでした」

 ソフィア、エレナ、ヘンリー、アーサー。
 幸妃の失われた子どもは三人のはず。だが、アミーユが耳にして来た名前は四つある。

 ヘンリーとアーサーは一人の子どもの名だと思っていたが、違うのか?

「はへえ?」

 アミーユから裏返った声が出た。
 そんなアミーユにソフィアは涙を流しながら話す。どういうわけか、幸妃は涙を見ても何も声をかけなかった。

「わたしはまだ歯がなくてクッキーを食べられる年ではなかった。それで助かったと乳母は教えてくれました。助かったわたしを乳母が乳母の実家へ逃がしたのです。わたしは死んだことになりました。乳母に真実を聞いて、わたしは母に仕えるために城に上がることを決めました。乳母はもう一つ教えてくれました。母が生き残ったのは、でクッキーを食べられなかったと」
「幸妃は、妊娠、していたのですね………?」

 ええ、とソフィアはうなずいた。
 アミーユは自分の心臓が速くなるのを感じながらその話を聞いていた。

「このまま産んでも、また命を狙われる。それで、流産したふりで、秘密裏に出産し、乳母に預けたのです。乳母の実家では、もう一人育てるほどの余裕がなく、やむなく貴族のお屋敷の玄関に置いてきたのだそうです」

 アミーユは身じろぎもせずにじっと聞いている。ソフィアは思いのこもる目でアミーユを見た。

「アーサー、わたしたちの大事なアーサー」

 アミーユは瞬いた。

「アーサー、あなたはわたしの弟です」

 アミーユはしばらく何も言えなかった。

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