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ダンの処刑
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王宮前広場の公開処刑台を横にアミーユは王宮へと連れていかれる。
今日は久しぶりに処刑が行われたらしい。
処刑台は血塗られていた。
処刑は斧で首を斬られる。残忍な処刑人に当たった場合には、肉体も刻まれる。今日の処刑人は残忍だったらしく、ばらばらになった腕や足が散乱し、その傍らで、数人の兵士がサッカーのまねごとをやっていた。ボールは首だ。
王宮。
アミーユは入り口手前まで兵士に肩を支えられて連れてこられたが、そのあとは、アデレートの直下の兵士に引き取られ、兵士らに両腕を取られて、『王の間』に入ることになった。
壇上の王座にはアデレート摂政がいた。
またもや、金色のドレスに身を包んでいた。しかし、髪の毛に色艶はなく、目の下には隈ができている。青い目だけがぎらぎらと光っている。
その脇にはアデレートの息子、青髭宰相。
青髭はますます黒くなり、後ろに撫でつけた髪が数本、額に垂れて、額に張り付いている。アデレートと同じく、目の下に黒い隈ができていた。片眼鏡は曇っている。
方針を変えたのではない。最後の悪あがきだ。末期なのだ。
ふとアミーユはそう感じた。
この支配体制はもう末期にある―――。
赤い絨毯の両脇にずらりと家臣らが並んでいた。各府各長官に、軍務府からは幾人かの師団長までが顔を並べていた。
もっとも摂政アデレートがほとんどのメンバーを入れ替えたために、アミーユには顔も地位もほとんどわからない。
居並ぶ家臣の間、赤い絨毯の上を、アデレートの前まで進む。
足の怪我のせいもあって、兵士らに両脇を取られて、いかにも連行される形で引きずられる。
居並ぶ家臣らはそれぞれ正装だが、アミーユは町人姿であることも、違和を醸し出していた。
家臣らは、ざわつき始めた。
―――リージュ大将に、いったい何が。
―――軍務長官が何をやったんだ。
青髭宰相が声をあげた。
「そいつに膝をつけさせろっ」
ざわめきがやむ。
「はっ!」
兵士らは躊躇しながらも、アミーユの両腕を後ろ手にねじり、背中を抑え込んだ。アミーユは両膝ばかりではなく、ひたいまでも絨毯に押し付けられた。
再び周りはざわついた。
「黙れ!」
青髭宰相の一声に、あたりは静まり返る。誰もが押し黙り、目の前の光景を眺めていた。
麗人が、絨毯に額を擦り付けさせられているさまは、痛々しい。しかし、ある種類の者には嗜虐心をたぎらせる光景でもあった。
しなやかな筋肉を蓄えた体は折り曲げられ、柔らかく巻いた金髪が赤い絨毯にこぼれている。
青髭宰相は、つかつかと壇上から降りてくると、いつぞやの仕返し、といわんばかりに、アミーユの後頭部にぐりぐりと靴裏をめり込ませた。
アミーユは鼻と口を絨毯に押し付けられて息ができなくなった。
思わず暴れようとしたが、やめた。そんなみっともない真似はやめておこう。なされるがままに耐えているうちに気が遠くなる。
「摂政閣下!」
遠くなる意識で、覚えのある声を聞く。
歴戦の武人、サースデン戦での勝利の立役者、ブラッドリー大将だ。中央から再び地方に配置換えされていたが師団長の地位のままではあるらしい。
ブラッドリー大将は怒りをにじませた声を出していた。
「リージュ大将閣下が何をしたのでしょうか。お聞かせください」
それに続いて、アデレートの麾下にはない者たちが声をあげる。
「そうだ! そうだ!」
「なぜ、リージュ大将がいったい、何を?」
「黙れ!」
青髭宰相の一喝にも、声は収まらない。
酸素不足に気が遠のきながら、アミーユは靴裏の感触が離れるのを感じて、咄嗟に首に力を入れた。ゴンと頭の中に音が響く。
青髭宰相が思い切りアミーユの頭を蹴ったのだ。勢いあまって青髭宰相の片眼鏡が絨毯に跳んだ。
その場は殺気立つ。
アデレートは声をあげた。
「宰相! その犯罪人を殺してはなりません」
それを聞いて、青髭宰相がアミーユの髪を引っ張りあげた。アミーユはぐったりとしている。その場にいるものは皆息を呑んでいた。
青髭宰相が、パシリと頬を張るとアミーユは目を覚ました。
咄嗟に首に力を入れたおかげで首が折れずに済んだ。
アミーユの顔は鼻血で染まっていた。
その場には、殺気立って前に出てこようとする者、それを抑えようとする者、ニヤニヤと眺める者、と立場によってわかれていた。
アデレートは告げた。
「アミーユ・ル・リージュ。この者は、反逆罪に勝る大罪、内乱罪の首謀者です」
王の間にどよめきが起きる。非難の声が上がる。
「いったい、何を根拠にそのようなことを。単なるうわさでは済まされませんぞ」
口々に言い募る声をアデレートが制す。
「この者は、盗賊団の首魁と通じてます!」
それにはさすがに、驚きの声が上がった。
「黑の義賊、いや、盗賊団と?」
「そんな馬鹿な!」
アデレートは反応に満足したのか、目をぎらつかせ、笑みを浮かべた。
「この者は、第一師団に配属されてより、首魁と通じ、盗賊団に盗みをさせては、それを取り締まるという背信を行っていたのです。いつまでも首魁を捕まえるふりだけして、逃していました。老国王暗殺の一件も同じこと。ニセの功績をあげて、しまいには、軍トップの地位に就いた。そして、今度は、こともあろうか、ダニエル国王に謀反を起こすつもりなのです!」
アミーユは、青髭宰相に髪を引っ張り上げられたまま、ぐったりと力なく、それを聞いていた。
とてもそれらしく聞こえる。
それに、アミーユのやってきたことは、まさにそれであったような気もしてくる。
ダンに支配されるままに、その通りのことをやってきた。
俺は卑怯な手で出世し、ダニエル国王にも謀反を起こし王位簒奪をしようとしている。
俺はこういう形で処刑されるのか……。
逆賊アミーユ、それは確かに存在した。
物語ではなく、俺の人生で、俺自身がそうだった。その通りの逆賊の人生を生きてきた。
今日は久しぶりに処刑が行われたらしい。
処刑台は血塗られていた。
処刑は斧で首を斬られる。残忍な処刑人に当たった場合には、肉体も刻まれる。今日の処刑人は残忍だったらしく、ばらばらになった腕や足が散乱し、その傍らで、数人の兵士がサッカーのまねごとをやっていた。ボールは首だ。
王宮。
アミーユは入り口手前まで兵士に肩を支えられて連れてこられたが、そのあとは、アデレートの直下の兵士に引き取られ、兵士らに両腕を取られて、『王の間』に入ることになった。
壇上の王座にはアデレート摂政がいた。
またもや、金色のドレスに身を包んでいた。しかし、髪の毛に色艶はなく、目の下には隈ができている。青い目だけがぎらぎらと光っている。
その脇にはアデレートの息子、青髭宰相。
青髭はますます黒くなり、後ろに撫でつけた髪が数本、額に垂れて、額に張り付いている。アデレートと同じく、目の下に黒い隈ができていた。片眼鏡は曇っている。
方針を変えたのではない。最後の悪あがきだ。末期なのだ。
ふとアミーユはそう感じた。
この支配体制はもう末期にある―――。
赤い絨毯の両脇にずらりと家臣らが並んでいた。各府各長官に、軍務府からは幾人かの師団長までが顔を並べていた。
もっとも摂政アデレートがほとんどのメンバーを入れ替えたために、アミーユには顔も地位もほとんどわからない。
居並ぶ家臣の間、赤い絨毯の上を、アデレートの前まで進む。
足の怪我のせいもあって、兵士らに両脇を取られて、いかにも連行される形で引きずられる。
居並ぶ家臣らはそれぞれ正装だが、アミーユは町人姿であることも、違和を醸し出していた。
家臣らは、ざわつき始めた。
―――リージュ大将に、いったい何が。
―――軍務長官が何をやったんだ。
青髭宰相が声をあげた。
「そいつに膝をつけさせろっ」
ざわめきがやむ。
「はっ!」
兵士らは躊躇しながらも、アミーユの両腕を後ろ手にねじり、背中を抑え込んだ。アミーユは両膝ばかりではなく、ひたいまでも絨毯に押し付けられた。
再び周りはざわついた。
「黙れ!」
青髭宰相の一声に、あたりは静まり返る。誰もが押し黙り、目の前の光景を眺めていた。
麗人が、絨毯に額を擦り付けさせられているさまは、痛々しい。しかし、ある種類の者には嗜虐心をたぎらせる光景でもあった。
しなやかな筋肉を蓄えた体は折り曲げられ、柔らかく巻いた金髪が赤い絨毯にこぼれている。
青髭宰相は、つかつかと壇上から降りてくると、いつぞやの仕返し、といわんばかりに、アミーユの後頭部にぐりぐりと靴裏をめり込ませた。
アミーユは鼻と口を絨毯に押し付けられて息ができなくなった。
思わず暴れようとしたが、やめた。そんなみっともない真似はやめておこう。なされるがままに耐えているうちに気が遠くなる。
「摂政閣下!」
遠くなる意識で、覚えのある声を聞く。
歴戦の武人、サースデン戦での勝利の立役者、ブラッドリー大将だ。中央から再び地方に配置換えされていたが師団長の地位のままではあるらしい。
ブラッドリー大将は怒りをにじませた声を出していた。
「リージュ大将閣下が何をしたのでしょうか。お聞かせください」
それに続いて、アデレートの麾下にはない者たちが声をあげる。
「そうだ! そうだ!」
「なぜ、リージュ大将がいったい、何を?」
「黙れ!」
青髭宰相の一喝にも、声は収まらない。
酸素不足に気が遠のきながら、アミーユは靴裏の感触が離れるのを感じて、咄嗟に首に力を入れた。ゴンと頭の中に音が響く。
青髭宰相が思い切りアミーユの頭を蹴ったのだ。勢いあまって青髭宰相の片眼鏡が絨毯に跳んだ。
その場は殺気立つ。
アデレートは声をあげた。
「宰相! その犯罪人を殺してはなりません」
それを聞いて、青髭宰相がアミーユの髪を引っ張りあげた。アミーユはぐったりとしている。その場にいるものは皆息を呑んでいた。
青髭宰相が、パシリと頬を張るとアミーユは目を覚ました。
咄嗟に首に力を入れたおかげで首が折れずに済んだ。
アミーユの顔は鼻血で染まっていた。
その場には、殺気立って前に出てこようとする者、それを抑えようとする者、ニヤニヤと眺める者、と立場によってわかれていた。
アデレートは告げた。
「アミーユ・ル・リージュ。この者は、反逆罪に勝る大罪、内乱罪の首謀者です」
王の間にどよめきが起きる。非難の声が上がる。
「いったい、何を根拠にそのようなことを。単なるうわさでは済まされませんぞ」
口々に言い募る声をアデレートが制す。
「この者は、盗賊団の首魁と通じてます!」
それにはさすがに、驚きの声が上がった。
「黑の義賊、いや、盗賊団と?」
「そんな馬鹿な!」
アデレートは反応に満足したのか、目をぎらつかせ、笑みを浮かべた。
「この者は、第一師団に配属されてより、首魁と通じ、盗賊団に盗みをさせては、それを取り締まるという背信を行っていたのです。いつまでも首魁を捕まえるふりだけして、逃していました。老国王暗殺の一件も同じこと。ニセの功績をあげて、しまいには、軍トップの地位に就いた。そして、今度は、こともあろうか、ダニエル国王に謀反を起こすつもりなのです!」
アミーユは、青髭宰相に髪を引っ張り上げられたまま、ぐったりと力なく、それを聞いていた。
とてもそれらしく聞こえる。
それに、アミーユのやってきたことは、まさにそれであったような気もしてくる。
ダンに支配されるままに、その通りのことをやってきた。
俺は卑怯な手で出世し、ダニエル国王にも謀反を起こし王位簒奪をしようとしている。
俺はこういう形で処刑されるのか……。
逆賊アミーユ、それは確かに存在した。
物語ではなく、俺の人生で、俺自身がそうだった。その通りの逆賊の人生を生きてきた。
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