76 / 81
我が名2
しおりを挟む
アミーユは、自分の首にかけられた青髭宰相の手を取ると、その手の甲に恭しく口づけをした。
なんと……………!
そんなアミーユをある者は驚愕して、ある者は納得して眺めている。
青髭宰相が興奮した声をあげた。
「お前のαを殺したのは正解だったか! Ωはαなしでは生きていけぬあさましい生き物。いいだろう、次はこの俺を頼りに生きていけ。俺がお前を満足させてやろう。その身も心も俺のものにしてやる。俺がお前を存分に可愛がってやる!」
青髭は、アミーユに顔を近づけると、その涙を、口ですすった。アミーユは抵抗もしないでなされるがままになっている。
アデレートが壇上から言い放つ。
「待ちなさい。にわかには信じがたいことです。納得のできる理由を聞かせなさい」
青髭はそれを聞いて、惜しそうに唇を外して、アミーユから離れる。
アミーユは両腿に両手のひらをついて、崩れそうになる上半身を起こした。
「私は確かに、盗賊団の首魁と関係を持ってきました。しかし、私は、国王に逆らう気持ちを抱いたことはただの一度もありません。これは真実誓って言えることです」
アミーユはつっかえつっかえ、述べた。声を出すたびに、嗚咽と涙が、邪魔をする。それでも、息の隙間に、声を出した。
「私は、どの国王にも真心で仕えていました。ずっとアクランド王家の忠実なしもべであり続けました。暴徒に武器を向けなかったのも、彼らが国王陛下の民だから、の一点に尽きます」
それはアミーユの本心だった。国王に対して、ずっと忠実だった。
自分で何も考えず、周囲に翻弄されるがままに生きてきたアミーユは、謀反など考える余地もなかった。
アデレートは鼻で笑った。
「お前の心は目に見えません。見えるのは首魁との関係のみです。信じるには足りません」
「では、私の出生の秘密を、お話ししましょう!」
アミーユは声を張り上げた。アデレートは押し黙り、アミーユを見る。他の面々もアミーユに目を見張っていた。
「私は、レルシュ伯爵とは血がつながっておりません。私は、伯爵家の玄関に置き去りにされた捨て子でした。私の産みの母は、王宮にいました。幸妃ことマリア妃殿下、私はマリア妃が産み落とした四番目の子…………!」
アミーユは涙にぬれた頬で、アデレートを見つめる。
『王の間』には唖然とした空気が広がっている。
「何を言うのです? そんな突拍子もないことを」
「私がマリア妃を足しげく通っていたのは周知の事実!」
束の間の沈黙のあと、どよめきがおきる。
アミーユがパメラを訪れるついでに、幸妃のところに寄るのは、王宮内では知れ渡っていた。
リージュ公がパメラ妃に媚びを売るのはわかるが、幸妃にまで媚びを売る理由がわからぬ、と陰で揶揄されていたのをアミーユは知っていた。
誰もが目を見張るなか、アミーユは言った。
「パメラ妃とジョージ王子は、アデレート閣下、あなたに粛清されました。閣下には、部下からパメラ妃殺害時の報告が行っておりましょう」
アデレートは思い当たる顔をした。
「ええ、師団長のショーン少将から、その報告は受けています」
パメラのことを思いだしたのか、アデレートでさえ、気味の悪そうな顔をしていた。
「私は、粛清の現場におりました。そこで、パメラ妃は恐ろしい罪を告白しました。フィリップ王子とその子らの毒殺の犯人は、ディアナ妃ではなく、パメラ妃だったと。ディアナ妃を陥れるためにやったと。パメラ妃は他にも多くの使用人を殺していました」
誰もが黙りこんでいる。その顔つきからフィリップ王子ら暗殺の真相を既知の者も幾人かはあったが、驚いた顔をした者もいた。
アミーユは声を張り上げた。
「私は殺されないために、捨てられたのです!」
よろめく体を支えて、アミーユは叫ぶ。
「私をご覧あれ! フィリップ王子の面影があるはず! 顔も存じ上げない我が父の面影が! 私はアクランド王家の一員!」
リージュ大将閣下は、フィリップ王子のお子………?
『王の間』の面々の逡巡は、疑念交じりながら、徐々に、確信へと変わっていく。
そういえば、老国王の目も覚めるような赤毛は、リチャード陛下に引き継がれたが、兄上のフィリップ王子は金髪碧眼だった。金髪碧眼のたいそう美しい王子であられた。確かに面影がある、ような………。
アミーユは声を張る。
「王家の一員たる私が、どうして、王家に歯向かえましょうや。議会は私を勝手に祭り上げているだけ。どうぞ、議会の者たちを『王の間』に通してください。我が名を彼らの前で宣言いたしましょう」
ぞろぞろと議会のメンバーが『王の間』にあがってきた。
数十人の議員たち。それに付随する者たち。入りきれずに開いたままの入り口の向こうにも人が溢れている。
アミーユは赤い絨毯の上で、ふらつきながらも、立ち上がった。
俺は逆賊にはならない、決して。
アミーユは、何とか、姿勢を正して、一同に向かう。
入り口に振り返り、その場に集う人々に向けて、宣言する。
「我が本当の名は、アーサー・エレ・アクランド!」
アミーユは涙に濡れた目で必死に踏ん張っていた。
ただ、ダンの夢を叶えるために――――。
なんと……………!
そんなアミーユをある者は驚愕して、ある者は納得して眺めている。
青髭宰相が興奮した声をあげた。
「お前のαを殺したのは正解だったか! Ωはαなしでは生きていけぬあさましい生き物。いいだろう、次はこの俺を頼りに生きていけ。俺がお前を満足させてやろう。その身も心も俺のものにしてやる。俺がお前を存分に可愛がってやる!」
青髭は、アミーユに顔を近づけると、その涙を、口ですすった。アミーユは抵抗もしないでなされるがままになっている。
アデレートが壇上から言い放つ。
「待ちなさい。にわかには信じがたいことです。納得のできる理由を聞かせなさい」
青髭はそれを聞いて、惜しそうに唇を外して、アミーユから離れる。
アミーユは両腿に両手のひらをついて、崩れそうになる上半身を起こした。
「私は確かに、盗賊団の首魁と関係を持ってきました。しかし、私は、国王に逆らう気持ちを抱いたことはただの一度もありません。これは真実誓って言えることです」
アミーユはつっかえつっかえ、述べた。声を出すたびに、嗚咽と涙が、邪魔をする。それでも、息の隙間に、声を出した。
「私は、どの国王にも真心で仕えていました。ずっとアクランド王家の忠実なしもべであり続けました。暴徒に武器を向けなかったのも、彼らが国王陛下の民だから、の一点に尽きます」
それはアミーユの本心だった。国王に対して、ずっと忠実だった。
自分で何も考えず、周囲に翻弄されるがままに生きてきたアミーユは、謀反など考える余地もなかった。
アデレートは鼻で笑った。
「お前の心は目に見えません。見えるのは首魁との関係のみです。信じるには足りません」
「では、私の出生の秘密を、お話ししましょう!」
アミーユは声を張り上げた。アデレートは押し黙り、アミーユを見る。他の面々もアミーユに目を見張っていた。
「私は、レルシュ伯爵とは血がつながっておりません。私は、伯爵家の玄関に置き去りにされた捨て子でした。私の産みの母は、王宮にいました。幸妃ことマリア妃殿下、私はマリア妃が産み落とした四番目の子…………!」
アミーユは涙にぬれた頬で、アデレートを見つめる。
『王の間』には唖然とした空気が広がっている。
「何を言うのです? そんな突拍子もないことを」
「私がマリア妃を足しげく通っていたのは周知の事実!」
束の間の沈黙のあと、どよめきがおきる。
アミーユがパメラを訪れるついでに、幸妃のところに寄るのは、王宮内では知れ渡っていた。
リージュ公がパメラ妃に媚びを売るのはわかるが、幸妃にまで媚びを売る理由がわからぬ、と陰で揶揄されていたのをアミーユは知っていた。
誰もが目を見張るなか、アミーユは言った。
「パメラ妃とジョージ王子は、アデレート閣下、あなたに粛清されました。閣下には、部下からパメラ妃殺害時の報告が行っておりましょう」
アデレートは思い当たる顔をした。
「ええ、師団長のショーン少将から、その報告は受けています」
パメラのことを思いだしたのか、アデレートでさえ、気味の悪そうな顔をしていた。
「私は、粛清の現場におりました。そこで、パメラ妃は恐ろしい罪を告白しました。フィリップ王子とその子らの毒殺の犯人は、ディアナ妃ではなく、パメラ妃だったと。ディアナ妃を陥れるためにやったと。パメラ妃は他にも多くの使用人を殺していました」
誰もが黙りこんでいる。その顔つきからフィリップ王子ら暗殺の真相を既知の者も幾人かはあったが、驚いた顔をした者もいた。
アミーユは声を張り上げた。
「私は殺されないために、捨てられたのです!」
よろめく体を支えて、アミーユは叫ぶ。
「私をご覧あれ! フィリップ王子の面影があるはず! 顔も存じ上げない我が父の面影が! 私はアクランド王家の一員!」
リージュ大将閣下は、フィリップ王子のお子………?
『王の間』の面々の逡巡は、疑念交じりながら、徐々に、確信へと変わっていく。
そういえば、老国王の目も覚めるような赤毛は、リチャード陛下に引き継がれたが、兄上のフィリップ王子は金髪碧眼だった。金髪碧眼のたいそう美しい王子であられた。確かに面影がある、ような………。
アミーユは声を張る。
「王家の一員たる私が、どうして、王家に歯向かえましょうや。議会は私を勝手に祭り上げているだけ。どうぞ、議会の者たちを『王の間』に通してください。我が名を彼らの前で宣言いたしましょう」
ぞろぞろと議会のメンバーが『王の間』にあがってきた。
数十人の議員たち。それに付随する者たち。入りきれずに開いたままの入り口の向こうにも人が溢れている。
アミーユは赤い絨毯の上で、ふらつきながらも、立ち上がった。
俺は逆賊にはならない、決して。
アミーユは、何とか、姿勢を正して、一同に向かう。
入り口に振り返り、その場に集う人々に向けて、宣言する。
「我が本当の名は、アーサー・エレ・アクランド!」
アミーユは涙に濡れた目で必死に踏ん張っていた。
ただ、ダンの夢を叶えるために――――。
0
あなたにおすすめの小説
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
鍛えられた肉体、高潔な魂――
それは選ばれし“供物”の条件。
山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。
見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。
誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。
心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。
番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か
雪兎
BL
第二性が存在する世界。
Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。
しかし入学初日、彼の前に現れたのは――
幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。
成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。
だが湊だけが知っている。
彼が異常なほど執着深いことを。
「大丈夫、全部管理してあげる」
「君が困らないようにしてるだけだよ」
座席、時間割、交友関係、体調管理。
いつの間にか整えられていく環境。
逃げ場のない距離。
番を拒みたいΩと、手放す気のないα。
これは保護か、それとも束縛か。
閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。
淫愛家族
箕田 はる
BL
婿養子として篠山家で生活している睦紀は、結婚一年目にして妻との不仲を悩んでいた。
事あるごとに身の丈に合わない結婚かもしれないと考える睦紀だったが、以前から親交があった義父の俊政と義兄の春馬とは良好な関係を築いていた。
二人から向けられる優しさは心地よく、迷惑をかけたくないという思いから、睦紀は妻と向き合うことを決意する。
だが、同僚から渡された風俗店のカードを返し忘れてしまったことで、正しい三人の関係性が次第に壊れていく――
「お前を愛する事はない」を信じたので
あんど もあ
ファンタジー
「お前を愛することは無い。お前も私を愛するな。私からの愛を求めるな」
お互いの利益のために三年間の契約結婚をしたアヴェリンとロデリック。楽しく三年を過ごしたアヴェリンは屋敷を出ていこうとするのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる