玉座の檻

萌於カク

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我が名2

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 アミーユは、自分の首にかけられた青髭宰相の手を取ると、その手の甲に恭しく口づけをした。

 なんと……………!

 そんなアミーユをある者は驚愕して、ある者は納得して眺めている。

 青髭宰相が興奮した声をあげた。

「お前のαを殺したのは正解だったか! Ωはαなしでは生きていけぬあさましい生き物。いいだろう、次はこの俺を頼りに生きていけ。俺がお前を満足させてやろう。その身も心も俺のものにしてやる。俺がお前を存分に可愛がってやる!」

 青髭は、アミーユに顔を近づけると、その涙を、口ですすった。アミーユは抵抗もしないでなされるがままになっている。
 アデレートが壇上から言い放つ。

「待ちなさい。にわかには信じがたいことです。納得のできる理由を聞かせなさい」

 青髭はそれを聞いて、惜しそうに唇を外して、アミーユから離れる。

 アミーユは両腿に両手のひらをついて、崩れそうになる上半身を起こした。

「私は確かに、盗賊団の首魁と関係を持ってきました。しかし、私は、国王に逆らう気持ちを抱いたことはただの一度もありません。これは真実誓って言えることです」

 アミーユはつっかえつっかえ、述べた。声を出すたびに、嗚咽と涙が、邪魔をする。それでも、息の隙間に、声を出した。

「私は、どの国王にも真心で仕えていました。ずっとアクランド王家の忠実なしもべであり続けました。暴徒に武器を向けなかったのも、彼らが国王陛下の民だから、の一点に尽きます」

 それはアミーユの本心だった。国王に対して、ずっと忠実だった。
 自分で何も考えず、周囲に翻弄されるがままに生きてきたアミーユは、謀反など考える余地もなかった。

 アデレートは鼻で笑った。

「お前の心は目に見えません。見えるのは首魁との関係のみです。信じるには足りません」
「では、私の出生の秘密を、お話ししましょう!」

 アミーユは声を張り上げた。アデレートは押し黙り、アミーユを見る。他の面々もアミーユに目を見張っていた。

「私は、レルシュ伯爵とは血がつながっておりません。私は、伯爵家の玄関に置き去りにされた捨て子でした。私の産みの母は、王宮にいました。幸妃ことマリア妃殿下、私はマリア妃が産み落とした四番目の子…………!」

 アミーユは涙にぬれた頬で、アデレートを見つめる。

『王の間』には唖然とした空気が広がっている。

「何を言うのです? そんな突拍子もないことを」
「私がマリア妃を足しげく通っていたのは周知の事実!」

 束の間の沈黙のあと、どよめきがおきる。

 アミーユがパメラを訪れるついでに、幸妃のところに寄るのは、王宮内では知れ渡っていた。

 リージュ公がパメラ妃に媚びを売るのはわかるが、幸妃にまで媚びを売る理由がわからぬ、と陰で揶揄されていたのをアミーユは知っていた。

 誰もが目を見張るなか、アミーユは言った。

「パメラ妃とジョージ王子は、アデレート閣下、あなたに粛清されました。閣下には、部下からパメラ妃殺害時の報告が行っておりましょう」
 
 アデレートは思い当たる顔をした。

「ええ、師団長のショーン少将から、その報告は受けています」

 パメラのことを思いだしたのか、アデレートでさえ、気味の悪そうな顔をしていた。

「私は、粛清の現場におりました。そこで、パメラ妃は恐ろしい罪を告白しました。フィリップ王子とその子らの毒殺の犯人は、ディアナ妃ではなく、パメラ妃だったと。ディアナ妃を陥れるためにやったと。パメラ妃は他にも多くの使用人を殺していました」

 誰もが黙りこんでいる。その顔つきからフィリップ王子ら暗殺の真相を既知の者も幾人かはあったが、驚いた顔をした者もいた。

 アミーユは声を張り上げた。

「私は殺されないために、捨てられたのです!」

 よろめく体を支えて、アミーユは叫ぶ。

「私をご覧あれ! フィリップ王子の面影があるはず! 顔も存じ上げない我が父の面影が! 私はアクランド王家の一員!」

 リージュ大将閣下は、フィリップ王子のお子………?

『王の間』の面々の逡巡は、疑念交じりながら、徐々に、確信へと変わっていく。

 そういえば、老国王の目も覚めるような赤毛は、リチャード陛下に引き継がれたが、兄上のフィリップ王子は金髪碧眼だった。金髪碧眼のたいそう美しい王子であられた。確かに面影がある、ような………。

 アミーユは声を張る。

「王家の一員たる私が、どうして、王家に歯向かえましょうや。議会は私を勝手に祭り上げているだけ。どうぞ、議会の者たちを『王の間』に通してください。我が名を彼らの前で宣言いたしましょう」





 ぞろぞろと議会のメンバーが『王の間』にあがってきた。

 数十人の議員たち。それに付随する者たち。入りきれずに開いたままの入り口の向こうにも人が溢れている。

 アミーユは赤い絨毯の上で、ふらつきながらも、立ち上がった。

 俺は逆賊にはならない、決して。

 アミーユは、何とか、姿勢を正して、一同に向かう。
 入り口に振り返り、その場に集う人々に向けて、宣言する。

「我が本当の名は、アーサー・エレ・アクランド!」

 アミーユは涙に濡れた目で必死に踏ん張っていた。








 ただ、ダンの夢を叶えるために――――。
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