死にゲーの序盤で滅ぼされる村のモブだけど、全力でバッドエンドを回避する!

鏑木カヅキ

文字の大きさ
26 / 44

アフターオリヴィア

しおりを挟む
 俺の一週間のスケジュールを簡単に説明しよう。
 まず、三日間は酒場での仕事があるため、夜以外は自由時間がない。
 残りの四日の大半はオリヴィアさんとの修行に費やしている。
 空いた時間はロゼやエミリアさんと共に過ごすようにしているが、あまり一緒にいられないため、彼女たちは不満そうだ。
 最近見た二人の顔は、いつもふくれっ面なような気がする。
 ふむ、もう少し時間を取りたいんだけど、修行が最優先だしな。
 ロゼのご両親に、ロゼのことを蔑ろにするのかとちょっとお叱りを受けたこともある。
 友達は大切にしないとな。連絡を面倒くさがって疎遠になるなんてよく聞く話だ。
 ちなみに夜も鍛錬をしているので暇な時間はない。
 まあ、夜に女の子と会うのはさすがに憚られるしな。
 ロゼとエミリアさんはむしろ会いたいと言ってくるんだけど。
 いくら仲のいい友達とはいえ夜に二人きりで会うのは抵抗がある。
 断るとまた頬を膨らませてくるのだが。

 それはそれとして。
 俺とオリヴィアさんはいつも通り、猪鹿亭の前まで戻ってきていた。
 俺たちは修行終わり、必ず猪鹿亭で食事をしている。
 オリヴィアさんがなんやかんや言いながら、必ず猪鹿亭に行こうとするのだ。
 俺も猪鹿亭が好きだから別にいいんだけどな。
 ドアを開けるオリヴィアさんに続き、中へと入った。

「いら――あら、また来たのね」

 張り付いた笑顔が出迎えしてくれた。
 なんか怖いよ、エミリアさん。
 オリヴィアさんはエミリアさんの反応を気にせず、いつものテーブル席へと移動した。
 俺もテーブルにつき、一息つく。
 目の前に水の入ったコップが置かれると同時に、オリヴィアさんが言い放つ。

「いつもの」
「はいはい」

 オリヴィアさんの言葉に、エミリアさんがわかっているわよ、とばかりに手をひらひらと振った。
 数十秒後、オリヴィアさんの前にはエールが置かれた。
 何も言わず一気にエールを呷り、ごくごくと喉を鳴らす。
 妙に扇情的な仕草だが、何度も見ているので慣れたものだ。
 胸の内を何者かが叩き続けているが、気のせいだろう。

「ふー」

 一気に飲み干すと、すぐにエミリアさんが次のエールを持ってきてくれた。
 これもお馴染みの光景だ。
 いくつかの料理が運ばれ、舌鼓を打つ中、オリヴィアさんがぼそりと呟いた。

「リッドさんの成長は目を見張るものがあります」
「え? そ、そうですか?」
「十二にして素晴らしい素質をお持ちですね。このまま行けば私を超えるかもしれません」

 なぜか嬉しそうに笑うオリヴィアさん。
 俺はその純真無垢な表情を前に、うろたえた。
 誤魔化すように水を飲むも、いつもより過剰に喉が音を鳴らした。
 オリヴィアさんはそれ以上何も言わず、食事と酒に勤しんでいた。
 彼女の横顔はどこか楽しそうで、いつものクールな印象はまったくなかった。
 最初に比べてここまで心を許してくれていることに、俺は嬉しさを禁じ得なかった。
 というか目の前の無邪気なお姉さんを見て、なんだが妙に心がふわふわしてしまっていた。
 出会って数か月。
 それだけで彼女の魅力を十分知れた気がした。
 著しい親しみを感じたせいか、俺は無意識の内に口が動いた。

「可愛いな」

 ピタッとオリヴィアさんが動きを止めた。
 そしてなぜか酒場内を満たしていた喧騒も止まった。
 忙しなく動いていたエミリアさんも、洗い場で手を動かしていたバイトマスターも、近くで飲んでいた常連たちも、その場にいる全員が一切の動きを止めたのだ。
 え? ナニコレ?
 俺はあまりの事態に、思わず周りを見回す。
 全員が俺たちを見ている。もうこれは凝視だ。
 聞き耳を立てるとかそういうレベルじゃない。
 何が起きているのかわからず、俺はただただ狼狽した。
 そんな中、オリヴィアさんがテーブルにゆっくりとエールの入ったジョッキを置いた。
 そして俺に顔を向け言ったのだ。

「今なんと?」

 この状況で聞き返すとは、彼女は鉄の心臓を持っているのか。
 状況はよくわからない。
 だがどうやら俺の言葉に端を発したことは明白だ。
 それなのにもう一度言えと?
 可愛いと言えって?
 いや、俺だって恥を知っている。
 さすがに素直にほめ過ぎたなとは思っている。
 だがしかし、それでもこの状況は異常だ。
 なんなんだよこれ。
 わからないけど、オリヴィアさんが焦点の合わない目で、俺の方を必死で見ていることはわかる。
 ちょっと瞳が濡れている気がするのは気のせいだろうか。
 いつもの冷静で大人で、他人と距離をとっている彼女ではない。
 まるでそこにいるのは……。
 俺はオリヴィアさんに気圧され、口を開いた。

「……可愛いって言いました」

 素直すぎるだろ俺!
 しかし他になんと言えばいいのだ。
 ここで誤魔化しても何も誤魔化せないし、むしろ絶対にやっちゃダメな気がする。
 もう覚悟を決めて言うしかないじゃないか。
 オリヴィアさんは俺の言葉を聞き。

「そうですか」

 と小さく呟き、そして再び正面を向いた。
 ちびちびとエールを飲み、食事を再開する。
 それを皮切りに再び酒場内に喧騒が戻ってくる。
 なんだったんだ、今のは。
 心臓に悪い。なんか知らないけど俺は命綱なしで高所を綱渡りしたような錯覚に襲われた。
 俺はなんとか正しい選択をしたのだろうか。
 とにかく五体満足のままなのだ。
 クリアできたということだろうか?
 安堵のため息を漏らす俺だったが、後方から圧力を感じで振り向いた。

 ギリギリギリ。
 歯ぎしりするエミリアさんがそこにいた。
 俺を滅茶苦茶睨んでいる。
 そしてそのすぐ後ろの窓からまた別の人物が見えた。
 こっちを睥睨するロゼ。
 窓に張り付いて、もごもごなにか言っている。
 俺は首をギギッと動かし、正面に向き直った。
 二人を見なかったことにしたのだ。
 なんかよくわからん。
 だが、なんかダメな方向に言っている気がした。
 俺はちらっとオリヴィアさんの方を見た。
 彼女の耳は、桜の如くピンク色になっていた。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

悪役顔のモブに転生しました。特に影響が無いようなので好きに生きます

竹桜
ファンタジー
 ある部屋の中で男が画面に向かいながら、ゲームをしていた。  そのゲームは主人公の勇者が魔王を倒し、ヒロインと結ばれるというものだ。  そして、ヒロインは4人いる。  ヒロイン達は聖女、剣士、武闘家、魔法使いだ。  エンドのルートしては六種類ある。  バットエンドを抜かすと、ハッピーエンドが五種類あり、ハッピーエンドの四種類、ヒロインの中の誰か1人と結ばれる。  残りのハッピーエンドはハーレムエンドである。  大好きなゲームの十回目のエンディングを迎えた主人公はお腹が空いたので、ご飯を食べようと思い、台所に行こうとして、足を滑らせ、頭を強く打ってしまった。  そして、主人公は不幸にも死んでしまった。    次に、主人公が目覚めると大好きなゲームの中に転生していた。  だが、主人公はゲームの中で名前しか出てこない悪役顔のモブに転生してしまった。  主人公は大好きなゲームの中に転生したことを心の底から喜んだ。  そして、折角転生したから、この世界を好きに生きようと考えた。  

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

知識スキルで異世界らいふ

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

【収納∞】スキルがゴミだと追放された俺、実は次元収納に加えて“経験値貯蓄”も可能でした~追放先で出会ったもふもふスライムと伝説の竜を育成〜

あーる
ファンタジー
「役立たずの荷物持ちはもういらない」 貢献してきた勇者パーティーから、スキル【収納∞】を「大した量も入らないゴミスキル」だと誤解されたまま追放されたレント。 しかし、彼のスキルは文字通り『無限』の容量を持つ次元収納に加え、得た経験値を貯蓄し、仲間へ『分配』できる超チート能力だった! 失意の中、追放先の森で出会ったのは、もふもふで可愛いスライムの「プル」と、古代の祭壇で孵化した伝説の竜の幼体「リンド」。レントは隠していたスキルを解放し、唯一無二の仲間たちを最強へと育成することを決意する! 辺境の村を拠点に、薬草採取から魔物討伐まで、スキルを駆使して依頼をこなし、着実に経験値と信頼を稼いでいくレントたち。プルは多彩なスキルを覚え、リンドは驚異的な速度で成長を遂げる。 これは、ゴミスキルだと蔑まれた少年が、最強の仲間たちと共にどん底から成り上がり、やがて自分を捨てたパーティーや国に「もう遅い」と告げることになる、追放から始まる育成&ざまぁファンタジー!

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

処理中です...