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57. 優先されるべき未来

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 「お嬢様、少しご休憩されたらいかがでしょうか」

 ケイトは銀のトレイにティーポットとカップを載せて部屋に入るなり、そうエリィに声を掛ける。その声に頷きながらエリィは生きている事を確認するようにシャロムの手をそっと撫でてから静かに立ち上がった。
 あの後、あらかたの手当てと着替えを終わらせ、ノエルやヴィスタの手を借りてヨシュアはシャロムを2階のヨシュアの部屋へと移動させた。本館の方の客室はノエル用に整えてあったし、王族であるノエルの部屋とされている部屋を王城に滞在中で不在であるとはいえ、いくら何でも使用人であるシャロムに使わせるわけにはいかない。離れの客室やシャロムの部屋では看護の事を考えても警備上の不安が残るからだ。ヴィスタの配慮で城から警備の人間を借りてはいるのだが、そこであえて本館と離れに分けて警備の人数を割くのは得策ではない。そう言うヨシュアの判断だった。
 相変わらずシャロムの呼吸は弱く、今にも途切れてしまうのではないかと不安になる。エリィがシャロムの側を離れられないのもそれが原因だ。

「先程セシル坊ちゃんが意識を取り戻されたそうです」
「そう……良かったわ」
「坊ちゃんの所へ行かれたどうでしょうか?お喜びになりますよ」

 ケイトにそう促されたが、エリィはカップを持ったまま視線をシャロムへと向け、力なく首を左右に振った。確かにセシルの事は心配ではあったが、より酷い怪我を負ったシャロムを前にしている今、とても傍を離れる気になれない。

「やめておくわ」
「シャロムは私がちゃんと看ますよ?」
「シャロムは私の執事よ。……私が看たいの」
「あまり根を詰めすぎるのもよろしくありません。ただでさえお嬢様は今日お倒れになっているのですから」
「わかってるわ。……わかってるけど、きっと離れている方が心配でたまらないから」
「ミレイ様が大丈夫っておっしゃってたではないですか」

 そう言ってケイトは困った様に眉を下げた。ヴィスタの計らいで風邪をひいた王女につきっきりだった王宮医師のミレイが往診に出向いてもらえた。彼女は、来て一通り診察した後、大丈夫だと言ってヴィスタやノエルと共に帰って行ったのは半刻程前の話だ。それなのに不安がぬぐえない。生気のない顔をした身近な人間が横たわっていると言うのはエリィにとっては初めての経験だった。前世でも今世でも、倒れたエリィをこんな思いで周りの人間は見ていたのかと思うと酷くやるせなかった。
 あれほど可哀想な物を見る目で見ないでほしいと、悲しそうな顔をしないでほしいと願った前世。でも、その考えは間違っていたとシャロムを前にしてようやく気づかされた。例え大丈夫だと言われても、シャロムを見ていると不安で胸がいっぱいになる。その不安が自然と目を潤ませるのだ。
 可哀想な者を見る目ではなかった。悲しそうな顔ではなかった。
 あの人たちも、ただ不安だったのだ。身近な人間が失われてしまう恐怖と不安におびえていただけの、優しい人たちだったのだ。
 
 浮かない顔のままカップに唇を寄せ、紅茶を一口飲む。そうすれば紅茶の温かさがじんわりと体に広がった。そんなエリィの様子を見てケイトはため息を一つ吐くと居室へ続くドアの方へと歩み寄っておもむろにドアを開けると、上半身を居室の方へ滑り込ませるようにして居室に居る誰かと言葉を交わす。

「ケイト、誰かいるの?」

 エリィがそう声を掛ければ、ケイトはドアに手を掛けたまま振り返る。その眉間には何故か深くしわが刻まれていた。

「誰って、もちろん……」

 そこまでケイトが言いかけると、ドアの向こうから伸ばされた手が些か強引に彼女の腕をつかみ引き寄せた。その勢いにケイトはたたらを踏みながらドアの向こうへと消える。
 その一瞬だけ見えたその手で、ドアの向こう側に居る人間が誰だかわかった。1階で共にシャロムを見ていた時はいつも通りだったのに、ミレイが帰った後2人の容体に安心して屋敷中の緊張感が少し解け後、思い出したかのようにヨシュアは再びエリィを避け始めた。いや、避けたと言うのは語弊があるかもしれない。距離を測りかねるようなぎこちない対応になったのだ。
 そのヨシュアの対応に軋む様に胸が痛む。ヨシュアの気持ちを拒絶した以上、今まで通りなんて無理に決まってる。今まで通りにして欲しいなんてエリィのただのエゴだ。好意に気付いていながらも甘えてそのぬるま湯の中にいるのが当然だと思っていた。誰からの好意も受け入れないと決めてから、そのぬるま湯を出なければいけない時期が来るのはわかっていたのに覚悟を決めていなかった自分の浅はかさの結果がこの痛みだ。
 それでも、いつも側に居てくれるヨシュアが近くにいない事がこんなに堪えるとは想定外だった。自分が思っている以上に年下のヨシュアに普段から精神的に頼りきりで、甘えていたという事実に気付かされる。
 
 半分ほど残したカップをテーブルに置き、再びシャロムの側の椅子に戻る。大丈夫だと言うミレイの言葉を鵜呑みにできない程、顔色の悪いシャロムを見ているとどんどん不安が増す。このまま呼吸をしなくなったらどうしよう。そんな不安を追い出す様に軽く頭を振り、シャロムの右手を握った。
 呼吸も弱い。脈も弱い。でも、その手は確かに温かかった。その温かさに縋らなければ不安でしょうがなかった。
 そんな不安な気持ちでシャロムを看ていると、屋敷の外がにわかに騒がしくなった。馬車の音にヨハンの帰宅を推察して窓の外を見れば、確かに公爵家の馬車が外門を入ってくるところだった。ヨハンの無事の帰宅と、帰ってきた事による安心感で小さく息を吐く。きっとヨハンの無事と、主が返ってきた事に使用人たちもほっとしたことだろう。厳しくはあっても、やはりヨハンは主として頼りになる存在でもあるのだ。

「お義父様が帰ってきたわ。これで少しは安心できるわね」

 そう話しかけながらエリィはシャロムの手を軽く擦る。何の反応も返さない。それは最初からわかっていながら話しかけた。ただそう話しかけることで、自分を安心させたかったのだ。近づいてくる馬車の音に、屋敷の中の雰囲気も出迎えのためか慌ただしくなる。今聞こえたドアの開閉音も、恐らくケイトが出迎えの為に出て行った音だろう。そして、人の気配が消えないのは、ヨシュアが部屋に残っているという事だ。仮にヨシュアが出て行って、ケイトが残ったとしたならばこちらに戻ってこない筈がない。やはりヨシュアはエリィとの距離を測りかねているという事なのだろう。それはエリィも同じだった。今まで通り、それが出来ないのをヨシュアだけでなく、エリィもわかっているのだ。

「私、どうしたらいいのかしらね……」

 ボソリと呟く。シャロムを心配しながらも、ヨシュアとの関係を悩んでみたり。あっちもこっちも思考が散漫としていて中途半端な自分が、どうしようもなくダメな人間に思えて。エリィはシャロムの手を握ったままギュッと目を閉じた。
 
 馬車の音がさらに大きくなって、その合間に馬の蹄の音が聞こえるようになり、そしてピタリとやんだ。窓の外から使用人たちの出迎えの声が聞こえて、そのガヤガヤとした喧騒が窓の外から消える。普段だったらありえない騒がしさだったが、それだけ使用人達が不安だったという事だろう。皆、主人の帰還を心待ちにしていたのがそれだけでわかる。
 古参の使用人たち以外には子細を教えていない。ただ、突然公爵家後嗣と供の執事が血だらけになって帰って来て、その後片付け以外はまるで隔離されたように近づくことも許されなかった。何が起こっているのかもわからず不安になるのは当然だろう。不安にさせてしまっているのもわかってはいたが、エリィもヨシュアも彼らの目の振れる所、手の届くところに身動きの取れないセシルやシャロムを置いておきたくなかったのだ。

 そうやって色々と考えを巡らせながらシャロムの側に座っていると、半刻ほど経った時分だろうか。居室の方のドアの開く気配がした。はっきりとは聞き取れないが、何人かの話声がエリィの耳にも届いていた。すぐにその声は止むと、幾つかの足音がエリィの居る寝室のドアのすぐ側まで近づき、止み、静かなノックの音が部屋に響く。エリィの招き入れる声と共にまずヨハンが顔を覗かせた。

「お義父様……」

 飄々とした調子で、何事もないかのような表情で部屋に入ってくるヨハンを見て、思わずエリィもホッとして眉を下げた。その様子にヨハンは少しだけ苦笑を浮かべて後ろから続く客を招き入れた。

「どうぞ、こちらへ」
「はい、失礼いたします」

 涼やかな声と共に部屋に入ってきたのは、臙脂色の落ち着いた雰囲気のドレスを着た若い女性だった。少し赤みがかかった艶のある茶色の髪と、オリーブの瞳が印象的で、年の頃もエリィとさほど変わらない様だ。貴族令嬢にしては些か健康的な肌の色をしてはいたが、堂々とした所作と明るい笑顔は一見男性的にも思える程清々しく、好人物に見えた。
 エリィはその姿を捉えると、見苦しくない程度にすぐに立ち上がり軽く腰を落とす。

「ああ、私から挨拶をさせてくださいませ」

 エリィが口を開きかけた途端、慌てた様にその女性は声を上げた。その言葉に少し驚いてヨハンを見れば、ヨハンはエリィに向かって小さく頷いた。それにエリィも頷き返したのを確認した女性は、軽く1回腰を落としてニコリと微笑んだ。

「お会いできて光栄ですわ。私はガランド伯爵家次女、リアンナと申します」
「……エイリーズ・ディレスタですわ。私もお会いできて嬉しく思います」

 彼女の名前を聞いた途端、未だ記憶に新しいノエルの言葉が蘇りエリィは大きく息を飲んだ。思わず言葉に詰まり、信じられないようにマジマジとリアンナを見、そして思い出したかのように慌てて言葉を繋いだ。

「今まではご病気でご領地の方で過ごされていたそうだよ。快気されたので新学期に合わせて姉であるアイリス嬢と同じ学園に通う為に居を移されたとの事だ。お前も学園では出来るだけ便宜をはかってやりなさい」
「はい」

 どう見ても病気とは無縁そうな程健康的な肌の色と体。今まで聞いたことも無かったガランド伯爵家の次女の存在。伯爵も伯爵夫人も持っていない色彩の姿。恐らくヨハンもそれをわかっていながら、そういう体で話す。それがノエルの言った通り、彼女がガランド伯爵家の庶子であるという事を物語っていた。
 ノエルがヒロインの時のエリィのように、エリィがヒロインである時のサポートキャラであるリアンナ。そんな彼女が何故このタイミングで現れたのか。それが分からず、エリィは困惑の表情を浮かべるしかない。

「彼女には私が頼んできて貰ったのだよ」

 そう言ってヨハンはのんびりとした足取りでシャロムの側まで来ると、おもむろにシャロムの腹の当たりを軽くポンポンと叩く。その拍子に意識の無いシャロムが苦し気に小さな呻き声を上げた。

「お義父様!」

 慌ててヨハンの手を無理やり取ると、ヨハンは可笑しそうに笑った。

「こ奴がこれぐらいでくたばる訳があるまい」
「死ぬ死なないの問題ではありません!怪我人に何をなさるんですか」
「大騒ぎをするな。生きているのを確認しただけだ」
「乱暴すぎますわ!」

 怒った様にエリィが言うと、ヨハンは更に可笑しそうに笑う。その声と同時に軽やかなリアンナの笑い声も重なった。

「公爵様の愛情表現は少し過激ですわね。セシル様も先程声にならない悲鳴を上げておられましたもの」
「この愛情を分かってくれるのが中々いなくて困りものだよ。……じゃ、リアンナ嬢。こちらも頼むよ」

 ヨハンはそう言うと、ヨハンの手を取ったままのエリィを誘導するようにシャロムの側から離れた。それと入れ替わる様にリアンナがシャロムの側へと寄る。そして明るい表情を崩さぬまま、そっとシャロムの腹に手を当てた。そのまま目を閉じ、大きく一回深呼吸をする。

「元通りに治って」

 微かに小さくそう呟く声がした。リアンナがそう呟いた瞬間、彼女の手元が一瞬陽炎のように揺らいだ。その揺らぎの後、リアンナは満足そうに頷き、そのままシャロムのあばら、へと手を移動させ同じように繰り返した。

「お義父様、リアンナ様は何を?」
「リアンナ嬢は恐らくこの世界で最高峰の医師だよ」

 訝し気に様子を窺うエリィを安心させるように、ヨハンは言う。そうして元気づけるようにエリィの背中を優しく叩いた。その仕草に、既視感を覚え、ふとヨハンと一緒に入ってきたはずのヨシュアの姿を目で探す。するとヨシュアは何とも浮かない表情で部屋の隅の壁にもたれるようにして腕組をしながらリアンナの方を見ていた。

「今日はここまでですわ。これ以上は申し訳ありませんが、魔力が持ちません。また後日、という事でよろしいでしょうか?」

 柔らかい笑みと共にリアンナが振り返る。その途端、ヨシュアは表情をやわらげて綺麗に笑った。その綺麗な笑顔にエリィは何となく気持ちが落ち着かなくなり、眉間に皺を寄せる。だがヨシュアはそんなエリィの様子に気付いていないのか、全くエリィの方を見ることもせずに足早にリアンナの元へと近づくと、少し疲れた様子のリアンナの手を恭しく取った。

「ありがとう、リアンナ。君の優しさに甘えてしまう僕を許してくれるかい?」

 そう言ってヨシュアがリアンナの手の甲に軽く唇を寄せると、リアンナは途端に嬉しそうに赤くなりながら逆の手で頬を押さえて小さく頷いた。

「ヨシュア様のご家族のためですもの。何があっても駆けつけますわ」
「それでも、無理はいけないよ。疲れたろう?お茶を用意させるから少し休んでいくといい。……いいですよね?父さん」

 リアンナを部屋の外へと誘導しながらヨシュアは笑顔のまま振り向きざまにヨハンに言う。その拍子にヨハンの側に立つエリィの姿が目に入ったのか、ヨシュアはスッと視線を横に反らした。それもほんの一瞬だけで、すぐさまその取ってつけたような笑顔に代わる。そのままヨシュアはヨハンに承諾を取ると、まるでエリィの視線からリアンナを隠す様に、彼女を連れて慌ただしく部屋の外へと出て行った。

「……あれでは合格点からは程遠いな」

 ボソリと呟かれた言葉に、眉間に皺を寄せたままのエリィが見上げるようにして視線を投げれば、ヨハンは口角をキュッと上げて笑う。

「ヨシュアの態度に疑問を感じている、違うか?」
「そうですわね。ヨシュアはリアンナ様とお知り合いでしたの?凄く親し気でしたけれど……」
「彼女はヨシュアの婚約者候補だ。……いや、ヨシュアが彼女の婚約者候補だと言った方が正解に近いか」

 その言葉にエリィは庭でのヴィスタの会話を思い出す。その時ヨシュアとヴィスタは言っていたはずだ。

――見合いの話が上がっているそうだな。
――ええ。ありがたいことに、良いお話を頂いています。

 まるでこれからの関係かのような話であったと言うのに、今見た限りではリアンナがヨシュアに好意を寄せている事は疑いようもなかった。ヨシュア自身も決して嫌そうではない、むしろ柔らかな笑顔で手を取っていた。

「お見合いの話が上がっていると聞きましたわ」
「そうだな」
「お見合いなどせずとも十分に仲が良いではありませんか」
「ああ。先日の夜会で知り合ったそうだよ。見合いは形式を気にする頭の固い連中を納得させるためだ」

 先日の夜会、で思い当たることと言えばヨシュアがノエルと共に出かけて行ったあの夜会しか思い当たらない。次の日のヨシュアはとてもお酒臭かったのをエリィは覚えている。あの日何かがあって、ヨシュアはリアンナと出会ったのだ。

「反対するかね?」
「……いいえ、ヨシュアが決めたことなら。ヨシュアが幸せになる事を反対する理由がありません」

 そうエリィが言えば、ヨハンは小さく肩をすくめた。

「それなら祝福してやるといい。いい笑顔でな。取り合えず、リアンナ嬢をきちんと無事にガラント伯爵の元へ送り届けねばならないから、私も彼女の元へ行くこととするが……エイリーズ、お前はどうする?」

  そう問うヨハンにエリィは静かに首を振った。そんなエリィにヨハンは口角を上げた多少胡散臭い笑顔のまま、少しおどけて小刻みに頷いて見せた。そうして再びエリィの背中を軽く叩くと「もうシャロムは安心だろう?ケイトを呼ぶから、早く休みなさい」そう言ってのんびりとした様子で部屋を出て行った。
 
 ヨハンが部屋を出で行くのを見送った後、ようやく落ち着いてシャロムの方へと視線を戻した。すると、顔色は相変わらず悪いままではあったが、先程までより随分と呼吸が楽に出来ているように見受けられた。呼吸の妨げとなっていた最大の原因の腹の傷とあばらの骨折が無くなったお蔭であると一目でわかるほどの回復ぶりだ。そのしっかりとした呼吸に嬉しくなって再びシャロムの手を握ってみれば、僅かに握り返すような反応が見て取れた。その様子に胸を撫で下ろして、再びベッドのすぐ傍の椅子に座る。
 気持ちが落ち着いてみると、途端に余裕が出て来たのか今まで目に入らなかった物がふと視界に入りこんだ。ベッドのすぐ横の小さな本棚も兼ねているサイドテーブルには、いつの間に回収されたのか、朝ヨシュアがエリィの部屋に忘れていった本が並んでいた。
 その本をを見れば、やはり今朝の事を思いだしてしまう自分がいて、エリィは自嘲気味に笑う。

「好きだって言ってたのにな……」

 そっと指先で自分の唇を撫でる。そうすればモヤモヤとした気持ちと、何故だか騙されたようなそんな怒りが沸々と湧いてくる。

「私、初めてだったのに」

 指先に力を入れ、つねる様に唇を挟み込む。
 リアンナと婚約することがわかってて、ヨシュアがあの行動をとったと考えると酷く腹立たしかった。エリィの心を乱すだけ乱して、罪悪感を負わせ。それでいて自分は何事もなかったように幸せを掴もうとしている。そう考えるとイライラした気持ちが溢れてくるような気持ちがした。衝動的にあの本を本棚から引き抜き、壁にでも投げつけようかと高く掲げる。
 しかしそこでふと我に返って、エリィはその腕を力なく下した。

「当たり前の事に何を怒っているのよ」

 自分で自分を宥めるようにエリィは言う。時期の早い遅いはあっても、最初から覚悟していた事だった筈だ。ヨシュアも、セシルも、ヴィスタも。いずれ誰かと結婚して子を育み老いていく。そこにエリィの姿はない。どう考えても存在できる余地が無い。だから彼らがその未来を選ぶのは当然の事なのだ。そんな彼らの輝かしい未来へエリィがケチをつけることなど許されるわけが無い。そんな権利をエリィは持ち合わせていない。エリィが出来るのはただ、未来がある人たちのこれからを祈るだけだ。
 それだけしかないのだ。
 
 
 
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