バッファロー銀伝説

八手目

急転直下

人は夢をえがく。
それは儚きものであり、

夢から覚めた者は
現実の深き闇穴へ、

小さくなるまで、
ただただ堕ちてゆくのであった。


たもる、現実を受け入れる。
▲5五飛車と角将の攻撃を
よける。

「うだぁ！」三林△4七角成と
捨て身タックルを放つ。

たもる▲同金。

「んぎっ！」三林△同飛車成。


たもるの陣地に、三林の傷だらけの飛車が成り込んだ。

たもるの先程の思考では、

ここで▲5三飛車成と王手をしても、三林が△5二歩と受ければ
たもるの攻撃はここで一旦途切れてしまう。


どうするたもる。




現実はいつからでも、
変えられるという言葉があるが、

それは素晴らしい言葉であると同時に、途轍もなく遠い道のりだ。



負けたくないが、行くしかない。


たもる、屈服の一手。

負けると分かっていながらも、

己の我儘を貫いた、

潔い一手。

たもる、▲5三飛車成！

（ここで、三林さんに歩を打たれ、俺は負けに傾くだろう。）


たもる目を瞑り、心で落胆する。
（三林さん、強いです、参りまし.）

バシンっ、、、。


少し太い音が、
たもるの耳を刺激する。


重い瞼を開くたもる。
光がこぼれる。


この音は、、、、、


、、、、歩ではない！

三林、△5二金打！！！



たもるが描いた幻想の未来、
消えたかに思われたその未来が、

今、急に目の前に現れる。


（そ、その手は！！！）



（俺の、、、、、



、、、勝ちだ！！！）



バッシィイいいンンンン！！！

たもる、▲同馬！


たもるが破り捨てた7手前の未来が、現実のものとなった、
その瞬間であった。