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第3話
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「あはは、ヨーカ! 何を言い出すかと思えば……キミは面白いヤツだなあ!」
ここは異世界の町の食堂。次々と見たこともない料理が運ばれていく。
この場所が妙に落ち着くのは、きっと自分の家と、雰囲気が似ているからだろう。
「ゲルゲレのジョセバンニュ風、上がったよ!」
ほらまた、マスターの声が店内に響く……どんな料理なのかわからないけど。
しかし、困ったな。私が異世界から来たって言っても全然信じてもらえない。今みたいに笑い飛ばされちゃうぐらい、レアなケースみたいね。
……という事は、帰るための合言葉って、誰も知らないんじゃない?
「さっきの魔物はベイアルと言って、この辺りでは1、2を争うスプリンターだ。普通は、そいつに追いかけられたなんて聞いたら、ご愁傷様としか言いようがない」
この人は、チウィ・シャウさん。なんとファンタジー世界では定番のエルフ族で、魔法が得意らしい。さっきの火矢も、魔法と弓術の複合技だって。すごい燃え方だったもんね。
「本当に加護を受けていないのか? それに、そんな上等なヨロイを着てるのに、武器は持たずに旅してるって、不思議な子だな」
え、このヨロイって上等なの? 露出は多いし妙にカラフルだし、とても実用的とは……
「何を言ってるんだキミは。その鎧は、勇者様も愛用していた人気のモデルだろ? 軽くて動きやすい上に、防御力はピカイチだ」
〝愛用していた〟っていうか〝着用していた〟んだけど。そんなに良いヨロイだったのね。
「お、来た来た! この店は安くて美味いんだ。遠慮せず食べてくれ!」
目の前に、ステーキとスープ、サラダが並べられた。
なんかすみません、助けて頂いて、町へ連れてきて頂いた上に、お食事まで……
「いやいやヨーカ、気にする事はないぞ。あんな見事な走りを見せてもらったんだからな! ベイアルが追い付けないなんて、痛快だったよ。助けるのを忘れて、思わず見惚れてしまった」
ちょ、シャウさん?! ひどーい!
「あはは、冗談だよ。それにキミはひょっとしたら、あのまま逃げ切れたんじゃないか?」
まさか! 4本足の獣に追いかけられて、逃げ切れるはずないじゃないですかー。
私はステーキをひとくち大に切って、口へと運ぶ。
……うっわ! なにこれ?! すごく美味しい!
「お、気に入ってもらえたみたいだね。本来ならお酒も奨める所なんだが、あいにくキミは未成年らしいからな」
今更だけど、私は19歳。高校を卒業して、憧れのソフトウェア会社に就職するはずだったんだけど、なんと入社式当日、社長直々に涙の倒産宣言。泣きたいのはこっちだよ、まったく!
……それにしても、なんだろう、この美味しさ。口の中がずっと幸せだー! 涙が出てきた!
「おいおい、泣くことは無いだろう? そんなに喜んでもらえるなら私もご馳走するかいがあるよ。好きなだけ食べてくれ!」
ありがとう、シャウさん。それじゃ、お言葉に甘えまして……あの人が食べてるの、すごく美味しそう!
「ああ! あれはこの店のオススメ料理だな。ちょっと癖があるが、ハマる味だよ。おーい! こっち追加オーダーだ!」
「はーい、只今!」
>>>
ご馳走様でした。とっても美味しかったです!
「いやいや、良い食べっぷりだった。さて、キミはこれからどこへ行くんだ?」
私は、元の世界に戻るために、合言葉を探さなきゃいけないんです。なので、この指輪があったという、魔王城に……
「ブッ?! ちょっとちょっと! 冗談キツイぞ? まさかキミが異世界から来たって本当の事……」
「うわああああ! 大変だ! 逃げろおお!!」
な、何?! 町が一気に騒がしくなった。逃げ惑う人々。悲鳴や怒号が飛び交い、カンカンという、鐘の音が鳴り響く。もしかして火事?
「おい、あんたらも逃げろ! 竜だ! マズイぞ!!」
竜?! そんなのまで居るの? この世界!
「おいおいおい……最悪だ。みんな死ぬぞ! 早く逃げるんだ!」
え? 死ぬって……あ、ちょっと!
シャウさんは私の手を取り、走り出した。
ねえ、竜って?
「ウソだろう……竜を知らないなんて。まさか本当に異世界から来たっていうのか?!」
だから、最初からそう言ってるじゃないですか。
「なんと……! いやしかし、キミも災難だな。まさか竜に出くわすとは……」
そんなに強いんですか? 竜。
「竜は、戦うとか倒すとか、そういう生き物じゃないんだ。災害そのものだよ。それこそ、伝説の勇者か、今は亡き魔王とかでなければ、倒すことは出来ないだろうな」
母さんなら勝てるのか。確かに、あの人に引っ叩かれると頭の上を星が舞うもんなあ。
……って、あはは、そっか手加減してたのか。
でも、私には何の力もない。勇者の血を受け継いでいても、特に運動が得意という事もないし……
「それにしても……竜は滅多な事で人里を襲うなんて、しないはずなんだが」
一般的に竜は温厚で、人里離れた山奥などに住んでいるのだとか。
ただ、ひとたび怒らせると、手がつけられなくなるらしい。それで滅んだ国もあるそうだ。ああ、怖い怖い。
……あ、ちょっと待って、シャウさん。子どもが!
「おっと、迷子か?」
女の子が、ボールを大事そうに抱えたまま、しゃがみ込んで泣いている。
「こんな所に居たら、竜に見つかってしまうぞ! 早く逃げ……」
……シャウさん、ちょっと遅かったかも。
「ああ。どうやらここまでのようだな……」
目の前に現れたのは、絵本で見たような、真っ赤な色の竜だ。口から、炎がチラチラと見え隠れしている。そして何より、大きい! さすがにこれはもう、終わったでしょう……?
ここは異世界の町の食堂。次々と見たこともない料理が運ばれていく。
この場所が妙に落ち着くのは、きっと自分の家と、雰囲気が似ているからだろう。
「ゲルゲレのジョセバンニュ風、上がったよ!」
ほらまた、マスターの声が店内に響く……どんな料理なのかわからないけど。
しかし、困ったな。私が異世界から来たって言っても全然信じてもらえない。今みたいに笑い飛ばされちゃうぐらい、レアなケースみたいね。
……という事は、帰るための合言葉って、誰も知らないんじゃない?
「さっきの魔物はベイアルと言って、この辺りでは1、2を争うスプリンターだ。普通は、そいつに追いかけられたなんて聞いたら、ご愁傷様としか言いようがない」
この人は、チウィ・シャウさん。なんとファンタジー世界では定番のエルフ族で、魔法が得意らしい。さっきの火矢も、魔法と弓術の複合技だって。すごい燃え方だったもんね。
「本当に加護を受けていないのか? それに、そんな上等なヨロイを着てるのに、武器は持たずに旅してるって、不思議な子だな」
え、このヨロイって上等なの? 露出は多いし妙にカラフルだし、とても実用的とは……
「何を言ってるんだキミは。その鎧は、勇者様も愛用していた人気のモデルだろ? 軽くて動きやすい上に、防御力はピカイチだ」
〝愛用していた〟っていうか〝着用していた〟んだけど。そんなに良いヨロイだったのね。
「お、来た来た! この店は安くて美味いんだ。遠慮せず食べてくれ!」
目の前に、ステーキとスープ、サラダが並べられた。
なんかすみません、助けて頂いて、町へ連れてきて頂いた上に、お食事まで……
「いやいやヨーカ、気にする事はないぞ。あんな見事な走りを見せてもらったんだからな! ベイアルが追い付けないなんて、痛快だったよ。助けるのを忘れて、思わず見惚れてしまった」
ちょ、シャウさん?! ひどーい!
「あはは、冗談だよ。それにキミはひょっとしたら、あのまま逃げ切れたんじゃないか?」
まさか! 4本足の獣に追いかけられて、逃げ切れるはずないじゃないですかー。
私はステーキをひとくち大に切って、口へと運ぶ。
……うっわ! なにこれ?! すごく美味しい!
「お、気に入ってもらえたみたいだね。本来ならお酒も奨める所なんだが、あいにくキミは未成年らしいからな」
今更だけど、私は19歳。高校を卒業して、憧れのソフトウェア会社に就職するはずだったんだけど、なんと入社式当日、社長直々に涙の倒産宣言。泣きたいのはこっちだよ、まったく!
……それにしても、なんだろう、この美味しさ。口の中がずっと幸せだー! 涙が出てきた!
「おいおい、泣くことは無いだろう? そんなに喜んでもらえるなら私もご馳走するかいがあるよ。好きなだけ食べてくれ!」
ありがとう、シャウさん。それじゃ、お言葉に甘えまして……あの人が食べてるの、すごく美味しそう!
「ああ! あれはこの店のオススメ料理だな。ちょっと癖があるが、ハマる味だよ。おーい! こっち追加オーダーだ!」
「はーい、只今!」
>>>
ご馳走様でした。とっても美味しかったです!
「いやいや、良い食べっぷりだった。さて、キミはこれからどこへ行くんだ?」
私は、元の世界に戻るために、合言葉を探さなきゃいけないんです。なので、この指輪があったという、魔王城に……
「ブッ?! ちょっとちょっと! 冗談キツイぞ? まさかキミが異世界から来たって本当の事……」
「うわああああ! 大変だ! 逃げろおお!!」
な、何?! 町が一気に騒がしくなった。逃げ惑う人々。悲鳴や怒号が飛び交い、カンカンという、鐘の音が鳴り響く。もしかして火事?
「おい、あんたらも逃げろ! 竜だ! マズイぞ!!」
竜?! そんなのまで居るの? この世界!
「おいおいおい……最悪だ。みんな死ぬぞ! 早く逃げるんだ!」
え? 死ぬって……あ、ちょっと!
シャウさんは私の手を取り、走り出した。
ねえ、竜って?
「ウソだろう……竜を知らないなんて。まさか本当に異世界から来たっていうのか?!」
だから、最初からそう言ってるじゃないですか。
「なんと……! いやしかし、キミも災難だな。まさか竜に出くわすとは……」
そんなに強いんですか? 竜。
「竜は、戦うとか倒すとか、そういう生き物じゃないんだ。災害そのものだよ。それこそ、伝説の勇者か、今は亡き魔王とかでなければ、倒すことは出来ないだろうな」
母さんなら勝てるのか。確かに、あの人に引っ叩かれると頭の上を星が舞うもんなあ。
……って、あはは、そっか手加減してたのか。
でも、私には何の力もない。勇者の血を受け継いでいても、特に運動が得意という事もないし……
「それにしても……竜は滅多な事で人里を襲うなんて、しないはずなんだが」
一般的に竜は温厚で、人里離れた山奥などに住んでいるのだとか。
ただ、ひとたび怒らせると、手がつけられなくなるらしい。それで滅んだ国もあるそうだ。ああ、怖い怖い。
……あ、ちょっと待って、シャウさん。子どもが!
「おっと、迷子か?」
女の子が、ボールを大事そうに抱えたまま、しゃがみ込んで泣いている。
「こんな所に居たら、竜に見つかってしまうぞ! 早く逃げ……」
……シャウさん、ちょっと遅かったかも。
「ああ。どうやらここまでのようだな……」
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