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5年生 冬休み
再会
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『タツヤ。偶然、浅い所に引っ掛かった事にしようか』
そう言って、ブルーは岩肌に、登りやすい〝デコボコ〟を作ってくれた。
『気を付けて登ってほしい。落ちても死なないが、あまり時間が無いからね』
なるほど。助けが来る前に〝怪我ひとつ無い状態でも違和感のない所〟まで、登っておかないとって事だな。
……あ、でもその前に。
「ちょっと待って、ブルー」
僕は、足元に転がっていた2つの〝青い破片〟を拾い、ポケットに突っ込む。
さっき割れて落ちた、手のひら側と手の甲側の〝ブルーの余った部分〟だ。
キレイだし、なんかもったいない気がしたんだよ。
いや、貧乏性とかじゃなくて。
『面白いね。私の寿命が伸びた。それらは何かの役に立つようだ』
少し嬉しそうなブルー。
地球の寿命って、リアルタイムで分かるのか。
『さあ、急いで登ろう。まずは、ちょっと出っ張った、右の岩まで。次に横移動で……』
ブルーが指示する通りに登っていく。
……体が軽い!
腕力は大人で体重は小学生だから、当たり前なんだけど。
「おいおい……こんなに落ちてたのかよ!」
すごいペースで登り続けて、あっという間に数十メートル。
普通なら、確実に死んじゃう高さだ。
『キミは、落下の途中で不死身になった。最初、ちょっとだけ痛かったかもしれないけど』
「ちょっとだって? 気を失うほど痛かったぞ」
むしろ、スマートフォンが無事だったのが驚きだ。タフネス仕様の機種にしておいて良かった。
「おーい! 聞こえたら返事しろー!」
上の方からは、絶えず僕を呼ぶ声が聞こえる。
ごめん。もうちょっと待って。
「たっちゃああああん!!」
あ、この声は!
九条大作……大ちゃんだ。
彼は、中学卒業と同時に海外に引っ越していったから、本当に久し振りだ。早く会いたいなあ……!
『ストップ! タツヤ、ここが丁度いい。寝そべって待つんだ』
ブルーは、ちょっと狭いけど、違和感のないスペースを指定した。
見上げると、こちらを照らしているであろう明かりが、チラチラと見える。
そこそこ深いけど〝奇跡的に傷ひとつ無く救出される〟には違和感のない場所だ。
僕はうつ伏せになり、
「あははは! 僕はここだぜー!」
……と、叫びたいのを我慢して、1時間後に無事救出された。
>>>
「たっちゃん、どんどん行っちゃうんだもん!」
半ベソで出迎えてくれたのは、栗栖和也。通称〝栗っち〟。
「アレだよな、たっちゃんは、ホントに無茶するよなー!」
ちょっと怒った感じの大ちゃん……九条大作。
懐かしいなあ! 元気にしてた? とか聞いたらマズイかな……
『タツヤ、それはあまり良くない』
そうだろうな。
[493017941/1564431784.jpg]
「本当に、どこも痛くないかい?」
この人は、町の駐在さん。
「入り口でお父さんとお母さんも待っているよ」
……らしい。
申し訳ないんだけど駐在さんの事は、あんまり覚えてないんだよね。
結局、レスキュー隊まで動員されて、結構な騒動になってしまったようだ。
「お前、大丈夫か! いつの間に抜け出したんだ まったく!」
父さん、若ッ!
「達也! どこも怪我してないの?」
母さんも若いなあ!
あと、2人とも大きい。超大きい。
両親を久しぶりに見上げるのは、ちょっと変な気分だ。
僕は、初めて味わう不思議な感覚に、ちょっと目まいを覚えつつ、素直に謝った。
「大丈夫。心配かけてごめん」
そうだ、思い出した。家に着いたら、妹にも〝チーズかまぼこ〟の件について、謝罪をしなければならない。
……え、それは〝未来〟の事だろうって?
違うんだ。この時も、冷蔵庫、上から2段目左奥のチーズかまぼこが、とても役に立ってくれたんだ。
……何でアイツは隠し場所を変えないんだ?
>>>
予想外な事に、僕たちは叱られなかった。
病院に、僕を連れて行く事を優先してくれたからだ。
「頭とか内臓とか、ちゃんと検査してもらわないと怖いんだぞ」
そうだよね。僕の不死身を説明するわけにも、披露するわけにもいかないし。おとなしく父さんの言うことを聞いておこう。
駐在さんが無線で色々と聞いてくれたみたいだけど、お正月の、それも深夜なので、ここらで開いているのは、2つ隣町の大きい病院だけだった。
「ブルー。僕の体、検査されても大丈夫なのか?」
一応聞いてみる。
『注射針は、弾き返すだろう』
おいおい、ちょっと待て!
『大丈夫だよ。そこは上手く手加減するから』
手加減って何だ?
まあ、ブルーに任せとけば何とかなるか。
僕は栗っちと大ちゃんに別れを告げ、父さんの車に乗り込んだ。
「少し寝ておきなさい」
と、母さんに言われて気付いたけど、今日は全然眠くないんだよな。
『タツヤ、キミはもう、睡眠を取る必要がない』
ブルーが、隣に母さんが居るのに、お構いなしに話し掛けて来る。
「おいおい、いくら見えないからって、声を出したらバレちゃうだろ!」
『私とキミの会話は、普通の人間には認識できないよ』
「ウソだろ? それじゃ僕がずっと〝独り言〟を喋り続けているみたいになるんじゃないのか?」
それこそ、打ち所が悪かったんじゃないかと疑われるぞ。
『いや、そうじゃない。普通の人間には、私とキミの会話は、ごく身近にある自然現象のようにしか感じられないんだ』
雲が流れている。とか、影が出来てる。とか、誰も気にしないだろう? と言われて、なんとなく納得した。
確かに、大声でブルーと会話しているが、父さんも母さんも全く気付かないのだ。
「……そうだ。それは良いとして、睡眠を取らなくて良いってどういう事?」
『キミは〝不眠不休〟という能力を得た。寝なくて良いというよりは、眠れない』
マジかよ! どんどん人間離れして行くな、僕。
……車は眠れない僕を乗せ、南へと走る。
>>>
「……特に異常はありませんね」
カルテに何かを書き込みながら、パッと見若そうな、白衣の先生が言った。
少々気だるそうなのは、お正月が当直になってしまったせいだろう。みんながお休みの時に仕事するのは嫌だよね。
「ピリリリリリ……ピリリリリリ」
突然、静かな診察室に、古めかしくも懐かしい電子音が鳴る。
携帯電話か。
「はい……怪我ですか。了解しました。ウチで大丈夫です」
どうやら急患のようだ。
いやそれより、携帯デカいな。
「達也、先生にお礼を言いなさい」
ちなみに、ここは県立の医科大学附属病院。
さすがに正月の上に深夜……いや、もう早朝か。という事もあり、待合には人が居ない。
幸い、僕は〝全くの健康体〟という診断を頂いた。
「ありがとうございました」
「お正月早々、大変でしたね……お大事に」
と、そこへ救急車が到着したようだ。
ガラガラという音が響き、小学生くらいの女の子が運ばれてくる。
女の子の服にはべっとりと血が付いていて、頭からも出血しているようだ。
「これは……すぐに手術室へ!」
こちらに軽くお辞儀をすると、先生は一緒にエレベーターに乗り込んでいった。
「まあ、大変……!」
と、表情を曇らせる母さん。
「何かあったのかな」
ちょっと目を細めて、エレベーターの扉が閉まるのを見ている父さん。
「大丈夫かしら。大した事が無ければ良いけど」
母さんの言う通り、心配だな。
「ブルー。あの子、治してあげるとか出来ない?」
『タツヤ。〝歴史〟は、しなやかで、頑丈だ。あの少女の事は確かに心配だが、キミが助けても、歴史が元に戻そうとするだろう』
「元に戻そうと?」
『例えば、あの少女が〝死亡する〟運命なら、キミが助けた所で、近い内に歴史によって〝殺される〟』
怖いな、歴史!
「そういう事なら仕方がないか」
両親の後を、夜間出入口の方に向かう。
……しかし、痛そうだったな、あの子。
「ブルー! やっぱり、どうにかあの子、助け……」
と、言いかけた時。
『待ってタツヤ。おかしい……!』
逆に、ブルーが僕を焦ったような口調で止めた。
そう言って、ブルーは岩肌に、登りやすい〝デコボコ〟を作ってくれた。
『気を付けて登ってほしい。落ちても死なないが、あまり時間が無いからね』
なるほど。助けが来る前に〝怪我ひとつ無い状態でも違和感のない所〟まで、登っておかないとって事だな。
……あ、でもその前に。
「ちょっと待って、ブルー」
僕は、足元に転がっていた2つの〝青い破片〟を拾い、ポケットに突っ込む。
さっき割れて落ちた、手のひら側と手の甲側の〝ブルーの余った部分〟だ。
キレイだし、なんかもったいない気がしたんだよ。
いや、貧乏性とかじゃなくて。
『面白いね。私の寿命が伸びた。それらは何かの役に立つようだ』
少し嬉しそうなブルー。
地球の寿命って、リアルタイムで分かるのか。
『さあ、急いで登ろう。まずは、ちょっと出っ張った、右の岩まで。次に横移動で……』
ブルーが指示する通りに登っていく。
……体が軽い!
腕力は大人で体重は小学生だから、当たり前なんだけど。
「おいおい……こんなに落ちてたのかよ!」
すごいペースで登り続けて、あっという間に数十メートル。
普通なら、確実に死んじゃう高さだ。
『キミは、落下の途中で不死身になった。最初、ちょっとだけ痛かったかもしれないけど』
「ちょっとだって? 気を失うほど痛かったぞ」
むしろ、スマートフォンが無事だったのが驚きだ。タフネス仕様の機種にしておいて良かった。
「おーい! 聞こえたら返事しろー!」
上の方からは、絶えず僕を呼ぶ声が聞こえる。
ごめん。もうちょっと待って。
「たっちゃああああん!!」
あ、この声は!
九条大作……大ちゃんだ。
彼は、中学卒業と同時に海外に引っ越していったから、本当に久し振りだ。早く会いたいなあ……!
『ストップ! タツヤ、ここが丁度いい。寝そべって待つんだ』
ブルーは、ちょっと狭いけど、違和感のないスペースを指定した。
見上げると、こちらを照らしているであろう明かりが、チラチラと見える。
そこそこ深いけど〝奇跡的に傷ひとつ無く救出される〟には違和感のない場所だ。
僕はうつ伏せになり、
「あははは! 僕はここだぜー!」
……と、叫びたいのを我慢して、1時間後に無事救出された。
>>>
「たっちゃん、どんどん行っちゃうんだもん!」
半ベソで出迎えてくれたのは、栗栖和也。通称〝栗っち〟。
「アレだよな、たっちゃんは、ホントに無茶するよなー!」
ちょっと怒った感じの大ちゃん……九条大作。
懐かしいなあ! 元気にしてた? とか聞いたらマズイかな……
『タツヤ、それはあまり良くない』
そうだろうな。
[493017941/1564431784.jpg]
「本当に、どこも痛くないかい?」
この人は、町の駐在さん。
「入り口でお父さんとお母さんも待っているよ」
……らしい。
申し訳ないんだけど駐在さんの事は、あんまり覚えてないんだよね。
結局、レスキュー隊まで動員されて、結構な騒動になってしまったようだ。
「お前、大丈夫か! いつの間に抜け出したんだ まったく!」
父さん、若ッ!
「達也! どこも怪我してないの?」
母さんも若いなあ!
あと、2人とも大きい。超大きい。
両親を久しぶりに見上げるのは、ちょっと変な気分だ。
僕は、初めて味わう不思議な感覚に、ちょっと目まいを覚えつつ、素直に謝った。
「大丈夫。心配かけてごめん」
そうだ、思い出した。家に着いたら、妹にも〝チーズかまぼこ〟の件について、謝罪をしなければならない。
……え、それは〝未来〟の事だろうって?
違うんだ。この時も、冷蔵庫、上から2段目左奥のチーズかまぼこが、とても役に立ってくれたんだ。
……何でアイツは隠し場所を変えないんだ?
>>>
予想外な事に、僕たちは叱られなかった。
病院に、僕を連れて行く事を優先してくれたからだ。
「頭とか内臓とか、ちゃんと検査してもらわないと怖いんだぞ」
そうだよね。僕の不死身を説明するわけにも、披露するわけにもいかないし。おとなしく父さんの言うことを聞いておこう。
駐在さんが無線で色々と聞いてくれたみたいだけど、お正月の、それも深夜なので、ここらで開いているのは、2つ隣町の大きい病院だけだった。
「ブルー。僕の体、検査されても大丈夫なのか?」
一応聞いてみる。
『注射針は、弾き返すだろう』
おいおい、ちょっと待て!
『大丈夫だよ。そこは上手く手加減するから』
手加減って何だ?
まあ、ブルーに任せとけば何とかなるか。
僕は栗っちと大ちゃんに別れを告げ、父さんの車に乗り込んだ。
「少し寝ておきなさい」
と、母さんに言われて気付いたけど、今日は全然眠くないんだよな。
『タツヤ、キミはもう、睡眠を取る必要がない』
ブルーが、隣に母さんが居るのに、お構いなしに話し掛けて来る。
「おいおい、いくら見えないからって、声を出したらバレちゃうだろ!」
『私とキミの会話は、普通の人間には認識できないよ』
「ウソだろ? それじゃ僕がずっと〝独り言〟を喋り続けているみたいになるんじゃないのか?」
それこそ、打ち所が悪かったんじゃないかと疑われるぞ。
『いや、そうじゃない。普通の人間には、私とキミの会話は、ごく身近にある自然現象のようにしか感じられないんだ』
雲が流れている。とか、影が出来てる。とか、誰も気にしないだろう? と言われて、なんとなく納得した。
確かに、大声でブルーと会話しているが、父さんも母さんも全く気付かないのだ。
「……そうだ。それは良いとして、睡眠を取らなくて良いってどういう事?」
『キミは〝不眠不休〟という能力を得た。寝なくて良いというよりは、眠れない』
マジかよ! どんどん人間離れして行くな、僕。
……車は眠れない僕を乗せ、南へと走る。
>>>
「……特に異常はありませんね」
カルテに何かを書き込みながら、パッと見若そうな、白衣の先生が言った。
少々気だるそうなのは、お正月が当直になってしまったせいだろう。みんながお休みの時に仕事するのは嫌だよね。
「ピリリリリリ……ピリリリリリ」
突然、静かな診察室に、古めかしくも懐かしい電子音が鳴る。
携帯電話か。
「はい……怪我ですか。了解しました。ウチで大丈夫です」
どうやら急患のようだ。
いやそれより、携帯デカいな。
「達也、先生にお礼を言いなさい」
ちなみに、ここは県立の医科大学附属病院。
さすがに正月の上に深夜……いや、もう早朝か。という事もあり、待合には人が居ない。
幸い、僕は〝全くの健康体〟という診断を頂いた。
「ありがとうございました」
「お正月早々、大変でしたね……お大事に」
と、そこへ救急車が到着したようだ。
ガラガラという音が響き、小学生くらいの女の子が運ばれてくる。
女の子の服にはべっとりと血が付いていて、頭からも出血しているようだ。
「これは……すぐに手術室へ!」
こちらに軽くお辞儀をすると、先生は一緒にエレベーターに乗り込んでいった。
「まあ、大変……!」
と、表情を曇らせる母さん。
「何かあったのかな」
ちょっと目を細めて、エレベーターの扉が閉まるのを見ている父さん。
「大丈夫かしら。大した事が無ければ良いけど」
母さんの言う通り、心配だな。
「ブルー。あの子、治してあげるとか出来ない?」
『タツヤ。〝歴史〟は、しなやかで、頑丈だ。あの少女の事は確かに心配だが、キミが助けても、歴史が元に戻そうとするだろう』
「元に戻そうと?」
『例えば、あの少女が〝死亡する〟運命なら、キミが助けた所で、近い内に歴史によって〝殺される〟』
怖いな、歴史!
「そういう事なら仕方がないか」
両親の後を、夜間出入口の方に向かう。
……しかし、痛そうだったな、あの子。
「ブルー! やっぱり、どうにかあの子、助け……」
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