プラネット・アース 〜地球を守るために小学生に巻き戻った僕と、その仲間たちの記録〜

ガトー

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5年生 冬休み

手術室の悪魔

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『待ってタツヤ。おかしい……!』

 ブルーが、急に僕を引き止めた。

「どうした?」

『タツヤ。あのエレベータに向けて、歩いてみてほしい』

「……なんで?」

『いいから急いで!』

 ブルーの強い口調に気圧けおされて、僕は回れ右をする。
 同時に両親が不思議そうな顔をするが、それを尻目に、一歩、二歩と進んでみた。

『やはり……』

「どうしたんだよ?」

 振り向くと、両親も〝どうしたんだよ?〟という顔で僕を見ている。

『寿命が延びる』

「……何だって?」

『キミがエレベータの方へ進むと、地球わたしの寿命が延びる』

 そういえば、ブルーの欠片かけらを拾った時も、そんな事を言っていたな。

『逆に、出口へ向かうと寿命は縮んで行く。無視できない程の変動だ』

「……それってまさか!」

『先程の少女が、私の寿命に大きく関わる可能性が高い』

 つまり、あの女の子をこのまま〝見捨てる〟か〝助けに行く〟かで、地球の寿命が伸びたり縮んだりしているっていうのか?!

『しかも、ここまで〝星の寿命〟に影響するという事は……』

 大変だ! どう考えても、生きるか死ぬかの瀬戸際ってヤツじゃないか!
 ……ん? 待てよ?
 あの子の〝生死〟が地球の寿命に影響するなら、もしかして、あの子を助けても〝歴史〟に修正されないのか?

『その通りだタツヤ。キミが〝星の破壊を防ぐために〟改変した場合〝歴史〟は、そのまま固着する』

「よしブルー、急いで助けに行こう!」

 むしろラッキーだ。〝しなやかで頑丈な歴史〟とやらに邪魔されず、あの子を助けられるぞ。

「おい、達也。どうしたんだ?」

 エレベーターに向かって駆け出そうとした僕の手を、父さんがつかんで止めた。
 僕は、あわててそれを振りほどき、えっと……そうだ!

「さっきの女の子、友達なんだ。ちょっとここで待ってて!」

 まったくの〝出任せ〟を言い放ち、ポカンとしている両親を置いてエレベーターに向かって走る。
 壁の案内板では、手術室は3階。
 エレベーターに乗り込み〝3〟〝閉〟の順にボタンを押すと、駆け寄って来る両親を置いて、扉が閉まった。

「ブルー、どうする?」

『今のキミには、他者を治療する能力は無い。もう少し〝融合〟が進む必要がある』

 そのうち出来るようにはなるのか。

『時間の操作は、さらに融合しなければならない。ずっとずっと先だ』

 そんな事まで出来るんですか。

『死者の蘇生は、完全に融合してから更に数百年単位の熟成が必要だし。問題外だ』

 僕って数百年単位で生きていくのね。そっちの方が驚きだよ。

『キミがあの子を治療する方法は…………よし、タツヤ』

 エレベーターが止まり、3階の扉が開いた。

『キミのポケットの中にある、私の欠片かけらを使おう』

 欠片かけらを? どういう事だろう。
 ブルーの説明を聞きながら、手術室を目指して走る。

『私の欠片かけらは、どんな複雑なちからも制御する事が出来るんだ』

 ほほう、なるほど。あ、良い子のみんなは、病院とか学校の廊下では走っちゃ駄目だからね?

『そして欠片かけらとはいえ、それには莫大なエネルギーを蓄えていて、減った分は自然に補充されていく』

 ……次を右に曲がって突き当りだ。

『つまり今回は、欠片を少女の体内に埋め込み、自然治癒力を制御させて、足りない治癒力は欠片のエネルギーから変換し、補填ほてんする』

 なるほど。女の子にコイツを埋め込めばいいんだな!
 ……って、あれ?

「あのさ、ブルー。この欠片が万能なアイテムっぽいのはわかったんだけど……」

 手術室の前に辿り着いた。手術中のランプが、赤くともっている。

「どうやってこれを、あの子に埋め込むんだ?」

 大晦日to正月の夜勤で、ちょっとイラっとしている医師でなくても、手術室に突然入ってきた小学生が、ポケットから取り出した石を、患者の女の子に埋め込もうとすれば……。

「絶対に、つまみ出されるだろ、僕」

『ふむ。透明化も、まだ不可能だし……』

 ほほう。その能力、俄然がぜん興味が湧くなぁ!
 ……いや、そんな場合じゃない。

『よし、タツヤ、良い案がある』

「お、さすがブルー! どうするんだ?」

『こっそり忍び込もう』

 ……とんでもない事になった。

「いやいやいや! 絶対にバレるから! お前さっき〝目立っちゃダメ〟って言ったよな?!」

 僕がそう叫んだ時、手術室の中から、言い争うような声と、その直後にガラガラと金属を床に撒き散らしたような音が聞こえた。

『タツヤ、様子がおかしいぞ』

「ああ。何だろう……すごく嫌な感じだ」

 扉を開けて中の様子を確認しようと、そっと手を伸ばす。しかし何か見えない壁のような物に邪魔され、触ることが出来ない。

『この部屋、何らかの力で空間が隔絶されている』

「どういうこと?」

『意図的に、誰も入れないようにされているみたい。普通じゃない』

 やっぱり、何かおかしな事が起きているんだな……

「ブルー、なんとか出来るか?」

『ちょっと待って。あまり見たことがない空間のズレ方だけど……ああ。なるほどね』

 見えない壁は、ショーウインドウをハンマーで殴ったような感じに、パリンと音を立てて割れ落ちる。

『開いたよ』

「ナイス!」

 さすがブルー。僕は扉を押し開け、部屋に入った。

「これは……!?」

 医療器具は床にぶち撒けられ、先生と看護師さんが倒れている。
 手術台の手前には先程の女の子が、片膝をついて、部屋の奥の「何か」と対峙たいじしていた。

「ブルー、何だあれ?」

 僕は思わず息を呑んだ。
 女の子の向こう側に居る黒い影が 大きな目でこちらをギョロリと見て言う。

「……ガキだと? どうやって入ってきた?」

 声の主は、赤黒い肌にコウモリのような翼と鋭い牙。さらには、先が矢印のようにとがった尻尾という禍々しいデザイン。

『面白いね。知らない生命体だ』

 いやブルー。面白がってる場合じゃないだろう。

「先生と看護師さんは、無事なのかな」

『生きている。気を失っているみたいだ』

 良かった……しかしあいつ、見た感じ、悪魔っぽいな。というか、悪魔にしか見えない。

「危ない! 逃げて!」

 こちらを振り返り、女の子が叫ぶ。
 えっと……もう悪魔でいいや。悪魔はそれを無視して続ける。

「ふむ……? かなり強い〝結界〟を張った。触れればタダでは済まない筈だが?」

 あの見えない壁の事? 普通に触っちゃったんですけど。
 ……そういえば、なんか〝チクッ〟とした気がするな。

「さては、最初からこの部屋にいたのか? ……とにかく、死ね」

 悪魔が、何やらブツブツと唱えると、ヤツの頭上に黒い玉が現れた。
 ……次の瞬間、もの凄いスピードで、僕めがけて飛んでくる。

「やめてえええええ!!」

 女の子は、悲痛な叫び声を上げる。
 球は僕の顔に命中し、パン! と風船が割れるような音を立てた。

「あ。チクッとした」

 女の子と悪魔が目を丸くしている。
 あれ? 僕、もしかして空気読めてない感じかな。

「ば、馬鹿な……! なぜ効かない!?」

 悪魔は、大きな目を更に見開いて驚いている。
 ……女の子はもっと驚いてるっぽい。

「なあ、ブルー。今のってもしかして〝攻撃〟かな?」

『そうだね。見た事のないエネルギーだ。たぶん普通の人間なら粉々になっていただろう』

 またサラッと、とんでもない事を言うなぁ。
 ……あ、それよりも。

「ねえ、怪我は大丈夫? ずいぶんと血が出てるみたいだけど」

 僕は女の子に声を掛けた。

「わ、私より、貴方は大丈夫なの? 魔法を直接受けたでしょ?!」

 よく分からないけど、僕の方の心配をしてくれている。
 良かった。意識はしっかりしているようだ。

「お前、魔道士か! ……という事は、まさか〝結界〟も、お前が破ったというのか?! 考えられん!」

 僕たちの会話をさえぎるように悪魔が叫ぶ。
 あのー、その〝結界〟って、簡単に割れたんですけど。パリンって。

「どうやら、ガキだと思って甘く見過ぎていたようだな……」

 悪魔は、一度大きく息を吸い込むと、完全に僕の方に向き直り、落ち着いた口調で言った。

「……ならば手加減は無しだ。究極の〝死の魔法〟を食らうがいい」

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