プラネット・アース 〜地球を守るために小学生に巻き戻った僕と、その仲間たちの記録〜

５年生 冬休み

ハート

「ブルー。僕は、さっきの〝黒い球〟を何発食らうと死ぬんだ？」

『キミと私は、まだ融合の初期段階だ。残念ながら、７６１９兆８７１２億２０６７万３９７９発で死ぬ』

「そっかー。死んじゃうかー」

　棒読みで失礼。
　せいぜい頑張れよ悪魔。僕を殺すのは、ちょっと大変みたいだぞ。

「……それで、いま悪魔が何やら唱えて作っている、あの〝赤い球〟は、黒い球より強いの？」

『エネルギー的には、先程の黒い球体の３．８１倍の威力だよ』

　ほほう。なかなか強いじゃない。

「じゃあ、あの赤い玉だと、僕、死んじゃうかな」

『単純計算だと、１９９９兆９６６１億９９６５万１９６３発で死ぬね』

　惜しい！　もうチョイで２千兆だったのに。

「ゲッゲッゲ！　さあ、食らうがいい！」

　悪魔の作り出した赤い玉は、鈍い光を放ち始めた。
　おっと、完成したのかな？

「ああ、ダメよ！　やめなさい！　……お、お願いだからやめて！」

　女の子が、肩で息をしながらも、僕の心配をしてくれている。
　自分も怪我で苦しいだろうに、優しい子だなあ。

「死ねぇええ！」

　悪魔の放った黒い球が、僕の腹にヒットした。
　女の子は、必死で僕に手を伸ばして叫ぶ。

「いやあああぁぁぁっ！」

　……さっきと同じように、パン！　という音だけ残して、赤い玉は消え去った。
　ちょっとチクッってしたけど、別に痛いわけではない。

「ゲーッゲッゲッゲ！！　さあ、弾け飛べ！　粉々になって死んでしまえ！」

「あああぁぁ……！」

　妙なテンションで騒ぐ悪魔と、涙をこぼしながら悔しそうに床に両手をつく少女。

「……で、これって結局、なんなの？」

「弾け飛べッ！　弾けと……はぁああああ？！」

「な、何で？！　どうして平気なの？！」

　悪魔も女の子も、僕を見て唖然あぜんとしている。相当に驚いているようだ。

「〝レジスト〟したのか？　ば、バカな！　ニンゲンのガキが？！」

「あ、貴方は一体……？」

　さて。僕がスゴく頑丈な事は分かった。絶対に死なないぞ、こりゃ。
　……あれ？　何で、服も無事なんだ？

『タツヤ、今の攻撃は、先ほどの黒い球体とは違って、生物以外を透過して進むようだ』

　それはある意味ラッキー！　服が破れたりしたら怒られちゃうもんな。
　……じゃない。服なんかより、女の子の怪我の具合が心配だ。
　それに、早くしないと父さんと母さんがここまで来てしまうかもしれない。

「さて。問題はあいつをどうやって倒すかだけど……」

『タツヤ。とりあえず殴ってみてはどうだろう』

　なるほど。とりあえず殴る、か。

「……って、待て待て。相手は悪魔だぞ？！　いくら何でも〝素手〟って！」

『ゾウやクジラでも、延々と殴れば、いつかは死ぬよ？』

　その前に、ゾウやクジラを殴ったりしたら、いろんな保護団体が動き出しそうなんだけど？

「……まあ、やってみるか。悪魔を保護してくれる団体は無さそうだし」

『あはは、それはそうだ。キミは面白いね！　……おや？　タツヤ。あの生物が、懲りずに赤い球体を作ろうとしているよ』

　本当だ。うーん、無駄な努力だってのが分からないかな。

「……そんな筈はずは無い！　もう一度食らえ！」

　スゴいスピードで撃ち出された赤い玉が、再び僕に命中する。
　……もちろん、効かないんだけどね。あーあ、チクッとした。

「な？　なぜだ！　一体どうなっている？！」

　悪魔は、信じられないといった表情で目を見開いている。
　よし！　赤い玉を、あと１９９９兆とチョイ食らう前にアイツを殴り殺さなきゃ。いくぞ！





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　女の子は、出血のせいか、虚ろな表情で僕を見つめている。

「ど、どうして？　何で平気なの？」

　いや、アレはどちらかと言うと〝驚き疲れ〟かもしれない。
　僕はというと、悪魔を淡々と殴り続けている。あ、チクッとした。
　……えっと、これで１３８発目。
　僕に殴られた悪魔は、無様に転がっては、体制を立て直し、律儀に赤い玉を作り続けている。

『タツヤ。私の計算では、あと１２回殴れば、あの生物は活動を停止する』

　マジかよ、たった１２回？！　弱っ！　拍子抜けだよ、悪魔。

『いや、キミが〝攻撃〟の意味で使う力には、凄まじい補正が掛かるんだ。まだ融合が進んでいないので大した事はないが、最終的には〝地球をぶつける程の威力〟になるだろう』

「あ、なんだ、僕がスゴかったのか」

　っていうか、これからは下手へたに友達を小突こづいたり出来なくなるな。気をつけよう。

「それにしても、僕はあの赤い玉、結局まだ４発しか食らってないぞ」

　あ、５発目を食らった。お返しに悪魔の顔をぶん殴る。

「ぐぶうッ？！　ぎ、ぎざま……いったい……」

　悪魔が目を血走らせて睨にらんで来る。
　おー。怖い怖い。さて……

「残り１１発か。あいつ、他の技は使わないのかな？」

『先ほど、究極がどうとか言っていたからね。余程、赤い球体に自信があるのだろう』

「ぐぬぬ……お、お前……何者……？」

　ああ、プライドってヤツか。なるほどね。はい、あと１０！

「ぐはあッ！」

　ゴロゴロと転がる悪魔。なおも赤い玉を作ろうとする。

「まさか……お……前の……ような……ガキに……」

「ガキガキうるさい……ぞっ！　と」

　アッパー気味のパンチがヒットして、悪魔がのけぞる。

「ぬぐぁああっ？！」

　のこり９発。
　おやおや……？　もう悪魔は、赤い玉を作ることすら出来なくなってしまったようだ。

「ブルーさ。いま気付いたんだけど、これって〝キック〟のほうが効率良くなかった？」

『……すまない。タツヤ、その通りだ。３４発少なく倒すことが出来ただろう』

「いや、別に良いんだけどさ……うーん。でも今さらキックに変えるって、ちょっと負けた感があるな」

　そう言って、僕は悪魔を思いっきり蹴り上げる。

「ぐあああっ！！　おのレ……オノレエエエ！！　……こうなったら！」

『……いけないタツヤ。あの生物の意識がキミから逸それた。注意した方がいい』

「なんだって？」

『攻撃対象を、変更したようだ』

　マズい！　と思った瞬間、悪魔は最後の力を振りしぼり、女の子の心臓に鋭い爪を突き立てた。

「しまった！！！」

　僕は悪魔に駆け寄り、思いっきり蹴り飛ばす。

「ゲフゥッ！」

　悪魔は勢いよくスッ飛んで、部屋の奥にある書棚にぶつかり、青い体液を吐く。

「ゲ……ゲゲゲ……ザマアミ……ロ……」

　女の子の胸には拳こぶし大の穴が空き、血が大量に溢あふれてくる。
　これは……明らかに致命傷だ！

「なんて事だ……余裕かましてる場合じゃなかった……！」

　僕は後悔と狼狽ろうばいで〝やっぱり最初からキックにしておけば良かった〟とか、色々と頭の中がパニックになっていた。

『タツヤ。私の欠片かけらを出して』

　ブルーの声で我に返る。
　そうだ。ブルーの欠片かけらを使えば、まだ何とかなる……のか？

『先程、私が言った治療案……私の欠片かけらを触媒しょくばいに、治癒力を高めて回復を促うながすやり方では、この傷は癒せない。心臓自体が欠損してしまったからね。そこで別の方法を試す。だが、この方法には問題がある』

「問題？」

『触媒にするだけなら、不要になった私の欠片かけらは最終的に少女の体内から排出され、それ以降は普通の人間としての生活を送ることが出来たのだが……』

　ポケットから取り出した欠片かけらが青い光を放ち、パキパキと音を立てて形を変えていく。

『失った部位を、私の欠片かけらで補って、同化を促うながし治療する。こうすると欠片かけらは肉体の一部になり、永遠に体内から取り出せない』

　形を変えた欠片かけらは、生き物のように動き始めた。見た事のある形だ。

『彼女の、人としての生活は終わる』

　ブルーの欠片かけらは、昔、理科の教科書や人体模型で見た〝心臓〟の形になった。なるほど、心臓を作ったのか！

『彼女は……タツヤ。キミに似た性質を得てしまうだろう』