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5年生 冬休み
襲撃
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必死で逃げる私を、黒い影が追い掛けて来る。
「はぁはぁ……か、体が重い……!」
辺りは既に真っ暗。見た事もない町の風景も相まって、恐怖と焦燥感が募っていく。
「ゲーッゲッゲッゲッ! 逃げ切れると思っているのか?」
そうね。このままでは、絶対に逃げ切れない。
……完全に油断していた。
奴がどうやって〝こちら〟に来たのかは知らないけど〝門番〟を責めるのが、お門違いなのは分かっている。
「私とした事が、ミスったわね……」
奴が私に掛けた〝弱体魔法〟が、ゆっくりと私の体を変化させて行く。
魔力が。体力が。みるみる失われて行くのが分かる。
「苦しいか?」
突然、目の前に奴が現れた。
「なっ?!」
背後から追い掛けて来ていた筈なのに?!
次の瞬間、奴が放った風の刃が、私を斬り裂く。
「きゃあああっ!!」
「グゲゲッ! どうだ? 痛いか?」
くっ……!
こんな〝低級魔法〟もレジスト出来ないなんて!
私、どれだけ弱体化されたの?
「お前が、藤島彩歌……だな」
ニヤリと、いやらしい笑いを浮かべる異形の敵。
やっぱり〝名指し〟か。
間違い無い。奴の狙いは……
「…………人違いよ」
次の瞬間、さっきより多くの魔法が、私の肌を掠めて飛ぶ。
「い痛ッ?!」
さすがに詠唱が速い!
血が飛び散り、ちょっと大きめになってしまった服を、真っ赤に染めていく。
「もう……最悪! 〝こっち〟の服、高いのよ?」
……なんてね。
強がってはみたものの、力の差は歴然。
今の攻撃も、明らかにわざと急所を外していた。
そして、暗くてよく見えないけど、そんな〝ユルい攻撃〟で受けた傷は浅くないようだ。
「フン。本当に〝人違い〟ならば首を落としてやる所だが……」
奴は、心底気持ちの悪い笑みを浮かべて続ける。
「残念だったな。お前が〝藤島家〟の者だと言う事は分かっているのだ」
分かってるなら、なんで聞いたのよ。
「そこまで〝弱体〟が進んだら、もう何をしても無駄だ。諦めろ」
不意打ちの〝弱体魔法〟……あれが無ければ。
「いえ。今さらね」
奴の言う通り、大ピンチだわ。
「大人しくしろ。痛い思いをする事になるぞ」
奴らの狙いは、いつもそう。
捕まれば〝知識〟を奪われる。
……それだけは許されない。
私は〝雷撃魔法〟の呪文を唱えた。
「HuLex UmThel eLEc iL」
ピシャン! と、雷鳴が轟く。
可能な限りの魔力を込めた〝雷〟が、ヤツに命中した。
……よし! これで!
「ギギッ! 雷撃か?」
弾かれた?!
雷が想像以上に弱い。ここまで魔力を乗せられない程に、弱くなっているなんて!
「グゲッ! 〝雷神の彩歌様〟とは、この程度なのか? 笑わせてくれる」
「〝あなたたち〟にまで知られてるなんて……私も有名になった物ね」
ヤツは再び、いやらしい笑みを浮かべる。
「終わりだ」
「そうかしら?」
突然、道路脇に停めてあった車から、炎が上がった。
ヤツのすぐ真横だ。
「な、何ぃ?!」
……計算通り。
爆発と共に、車窓から吹き出した炎が、ヤツを包み込み、広範囲に燃え上がる。
その威力は、私の想像を遥かに超えていた。
「ぐあああああっ!」
「勉強不足よ。それはよく燃えるの」
ワゴン車には〝玉井塗装〟と書いてあった。
暗くて良く見えなかったけど、積荷は、塗料とか、有機溶剤よね。
そこにも雷撃を当てておいたの。
「おのれ! くっ! この炎は?!」
さすがね。咄嗟に〝障壁〟を張るなんて。
……それが正解。
こっちの世界の火は〝耐火魔法〟なんかじゃ、お構いなしにダメージを受けるわ。
……ちなみにその火は、水でも消えないらしいわよ?
「これで、しばらくは動けないわね」
「ま、待て! くっ、くそっ!」
車の持ち主には悪いけど、緊急事態だから仕方ないわよね。
周りには、高めのブロック塀以外、燃え移りそうな物も無かったし、大丈夫でしょう。
今のうちに、出来るだけ遠くへ逃げなくちゃ。
>>>
1、1、9……と。
確か、この数字で〝きゅうきゅうしゃ〟とかいうのが、助けに来てくれるはず。
やっぱり、ガイドブックはキッチリ読んでおくべきよね。
……あ、繋がった。
「助けて下さい。怪我をしています」
〝公衆電話〟の使い方は分かっていたし、運良く小銭も持っていた。
問題は、救急車が来るのが先か、奴の来るのが先かという点だ。
……後者なら、命は無い。
「はい、えっと……目の前に〝アサギ第三ビル〟があります」
場所を聞かれたので、正面にある建物の名前を言ってみた。
「私……ですか? 私は〝藤島彩歌〟と言います」
良かった。どうやら、伝わったようだ。
それにしても……
「血が、止まらない……」
気が遠くなる。
あーあ。
「折角の休暇が……」
台無し……
ね……
「はぁはぁ……か、体が重い……!」
辺りは既に真っ暗。見た事もない町の風景も相まって、恐怖と焦燥感が募っていく。
「ゲーッゲッゲッゲッ! 逃げ切れると思っているのか?」
そうね。このままでは、絶対に逃げ切れない。
……完全に油断していた。
奴がどうやって〝こちら〟に来たのかは知らないけど〝門番〟を責めるのが、お門違いなのは分かっている。
「私とした事が、ミスったわね……」
奴が私に掛けた〝弱体魔法〟が、ゆっくりと私の体を変化させて行く。
魔力が。体力が。みるみる失われて行くのが分かる。
「苦しいか?」
突然、目の前に奴が現れた。
「なっ?!」
背後から追い掛けて来ていた筈なのに?!
次の瞬間、奴が放った風の刃が、私を斬り裂く。
「きゃあああっ!!」
「グゲゲッ! どうだ? 痛いか?」
くっ……!
こんな〝低級魔法〟もレジスト出来ないなんて!
私、どれだけ弱体化されたの?
「お前が、藤島彩歌……だな」
ニヤリと、いやらしい笑いを浮かべる異形の敵。
やっぱり〝名指し〟か。
間違い無い。奴の狙いは……
「…………人違いよ」
次の瞬間、さっきより多くの魔法が、私の肌を掠めて飛ぶ。
「い痛ッ?!」
さすがに詠唱が速い!
血が飛び散り、ちょっと大きめになってしまった服を、真っ赤に染めていく。
「もう……最悪! 〝こっち〟の服、高いのよ?」
……なんてね。
強がってはみたものの、力の差は歴然。
今の攻撃も、明らかにわざと急所を外していた。
そして、暗くてよく見えないけど、そんな〝ユルい攻撃〟で受けた傷は浅くないようだ。
「フン。本当に〝人違い〟ならば首を落としてやる所だが……」
奴は、心底気持ちの悪い笑みを浮かべて続ける。
「残念だったな。お前が〝藤島家〟の者だと言う事は分かっているのだ」
分かってるなら、なんで聞いたのよ。
「そこまで〝弱体〟が進んだら、もう何をしても無駄だ。諦めろ」
不意打ちの〝弱体魔法〟……あれが無ければ。
「いえ。今さらね」
奴の言う通り、大ピンチだわ。
「大人しくしろ。痛い思いをする事になるぞ」
奴らの狙いは、いつもそう。
捕まれば〝知識〟を奪われる。
……それだけは許されない。
私は〝雷撃魔法〟の呪文を唱えた。
「HuLex UmThel eLEc iL」
ピシャン! と、雷鳴が轟く。
可能な限りの魔力を込めた〝雷〟が、ヤツに命中した。
……よし! これで!
「ギギッ! 雷撃か?」
弾かれた?!
雷が想像以上に弱い。ここまで魔力を乗せられない程に、弱くなっているなんて!
「グゲッ! 〝雷神の彩歌様〟とは、この程度なのか? 笑わせてくれる」
「〝あなたたち〟にまで知られてるなんて……私も有名になった物ね」
ヤツは再び、いやらしい笑みを浮かべる。
「終わりだ」
「そうかしら?」
突然、道路脇に停めてあった車から、炎が上がった。
ヤツのすぐ真横だ。
「な、何ぃ?!」
……計算通り。
爆発と共に、車窓から吹き出した炎が、ヤツを包み込み、広範囲に燃え上がる。
その威力は、私の想像を遥かに超えていた。
「ぐあああああっ!」
「勉強不足よ。それはよく燃えるの」
ワゴン車には〝玉井塗装〟と書いてあった。
暗くて良く見えなかったけど、積荷は、塗料とか、有機溶剤よね。
そこにも雷撃を当てておいたの。
「おのれ! くっ! この炎は?!」
さすがね。咄嗟に〝障壁〟を張るなんて。
……それが正解。
こっちの世界の火は〝耐火魔法〟なんかじゃ、お構いなしにダメージを受けるわ。
……ちなみにその火は、水でも消えないらしいわよ?
「これで、しばらくは動けないわね」
「ま、待て! くっ、くそっ!」
車の持ち主には悪いけど、緊急事態だから仕方ないわよね。
周りには、高めのブロック塀以外、燃え移りそうな物も無かったし、大丈夫でしょう。
今のうちに、出来るだけ遠くへ逃げなくちゃ。
>>>
1、1、9……と。
確か、この数字で〝きゅうきゅうしゃ〟とかいうのが、助けに来てくれるはず。
やっぱり、ガイドブックはキッチリ読んでおくべきよね。
……あ、繋がった。
「助けて下さい。怪我をしています」
〝公衆電話〟の使い方は分かっていたし、運良く小銭も持っていた。
問題は、救急車が来るのが先か、奴の来るのが先かという点だ。
……後者なら、命は無い。
「はい、えっと……目の前に〝アサギ第三ビル〟があります」
場所を聞かれたので、正面にある建物の名前を言ってみた。
「私……ですか? 私は〝藤島彩歌〟と言います」
良かった。どうやら、伝わったようだ。
それにしても……
「血が、止まらない……」
気が遠くなる。
あーあ。
「折角の休暇が……」
台無し……
ね……
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