プラネット・アース 〜地球を守るために小学生に巻き戻った僕と、その仲間たちの記録〜

ガトー

文字の大きさ
9 / 264
5年生 冬休み

奇遇

しおりを挟む
「ブルーと、達也君ね。えっと……先にお礼を言わせて。本当にありがとう」

 僕が詳しい説明に入る前に、女の子はペコリと頭を下げた。

「私は、藤島彩歌ふじしまあやか。聞きたい事はいっぱいあるけど、先に私の事を話すわね」

 女の子……彩歌は、その場でクルッと回り、呪文を唱えた。

「HuLex Thel cloT Ne」

 血まみれで穴の空いたサイズの合わない服が、一瞬で、ワンピースにダウンジャケットという可愛らしい服装に変わる。



「これが魔法よ」

「……ブルー。〝魔女っ子〟って本当に居たんだな」

『タツヤ。先程の〝火球〟や〝黒い球〟等は理解できるが、今のはどういう仕組みなのだろう』

 驚いている僕とブルーに、彩歌がニッコリ微笑む。

「私は魔道士。そしてさっきのヤツは魔界の住人。悪魔と呼ばれる生き物」

 あの奇妙な生き物は、やっぱり悪魔だったんだ。
 超、悪魔っぽかったもんな。

「私たち魔道士は、何世紀も前から悪魔達と戦ってきたわ。今回の奴は、私の家系に代々伝わる〝秘術〟を狙って来たの」

「秘術?」

「そう。気が遠くなる程の年月を費やしても、未だ完成していない、究極の魔法」

 究極の魔法?!
 僕はゴクリと息を呑んだ。

「不老長寿の秘術よ」

「ごめんなさい。それもう、やっちゃった……」

 思わず謝ってしまった。

「え? 何?」

「いや、とりあえず後でちゃんと説明するよ」

 後で順を追ってキチンと説明してから、土下座しよう。

「とにかく、私は突然襲われて、弱体の魔法を受けてしまい、逃げるしかなかった」

 弱体魔法もあるんだ。RPGみたいだな。

「さらに、怪我を負ってしまった私は、何とか奴の追撃を振り切って、救急車を呼んだところで意識を失ったの。うまく逃げ切ったと思ったんだけど……」

「……ここまで追ってきたアイツに襲われたんだな。そういえば、先生と看護師さんが意識を失ったままだった。あの悪魔め……ひどい事をしやがる」

「お医者さんと看護師さんを気絶させたのは私よ」

「いや何でさ?!」

『タツヤ、下手に抵抗すると危ないから、だと思うぞ』

 お、なるほど! やるな、ナイス推理だブルー。

「うん。先生はあんな怪物を相手に、私を守ろうとしてくれた」

 すごいな。カッコイイじゃないか、先生! ……結局、ツイてないけど。

「先生達に魔法をかけた時点で、私の魔力は、ほとんど空っぽになっちゃった。諦めかけた時に、貴方達が入ってきたの」

 危ない危ない。ギリギリのタイミングだったんだな。

「それにしても、どういう仕組みなの? 私、魔力もほとんどゼロだったのに、もう完全に回復してる……」

『私の欠片かけらが、エネルギーを必要な形に変換して供給しているんだ』

 ブルーが得意げに言う。

「かけら?」

「それについては、僕からちゃんと説明するよ……えっと」

 僕が〝心臓の修復〟の話をしようとした時、扉の外から僕を呼ぶ声が聞こえた。

「達也! お前、まさか中にいるのか?」

 父さんだ!
 僕の声、外に漏れてたんだな……? どうしよう!

「すみません先生、入りますよ……」

 母さんの声だ。
 いやいや! 手術中のランプがついてる時は入っちゃ駄目だぞ?!
 ……まあ、手術は僕の手でとっくに終わって、術後の説明をするトコだったんだけど。

「失礼します!」

 扉がゆっくりと開く。ヤバイ。入ってきちゃダメだ……!
 部屋中メチャクチャだし、先生たちはノビてるし、女の子は妙にカジュアルだし、色々と説明できない!
 手術室に入った父さんと母さんは、辺りを見回して唖然としている。ああっ! 終わった。何もかも終わった……!

「おい達也! 一体これはどうなってるんだ!?」

「ちょっと……! 何なの……?!」

 うおお! 最悪だ! 違うんだ父さん! 悪いのは悪魔なんだ。
 やっぱりパンチよりキックにしておけば良かった!
 いや、それは関係ないか……

「HuLex UmThel PaRAlis iL」

 突然、彩歌が呪文を唱えた。
 手術室の惨状を見て立ち尽くす父さんと母さんを、青白い光が照らす。
 次の瞬間、二人はほぼ同時に膝をつき、ゆっくりと床に倒れ込んだ。

「ふう……とりあえず眠ってもらったわ」

 うわわ。もしかして魔法で眠らせたのか?
 先生と看護師さんも、この魔法で眠っているんだな。

「いや、ありがとう。助かったよ! ……あ、紹介するね。僕の両親だ」

「やだ! ごめんなさい!」

 あたふたと、申し訳無さそうにする彩歌。なんか仕草が可愛い。
 ちょっと天然入ってるのかな、この子。

「それより、なぜ今の魔法を悪魔に使わなかったの?」

「えっとね……私、さっきの悪魔に弱体化されたって言ったでしょ?」

 ああ、そういえばそんな事言ってたな……

「かなり上級の悪魔だったけど、この体になる前だったら、私の魔法でも奴に効いたかも知れないの」

 〝この体に〟って? 言い回しがチョット引っかかるが……

「でも、子どもの体では、ほとんどの魔法がレジストされてしまった」

 子どもの体……?

「まさか、彩歌……さん? 弱体魔法って、もしかして……」

「……達也くん。私ね、実は貴方より、ずっと歳上なの」

「歳上?」

「HuLex Thel STaTs Ne」

 彩歌は、また何かの呪文を唱えた。

「今のは、自分の能力を詳細に知る事が出来る魔法よ……やっぱり。かなり戻されてる」

 少しうつむいて、悲しい表情の彩歌。

「年齢的に弱体化って……! 子どもにされたのか!?」

「そう。あの悪魔が使ったのは、とても高度な魔法で、解呪も出来ない」

 魔法って、そんな事まで出来るのか。
 あれ? おかしいぞ?

「〝若返りの魔法〟を使えるヤツが、不老長寿を欲しがるんだ」

「弱体化したら意味ないもの。悪魔は人間より遥かに長生きだけど、魔法を極めるのが目的の悪魔には、それでも、寿命は短すぎるの」

 なるほど。永遠に魔法を極め続けたいと。なかなか勤勉じゃないか、悪魔。

「それにしても私、11歳になっちゃったのね……」

 さっきの魔法で自分の年齢を確認したのだろう。彩歌はため息をつく。

「奇遇だね。僕も11歳だよ」

 僕の言葉に、彩歌は少し寂しそうに笑う。

「ふふ。でもね、私、貴方より 随分お姉さんよ? いえ、11歳の男の子から見れば、おばちゃんかもね……」

 精一杯の作り笑顔で、こう続ける。

「だって、15歳も若返っちゃったんだから」

「……ほんとに奇遇だね。やっぱり同い年だ」

しおりを挟む
感想 142

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

チート魔力はお金のために使うもの~守銭奴転移を果たした俺にはチートな仲間が集まるらしい~

桜桃-サクランボ-
ファンタジー
金さえあれば人生はどうにでもなる――そう信じている二十八歳の守銭奴、鏡谷知里。 交通事故で意識が朦朧とする中、目を覚ますと見知らぬ異世界で、目の前には見たことがないドラゴン。 そして、なぜか“チート魔力持ち”になっていた。 その莫大な魔力は、もともと自分が持っていた付与魔力に、封印されていた冒険者の魔力が重なってしまった結果らしい。 だが、それが不幸の始まりだった。 世界を恐怖で支配する集団――「世界を束ねる管理者」。 彼らに目をつけられてしまった知里は、巻き込まれたくないのに狙われる羽目になってしまう。 さらに、人を疑うことを知らない純粋すぎる二人と行動を共にすることになり、望んでもいないのに“冒険者”として動くことになってしまった。 金を稼ごうとすれば邪魔が入り、巻き込まれたくないのに事件に引きずられる。 面倒ごとから逃げたい守銭奴と、世界の頂点に立つ管理者。 本来交わらないはずの二つが、過去の冒険者の残した魔力によってぶつかり合う、異世界ファンタジー。 ※小説家になろう・カクヨムでも更新中 ※表紙:あニキさん ※ ※がタイトルにある話に挿絵アリ ※月、水、金、更新予定!

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

クラス全員で転移したけど俺のステータスは使役スキルが異常で出会った人全員を使役してしまいました

髙橋ルイ
ファンタジー
「クラス全員で転移したけど俺のステータスは使役スキルが異常で出会った人全員を使役してしまいました」 気がつけば、クラスごと異世界に転移していた――。 しかし俺のステータスは“雑魚”と判定され、クラスメイトからは置き去りにされる。 「どうせ役立たずだろ」と笑われ、迫害され、孤独になった俺。 だが……一人きりになったとき、俺は気づく。 唯一与えられた“使役スキル”が 異常すぎる力 を秘めていることに。 出会った人間も、魔物も、精霊すら――すべて俺の配下になってしまう。 雑魚と蔑まれたはずの俺は、気づけば誰よりも強大な軍勢を率いる存在へ。 これは、クラスで孤立していた少年が「異常な使役スキル」で異世界を歩む物語。 裏切ったクラスメイトを見返すのか、それとも新たな仲間とスローライフを選ぶのか―― 運命を決めるのは、すべて“使役”の先にある。 毎朝7時更新中です。⭐お気に入りで応援いただけると励みになります! 期間限定で10時と17時と21時も投稿予定 ※表紙のイラストはAIによるイメージです

処理中です...