プラネット・アース 〜地球を守るために小学生に巻き戻った僕と、その仲間たちの記録〜

ガトー

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5年生 3学期 2月

分岐点当日 オランダ 1

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 午後1時を過ぎてしばらくすると、少女は家から出てきた。
 Marilouマリルー Hautvastハウトヴァストは、昨日と同じ髪型で、服装はワンピースに長めのコート。首には、口元が見えないほど毛足の長い、フサフサなマフラーを巻いている。
 
「あれが、地球の運命を乗せた手紙か。不思議な感覚だな」

 マリルーの左手には青い封筒。

「行きましょう。達也さん」

 僕と彩歌あやかは、尾行を開始した。
 マリルーは、気さくに道行く人に挨拶をしながら歩いている。

「彼女、学校閉鎖でお休みなのに、あんなに大っぴらに出歩いて大丈夫なのかしら」

 そういえば僕も以前、学級閉鎖で休みになった時、堂々と駄菓子屋へ行って、怒られたことがあったな。

「まあ、手紙を出しに行くくらいなら、大丈夫なんじゃない?」

 通りを南に抜け、教会が見えた辺りで、彩歌が僕の袖を引っ張った。

「見て、達也さん!」

 マリルーが初老の男性に呼び止められた。
 分岐の現場までまだ少しあるが、もうトラブル? もしや、ここで手紙を紛失するのか……?
 ……何か会話しているようだ。若干怒っているような感じの男性と、うつむいているマリルー。

「ブルー、翻訳出来る?」

『タツヤ、すまないがもう少しだけ、近付いてほしい』

「了解!」

 僕と彩歌は慎重に近付いていく。

『OK、この距離で大丈夫だ。翻訳するよ?』

 ブルーから、二人の会話が聞こえてきた。

『……マリルー、何のための臨時休校だと思っているんだね?』

『ごめんなさい、リートフェルト先生』

 ……先生に見つかっちゃったみたいだ。

「過去の自分を見ているようだ」

 だってまさか、駄菓子屋に先生が来るなんて思わないじゃん。ねぇ?

「もしかしたら、私達も叱られるかもしれないね」

 彩歌がクスリと笑う。
 もしリートフェルト先生に見つかったら、観光客のフリをして、知らぬ存ぜぬで通そう。

『……ふむ。仕方ないな。ではその手紙を出したら、すぐに家に帰って、大人しくしているんだよ?』

『はい、先生!』

 良かった。どうやら許してもらったようだ。

「僕の時は、プレイ中のゲームを中断させられて、即時帰宅を言い渡されたけどなあ」

 あとちょっとで、ハイスコア更新だったのに。

「そんな事はよく覚えているのね」

「そういえばそうだね。不思議だなあ」

 確かにあの頃は、下駄箱の位置なんかより、隠れキャラの位置の方が重要だった。

「あ、彩歌さん。マリルーが歩き始めたよ」

 教会の前を通過して、とうとう、〝ファン・スピルベルゲン通り〟に差し掛かった。周囲に怪しい人影や車は無い。

「もう少し近づこう」

「うん。その方がいいわね」

 鼻歌じりにトコトコと歩くマリルーに、気付かれないように少しずつ距離をつめる。

『タツヤ、アヤカ、気をつけて』

「ブルー、何かあったら教えてくれよ」

「達也さん、私がマリルーと手紙を見ているから、周囲を見張って」

「了解!」

 キョロキョロと辺りを見回すが、特に何もない。

『タツヤ……! 犬か猫だ。近付いてくる!』

「ちょっと待て! まさかダーク・ソサ……」

『違う。本当に犬か猫だ』

 というか、犬だ。種類のわからない大きな犬が、マリルーの正面から走って来る。
 悲鳴を上げるマリルー。

「危ない!」

 僕はダッシュで犬とマリルーの間に割り込んだ。

「こいつが手紙紛失の原因か!」

 ギリギリで間に合った。僕を噛もうとして弾き飛ばされる犬。

「ガルルルル……」

 犬は牙をむいて、こちらを睨んでいる。まだ来るか!
 尻もちをついて恐怖に顔を引きつらせたマリルーをかばいつつ、僕はファイティングポーズをとる。

『こ……怖い……』

『大丈夫。僕がついてる!』

 震えながらも、ゆっくりと起き上がるマリルー。

『あなたは誰?』

『正義の味方さ。キミを助けに来たんだ』

「達也さん、前!」

「おっと、コイツめ!」

 飛び掛かってきた犬を払いのける。数メートルコロコロと転がり、起き上がってまたこちらを睨む。

「仕方がない。ちょっとお仕置きしてやるか」

『ブルー、あの犬、パンチして大丈夫?』

『今のキミのパンチだと、一撃ではじけ飛ぶ。別の方法がいいだろう』

 そうだな。マリルーの精神衛生上、よろしく無さそうだ。

『達也さん、私が魔法で眠らせようか?』

『魔法は一般人には極力見せたくないな。大丈夫。僕がやるよ』

 後で記憶操作という手もあるが、マリルー以外の人に見られる恐れもあるしな。
 僕は飛び掛かってきた犬を両腕で抱きとめた。そのままギュッと抱きしめる。首や肩に噛み付いてくるが、もちろん僕には効かない。おいおい、それ以上噛むと歯が折れちゃうぞ。

「こら、暴れるな」

 僕は犬に顔を近づける。鼻を噛まれたが、気にしない。暴れる犬の目を見ながら、ゆっくり腕に力を込めていく。ゆっくり、ゆっくり、じわじわと締め付けていく。じっと目を見つつ、ギリギリまで締めていく。暴れても噛まれても、とにかくじわじわと、無力感を植え付けるように。
 暫くして、犬が大人しくなったのを見計らって、僕は腕の力を緩めた。

「キャイン!」

 ひと声吠えて、犬は逃げていった。もう悪さすんなよ!

「達也さん、今の……」

『タツヤ、怖いぞ。猟奇的りょうきてきだ』

「え、そう? 優しい解決法だったじゃない?」

 振り返ると、マリルーも怯えた目で僕を見ている。あれあれ? 駄目だった?

『た、助けてくれてありがとう。私、マリルー』

 引きつった笑顔でお礼を言われた。
 と、その後、何かに気づいた様子でキョロキョロと周りを見ているマリルー……あ、いつの間にか手紙を持ってない! さっきの騒ぎで落としたのか!

『マズい、手紙!』

『探しているのはこれ?』

 マリルーに青い封筒を手渡す彩歌。なんだ、拾っていたのか。良かった!

『ありがとう!』

『いいのよ。もう無くさないでね』

『うん!』

 ふう。危ない危ない。よし、念のため、マリルーが無事ポストに手紙を投函するまでついていこう。

『マリルー、郵便局に行くなら、僕達も一緒に行っていい?』

『いいよー!』

 微笑むマリルー。なんだ、最初からこうしておけばよかったな。

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