プラネット・アース 〜地球を守るために小学生に巻き戻った僕と、その仲間たちの記録〜

ガトー

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5年生 3学期 2月

分岐点当日 オランダ 2

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 オランダのポストは、赤くて横に長い。
 見慣れた日本の物と形は違うが、見た目だけでポストだと分かるのはなぜだろう。

「赤いせいかしら。不思議ね」

 彩歌曰あやかいわく、魔界のポストも赤いらしい。、円筒形で、日本の古いポストって感じのようだ。
 マリルーは、手紙をポストに投函した。これで大丈夫なのかな。

『大丈夫だタツヤ。余程よほどの存在が干渉かんしょうしない限り、手紙は目的地に行き着くはずだよ』

「余程の存在……?」

『そうだね。例えば、カズヤとか』

 栗っちは〝救世主〟だ。特異点である彼なら、僕と彩歌あやかが修正した歴史を曲げることが出来る。

『あと、ダイサクとユーリ』

「……え? そうなの!?」

『先日の戦いで、ダイサクは私のエネルギーを直接取り込めるようになった。機械仕掛けの神デウスエクスマキナは〝特異点〟たりうる力だよ』

 大ちゃんは、新しい力を手に入れた。変身している間だけ〝機械仕掛けの神デウスエクスマキナ〟と〝不老〟や〝超回復〟が特記事項に載る。
 変身を解けば、今までの〝名工神ヘパイストス〟に戻るが、ブルーいわく、変身する度に〝不老〟の効果で若返るらしいから、定期的に変身すれば僕や彩歌と同様、老いずに生き続けられるそうだ。

「じゃあ、ユーリは?」

『彼女は、この星の歴史とは外れた存在たちの末裔まつえいだ。地球のシナリオに干渉すれば、歴史はあらがいきれずに曲がるだろう。〝外来種〟とはよく言ったものだ』

 演劇に突然乱入した部外者が、アドリブでシッチャカメッチャカにする感じだな。いかにもユーリっぽい。

『それに、キミとアヤカ……こんなに大勢の特異点が同じ時代に居るという状況は、まさに奇跡だね。それが全員味方なのだから、とても心強いよ』

 〝救星特異点きゅうせいとくいてん〟。僕と彩歌は、地球を救うためなら、頑丈で変え難い〝歴史〟を曲げることが出来る。

『そう。特に分岐点の今、この時間に、キミ達の力は最大の効果を発揮する。その力で変えられた歴史を、修正し直すことはそうそう出来る事ではない』

 そっか。それじゃ、これで任務完了だな。

『それじゃ、気をつけて帰って?』

『うん、ありがとう! またね!』

 マリルーが帰っていくのを、手を振り見送る彩歌。よし、ここからは観光モードだな!
 そう思っている僕の横を通り過ぎ、ポストに近づく1人の少年。
 ……次の瞬間、ドスンと鈍い音が響いた。

「え?」

 振り返ると、ポストに穴が空き、中の手紙が地面にバラかれていた。
 ……そして、今すれ違った少年が右手に持っているのは、先程マリルーが投函した青い封筒。
 少年はこちらに向き直り、笑みを浮かべてこう言った。

「とりあえず、今回は僕の勝ち」



 続けて何かをボソボソとつぶやいた少年の頭上に、火の玉が現れた。これは……魔法?!
 少年は、手紙を頭上にある火の玉に入れようと手を伸ばす。

『タツヤ!!』

 ブルーの声で我に返った僕は、その少年に飛び掛かる。
 一瞬で間を詰め、手紙を奪い返そうと手を伸ばしたが、次の瞬間、有り得ないことが起きた。

「お前、邪魔だよ」

 殴られた。
 何がどうなったのか分からなかったが、今までどんな攻撃にもビクともしなかった僕の体は、数メートルほどすっ飛び、道路に転がる。

「達也さん?!」

「痛い……」

『タツヤ……? 〝痛い〟だって?! 大丈夫か!』

 顔を殴られて、口元から血が出ている。
 そう。痛かったのだ。〝星の強度〟を持つ僕が。

「HuLex UmThel NedlE iL」

 間髪入れずに呪文を唱える彩歌。頭上に銀色の氷柱つららのような物が数本現れ、少年目掛けて飛ぶ。

「……なんで魔道士が生きているんだ?」

 そうつぶやくと、手紙とは反対の手で銀の氷柱つららを弾き返す。次の瞬間、少年も呪文を唱えた。

「HuLex UmThel HelFraM iL」

 頭上の火の玉の隣に、もう一つ、見覚えのある赤い玉が現れた。あれは確か……!

「?! 煉獄れんごくの魔……」

 彩歌が言い終わる前に、赤い玉は彩歌に命中した。吹っ飛ばされた彩歌は、はるか向こうの民家の壁に激突する。

「彩歌さん!!」

 こいつ、何なんだ!?

『わからない。キミ達と戦える存在などあり得ない……』

 ブルーも困惑している。得体の知れない〝敵〟。
 ……まさか本当に存在するなんて。

「それじゃ、ギャラリーも増えてきたみたいだし、終わりにしようか」

 少年は頭上の火の玉に、手紙をべた。

「やめろおおおぉぉぉ!」

 ……青い手紙は一瞬にして灰になってしまった。

「じゃあな、また会おう。次の分岐点で」

 そう言うと少年は、スゥッと煙のように姿を消した。いったい何者なんだ?
 というか、何が起こったんだ??

『彩歌さん! 大丈夫?!』

『……うん。平気よ』

 彩歌は立ち上がって、こちらに軽く手を振った。

『タツヤ、アヤカ、急いでここを離れよう。人が集まってきた』





 >>>





 僕たちは、頭の中が色々とパニック状態のまま、郵便局から少し離れた場所に移動した。

「ブルー……ごめん。失敗だな」

『……いや、これは想定外だ。私にも予測できなかったし、カズヤでも予知出来なかったのだ。キミとアヤカは悪くない』

 確かに。
 栗っち自身が止まってしまう〝時神クロノスの休日〟が関係する事ならともかく、こんな大事件を栗っちが予知できなかったのは不思議だ。

「達也さん、怪我は大丈夫?」

「うん、もう全然平気」

 〝超回復〟で、既に怪我は完治している。だが、それよりも……

『そうなんだ。キミが怪我をするという事は、先程の少年は、地球を破壊できる程の力を持っているという事になる』

「それに、魔法を使っていたわ。かなり高度な魔法。しかも、炎と煉獄れんごくを、同時に使っていた。普通の魔道士には無理よ」

 複数の魔法を同時に使う。
 彩歌も、弱体化される前には出来たらしい。僕にダメージを与える程の攻撃力を持ち、彩歌以上の魔法の使い手……

『〝救星特異点〟が導いた結果を、あっさりと修正するなど、どう考えてもあり得ない。あの少年……どういう存在なんだろう』

「あいつは、次の分岐点の事も知っていた。とにかく、次こそは必ず成功させてみせる!」

『そうだねタツヤ。まだ、地球の運命は修正していける。よろしくお願いするよ?』

 まさかの〝敵〟が出現した。だが、このまま地球を壊させるわけにはいかない。

「……ねえ達也さん、私、風車が見たいな」

 彩歌が突然言った。
 え? 待った待った! ちょっと切り替え、早すぎない?

「行ってみたいな。キンデルダイク!」

 満面の笑顔だ。マジか彩歌?

「ちょっと待ってよ彩歌さん。さすがに、そんな気にはなれないよ。分岐、失敗しちゃたんだし」

 残念だけど、今回は大人しく帰ろう。こんな気持ちで観光なんか出来ないよ。

「達也さん、行きましょうよ!」

「彩歌さん! 駄目だよ、今回は帰ろう!」

「ふふ。これ、なーんだ?」

 彩歌がポケットから取り出したのは、青い手紙だった。

「こっちが本物よ? さあ、行きましょうか、キンデルダイク!」

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