プラネット・アース 〜地球を守るために小学生に巻き戻った僕と、その仲間たちの記録〜

ガトー

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5年生 3学期 2月

おやじ

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「なんで親父おやじがここに居るんだよ?」

 バベルの図書館の奥、隠された地下室。ここは〝禁書庫きんしょこ〟と呼ばれる場所らしい。

「……ふむ。まあ、すわったらどうだ?」

 親父は、手に持った赤い本に目を移して、俺が座るのを待っている。相変わらず、自分のペースを崩さないなー。
 言われた通り手前の椅子に座って、読んでいる赤い本にチラッと目をやると、やっと親父が口を開いた。

「……ああ。この本でっているだろう。122ページの冒頭ぼうとうだ」

 手渡された本の表紙には、英語で〝The history of the meteorite〟と書かれていた。

隕石いんせきの歴史? ……そっか」

 122ページをめくる。冒頭には、湖の写真と共に、

「B.C.721 58・22・22.1N  22・40・09.9E」

 とだけ、書かれている。

「……エストニアだなー」

 俺が呟くと、親父が軽く笑った。

「フッ……お前はやはりかしこいな。我が子ながら、驚く事ばかりだ」

 バレてたんだな。
 まあ、気付いて無いハズが無いとは思ってたんだよなー。

「なあ、親父、なんでここに居るんだ?」

「……それは、どっちの意味だ?」

 あ、そうか。そうじゃないな。

「この部屋の事が聞きたい」

「はは。つくづく頭の良い子だ。嫉妬しっとしてしまうよ。お前が思っている通り、私もバベルの図書館の〝司書ししょ〟だ」

 やっぱり。

「そしてこの部屋は、持ち出しどころか、閲覧えつらんさえも禁じられた〝本〟の保管庫だ」

 親父は続けて説明する。俺が質問するであろう事を、順番に。

「ここに置かれている本は、宇宙のことわりに影響を与えてしまうもの、読んだ者に死などの悪影響を与えるもの、読み終えることが出来なくなってしまうもの、等だ」

 まずは、どんな本が〝禁書〟に指定されているのか、だが。
 なるほど。禁じられて当然だなー。

「ここにはいれるのは〝司書〟であり、禁書に触れる必要があり、かつ、触れても影響を受けない者だ」

 そしてそう。ここにはいる、条件だな。
 俺はブルーの欠片かけらとベルトの力で、死を克服出来る程の能力を手に入れた。禁書を読んでも平気になったから、ここに入れるようになったんだろう。
 それと、もう一つ、聞きたいことがあるぜ。まあ、大体わかったけどな。

「私がここに居るのは、禁書に触れる必要があり、触れても影響を受けないからだ」

 そうだよな。じゃあ、やっぱ、親父は……

「お前の考えを言ってみろ。もう気付いているんだろう?」

 ちょっと衝撃的だけど、まあ、有り得るよな。

「親父、もう死んでるのか。今、家に居る親父は、機械人形だな?」

「正解だ。死の直前に扉が開き、精神だけここに逃げ込んだ。現実に居る私は、昔、この図書館の知識で作った人形だ。よく出来ているだろう?」

 よく出来てるなんてもんじゃない。
 名工神ヘパイストスの俺でも気付かなかったんだからなー。

「では、さらにお前の疑問に答えていこう。私が死んだ事と、私がここに居る理由だな」

 そう、そしてあともう一つ。

「そうそう。あの事についても聞きたいだろう」

 そう。あの事だ。
 まあ、今となってはどうでもいいんだけどな。

「私は半年前〝ダーク・ソサイエティ〟という組織によって殺害された。いや、正確には、その組織の幹部の1人〝アルレッキーノ〟という者の手に掛かった」

 たっちゃんの話に出て来た、カマキリ怪人の名前だ。俺は気絶してたからな。
 ……ん? でもそれはおかしいぜ。

「ちょっと待った。たしか親父に協力を迫るために、俺を誘拐しようとしたのも、アルレッキーノだ。俺が襲われたのは、年明けだぞ?」

 半年前に親父を殺したのがアルレッキーノなら、俺を誘拐しても意味がない事を知っているはずだ。
 ……いや、もしかして。

「アルレッキーノは、親父を殺した事を、組織に報告していない……下手すれば、組織を裏切って?」

「私もそう見ている」

 得体の知れないヤツだ。アルレッキーノ。

「そして、私がこの禁書庫に居る理由だが……」

 そうだぜ。禁書に触れる必要がある者がここへ入れるというなら、親父はここの本で何をしようとしているんだ?

「待っている」

「……待っている?」

 俺のことを言っているなら、〝待っている〟ではなく、〝待っていた〟になるだろう。
 だが、なるほど。部屋を見回すと、大体の見当がついた。

「あー。3人なんだなー?」

「フフッ、ハーッハッハ! おっとすまん。本当に頭の良い子だ。ここまで来ると、恐ろしいを通り越して、痛快だな。笑ってしまったよ」

 なるほど。確かに恐怖を通り過ぎると、笑ってしまったりするぜ。さっきここで親父を見たときのようになー。

「まあ、お前は、笑いはしなかったがな」

 俺の考えを読んで、そのままセリフが来る。〝精神感応〟並みだなー。
 ……けど、親父のは、そうじゃなくて、先読みの境地だ。俺もたまにやってしまうから気をつけないとな。気味悪がられるだろうし。

「あとひとり。その人物が来るまで、私はここに居る。幸い、暇つぶしはたっぷりあるしな。お前に渡したその赤い本は、6階の右奥にあったものだ。読んだら戻しておいてくれ」

 まあ、お前も〝司書〟なら言う必要も無いだろうがな。と続けて、また笑った。

「見当はついてるのか? 3人目」

 いや、違うな。ここには全ての知識が本となって存在する。

「気付いたか。確かに私は、3人目が誰であるかを知っている。お前が今置かれている状況や、今後の事、ありとあらゆる全てを、私はもう知っている。ここは、そういう部屋だ」

 やっぱりな。過去の事が書かれた本は見掛けたけど、今まで、自分の未来が書かれている本は、一度も読んだことがなかった。それはきっと、〝禁書〟なんだろうなー。

「そう。未来の出来事を読んでいいのは、私のように、未来が無い者だけだ。お前が読めば、〝死なずに読み続けられる〟というだけで、はまってしまうだろう。危険なので抜き取って隠しておいた」

 言わなくてもわかると思うが、読むな。と続ける。

「読んだ時点で未来が変わり、そのせいで本の内容が変わり、それを読むとまた未来が変わり、それを読まなくてはならず、また未来が変わる……読み終えることが出来ない本の完成というわけだなー」

 普通の人間なら、本の内容が、〝この本を読み続けて、寿命を迎え、死んだ〟とかに変わるまで、無限ループだ。寿命がないなら尚更危険だ。延々と、強制的に本を読まされる事になるからなー。

「そして、私もお前に、それらの本の内容を言うことは出来ない」

 そうだろう。今度は親父を介して、もっとややこしいループに陥るぜー。
 ……でも、それを考えると栗っちの〝未来予知〟って凄いよな。自分が予知した未来を変えても平気って、救世主、凄くねー?

「とにかく、私は待っている。お前と、もう1人。3人が揃って、ここに座る日を」

 そう。椅子は3つある。ここにはきっと、もうひとり来るのだろう。

「そして、あの事についてだが」

 あー。もう大体わかったから、いいけどな。
 ……でもまあ、直接、本人から聞きたいというのもあるな。

「私がお前に与えていた〝おもちゃ〟は、ほぼ全て、わざと失敗したものだ」

 そうだよな。バベルの図書館司書が、あんなに〝失敗作〟を作りまくるはずがない。
 わざわざ失敗していたのか。俺に与えるために。

「ああ。だが、お前が4年生の時に作った光線銃な」

 それも知ってたのかよー! コソコソする必要、全く無かったじゃんか!

「あれは、本当に失敗作だった。お前があれを完成させた時は、笑ったよ。恐怖を通り越して、な?」

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