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5年生 3学期 2月

つみびと

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 こんにちは。栗栖和也くりすかずやだよ。
 今日の地下室はね、僕ひとりなんだ。
 たっちゃんと彩歌さんは、今、ドイツだって。オランダだと思ってたんだけど。

「ドイツんだ? オラんだ! なんちゃって……」

 大ちゃんは〝ちょっとサーレマー島に行ってくるぜー!〟って行っちゃった。変身して飛んでいけば、あっと言う間だって。すごいよねー。

「で、サーレマー島って、どこなのかな……」

 ユーリちゃんは、お姉さんのお見舞いに行ったみたい。

「この前会った病院って言ってたけど、それって僕じゃなくて、たっちゃんの操作する、土人形さんだよね……」

 たっちゃんの土人形さんも、彩歌さんの分身さんと一緒に、自宅に帰っちゃってるし、大ちゃん人形さんもいないし。

「……ちょっと、さみしいよねー」

 で、僕が今、何をしてるのかというとね、驚かないで聞いて?
 大ちゃんの部屋の前に、うずくまっている女の人が居たんだ。
 ……あ、違った。女の人の霊、だった。

「神の名に於いて命ずる。答えよ」

 パン! と、音が鳴って、彼女はやっと口を開いた。

「……私は、コロンビーナ。ここはどこ? 寒い。寒い」

 悪霊じゃない。自分が死んだことに気付いていない霊体だ。

「あなたは、どこから来たの?」

「わからない。でも、とても悲しい。寒い。寒い」

 この感じだと、もう少し思い出させないと、天界に送ってあげられそうにないよ……

「あなたが最後に見た景色は?」

「……雨が降っているわ」

 雨? 雨だけじゃヒントにならないなぁ。

「他に何か覚えてない?」

「……子どもが、いっぱい居る」

 子ども? しかもいっぱい?
 保育士さんとか、学校の先生かな?

「でも……おかしい。みんな、寝てる」

 子どもが、いっぱい寝ている……? お昼寝の時間?
 あ、修学旅行かな。消灯時間なのに、こっそりお話して、夜更かししちゃったりして、とっても楽しそうだよね。

「……寝ていない子どもが2人いるわ。あの子たちに聞かなきゃ」

 ああっ! 夜更かししてるの見つかっちゃった! 正座なの? お部屋のみんな、連帯責任で正座させられちゃうの?
 あ、でも、雨が降ってるっていってたよね。だから、お部屋の外だ、きっと。

「その2人に何を聞くの?」

「居場所を聞かなきゃ。どこに居るの? 探さなきゃ……」

 ……? 居場所?

「あなたは、誰を探しているの?」

九条大作くじょうだいさく

 大ちゃんを探している……?
 雨、寝ている沢山の子ども……

「ああっ! あの子たちが! あの恐ろしい2人が!」

 そうか! この女の人、たっちゃんと彩歌さんが倒した、ダーク・ソサイエティの!
 急に涙を流して、震え始めたコロンビーナ。このままじゃいけない。

「大丈夫だよ、もう終わったんだよ」

「怖い! 私を殺しに来る! 来ないで! 来ないで!」

 よっぽど、たっちゃん達が怖かったんだね……よーし。

「神の名に於いて命ずる。ただ見よ! 耳を傾けよ!」

 再び、パン! という音が響く。
 コロンビーナさんは、おとなしくなった。

「落ち着いて聞いてね? もう、大丈夫なんだ。何も心配すること、ないんだよ?」

 こちらを見て、首をかしげる霊体。やっぱり、まだ自分が死んでしまっていることに気付いていないんだ……
 そっと、死を自覚させてあげないと。

「落ち着いて、ゆっくりでいいから思い出そうね」

 コロンビーナさんは僕を見ている。まだ少し、怯えているようだ。

「心配要らない。今まで、どんなに辛いことがあったとしても、これからは、もうあなたを傷つける者は居ないよ」

 やっと、完全に落ち着いたようだ。静かにうなずく。

「よしよし。いい子だね。あなたはもう、この世界の住人じゃないんだ。誰も、あなたに怖いことなんか、しないよ? だから、僕と一緒に、ゆっくり思い出して」

「……はい」

 よし、じゃ、続けよう。僕はもう一度、両手を天にかざした。

「神の名に於いて命ずる。答えよ」

 パン! という音が、地下室に鳴り響く。

「あなたは、どこから来たの?」

「東京……ダーク・ソサイエティ、日本支部」

「何をしに来たの?」

「子どもを……探していたの」

「九条、大作くんだよね?」

「……そうです」

「九条くんを、どうするつもりだったの?」

「…………」

 コロンビーナは、うつむいてしまった。

「大丈夫。あなたは安全だし、誰も怒ってないよ?」

 首を横に振って、悲しい顔をするコロンビーナ。また、うつむいてしまう。

「神の名に於いて命ずる。答えよ」

 パン! と音が響き、彼女はハッと顔を上げる。

「神は……僕は、全てを聞いてあげる。いているんだよね?」

「……ごめんなさい。私、なんてことを」

「大丈夫。もう終わったんだよ。あなたが罪を認めるなら、償う機会が与えられるんだ」

「でも私は今まで、とても酷い事を……たくさんの人達を……」

 完全に思い出したようだ。でも、後悔しているみたい。

「人は、みんな罪人つみびとだよ。一緒なんだ。だから、あなたの居るべき場所へ行こう」

 ……彼女は静かにうなずく。穏やかな表情だ。
 これで静かに導いてあげられそうだよね。

「……ああ……あれを、あれをどうにかしないと」

 急に、何かを思い出した様子のコロンビーナ。

「どうしたの?」

「……この町に連れてきた、〝実験体〟が、そのままになっているの」

 実験体? 悪の秘密結社の実験体?! という事は……
 うう。たぶん、あんまり善良な子じゃないよね?

「きっとお腹を空かせているわ。人を襲うかもしれない」

 やっぱり……! 怖いなあ。
 でも今日はみんな居ないし、僕がなんとかしなきゃだよね……!

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