プラネット・アース 〜地球を守るために小学生に巻き戻った僕と、その仲間たちの記録〜

ガトー

文字の大きさ
90 / 264
5年生 3学期 2月

実験体

しおりを挟む
 廃ビルの戦闘員を倒したあと、2階、3階を調べたけど、何も居なかった。
 ……と思う。実験体は姿を消せるみたいだから、じっと隠れていた可能性もあるけど。

「いえ、もし居たなら、襲われていたでしょうね。コロンビーナさんは、実験体が〝暴れ者〟だとおっしゃってましたし」

 ……1階まで降りてきた。
 この部屋にある5つのドアは、全て閉じた状態。
 実験体がどれほどの知能を持っているかはわからないけど、たぶん、ドアを〝開け〟はしても〝閉める〟ことはないんじゃないかな。

「という事は、地下から、まだ出てきていないかもしれません……」

 地下へ通じる階段がある部屋は、千里眼でわかっている。
 ちょっと怖いけど、地下におりて、ケージ周辺を調べようかな。
 僕は、地下室へ通じる部屋の扉を、そっと開けた。
 ……書棚しょだなと応接セットがある。
 そこら中、ホコリだらけだけど、ただ、1か所、書棚と書棚の間の2畳ほどのスペースだけ、妙にキレイだよ。
 それにここだけ、鉄で出来てるっぽい。
 まあ、そんなヒントがなくても、僕にはこの鉄板の下に、階段が〝見えて〟るんだけどね。

「さて、ここはどうやって開けるのでしょう」

 正解は〝無理矢理こじ開ける!〟……なんちゃって。
 たぶん、どこかに〝隠されたスイッチ〟とかがあるんだろうけど、これぐらいの厚さの鉄板なら、全然平気だよ。
 ……えいっ! と。
 僕は床を、念動力でねじ切った。
 〝鉄〟は曲げやすいんだ。スプーンとか、初心者はよく曲げてるよね?
 薄暗く明かりがともる、地下への階段を降りていく。
 壁も天井も階段も、上の建物よりかなり新しそう。きっと後から作ったんだね。
 そして、階段を降り切った所に大きな鉄の扉があった。
 ……でも、押しても引いても開かない。えへへ。もちろん引き戸でも無かったよ?
 この扉を壊したら、中の実験体に、余計な刺激を与えちゃうよね。出来れば、静かに開けたかったんだけど……

「仕方ないですね。破壊しましょうか……おや?」

 よく見ると、扉の横に、電卓のように数字の並んだ、小さいパネルがある。

「暗証番号ですか……」

 えへへー。こういうのは、とりあえず押してみれば、なんとなく開くんだよね。
 ピッピッピッピッと。ほら、開いた。
 ……あ、えっと、これは〝確率操作〟だよ。
 相手が生き物なら、その〝相手の運〟との勝負になるから、勝率が下がっちゃうけど、相手が機械なら、絶対に僕が勝っちゃうんだよね。
 あ、ちなみに、集団行動の時も、一緒にいる人たちと運を合算するから、勝率は下がるんだ。
 扉はゆっくりと自動的に開いた。警戒しつつ、そっと中に入る。
 かなり広いスペースに、見た事のない機械が並んでいるよ。
 ああっ! 少し奥に、実験体を入れていたであろうケージが見えるね! 怖いよね!

「居ますね……」

 ピンと張り詰めた冷たい空気に、何者かの微かな感情が紛れているのがわかる。
 僕はゆっくりとケージに近づいた。ズタズタになっている格子を、念動力で曲げようとしてみるが、なかなか曲がらない。
 〝金属曲げメタルベンディング〟はすごく得意なんだけど……よっぽど頑丈なんだね。

「恐ろしいですね。この強度のケージを、ここまで引き裂く実験体とは、一体……」

 襲われたら、きっと苦戦するよ。怖いよね……
 でも、放っておけないよ。僕がやらなきゃ……!
 ケージをぐるっと一周するが、何も居ない。
 更に部屋の奥へと進むと、鉄製の棚がたくさん並んでいた。棚には、薬品の容器や、よくわからない機械の部品が置いてある。
 ……大ちゃんが居たら喜びそうだよ。

「実験体は居ませんね。もしや、別の出入り口などがあって、そちらから外に?」

 でも、千里眼で部屋中を見回しても、いま入ってきた扉以外に、出入り口らしき物は無い。
 やっぱり、僕の感覚に間違いは無かった。必ず、ここに居るよ。

「パキッ」

 後方で鳴った微かな音に反応して、僕は念動力による障壁の強さを最大に上げる。
 僕が振り向こうとした、次の瞬間。

「ガチン」

 と、大きな音がした。
 虎のような動物の〝前足による攻撃〟が、僕のカラダに触れるか触れないかの所で止まっている。
 いや、こんなに爪の長い虎は居ないはず。
 間違いなく〝実験体〟だよ。
 僕はこの建物に入ってから、ずっと、自分の周囲に、無数の小石を浮かせていたんだ。かなり広範囲に。念動力で作った、即席レーダーだね。

「ふう。やっと出てきてくれましたね」

 その姿は、正に虎。でも、虎にしてはあまりに大きい。
 前足の爪は、伸びたり縮んだりするみたい。伸び切ると、さっきみたいにサバイバルナイフ並みの長さになる。
 実験体は、爪の通らない僕を警戒してか、数メートル飛び退いた。カンの良い子だよね。

「でも、ロングレンジは私の得意な間合いですよ?」

 小手調べに、念動力で動きを封じようとしてみた。
 けど、以前、ユーリちゃんを止めようとした時みたいに、すごい力で振りほどかれそうになる。きっと、ユーリちゃんと同じくらい力持ちだね。
 念動力で縛れないなら、傷つけずに大人しくさせるのは難しいかも? 出来るなら、殺さないであげたいんだけど……

「ガウッ!!」

 一瞬だけ気を抜いたのがいけなかった。次の瞬間、念動力の拘束は力ずくで外され、目の前に実験体が迫る。前足による攻撃! 僕は真横に吹き飛ばされた。
 いつの間に近づかれたのか、わからなかったよ! 鉄の棚を押し倒しつつ、ノーバウンドで壁まで飛ばされた。壁がヘコむほどの衝撃だったけど、さすが大ちゃんの作ったスーツだ。全く痛くない。
 ちなみに僕の防御は、外方向に向けた念動力。それで、自分の周りに見えない壁を作っている。更に、確率操作の補正が掛かるので、ダメージが最小限に抑えられる。要は、〝運良く〟ダメージを受けない。
 そんな防御があるかって? たぶん、確率操作が効いてなければ、僕、今まで何回も死んでたと思うよ?
 でも、参ったなぁ。今の攻撃は、間違いなくスーツにまで届いてたよ。だって、ほら、アーマーが波打ってる。これって、地下の道場の壁が直る時と同じだよね。

「これは正直、あまり良くないかもしれませんね……」

 ガラガラと崩れる鉄の棚と薬品。おかしな色の煙が上がっている。
 どうにか、あの子を止める方法を考えないと……
 実験体は、ユラリとこちらを向いた。動きを止めない僕を、警戒しているようだ。まだ近付いては来ない。
 周囲を見渡すと、錆びた鉄パイプと蛇口が目に入った。水道だ。

「水はどうでしょう……」

 水道管の根本から、念動力でへし折ると、水が勢い良く吹き出した。ゴメンね。あとで直すから。
 吹き出した水を空中で集める。たしか猫さんって水がキライだったりするよね。でも、虎は知らない。ましてや、あの子はネコ科かどうかすら、あやしいよね……

「グルルル……」

 威嚇している。初めて見る光景に、一層警戒を強めているようだ。

「本当に賢い子ですね。どうかこの中で、おとなしくして下さい」

 僕は、実験体の周りを水で囲い、箱を作った。
 厚さは〝水量〟の関係でペラッペラだけど、この子が水を嫌うなら、閉じ込められるかもしれないよね。
 実験体は、肩をすくめてキョロキョロと周囲にある水を見回している。
 やっぱり水が嫌いだったかな? 
 と思った次の瞬間。実験体は水の箱を飛び出してきた!
 あらら。水、平気みたいだね!
 ……動きが早すぎて何をされたか分らなかった。
 僕は一瞬で、床に仰向けにされて、前足で押さえつけられてしまう。
 念動力を最大にするけど……すごい力だよ! 振り払えない!
 大変だよ。アーマーが波打ち続けている。このままだと潰されちゃうよ……!

「……仕方ないですね」

 僕は、さっき作った〝水の箱〟を、実験体の頭部に集めて固定した。
 こうすれば、たぶん、息が出来ない。
 僕から前足をどけて、必死に顔の周りの水を取ろうとする実験体。
 
「取れませんよ。液体ですからね」

 実験体は、もがき続けている。普通の生き物なら、とっくに溺れていると思うけど、さすがにタフだなあ。
 ちょっと可哀想だけど、このまま気絶してもらうね?

「……と、思っていたのですが。おやおや。そう簡単にはいかないみたいですね」

しおりを挟む
感想 142

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

チート魔力はお金のために使うもの~守銭奴転移を果たした俺にはチートな仲間が集まるらしい~

桜桃-サクランボ-
ファンタジー
金さえあれば人生はどうにでもなる――そう信じている二十八歳の守銭奴、鏡谷知里。 交通事故で意識が朦朧とする中、目を覚ますと見知らぬ異世界で、目の前には見たことがないドラゴン。 そして、なぜか“チート魔力持ち”になっていた。 その莫大な魔力は、もともと自分が持っていた付与魔力に、封印されていた冒険者の魔力が重なってしまった結果らしい。 だが、それが不幸の始まりだった。 世界を恐怖で支配する集団――「世界を束ねる管理者」。 彼らに目をつけられてしまった知里は、巻き込まれたくないのに狙われる羽目になってしまう。 さらに、人を疑うことを知らない純粋すぎる二人と行動を共にすることになり、望んでもいないのに“冒険者”として動くことになってしまった。 金を稼ごうとすれば邪魔が入り、巻き込まれたくないのに事件に引きずられる。 面倒ごとから逃げたい守銭奴と、世界の頂点に立つ管理者。 本来交わらないはずの二つが、過去の冒険者の残した魔力によってぶつかり合う、異世界ファンタジー。 ※小説家になろう・カクヨムでも更新中 ※表紙:あニキさん ※ ※がタイトルにある話に挿絵アリ ※月、水、金、更新予定!

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

クラス全員で転移したけど俺のステータスは使役スキルが異常で出会った人全員を使役してしまいました

髙橋ルイ
ファンタジー
「クラス全員で転移したけど俺のステータスは使役スキルが異常で出会った人全員を使役してしまいました」 気がつけば、クラスごと異世界に転移していた――。 しかし俺のステータスは“雑魚”と判定され、クラスメイトからは置き去りにされる。 「どうせ役立たずだろ」と笑われ、迫害され、孤独になった俺。 だが……一人きりになったとき、俺は気づく。 唯一与えられた“使役スキル”が 異常すぎる力 を秘めていることに。 出会った人間も、魔物も、精霊すら――すべて俺の配下になってしまう。 雑魚と蔑まれたはずの俺は、気づけば誰よりも強大な軍勢を率いる存在へ。 これは、クラスで孤立していた少年が「異常な使役スキル」で異世界を歩む物語。 裏切ったクラスメイトを見返すのか、それとも新たな仲間とスローライフを選ぶのか―― 運命を決めるのは、すべて“使役”の先にある。 毎朝7時更新中です。⭐お気に入りで応援いただけると励みになります! 期間限定で10時と17時と21時も投稿予定 ※表紙のイラストはAIによるイメージです

処理中です...