プラネット・アース 〜地球を守るために小学生に巻き戻った僕と、その仲間たちの記録〜

ガトー

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5年生 3学期 2月

解呪

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 しばらくすると、部屋の外から、子どもたちの声が聞こえてきた。

『タツヤ、アヤカ。お取り込み中の所、悪いんだけど……』

 ライナルトが、扉からこちらを覗いて、申し訳なさそうに言う。
 僕は彩歌あやかを抱きしめていたのを思い出し、慌ててパッと距離をおいた。

『よ……良かった! 目が覚めたんだな!』

『4人とも、無事なの?』

 僕と彩歌が駆け寄ると、ハンナが少し苦しそうにしていた。

『……気持ち悪いの。私の中に、何かが入り込んで、感覚が無くなってきてる』

 ダニロとラウラは、ハンナに肩を貸している。

『……呪いだ』

 デトレフはさっき〝呪いのせいで意識を奪われかけている〟と言っていた。
 きっと、このまま放っておけば、ハンナはみずから高い所に移動して、転落死するだろう。

『落ち着いて聞いてくれ。ハンナ、キミはこのままだと、呪いのせいで死ぬことになる』

 ハンナの顔が恐怖で引きつる。
 それを見たダニロも、悲痛な表情を浮かべた。

『大丈夫よ、安心して。私たちが絶対に助けるから!』

 彩歌も、ハンナの手を握る。

『ハンナの呪いは、高い所から落ちれば消える。僕たちに任せてくれ!』

 僕の言葉を聞いて、顔を見合わせる4人。
 そして、ラウラが怯えた声で言った。

『さっきのおじさん、ハンナを見て〝中途半端な呪いだな〟って言って……』

 ……え? なんだって?

『ハンナの頭に触って〝これで次に目覚めてから、しばらくすれば、痛くもなく怖くもなく、確実に死ねるよ〟って言ってたわ』

『……呪いの上書き?!』

 彩歌が驚いたように叫ぶ。
 やってくれたな、デトレフ! 何が〝眠らせておいたから安心しろ〟だ!

「達也さん、私の魔法で解呪できないか、やってみるわ」

「わかった。魔法を封じている機械を止めよう」

 僕は、鉄格子の中にある機械に駆け寄った。
 スイッチ的な物は、何もないな。
 ただ、忙しく振れる計器と点滅するランプが、動作している事を伝えているだけだ。

「大ちゃんなら分かるんだろうけど……」

「達也さん、急がないと、ハンナさんが、呪いに殺されてしまうわ」

 ええい! ちょっと惜しい気もするけど、仕方がない!

「アース・インパクト!」

 ……という名のただのパンチで、謎機械を殴りつけた。

『いけない、タツヤ。キミは驚くほど、パワーアップしているぞ』

 あっ! しまった!
 機械は、爆音とともに、繋がれたコード類を引きちぎりながらすっ飛ぶ。

「ゴン! ガン! ガンガラガラ! ドーン!」

 ピンポン玉のように、床と天井をバウンドで往復しながら、謎機械は壁にぶち当たった。
 次の瞬間、ボコンという大きな音が鳴り響き、天井と床と壁の境い目が分からなくなる程に、丸く圧壊あっかいする。

『マジかよ……』

 全員が、呆然と僕を見ている。やっちまった……

『な……なんちゃって!』

 仕方がないので、生まれて初めて、てへぺろしてみた。

『じゃねえよ! 誤魔化されないからな!』

 ライナルトが、引きつった顔でツッコむ。
 まあ、そりゃそうだよね。

『タツヤ、キミはいったい……』

 ダニロも、同じような表情で僕を見ている。

『相変わらずね、達也さん』

 彩歌は、やれやれと呆れ顔だ。

『あ、そんな事より、彩歌さん。これで魔法、使えるかな?』

『そうね、試してみるわ』

 彩歌が呪文を唱えた。

「HuLex UmThel dISPel iL」

 彩歌の頭上に、白く光る〝複雑な模様〟が浮かび上がる。
 マンガとかで見かける、魔法陣っぽい。

『良かった! 発動したわ。さあ、魔法陣に触れて』

 あ、やっぱ魔法陣だったんだ。
 彩歌が両手を前に差し出すと、彩歌の頭上の魔法陣は、ハンナの目の前に移動した。

『な……何だ? これ』

 ライナルトが不思議そうに見ている。

『本当に大丈夫なの?』

 ラウラはハンナをかばおうとしている。

『大丈夫よ。安心して。ただ、私の魔法で、ハンナさんの、その呪いを解けるかどうか、分からないけど』

『これ、魔法なのか……! 凄い!』

 ダニロが、驚いた様子で魔法陣を見ている。

『急いで! もう時間がない!』

 ハンナは、苦しそうな表情で、静かにうなずくと、恐る恐る、魔法陣に触れた。
 魔法陣が輝きを増した。ハンナの体から、黒いモヤの様な物が、滲み出て来る。

『お願い! 効いて!』

 ハンナは目を閉じ、苦しそうにしている。

『彩歌、駄目だ。ちょっとだけ、足りないぞ!』

 ルナが叫んだ瞬間、パリンという音と共に、魔法陣は砕け散ってしまった。
 ハンナの体から出ようとしていた黒いモヤは、再び、ハンナに戻っていく。

『ハァ、ハァ……ごめんなさい。私の魔法では、ほんの少しだけ、力が足りないみたい……』

 そう言って、彩歌は唇を噛み締めた。

『そ……そんなぁ!』

 ライナルトが肩を落とす。

『ねえ、アヤカ! どうにかならないの?』

 ラウラが悲しそうな表情で彩歌に詰め寄る。

『ハンナを……ハンナを助けてくれ! お願いだ!』

 ダニロも、必死で彩歌に懇願する。

『……ルナ、どうすればいいと思う?』

『仕方ないよ。呪いが強すぎたんだ』

 残された時間は、もうわずかだろう……ハンナが死んでしまう。
 彩歌の魔法が、もうほんの少し強ければ、呪いを解いてあげられるのだが。
 あとちょっとの事で……
 あと……
 
「……あとちょっと?」

 そうだ!

『彩歌さん! 〝ロッド〟を使えば、いけるんじゃない?』

『……あ、そっか! アレがあったわね!』

 彩歌は、腕時計のボタンを押して叫ぶ。

「へんしーん!」

 まばゆい光に包まれて、彩歌はピンクのヒーローに変身した。
 子どもたちは、目を丸くして固まっている。

『お待たせぇン! もう一度行くわよぉン?』

 ピンクはロッドを頭上に掲げると、呪文を唱えた。

「HuLex UmThel dISPel iL」

 さっきより、明らかに大きく強く光る、魔法陣が現れた。
 この大ちゃん特製のロッドは、魔法の力を増幅することが出来る。
 ……これなら、ハンナを救うことが出来るかもしれない。

『さあ、ハンナ、もう一度触ってぇン?』

 どちらかと言うと、ハンナはピンクの〝口調の変わり具合〟に驚いていたみたいだが……そっと、魔法陣に手を伸ばした。
 ハンナが魔法陣に触れた途端、黒いモヤは、すごい勢いでハンナの体から溢れ出し、魔法陣に吸い込まれていく。

『やった! 成功だよ!』

 嬉しそうに飛び跳ねているルナ。

「良かった。これで無事、一件落着だな!」

 ……ん? あれ? なんか大事な事を、忘れてる気がするんだけど。

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