118 / 264
5年生 3学期 2月
奥さ……御内儀は魔女
しおりを挟む
テーブルの上には、ゴテゴテとした装飾を施された剣と、大量のチョコレート。
そしてそれをポリポリ食べている、黄色くて丸いウサギ。
……待てコラ、食べるな。それ、お土産なんだぞ。
「というわけで、ベルリンの地中から出てきたのが、この剣なんだ」
ブルー曰く〝異世界〟から〝この世界〟に向けて、世界を跨いで突き刺さっていたらしい。
『私の力だけでは〝次元の断層〟を解除出来なかった。普通の剣ではない』
そう。この剣は僕のパンチで衝撃を与えて、やっと取り除くことが出来た。
「ふうん? 見た感じ、普通の剣みたいだけどー?」
ユーリが剣に触れようとしたその時。
「ユーリちゃん、待って! 危ないよ!」
栗っちが大きな声を上げた。
ユーリの手が剣に触れた次の瞬間。
「熱っち!」
ジュッ! という音と共に、ユーリの手から煙が上がる。え、煙?!
「あいててて! 何だよー! むっちゃ熱いじゃんかー!」
ユーリの手が、赤黒く焼け爛れている。おいおい! 何が起きた?!
「大丈夫か、ユーリ!」
心配そうにユーリの手を取る大ちゃん。
「やー! だいじょーぶ! 手足なら心配ないんだよー」
ユーリの手は、ジュワジュワという音と共に、綺麗に治っていく。良かった〝超回復〟か。
「体の末端は、特に治りやすいよ。誰かに見られたら、ちょっと困っちゃうけどさー」
手足耳鼻等は、切り取っても生えてくるらしい。さすがは戦闘に特化した民族だ。
「しっかし、こんな熱いの、よく持てるよー。やっぱたっちゃん、すごいね」
「いや、マジか? 今まで全然平気だったんだけどな」
もしかして〝耐熱〟か〝星の強度〟で、平気だったのかな。
「いやー、違うだろー。ユーリの手を焼くほどの熱さなら、さっきまで剣に巻いてあったタオルとか、リュックが、燃えるだろうしなー。そもそも、チョコレートが溶けちゃうぜー?」
それもそうだ。ライナルトに預けた時も、あいつ、タオルや着替えのシャツ越しに、普通に触ってたし。
「その剣、たっちゃん以外が触ると、怒っちゃうみたい。持ち主を選ぶんだと思う」
栗っちは、そう言った矢先に自ら剣に手を伸ばす。
「ちょ! 栗っち?!」
普通に剣を掴んで持ち上げる栗っち。
……あれ? なんで平気なんだ?
「この剣〝神様の力〟が宿ってるよ。普通の人間が持つと〝神罰〟が下るみたい」
使い手を選ぶ、神の剣? なにそれ、カッコイイ!
「なるほどなー。栗っちは神様候補だから、平気なんだ。不思議すぎるぜー!」
「でもたぶん、持ち主として選ばれた人間が使わないと、力を発揮しないよ。僕が使っても駄目みたい」
謎は深まっていく。なぜそんな剣が、地中にあったんだろう。
『タツヤ。危険なので、その剣は私が保管しておこう』
剣は、テーブルに、ズブズブと沈んでいく……あ、ウサギさんも一緒に沈んでいく。
なんでサムズアップしてるんだよ? アイルビーバックじゃねーよ。
「……じゃあ、ウサギが戻ってくるまでに〝魔界の門〟の件を説明しようか」
今開いているゲートは4つ。ひとつは安全な状態の、神奈川の門。城塞都市につながっていて、魔道士たちが管理している。
問題なのは残り3つ。
ルーマニア、〝シギショアラ〟
アメリカ、〝カサ・グランデ山〟
カナダ、〝アンジクニ湖〟
長い間、これらの門を通って、悪魔が来た形跡は、ないようだが……
「おいー! どの場所も、有名な怪奇スポットだぜ。悪魔が無関係のはずがないなー」
大ちゃんの言う通り、伝説的な怪奇譚が残っていたり、事件や事故、心霊現象の多発地帯だ。ただの都市伝説とかでは有り得ない。
「怖いね! 凄く怖いよね! あ、でも、たっちゃん達、ドイツの門は、閉じてきたんだよね! 怖くなかった?」
先日閉じた門は、悪魔を使った実験場だった。そして、その実験場の主……あいつの事も話さねばならない。
「悪魔より、人間の怖さを思い知らされたよ」
僕と彩歌は、〝ベーリッツ陸軍病院〟での出来事と、デトレフ・バルムガルテンについての報告をした。
そこで、大変なことを思い出す。
「……あれ? 僕、呪われてなかったっけ?!」
ラウラの解呪は、彩歌の魔法と、大ちゃん特製ロッドで成功したが、その時点で、まだ呪いは僕に残されていたはずだ。
「あ、そういえば!」
口に手を当てて、驚いた顔の彩歌。
ラウラから引き継いでしまった、合言葉の呪い。
でもおかしいぞ? たしか僕のステータス表示には、状態異常〝呪詛〟は載っていなかったはずだ。
「えへへ。たぶん、僕がたっちゃんを〝使徒〟にした時に、消えちゃったんだよ」
栗っちが笑顔で言う。
「そう言えばあの時、なんか気分がスッキリしたような……」
「神様を〝呪う〟って、この世界の構造上、無理なんだ。だから、その使徒も呪い免除みたい」
本当に何でもアリだな、救世主。
いやしかし、助かった。下手をすると、まだ誰かに呪いを渡してしまう所だった。
「凄いわ、栗栖くん!」
「えへへー! 照れちゃうなあ」
赤くなってモジモジしている栗っち。
……と、それを見て、涙ぐんでいる妹。
いや、心配しなくても、栗っちは、お前一筋だから。
「で、ベルリンの観光中に、武装集団に襲われたんだけど……」
「本当に色々と起きるよなー。たっちゃん、それはある意味、特記事項だぜー?」
……僕もそう思う。武装集団って何だよ。居ないよ普通。
「そいつらの中に、デトレフに出会って、最悪の呪いを掛けられた男が居たんだ」
眼鏡の男。名前は〝ボリス・ドーフライン〟。
悪人ではあったが、今回唯一の死者だ。冥福を祈ろう。
彼が掛けられていた呪いは、肉体と魂を対価とした、魔王パズズの召喚。
「やー。チラッと聞いたけどさー。魔王って本当に居るのん? なんかマンガみたい」
「本当よ、友里さん。魔界には、封じられた4体の魔王が居るの。その一体がパズズ。今は達也さんの魂の一部になっているわ」
魔王は、それぞれが強大な魔力を持ち、恐ろしく強い。
パズズも、自分の肉体ではなく、人間の体を借りた状態でも、あれ程の魔法を使った。
もし僕が止めていなければ、世界は大変なことになっていただろう。
『わが主よ。ご同胞の皆様に、一言、ご挨拶させては頂けませんか』
パズズの声だ。
『ああ、いいよ? 折角だから、こっち使うか』
僕は、立ち上がって、地面に手をついた。
「姿は、なんかもう、適当でいいかな」
という事で〝ぼくのかんがえたきゅうきょくのまおう〟を、土人形で作った。
お? ちょっとカッコ良いじゃないか。
「ブルー、パズズと人形、繋いでやって」
『了解だ、タツヤ』
僕の土人形から魔王人形に、細い糸が伸びて繋がり、感覚が開通した。
『大丈夫だとは思うが、秘匿回線にはしない。いざとなれば、キミが操作できるだろう』
「ありがとう、ブルー。まあ、これがある限り、パズズは僕を裏切る事は無いけどね」
僕は、指に嵌っている指輪を、チラリと見る。これはパズズの魂。気に入らないことがあれば、潰せと渡された、忠誠の証だ。
「なんと……これは素晴らしい! 主よ、感謝します!」
「あれ? お前、日本語しゃべれるのか?」
「この言葉は、存じております。主のお使いになる言語が、こちらとは知らず、永らく失礼を致しておりました」
そういえば、彩歌は日本語だし、この前の悪魔もカタコトだけど日本語を喋っていたな。
「城塞都市では日本語が使われているわ。悪魔たちは、もともと独自の言葉を持っているけど、中級以上の悪魔は、どこで誰に習ったのか、日本語を話せるの」
「ふーん。不思議だな。まあ、もともと、日本語って、宇宙の標準語らしいし、楽でいいや」
魔王パズズは、僕が作った土人形を自在に操る。
さすが、人間の体を乗っ取ってしまうだけのことはあるな。
「お初にお目にかかります。パズズと申します」
跪き、深々と頭を下げるパズズ。僕の作った魔王人形の物々しさも相まって、妙に様になっている。
「私、タツヤ様の下僕として、弱卒ながら、皆様方の末席の更に足元にて、加勢の真似事を致したく存じます。どうぞお見知りおき下さいませ」
「そこまで謙らなくても良いんじゃないか?」
「滅相も御座いません。恐れながら、何れの方も、星を守る強者の佇まい。このパズズ、甚だ感服致しました」
まあ、確かに全員、それぞれ違った分野で最強だもんな。
「えへへー! よろしくね!」
「よろしくなー、頼りにしてるぜー!」
「やー! 魔王って本当に居るんだね! びっくりしちったよー!」
「お兄ちゃん、相変わらず粘土細工は上手ね。よろしく、魔王さん」
初対面のメンバーが挨拶を終えた時、パズズが不思議そうな口調で訪ねてきた。
「……恐れながら、主よ。この体をお借りして、視覚を戴きましたので、気付いたのですが」
パズズが、彩歌の方を向いて、首を傾げている。
「御内儀の御頭に御座しますのは、どういった獣でしょう。見ておりますと、何やら不思議に落ち着きません」
「御内儀って何だ?」
「奥様って意味だぜー?」
大ちゃんがニヤニヤしながら教えてくれた。やめろよー、まだそんなんじゃないよー。
えっと、彩歌の御髪……?
ふと見ると、耳まで赤くなっている彩歌の頭には〝ルナ〟が居る。
……いつの間に戻ってきたんだ、お前。
「ああ。あれは〝ルナ〟。彩歌さんの能力が実体化した姿だよ。えっと、確か……」
「〝魔界の軸石〟よ。落ち着くはずがないわよね、魔王パズズ?」
ちょっと意地悪な笑みで、パズズ人形にウインクしてみせる彩歌。
もちろん、ルナも一緒にウインクしている。下手すぎて〝にらめっこ〟みたいになってるけど。
「ひぃッ!? ま、ま、ま、魔界の軸石?!」
尻もちをついて、後ずさるパズズ。10メートルほど離れた所で、土下座の姿勢のまま、固まっている。
「どうしたんだ? パズズ」
「恐れ入りました! まさか魔界の軸石を身に宿されているとは! 今までの数々のご無礼、平に、平にお許し下さい!」
「お前なあ。今更そんな……彩歌さん、魔界の軸石って、そんなにスゴイの?」
「もちろん。魔界創造の起点となった、魔界の全てを、好き勝手に出来る秘宝なのよ?」
いや、変顔している、黄色いウサギさんにしか見えないけど。
「パズズにしてみれば、部長の家にお邪魔したら、奥さんが社長だった、みたいな感じかしら」
と言ったあと、なにかに気付いて、また赤くなっている彩歌。
……ああ、〝奥さん〟がツボだったのか。自分で言うんだもんな。
そしてそれをポリポリ食べている、黄色くて丸いウサギ。
……待てコラ、食べるな。それ、お土産なんだぞ。
「というわけで、ベルリンの地中から出てきたのが、この剣なんだ」
ブルー曰く〝異世界〟から〝この世界〟に向けて、世界を跨いで突き刺さっていたらしい。
『私の力だけでは〝次元の断層〟を解除出来なかった。普通の剣ではない』
そう。この剣は僕のパンチで衝撃を与えて、やっと取り除くことが出来た。
「ふうん? 見た感じ、普通の剣みたいだけどー?」
ユーリが剣に触れようとしたその時。
「ユーリちゃん、待って! 危ないよ!」
栗っちが大きな声を上げた。
ユーリの手が剣に触れた次の瞬間。
「熱っち!」
ジュッ! という音と共に、ユーリの手から煙が上がる。え、煙?!
「あいててて! 何だよー! むっちゃ熱いじゃんかー!」
ユーリの手が、赤黒く焼け爛れている。おいおい! 何が起きた?!
「大丈夫か、ユーリ!」
心配そうにユーリの手を取る大ちゃん。
「やー! だいじょーぶ! 手足なら心配ないんだよー」
ユーリの手は、ジュワジュワという音と共に、綺麗に治っていく。良かった〝超回復〟か。
「体の末端は、特に治りやすいよ。誰かに見られたら、ちょっと困っちゃうけどさー」
手足耳鼻等は、切り取っても生えてくるらしい。さすがは戦闘に特化した民族だ。
「しっかし、こんな熱いの、よく持てるよー。やっぱたっちゃん、すごいね」
「いや、マジか? 今まで全然平気だったんだけどな」
もしかして〝耐熱〟か〝星の強度〟で、平気だったのかな。
「いやー、違うだろー。ユーリの手を焼くほどの熱さなら、さっきまで剣に巻いてあったタオルとか、リュックが、燃えるだろうしなー。そもそも、チョコレートが溶けちゃうぜー?」
それもそうだ。ライナルトに預けた時も、あいつ、タオルや着替えのシャツ越しに、普通に触ってたし。
「その剣、たっちゃん以外が触ると、怒っちゃうみたい。持ち主を選ぶんだと思う」
栗っちは、そう言った矢先に自ら剣に手を伸ばす。
「ちょ! 栗っち?!」
普通に剣を掴んで持ち上げる栗っち。
……あれ? なんで平気なんだ?
「この剣〝神様の力〟が宿ってるよ。普通の人間が持つと〝神罰〟が下るみたい」
使い手を選ぶ、神の剣? なにそれ、カッコイイ!
「なるほどなー。栗っちは神様候補だから、平気なんだ。不思議すぎるぜー!」
「でもたぶん、持ち主として選ばれた人間が使わないと、力を発揮しないよ。僕が使っても駄目みたい」
謎は深まっていく。なぜそんな剣が、地中にあったんだろう。
『タツヤ。危険なので、その剣は私が保管しておこう』
剣は、テーブルに、ズブズブと沈んでいく……あ、ウサギさんも一緒に沈んでいく。
なんでサムズアップしてるんだよ? アイルビーバックじゃねーよ。
「……じゃあ、ウサギが戻ってくるまでに〝魔界の門〟の件を説明しようか」
今開いているゲートは4つ。ひとつは安全な状態の、神奈川の門。城塞都市につながっていて、魔道士たちが管理している。
問題なのは残り3つ。
ルーマニア、〝シギショアラ〟
アメリカ、〝カサ・グランデ山〟
カナダ、〝アンジクニ湖〟
長い間、これらの門を通って、悪魔が来た形跡は、ないようだが……
「おいー! どの場所も、有名な怪奇スポットだぜ。悪魔が無関係のはずがないなー」
大ちゃんの言う通り、伝説的な怪奇譚が残っていたり、事件や事故、心霊現象の多発地帯だ。ただの都市伝説とかでは有り得ない。
「怖いね! 凄く怖いよね! あ、でも、たっちゃん達、ドイツの門は、閉じてきたんだよね! 怖くなかった?」
先日閉じた門は、悪魔を使った実験場だった。そして、その実験場の主……あいつの事も話さねばならない。
「悪魔より、人間の怖さを思い知らされたよ」
僕と彩歌は、〝ベーリッツ陸軍病院〟での出来事と、デトレフ・バルムガルテンについての報告をした。
そこで、大変なことを思い出す。
「……あれ? 僕、呪われてなかったっけ?!」
ラウラの解呪は、彩歌の魔法と、大ちゃん特製ロッドで成功したが、その時点で、まだ呪いは僕に残されていたはずだ。
「あ、そういえば!」
口に手を当てて、驚いた顔の彩歌。
ラウラから引き継いでしまった、合言葉の呪い。
でもおかしいぞ? たしか僕のステータス表示には、状態異常〝呪詛〟は載っていなかったはずだ。
「えへへ。たぶん、僕がたっちゃんを〝使徒〟にした時に、消えちゃったんだよ」
栗っちが笑顔で言う。
「そう言えばあの時、なんか気分がスッキリしたような……」
「神様を〝呪う〟って、この世界の構造上、無理なんだ。だから、その使徒も呪い免除みたい」
本当に何でもアリだな、救世主。
いやしかし、助かった。下手をすると、まだ誰かに呪いを渡してしまう所だった。
「凄いわ、栗栖くん!」
「えへへー! 照れちゃうなあ」
赤くなってモジモジしている栗っち。
……と、それを見て、涙ぐんでいる妹。
いや、心配しなくても、栗っちは、お前一筋だから。
「で、ベルリンの観光中に、武装集団に襲われたんだけど……」
「本当に色々と起きるよなー。たっちゃん、それはある意味、特記事項だぜー?」
……僕もそう思う。武装集団って何だよ。居ないよ普通。
「そいつらの中に、デトレフに出会って、最悪の呪いを掛けられた男が居たんだ」
眼鏡の男。名前は〝ボリス・ドーフライン〟。
悪人ではあったが、今回唯一の死者だ。冥福を祈ろう。
彼が掛けられていた呪いは、肉体と魂を対価とした、魔王パズズの召喚。
「やー。チラッと聞いたけどさー。魔王って本当に居るのん? なんかマンガみたい」
「本当よ、友里さん。魔界には、封じられた4体の魔王が居るの。その一体がパズズ。今は達也さんの魂の一部になっているわ」
魔王は、それぞれが強大な魔力を持ち、恐ろしく強い。
パズズも、自分の肉体ではなく、人間の体を借りた状態でも、あれ程の魔法を使った。
もし僕が止めていなければ、世界は大変なことになっていただろう。
『わが主よ。ご同胞の皆様に、一言、ご挨拶させては頂けませんか』
パズズの声だ。
『ああ、いいよ? 折角だから、こっち使うか』
僕は、立ち上がって、地面に手をついた。
「姿は、なんかもう、適当でいいかな」
という事で〝ぼくのかんがえたきゅうきょくのまおう〟を、土人形で作った。
お? ちょっとカッコ良いじゃないか。
「ブルー、パズズと人形、繋いでやって」
『了解だ、タツヤ』
僕の土人形から魔王人形に、細い糸が伸びて繋がり、感覚が開通した。
『大丈夫だとは思うが、秘匿回線にはしない。いざとなれば、キミが操作できるだろう』
「ありがとう、ブルー。まあ、これがある限り、パズズは僕を裏切る事は無いけどね」
僕は、指に嵌っている指輪を、チラリと見る。これはパズズの魂。気に入らないことがあれば、潰せと渡された、忠誠の証だ。
「なんと……これは素晴らしい! 主よ、感謝します!」
「あれ? お前、日本語しゃべれるのか?」
「この言葉は、存じております。主のお使いになる言語が、こちらとは知らず、永らく失礼を致しておりました」
そういえば、彩歌は日本語だし、この前の悪魔もカタコトだけど日本語を喋っていたな。
「城塞都市では日本語が使われているわ。悪魔たちは、もともと独自の言葉を持っているけど、中級以上の悪魔は、どこで誰に習ったのか、日本語を話せるの」
「ふーん。不思議だな。まあ、もともと、日本語って、宇宙の標準語らしいし、楽でいいや」
魔王パズズは、僕が作った土人形を自在に操る。
さすが、人間の体を乗っ取ってしまうだけのことはあるな。
「お初にお目にかかります。パズズと申します」
跪き、深々と頭を下げるパズズ。僕の作った魔王人形の物々しさも相まって、妙に様になっている。
「私、タツヤ様の下僕として、弱卒ながら、皆様方の末席の更に足元にて、加勢の真似事を致したく存じます。どうぞお見知りおき下さいませ」
「そこまで謙らなくても良いんじゃないか?」
「滅相も御座いません。恐れながら、何れの方も、星を守る強者の佇まい。このパズズ、甚だ感服致しました」
まあ、確かに全員、それぞれ違った分野で最強だもんな。
「えへへー! よろしくね!」
「よろしくなー、頼りにしてるぜー!」
「やー! 魔王って本当に居るんだね! びっくりしちったよー!」
「お兄ちゃん、相変わらず粘土細工は上手ね。よろしく、魔王さん」
初対面のメンバーが挨拶を終えた時、パズズが不思議そうな口調で訪ねてきた。
「……恐れながら、主よ。この体をお借りして、視覚を戴きましたので、気付いたのですが」
パズズが、彩歌の方を向いて、首を傾げている。
「御内儀の御頭に御座しますのは、どういった獣でしょう。見ておりますと、何やら不思議に落ち着きません」
「御内儀って何だ?」
「奥様って意味だぜー?」
大ちゃんがニヤニヤしながら教えてくれた。やめろよー、まだそんなんじゃないよー。
えっと、彩歌の御髪……?
ふと見ると、耳まで赤くなっている彩歌の頭には〝ルナ〟が居る。
……いつの間に戻ってきたんだ、お前。
「ああ。あれは〝ルナ〟。彩歌さんの能力が実体化した姿だよ。えっと、確か……」
「〝魔界の軸石〟よ。落ち着くはずがないわよね、魔王パズズ?」
ちょっと意地悪な笑みで、パズズ人形にウインクしてみせる彩歌。
もちろん、ルナも一緒にウインクしている。下手すぎて〝にらめっこ〟みたいになってるけど。
「ひぃッ!? ま、ま、ま、魔界の軸石?!」
尻もちをついて、後ずさるパズズ。10メートルほど離れた所で、土下座の姿勢のまま、固まっている。
「どうしたんだ? パズズ」
「恐れ入りました! まさか魔界の軸石を身に宿されているとは! 今までの数々のご無礼、平に、平にお許し下さい!」
「お前なあ。今更そんな……彩歌さん、魔界の軸石って、そんなにスゴイの?」
「もちろん。魔界創造の起点となった、魔界の全てを、好き勝手に出来る秘宝なのよ?」
いや、変顔している、黄色いウサギさんにしか見えないけど。
「パズズにしてみれば、部長の家にお邪魔したら、奥さんが社長だった、みたいな感じかしら」
と言ったあと、なにかに気付いて、また赤くなっている彩歌。
……ああ、〝奥さん〟がツボだったのか。自分で言うんだもんな。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
最強無敗の少年は影を従え全てを制す
ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。
産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。
カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。
しかし彼の力は生まれながらにして最強。
そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。
異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします
Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。
現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編
おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう
お餅ミトコンドリア
ファンタジー
パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。
だが、全くの無名。
彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。
若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。
弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。
独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。
が、ある日。
「お久しぶりです、師匠!」
絶世の美少女が家を訪れた。
彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。
「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」
精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。
「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」
これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。
(※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。
もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです!
何卒宜しくお願いいたします!)
チート魔力はお金のために使うもの~守銭奴転移を果たした俺にはチートな仲間が集まるらしい~
桜桃-サクランボ-
ファンタジー
金さえあれば人生はどうにでもなる――そう信じている二十八歳の守銭奴、鏡谷知里。
交通事故で意識が朦朧とする中、目を覚ますと見知らぬ異世界で、目の前には見たことがないドラゴン。
そして、なぜか“チート魔力持ち”になっていた。
その莫大な魔力は、もともと自分が持っていた付与魔力に、封印されていた冒険者の魔力が重なってしまった結果らしい。
だが、それが不幸の始まりだった。
世界を恐怖で支配する集団――「世界を束ねる管理者」。
彼らに目をつけられてしまった知里は、巻き込まれたくないのに狙われる羽目になってしまう。
さらに、人を疑うことを知らない純粋すぎる二人と行動を共にすることになり、望んでもいないのに“冒険者”として動くことになってしまった。
金を稼ごうとすれば邪魔が入り、巻き込まれたくないのに事件に引きずられる。
面倒ごとから逃げたい守銭奴と、世界の頂点に立つ管理者。
本来交わらないはずの二つが、過去の冒険者の残した魔力によってぶつかり合う、異世界ファンタジー。
※小説家になろう・カクヨムでも更新中
※表紙:あニキさん
※ ※がタイトルにある話に挿絵アリ
※月、水、金、更新予定!
最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした
新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。
「もうオマエはいらん」
勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。
ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。
転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。
勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)
クラス全員で転移したけど俺のステータスは使役スキルが異常で出会った人全員を使役してしまいました
髙橋ルイ
ファンタジー
「クラス全員で転移したけど俺のステータスは使役スキルが異常で出会った人全員を使役してしまいました」
気がつけば、クラスごと異世界に転移していた――。
しかし俺のステータスは“雑魚”と判定され、クラスメイトからは置き去りにされる。
「どうせ役立たずだろ」と笑われ、迫害され、孤独になった俺。
だが……一人きりになったとき、俺は気づく。
唯一与えられた“使役スキル”が 異常すぎる力 を秘めていることに。
出会った人間も、魔物も、精霊すら――すべて俺の配下になってしまう。
雑魚と蔑まれたはずの俺は、気づけば誰よりも強大な軍勢を率いる存在へ。
これは、クラスで孤立していた少年が「異常な使役スキル」で異世界を歩む物語。
裏切ったクラスメイトを見返すのか、それとも新たな仲間とスローライフを選ぶのか――
運命を決めるのは、すべて“使役”の先にある。
毎朝7時更新中です。⭐お気に入りで応援いただけると励みになります!
期間限定で10時と17時と21時も投稿予定
※表紙のイラストはAIによるイメージです
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
