プラネット・アース 〜地球を守るために小学生に巻き戻った僕と、その仲間たちの記録〜

ガトー

文字の大きさ
132 / 264
5年生 3学期 2月

マジック・フリー

しおりを挟む
 こちらを見てニヤニヤしているノーム。
 あいつ、まだまだ余裕だな……きっと、まんまと僕が〝罠〟に掛かるとでも思っているんだろう?
 目の前に、普通の人なら死んじゃうような〝結界〟が3枚あるのは、ブルーに聞いて知ってるんだぞ。
 ……僕はそんなものに触ったって死なないんだけどな。

「ちょっと良いかな、大精霊ノーム様?」

 僕はピタリと立ち止まり、ノームに話しかける。
 ブルーによると、結界まではあと10歩ぐらいだ。ここらでちょっとらせてやろう。

『何だ小僧。命乞いなら聞かんぞ?』

「それはいいよ。僕もお前の命乞いを聞く気は無いし」

 ノームは眉をひそめた後、おもむろに両手を広げ、呪文を詠唱する。おっと、何をするつもりだ?

あるじよ。わたくしめが黙らせましょうか?』

「いや、いいよパズズ。とりあえず、コイツが僕の〝正体〟に気付くまで、遊んでやるさ」

 要らないかもだけど、今回は〝対魔法用〟の訓練だ。それに、コイツの魔法を……

「達也くん、それは催眠系の精霊魔法だ! 眠らされてしまうぞ!」

 エーコが叫ぶ。
 ……おっと、からで来たか。頭良いな。
 でもまあ、面白そうだから付き合ってやろう。

「何をしているんだ達也くん! 早く対抗魔法を!」

「エーコ。達也さんは、魔法を使えないわよ?」

「何だって?! 魔法を使えない奴が、どうやって悪魔からあんたを助けたんだよ?!」

 世界観を壊しちゃってごめんなさい。〝殴る蹴る〟で助けました。

「フフ。見ていれば分かるわ」

 いや、どうかな? 見ててもサッパリ訳が分からない戦いになるかも知れないぞ? 〝あっち向いてホイ〟とか。
 ……しかし、さすがにエーコは〝精霊を宿す剣〟の使い手だけあって、この〝精霊魔法〟とやらを、よく知っているみたいだな。
 僕には、なんて発音してるのか、読み取れさえしないのに。

『永遠の眠りにつくが良い!』

 ノームの頭上から現れた、何かモヤモヤした物にまとわり付かれる。
 これを食らうと一般的には眠くなるのか? でも、〝不眠不休〟を持つ僕には、やっぱり全然効かないな。

「達也くん!」

 エーコの悲痛な叫び声が響く。

「呼んだ?」

「何で寝ないんだ! 達也くん?!」

『眠らないだと?! 一体どうなっている?』

 エーコとノーム、ほぼ同時に叫ぶ。ツッコミ役が二人居るのは、なかなか新しいな。

「最近、不眠症でさ。オッサンの子守唄なんかじゃ、寝れないんだよね」

 不眠症でなくても、オッサンが子守唄を歌う状況なんかで、安心して眠るのは無理だけど。

『ふざけた小童こわっぱめ。先程の圧縮岩弾プレスロックに耐えた事から見ても、複数の魔道具で武装しているといったところか?』

 ん~、ハズレ!
 ……この分だと、正解が出るまで結構なヒントを出す必要がありそうだな。

『どういうカラクリか知らんが、人間風情がいつまでも儂の魔法を防ぎ続けられると思うな!』

 いや、防ぐつもりは無いんだ。僕はこれから、お前の魔法を、片っ端から受けまくる。えっと、例えるならアレだ。〝打たせ湯〟? 

『タツヤ。考えたね。魔法を受ければ受けるほど、キミの魔力の上限が上がる』

「フフフ。気付いたかブルー」

 そうなんだ。前に彩歌あやかが言っていたが、魔法による攻撃を受ければ魔力量が上がるらしい。
 最強の精霊魔法を無料タダで受け続けられるなんて、超お得じゃないか!
 ……そうとは知らず、またしても妙な発音の呪文を唱えているノーム。さて、お前は僕をどこまでパワーアップさせてくれるんだ?





 >>>





 ……えっと、あれから5年の月日が流れた。

『タツヤ、それは無い。そこまで私とキミが不在の状態が続けば、さすがに地球が無くなってしまう』

 そりゃそうだ。
 エーコは青い顔で、そして彩歌はうっとりと、こちらを見ている。
 ノームはあれから、10種類ほどの魔法を、それぞれ2~30発、僕に向けて放った。
 さすがは〝大精霊〟。どの魔法も、僕をチクっとさせる程の強力なものだった。

「あはは。タツヤ、その表現は面白いね」

 ……今気づいたけど、僕がダメージを受けた時の〝チクっとする感じ〟は、攻撃の強弱には関係無い気がするな。
 一律に同じぐらいだ。

『キミは地球と同じ強度を持っていて、通常のダメージで痛みを感じる事などない。しかし、攻撃を受けたにも関わらず何も感じないというのは、生物として不自然だし、万が一の危険を察知できない恐れがある。その為、ある一定のダメージを受けた場合、それに気付くようにチクリとした感覚を受けるように出来ている』

 そうだったのか。
 まあ、痛いってわけでもないし、悪意のある攻撃に対して全く気付かないというのは問題だしな。
 おや? またチクっとした。さすがにそろそろネタ切れか?

『ぬうう……! お前はどうやって儂の魔法を防いでいるのだ?!』

 いやいや、防いでないって。
 ずっと〝源泉掛け流し〟だぞ?

「ノーム、もうネタ切れか? それならそろそろ、こっちから行くぞ?」

 1歩、2歩と、近づく僕を見て、ニヤリと笑うノーム。
 あからさまだな。そんなんじゃ〝罠が仕掛けてあります〟って言っているようなもんだぞ。

『タツヤ。あと8歩進むと、結界に接触するよ。解除しようか?』

 小さい声で、ブルーが言う。ノームには聞こえていないだろう。僕も小声でささやく。

「ブルー、その結界って、僕が殴って〝派手にぶっ壊す〟とか、出来ない?」

『残念ながら、物理的な干渉は出来ない。今のキミでは、素手による攻撃での破壊は不可能だ』

 そっか、残念だ。カッコ良くパンチで粉々にしたら、面白いと思ったんだけどな……
 ……あ! イイこと思いついた!

「ブルー、じゃあさ、タイミングを合わせて……」

『……なるほど。タツヤ、やはりキミは面白い事を考えるね。では、あと2歩進んだら、立ち止まって目の前にこぶしを突き出してほしい』

 ノームのニヤニヤが最高潮に達した。
 ……ああ気持ち悪い。
 だが残念だったな。お前が思っているような事にはならない。
 なぜなら僕は、ここでピタリと立ち止まり、いつものあの技を繰り出してしまうからだ。

「アース・インパクト!」

 そう。いつもの〝ただのパンチ〟。
 しかも今回は、見えない壁を、思い切りぶん殴った〝フリ〟だ。
 ……と同時にブルーが、お正月の時の要領で、結界を強制解除する。
 パリン! という音と共に、ガラスのように、結界は粉々に割れ落ちた。
 パッと見、僕が殴って砕いたように見えただろう。

『な……何だと!? 馬鹿な……! 小僧、お前何をした!?』

「あれ? 分からなかった? じゃあ、あと2回やるから、よーく見てろよ」

 残る2つの結界も、同じように砕いてみせる。驚きを隠せないノーム。作戦成功だ。

「アヤ! 何だ今の? あんなの見たこと無いぞ!?」

 彩歌あやかに食って掛かっているエーコ。

「そうね。私も初めてみたわ」

 クスクスと笑う彩歌。さすがにもう、これ位では驚かないか。

『おのれ……! 小僧! 魔法の効果を無効にする何かを持っておるな?』

 わなわなと小刻みに震えながら、イラついたようにノームが叫ぶ。
 でも残念! それもハズレ。
 ……いよいよネタばらししちゃおうかな?

しおりを挟む
感想 142

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

チート魔力はお金のために使うもの~守銭奴転移を果たした俺にはチートな仲間が集まるらしい~

桜桃-サクランボ-
ファンタジー
金さえあれば人生はどうにでもなる――そう信じている二十八歳の守銭奴、鏡谷知里。 交通事故で意識が朦朧とする中、目を覚ますと見知らぬ異世界で、目の前には見たことがないドラゴン。 そして、なぜか“チート魔力持ち”になっていた。 その莫大な魔力は、もともと自分が持っていた付与魔力に、封印されていた冒険者の魔力が重なってしまった結果らしい。 だが、それが不幸の始まりだった。 世界を恐怖で支配する集団――「世界を束ねる管理者」。 彼らに目をつけられてしまった知里は、巻き込まれたくないのに狙われる羽目になってしまう。 さらに、人を疑うことを知らない純粋すぎる二人と行動を共にすることになり、望んでもいないのに“冒険者”として動くことになってしまった。 金を稼ごうとすれば邪魔が入り、巻き込まれたくないのに事件に引きずられる。 面倒ごとから逃げたい守銭奴と、世界の頂点に立つ管理者。 本来交わらないはずの二つが、過去の冒険者の残した魔力によってぶつかり合う、異世界ファンタジー。 ※小説家になろう・カクヨムでも更新中 ※表紙:あニキさん ※ ※がタイトルにある話に挿絵アリ ※月、水、金、更新予定!

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

クラス全員で転移したけど俺のステータスは使役スキルが異常で出会った人全員を使役してしまいました

髙橋ルイ
ファンタジー
「クラス全員で転移したけど俺のステータスは使役スキルが異常で出会った人全員を使役してしまいました」 気がつけば、クラスごと異世界に転移していた――。 しかし俺のステータスは“雑魚”と判定され、クラスメイトからは置き去りにされる。 「どうせ役立たずだろ」と笑われ、迫害され、孤独になった俺。 だが……一人きりになったとき、俺は気づく。 唯一与えられた“使役スキル”が 異常すぎる力 を秘めていることに。 出会った人間も、魔物も、精霊すら――すべて俺の配下になってしまう。 雑魚と蔑まれたはずの俺は、気づけば誰よりも強大な軍勢を率いる存在へ。 これは、クラスで孤立していた少年が「異常な使役スキル」で異世界を歩む物語。 裏切ったクラスメイトを見返すのか、それとも新たな仲間とスローライフを選ぶのか―― 運命を決めるのは、すべて“使役”の先にある。 毎朝7時更新中です。⭐お気に入りで応援いただけると励みになります! 期間限定で10時と17時と21時も投稿予定 ※表紙のイラストはAIによるイメージです

処理中です...