プラネット・アース 〜地球を守るために小学生に巻き戻った僕と、その仲間たちの記録〜

ガトー

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5年生 3学期 2月

命がけプリンセス

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 俺は今、ユーリにお姫様抱っこされたまま、猛スピードで悪魔を追いかけている。
 ……なんなんだ、この状況?

「やー! あいつ、チョーはやい! すごー!」

「いやいや。お前の方がよっぽどスゴいぜー。俺を抱えたまま、2時間近く走りっぱなしだろー?」

 ……おっと、こんな体勢のままで悪いが、俺だぜ? 九条大作くじょうだいさくだ。
 俺とユーリと栗っちの3人は、たっちゃんと藤島さんの〝魔界行き〟に、こっそりついてきたんだ。
 〝ふたりのラブい感じをギリギリまで見届けよう〟って……いやいや、俺じゃないぜ? ユーリが言いだした事だ。

「えへへー! でも、ついて来て正解だったね!」

 ユーリと並んで高速移動中の栗っちもスゴい。
 この2人、生身なのにジェットコースターなんかとは比べ物にならないくらい速い。

「ユーリ、頼むから落とさないでくれよなー……」 

 今朝、たっちゃんたちを送り出したあと、ユーリのヤツ、いきなり俺を抱きかかえて〝じゃ、行こうか!〟って言って、そのままずっとこの調子だぜ? 最初は何が起きたのか分からずパニックだ。

「ビックリしたよね。〝栗っちも行こう!〟って言って、そのまま一直線だもんね!」

「そう言われてついて来る……いや、むしろついて来れる栗っちも相当なもんだけどなー!」

 たっちゃんたちと同じ電車やバスに乗るとバレちまうからって、山越えはするわ、屋根の上や木の上とかをピョンピョン飛ぶわで、とにかく俺を抱えたまま走りっぱなしだ。
 せめて変身させてくれ、死んじまう。

「やー! そっか、大ちゃん変身すればいいんだ!」

「おいおい。俺、4回言ったぞ?」

 この時点までで、ターゲットは〝たっちゃんと藤島さん〟から〝悪魔〟に変わったにもかかわらず、ユーリは獲物を追う猛獣のように集中していて、俺の言葉など、聞こえていない。

「まあ、大ちゃんはこのまま抱っこで良いんじゃない? 私は平気だし。ね?」

「ね? じゃないぜ。俺が恥ずかしいんだ。あと、落とされたら死ぬからな?」

 ……って、もう聞いてないな。
 ちなみに、遭遇した時に居た悪魔は3匹。先に攻撃してきたのは向こうだ。

「こんにゃろー! 急に襲ってきやがってー! たっちゃんとアヤちゃんが魔界のゲートをくぐる所、見れなかったじゃんか!! ユーリちゃん怒ったんだからな!」

 というセリフの後なのに、ユーリは満面の笑みで襲いかかる。
 最初に犠牲となった悪魔は、呪文を唱える間もなく、ユーリの餌食となった。
 ……あ、餌食って言っても、食ってないぜ? たとえだぞ、例え。
 確かに〝美味しいんかな?〟とは言ってたけど。必死で止めたけど。

「で、念のため僕が、とどめを刺したんだよね」

 悪魔は殺された時、〝呪い〟を残すらしい。
 神様には呪いが効かないから、最後の一撃は栗っちに任せるのが安全だ。

「でも、どこに向かってるんだろう? あの子たちの思考は読めないけど、ほぼ一直線に進んでるよね」

 さすが栗っち。気付いていたかー!

「やー! まじでー? そうでも無いんじゃない?」

 さすがユーリ。気付いてないと思ったぜー!

「俺の記憶では、この方角はアレだなー……」

 山岳地帯を、平地と同じ速度で移動し続ける。
 悪魔はさておき、ユーリも栗っちも、どんな体力してるんだ? 

「……っていうか、そろそろ変身させてくれないか?」

 大木から大木へと飛び移っていくユーリ。恐怖感が麻痺してきたのが、逆に恐怖だ。

「まあまあ、遠慮せずに!」

「遠慮じゃないんだ。命の危機なんだ!」

「大ちゃんと一緒なら私、死んでもいい!」

「いやいやいや! 死ぬのは俺だ! お前は死なない!」

「〝お前の事は俺が守る!〟 的な?! 大ちゃん! 愛してる!!」

「ちがうちがう! お前わざとやってるんじゃないか?! い、痛たたたたた! 抱きしめないでくれ! 本当に死んじゃうだろー!」

「えへへー! ふたりとも、アツアツだね」

「ちょ! 栗っち! 助け……あ痛たたたたたた!!」

 ……俺たちは悪魔を追いながら、人里離れた山奥へと突き進んで行った。俺は相変わらず変身できないままだ。もう、好きにしてくれ。





 >>>





 しばらくすると、巨大な人工構造物が視界に入った。

「やっぱりな。ここが目的地だと思ったぜー!」

 瀬之宮せのみやダム。一級水系、佐波川水系さなみがわすいけい上津川かみつがわに建設された多目的ダムだ。

「ふわあ! ダム! ダムダム!!」

 ユーリ……もっと何か無いか? 気持ちは分かるけどな。

「あの子たち、ここを目指していたの?」

「たぶんなー。俺の記憶では、確かこのダムは……」

 と、言いかけた時、悪魔が二手ふたてに分かれた。おいおい、マズいな!

「2人とも、よく聞いてくれ。このダムは下流が3つに分かれていて、その先にはそれぞれ大きな都市がある。あの悪魔たちの目的は、ダム湖の底だ。水を抜くために、きっとこのダムを壊そうとするだろう」

「……〝だむこ〟って何?」

 ああー、そこからかユーリ。

「元々ある小さな川を、コンクリートの壁でき止めて出来たのがダム湖だぜー」

「へぇぇ! さっすが大ちゃん! 物知り過ぎるよ!」

 ……時間が無いのでツッコミは無しだ。

「で、このダムが建設される前に、川の周辺に町があったんだが……」

「えええ?! 町が水の底に? 町の人たちは?! ひどいよ! あんまりだよー!」

「いや待てユーリ。もちろん町の人たちは立ち退いたぞ? なんで水攻めにするんだ!」

「やー! 良かったよ! あいつにも、人の心は残ってたんだ!」

 どいつの話だよ? 時間がないって言ってるだろー。ほっといて次行くぞ!

「で、俺の記憶では、ここにあった町の名は、威吁都町いくつちょう。何の問題も無い、ごく普通の町だった。けど……」

 栗っちが、ハッとした表情でダムの方を見る。

「大ちゃん。ここ、何か〝良くないもの〟が居るよね……?」

 さすが栗っち。気付いたのか。

「良くないものって? うなぎと梅干しみたいな?」

 このタイミングで、よく〝食い合わせ〟の話が出てきたなユーリ。天才か!
 いや、めてないから。ベロ出すなよ、かわいいな!

威吁都町いくつちょうの神社には、大昔おおむかし、国をも傾ける程の被害をもたらした、妖怪ようかいが封じられたという言い伝えがあるんだ。良くある昔話だけど……」

 そう。ここまでの話は、むかし訪れた〝郷土史資料館〟で普通に展示されていた〝おとぎ話〟だ。何の変哲もない創作だろう。

「やー! それ、聞いたことある!」

 けど、この話は〝バベルの図書館〟の蔵書にも〝史実〟として載っている。
 こっちは二人には言えないぜ。〝持ち出し禁止〟の情報だ。
 ……下手に喋ろうとすれば、途端に俺の記憶から消えちまう。

「たぶん、悪魔はその妖怪を狙ってるんだぜー!」

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