プラネット・アース 〜地球を守るために小学生に巻き戻った僕と、その仲間たちの記録〜

ガトー

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5年生 3学期 2月

水底の獣

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 俺は悪魔。
 魔界から来た。
 名前は……お前らニンゲンには、聞き取れないし、理解もできないだろうから名乗りようがない。
 ……それにしてもこいつら、何なんだ?
 ただのガキではない。
 隙を見て逃げようにも、見た事のない〝光る拘束具〟で雁字搦がんじがらめにされて、身動きが取れない。

「大人しくしていれば、命までは取らない。お前は貴重な〝研究対象〟だ」

 嘘だな……俺はこの後、ひどい拷問を受けて、八つ裂きにされるだろう。
 こいつらが、何も知らない〝アガルタ〟のガキだと思って油断した。
 きっと魔界にいる魔道士どものように、我々の呪いを無効化する方法を知っているのだろう。
 なぜなら……

「どうぞ、こちらです。念のために言っておきますが、呪文を唱えようとしないで下さいね。僕は無益な殺生をしたくはありません」

 声と動きでわかるぞ。
 この緑のガキに、同胞は2体とも殺されてしまったのだ。
 同胞の呪いが掛かっていれば、いまこの時点で間違いなく死んでいるはずだ……だが、こいつは未だに生きている。

「にゃー! グズグズしてるんじゃない! キビキビ歩けー!」

 そしてこの黄色いヤツが一番厄介だ。
 出会ってから今に至るまで、凶悪な殺気しか感じない。
 どれだけの修羅場をくぐれば〝ニンゲンの子ども〟がこれ程の〝徹底した殺意〟をれるのだ?

「あまり悪く言わないであげて下さい。イエローには〝地球人を守るためなら、どんな事でもする〟という〝覚悟〟があるのです」

 むう。どういう事だ?
 緑のヤツ、さっきから徐々に、俺の考えている事を見透かすようになってきているぞ?

「〝理解〟が深まったのですよ。人も悪魔も、僕の前では等しく心を開くことになります」

 冗談じゃない。得体の知れないガキどもめ、俺をどうするつもりだ?
 ……あと、コイツらの後をついてくる、巨大で恐ろしい威圧感を秘めた獣は何なのだ? 

「さあ、着きましたよ。ここなら観覧するには丁度良いでしょう」

 ダムの一番上。
 貯水湖を一望できる、アーチ型の通路に出た。
 こんな所に連れ出して、一体何をしようというのだ?

「〝凶獣〟とは、どういう物なのか、教えて頂けませんか?」

 ふん……! 知らないな。知ってても教えるか!

「……分かりました。はるか昔、悪魔たちによって、こちらの世界に放たれた〝凶獣〟は、国中から集められた、その時代の術者たちの手によって封印されたのですね?」

「このガキ! 俺の思考を読むな!」

「やっと口を開いてくれましたね。ではあなたが話して下さい。その〝凶獣〟と、封印の事を」

 ……どうせお前は、もうすでに俺の心をのぞいて全てを知っているのだろう。
 まあいい。俺が話そうが話すまいが、同じ事だ。

「はるか昔。ニンゲンの術者たちによって施された忌々しい封印は、時の流れと共に弱まり、やがて限界が訪れた。このままでは勝手に封印は解ける。しかし〝凶獣〟に封印を施せる術者は、この時代にはもう居ない……この国の政府は〝凶獣〟の弱点である〝大量の水〟で、結界を補強する事にしたのだ」

 このダムの建設は、表向き、渇水対策やエネルギー供給用とされているが、実は〝凶獣〟を封じるために作られた、人工の池だ。

「なるほど。分かったぞグリーン。という事は、やるのだな?」

「はいレッド、お察しの通りです。ここを狙って悪魔が頻繁にやって来るというのは、良くないですからね」

 ……? 何を言っているのだ。お前たちに出来るのは、いずれ訪れる〝凶獣〟復活の日を、震えて待つ事ぐらいだぞ?

「……? にゃに言ってるのん? 私たちにできるのは、この悪魔をぶっ殺して、帰ってミカンを食べることぐらいにゃよ?」

 黄色いヤツはもう、俺を殺したいだけじゃないのか?

「聞いて下さい、レッド、イエロー、クロ。本来なら、アースとピンクを待った方が良いのでしょうが、下手をすれば、次の悪魔がやって来てしまうかもしれません。いまこの場で、終わらせます。良いですね?」

「望むところだグリーン。正義は負けはしない」

 腕を組んで大きくうなずく、赤。

「にゃー! そういう事かー。早く言ってくれれば良いのにさー!」

 ポキポキとこぶしを鳴らして嬉しそうな、黄色。

 巨大な獣も、一声吠えると静かにうなずく。

「おい、一体何をしようと言うのだ?」

「あなたがた悪魔が、ここに来る理由を、無くします」

 そう言って、緑のガキは貯水湖に手をかざした。一体何を……

「水が邪魔なので、ちょっと退けておきます」

 ?! こ……この音は何だ? 遠くからとも、近くからとも分からない、身震いするような轟音が響く。
 そして徐々に、湖の水面が、左右に割れていく。俺は何を見せられているんだ?!

「〝凶獣〟が封じられている神社が見えました。さあ、始めますよ」

 この国の政府がやったのだろう。
 〝凶獣〟の封じられている岩は、ニンゲンがよく使う〝コンクリート〟で丸く固められていた。

「こ……こんな事が?! いや、それよりまさか〝凶獣〟の封印を解こうというのか?!」

 コンクリートに亀裂が入り、封印に使われていたであろう大岩が露出する。

「ば、馬鹿め! 一度封印を解いてしまえば、水を流し込もうが〝凶獣〟には効かんぞ? いくらお前たちが強かろうが、神にも匹敵する程の力を持つ相手に、どうあらがおうというのだ?!」

「にゃー。バッカじゃにゃい? 〝抗う〟って何いってるのさー?」

「私たちは、地球を守るために戦い、勝利する。それだけだ」

「ガウ」

「そうですねクロ。あなたの言う通りです。でも、油断はしないで下さいね?」

 身の程知らずの大馬鹿者どもめ! こんな幸運があるだろうか。こいつら自分たちで、勝手に封印を解こうとしてやがる! さあ〝凶獣〟よ、早く目覚めてガキどもを殺してしまえ!

「ヴァロヴァロヴァロヴァロ!!」

 封印は解かれた。
 砕けた巨岩の底から、恐ろしい咆哮と共に、禍々しくも美しい姿の巨大なけものが現れる。
 3つの首を持ち、その全ての口から岩をも溶かす豪炎を吐く狼だ。

「素晴らしい! これが〝凶獣〟! ……終わりだ。もう誰も止めることは出来んぞ!」

 止められるものなど居るものか! なんという負の波動! なんという生命力のみなぎり!

「はっは。いざ出してみれば……この程度で〝神に匹敵する〟か。グリーンの力も、安く見積もられたものだな」

「まあまあ、レッド。〝神の力〟を計れる物差しなど、そうそう無いのですよ」

 何を言っているのだコイツらは?
 あの姿を見て、なぜこんなにも余裕があるんだ?

「さて……グリーン。レッドキャノンは使えない。威力が強すぎて、ダムを傷つけてしまうかも知れない」

「それでは、アレをやってみますか?」

「了解した。タイミングはそちらに合わせよう。イエロー、クロ君。20秒だけ、〝凶獣〟を足止めしてもらえるだろうか」

「にゃー! お安いご用だよー! 先に殺しちゃったらゴメンにゃ?」

「ガウ! ガフン!」

「では行きますよ……! いち、に、の!」

「さん!!」

 黄色いガキと獣が飛びかかった。
 〝凶獣〟が撒き散らす炎が、周囲を焼き、水の壁に触れて水蒸気が巻き起こる。
 何なんだ、あの動きは! 早すぎて目で追えない!

「よし、行きますよレッド!」

「了解だ、グリーン!」

 赤いガキの両腕から、小さいつつの様な物がバラバラと撒かれる。緑が両手をかざすと、全ての筒は空中でピタリと止まり、筒の先から光のおびが伸びる。
 あれは……剣なのか?!

機聖融合きせいゆうごうの一撃! ダンシング・ブレード!!」

 次の瞬間、生き物のようにおどり狂う12本の光の剣が〝凶獣〟を切り刻み、断末魔が山々に響き渡った。





 >>>





 貯水湖の水は、大きな音と共に元に戻り始めた。
 空中に浮かんだ〝銀色の筒〟が、キレイに整列したかと思うと〝赤い化け物〟の腕に収納されていく。
 ……な、何なんだ?
 こいつら〝魔道士〟でも〝術者〟でもないぞ?!
 
「グリーン、見事な剣舞けんぶだったぞ」

「レッドこそ、10本ものブレードに、あの威力を蓄え、出力させるとは。恐れ入りました」

「にゃー! クロも、なかなかやるじゃんか!」

「ガウ! グルルルル!」

 お互いを称え合うバケモノども。
 やがて、俺に近づいてきた〝緑のバケモノ〟は、穏やかな口調でポツリと告げる。

「分かりましたよね? あなたたちは、こちらに来ないほうが良い」

 ……我々の作戦は、文字通り水泡に帰したのだ。

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