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5年生 3学期 2月
ワゴンセール魔道士と熟練初心者
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「魔法はね、巻物を開封した人に取り憑くのよ」
なにそれ、怖い……!
「達也君、魔法は本来、巨大な祭壇とか、複雑な魔法陣を完璧に準備して、大変な儀式を執り行うことによって発動するものなんだよ。その面倒な色々を、簡単な呪文だけでやれてしまうようにしたのが巻物なんだ」
術者が死ねば、体内に取り込まれた巻物は元の姿に戻るらしい。
「巻物は、術者の体の中に、擬似的な祭壇や魔法陣を作り出すの。呪文を唱えれば、儀式は自動的に執行されて、魔法が発動するわ」
僕が今回買ったのは〝治癒連鎖〟、〝共睡眠〟、〝呪病変換〟の他に、あと2つ。
まず、触れている物を一定時間、自分自身と同じ強度にする〝接触弱体〟
「この魔法は、生き物には効かない。硬い甲羅や皮膚を持った生き物ではなく、鎧や盾を装備した相手向けに作られたのかもしれないね。けど、自分の装備も弱くなっちゃ、意味がないからなあ」
敵の装備や、破壊したい障害物に触れて呪文を唱えるだけで、対象を〝術者の肌の硬さ〟に出来る。確かにスゴい魔法だけど、自分が着ている鎧や服にまで効果が及ぶ。
「しかも、触れている面積が大きければ大きいほど、長い時間、効果が続くんだ」
つまり、敵に手のひらを当てて呪文を唱えても、相手の装甲より、自分の着込んでいる装備の方が、長時間、弱体化することになる。肉薄しなければならない上に、自分の方が不利になる。こんな役立たずな魔法、普通の人は買わないだろう。
「うーん。逆に値上げしたいぐらいだねえ!」
苦笑いしながらマスターが言った。
……もう、とっくにお気付きだと思うけど、僕がこの魔法を使えば、数十秒間、触れた物を〝星の強度〟にする事が出来る。最強の強化魔法だ! しかもなんと980円。
「達也さん〝接触弱体〟は分かるけど、そっちのは?」
「ああ。ちょっと試してみたい事があってね!」
僕が持っているこの巻物は〝阿吽帰還〟という魔法らしい。でも、名前以外は詳しくは分かっていないそうだ。
「瞬間移動系の魔法だ。呪文を唱えた位置まで、一瞬にして戻ってしまうんだが、そのタイミングが、イマイチ分かっていないんだよ」
数歩進んで戻ることもあれば、瞬きをする間も無く戻る事もあるらしい。遠くまで移動できないし、魔力を多く使う上に、再使用に丸1日は掛かるという、使い道の全くない魔法だ。
「触れている人も物も一緒に戻るから、もっと長く効果が続けば、スゴく便利な魔法なんだけどね」
これはさすがに役に立たないだろうと、ニヤッと笑うマスター。
「達也さん、もしかして何か思いついたの?」
「まあね。今回の探検で試してみるから、楽しみにしてて」
リロードに1日も掛かるし、テストは出来ないから、ぶっつけ本番でやってみよう。
僕の考えが間違っていれば、ただの役立たず魔法。980円の大損害だ。
「それじゃ早速、魔法を覚えてみるかい?」
マスターは〝治癒連鎖〟の巻物を僕に差し出した。
「達也さん。中央の石を外してみて?」
僕が水色の石を引っ張ると、何重にも縛られていた赤い紐が勝手に解け、巻物はスルスルと空中に広げられていく。
「うわ!? 生き物みたいだな!」
次の瞬間、巻物は、音も立てずに消えた。え? 何が起きたの?
「これで君は〝治癒連鎖〟を覚えたよ」
「今ので?! 取り憑くって言ってたから、巻き付いてきたり、体に入ってこようとしたりするかと思ってたのに!」
「あはは! 達也君は面白いね! そんな怖い物だと思ってたんだ。大丈夫。君の体内にはもう〝治癒連鎖〟を使うための準備が出来上がっているよ」
「ホントですか?! えっと、どうやれば?」
「〝魔法を使いたい〟と、念じてみて?」
僕が念じると、意識の底の方に言葉が浮かんできた。
なぜだろう。〝治癒連鎖〟と書いてあるわけではないのに、不思議とその文字列が〝治癒連鎖〟を表している物だと分かる。
「達也さん、文字が見えた? それが〝治癒連鎖〟だとわかったなら、次は〝治癒連鎖を使いたい〟と念じるの」
彩歌に言われた通りに、文字に意識を集中する。
「HuLex UmThel cHnheAl iL」
うわわわ! 口が勝手に動いて、喋ってしまった?! どうなってるんだ?
「ふふ。驚いた? アシスト機能が付いているから、今の方法で呼び出せば、呪文を覚えなくても魔法が使えるわ」
……気が付くと、何やら水色い玉が僕の頭上に浮かんでいる。これが魔法か!
しかし超便利だな。実は呪文を覚えられるかどうかが、一番心配だったんだよ。
「もちろん、呪文は覚えた方が良いんだけどね。一瞬の詠唱の遅れが命取りになる時もあるからさ」
マスターの言う通り、アシスト機能を使って唱えた呪文は、いつも聞いている彩歌の詠唱より、かなりスローテンポだった気がする。
「おっと、続きをやろうか……とはいえ、今は怪我人が居ないから、その魔法はコイツに入れてもらおう」
店長がカウンターに置いたのは、六角形の石。表面はツルツルで、手のひらぐらいのサイズだ。
「畜魔石?! すごい!」
珍しそうに、石を見つめる彩歌。
「彩歌さん、これは?」
「この石に魔法を使うとね、その魔法を吸収して、好きな時に使うことが出来るの。超お高いんだから!」
なんと、これ一個で城が建つらしい。いや城ってもう、想像のしようがないな。
「凄いだろう。その〝治癒連鎖〟を見つけてきた探検者が、ウチに売りに来た時に預けて行ったんだ。無駄に試し撃ちするぐらいなら、入れてもらってくれと言ってね。それに対する報酬も、ちゃんと預かってるよ」
なるほど、そういう事なら……えっと、たぶん〝使役:土〟と同じだよな。
僕は頭上の青い玉の行き先を、畜魔石に指定する。
青い玉は、スゴいスピードで飛び、石に吸い込まれていった。
「ありがとう、達也君。これが報酬の福引き券50枚だ。新年祭で5回、福引きが出来るよ。良い物が当たると良いね」
ここに来て、まさかの福引き券?
急にファンタジーから現実に引き戻された気が……しないのは、昔遊んだ、某有名RPGのせいだろう。あのゲームは福引きで便利なアイテムを手に入れる事が出来た。序盤はむしろ、経験値集めより、福引き券集めをしていたな。
「良い物もらっちゃったね! 新年祭の福引きは景品がすごく豪華なのよ!」
「……でもさ、当たらなければ唯の紙クズだよね、これ」
結局ゲームでは、1等をゲットできなかったし……栗っちは1発目で当ててたけど。
「……ああ! そっか!」
「ふふ。豪華景品、もらったも同然じゃない?」
さすが彩歌さん。気付いてたのか! そういえば僕たちには〝福引きの神〟がついているんだったな!
「さあ達也君、残りの魔法も、全部覚えようか?」
僕は、残る4つの魔法を全て開封した。
……フフフ、これで僕も魔道士だぜ!
『タツヤ、大半が、980円の魔法だ。ある意味チートだね』
……そう言えばそうだな。なんて安上がりな魔道士なんだ。
「あと、これを持って行って欲しい」
マスターが僕に渡したのは、見覚えのある巻物。
「これは!」
〝夢幻回廊〟だ。なんで僕にこれを?
「亡くなったウチのじいちゃんがね、その魔法を眺めながら言ってたんだ。〝この魔法が生き甲斐だ〟って、ずっとね。親父も私も、たぶんそうだったんだよ。〝大地の王〟の真実を知りたかったんだ。それが叶ったから、この店にはもう、その魔法は必要ない」
「マスター……」
「まあ本当は、その魔法の力で叶って欲しかったっていうのが正直な所だけどね。でも、君には本当に感謝しているんだ。その魔法は、家宝であり、死に在庫であり、呪縛だった。今は清々しい気分だよ! だから、大地の王と一つになった君に、それを持って行って欲しいんだ。使うなり、売るなり、燃やすなり好きにしてくれて構わないからさ」
「……分かりました。有り難く、頂いて行きます! あと、僕とブルーの事は誰にも言わないで下さい」
「もちろんだ。こう見えて私は、口が硬いんだよ?」
人差し指を口の前に立ててニッコリ笑うマスター。
そして丁度、僕がマスターから〝夢幻回廊〟の巻物を受け取った時、カランコロンという音と共に扉が開いて、見覚えのある男性が入って来た。
「いらっしゃいま……やあ、あなたでしたか! 〝治癒連鎖〟の魔法、売れましたよ! 丁度、この少年に、買って頂いた所です。蓄魔石にもほら、ちゃんと魔法を掛けてもらいました」
どうやらこの人が〝治癒連鎖〟を売り、畜魔石をマスターに預けたみたいだな。だけど……
「おお! それは良かった。どうも有難うございま……あれ? あなた方は先程の」
探検者の初心者講習で一緒だった、織田啓太郎さんだ。
この人、初心者のはずなのに、なんで〝治癒連鎖〟を売ったり、畜魔石を持ってたりするんだ?
なにそれ、怖い……!
「達也君、魔法は本来、巨大な祭壇とか、複雑な魔法陣を完璧に準備して、大変な儀式を執り行うことによって発動するものなんだよ。その面倒な色々を、簡単な呪文だけでやれてしまうようにしたのが巻物なんだ」
術者が死ねば、体内に取り込まれた巻物は元の姿に戻るらしい。
「巻物は、術者の体の中に、擬似的な祭壇や魔法陣を作り出すの。呪文を唱えれば、儀式は自動的に執行されて、魔法が発動するわ」
僕が今回買ったのは〝治癒連鎖〟、〝共睡眠〟、〝呪病変換〟の他に、あと2つ。
まず、触れている物を一定時間、自分自身と同じ強度にする〝接触弱体〟
「この魔法は、生き物には効かない。硬い甲羅や皮膚を持った生き物ではなく、鎧や盾を装備した相手向けに作られたのかもしれないね。けど、自分の装備も弱くなっちゃ、意味がないからなあ」
敵の装備や、破壊したい障害物に触れて呪文を唱えるだけで、対象を〝術者の肌の硬さ〟に出来る。確かにスゴい魔法だけど、自分が着ている鎧や服にまで効果が及ぶ。
「しかも、触れている面積が大きければ大きいほど、長い時間、効果が続くんだ」
つまり、敵に手のひらを当てて呪文を唱えても、相手の装甲より、自分の着込んでいる装備の方が、長時間、弱体化することになる。肉薄しなければならない上に、自分の方が不利になる。こんな役立たずな魔法、普通の人は買わないだろう。
「うーん。逆に値上げしたいぐらいだねえ!」
苦笑いしながらマスターが言った。
……もう、とっくにお気付きだと思うけど、僕がこの魔法を使えば、数十秒間、触れた物を〝星の強度〟にする事が出来る。最強の強化魔法だ! しかもなんと980円。
「達也さん〝接触弱体〟は分かるけど、そっちのは?」
「ああ。ちょっと試してみたい事があってね!」
僕が持っているこの巻物は〝阿吽帰還〟という魔法らしい。でも、名前以外は詳しくは分かっていないそうだ。
「瞬間移動系の魔法だ。呪文を唱えた位置まで、一瞬にして戻ってしまうんだが、そのタイミングが、イマイチ分かっていないんだよ」
数歩進んで戻ることもあれば、瞬きをする間も無く戻る事もあるらしい。遠くまで移動できないし、魔力を多く使う上に、再使用に丸1日は掛かるという、使い道の全くない魔法だ。
「触れている人も物も一緒に戻るから、もっと長く効果が続けば、スゴく便利な魔法なんだけどね」
これはさすがに役に立たないだろうと、ニヤッと笑うマスター。
「達也さん、もしかして何か思いついたの?」
「まあね。今回の探検で試してみるから、楽しみにしてて」
リロードに1日も掛かるし、テストは出来ないから、ぶっつけ本番でやってみよう。
僕の考えが間違っていれば、ただの役立たず魔法。980円の大損害だ。
「それじゃ早速、魔法を覚えてみるかい?」
マスターは〝治癒連鎖〟の巻物を僕に差し出した。
「達也さん。中央の石を外してみて?」
僕が水色の石を引っ張ると、何重にも縛られていた赤い紐が勝手に解け、巻物はスルスルと空中に広げられていく。
「うわ!? 生き物みたいだな!」
次の瞬間、巻物は、音も立てずに消えた。え? 何が起きたの?
「これで君は〝治癒連鎖〟を覚えたよ」
「今ので?! 取り憑くって言ってたから、巻き付いてきたり、体に入ってこようとしたりするかと思ってたのに!」
「あはは! 達也君は面白いね! そんな怖い物だと思ってたんだ。大丈夫。君の体内にはもう〝治癒連鎖〟を使うための準備が出来上がっているよ」
「ホントですか?! えっと、どうやれば?」
「〝魔法を使いたい〟と、念じてみて?」
僕が念じると、意識の底の方に言葉が浮かんできた。
なぜだろう。〝治癒連鎖〟と書いてあるわけではないのに、不思議とその文字列が〝治癒連鎖〟を表している物だと分かる。
「達也さん、文字が見えた? それが〝治癒連鎖〟だとわかったなら、次は〝治癒連鎖を使いたい〟と念じるの」
彩歌に言われた通りに、文字に意識を集中する。
「HuLex UmThel cHnheAl iL」
うわわわ! 口が勝手に動いて、喋ってしまった?! どうなってるんだ?
「ふふ。驚いた? アシスト機能が付いているから、今の方法で呼び出せば、呪文を覚えなくても魔法が使えるわ」
……気が付くと、何やら水色い玉が僕の頭上に浮かんでいる。これが魔法か!
しかし超便利だな。実は呪文を覚えられるかどうかが、一番心配だったんだよ。
「もちろん、呪文は覚えた方が良いんだけどね。一瞬の詠唱の遅れが命取りになる時もあるからさ」
マスターの言う通り、アシスト機能を使って唱えた呪文は、いつも聞いている彩歌の詠唱より、かなりスローテンポだった気がする。
「おっと、続きをやろうか……とはいえ、今は怪我人が居ないから、その魔法はコイツに入れてもらおう」
店長がカウンターに置いたのは、六角形の石。表面はツルツルで、手のひらぐらいのサイズだ。
「畜魔石?! すごい!」
珍しそうに、石を見つめる彩歌。
「彩歌さん、これは?」
「この石に魔法を使うとね、その魔法を吸収して、好きな時に使うことが出来るの。超お高いんだから!」
なんと、これ一個で城が建つらしい。いや城ってもう、想像のしようがないな。
「凄いだろう。その〝治癒連鎖〟を見つけてきた探検者が、ウチに売りに来た時に預けて行ったんだ。無駄に試し撃ちするぐらいなら、入れてもらってくれと言ってね。それに対する報酬も、ちゃんと預かってるよ」
なるほど、そういう事なら……えっと、たぶん〝使役:土〟と同じだよな。
僕は頭上の青い玉の行き先を、畜魔石に指定する。
青い玉は、スゴいスピードで飛び、石に吸い込まれていった。
「ありがとう、達也君。これが報酬の福引き券50枚だ。新年祭で5回、福引きが出来るよ。良い物が当たると良いね」
ここに来て、まさかの福引き券?
急にファンタジーから現実に引き戻された気が……しないのは、昔遊んだ、某有名RPGのせいだろう。あのゲームは福引きで便利なアイテムを手に入れる事が出来た。序盤はむしろ、経験値集めより、福引き券集めをしていたな。
「良い物もらっちゃったね! 新年祭の福引きは景品がすごく豪華なのよ!」
「……でもさ、当たらなければ唯の紙クズだよね、これ」
結局ゲームでは、1等をゲットできなかったし……栗っちは1発目で当ててたけど。
「……ああ! そっか!」
「ふふ。豪華景品、もらったも同然じゃない?」
さすが彩歌さん。気付いてたのか! そういえば僕たちには〝福引きの神〟がついているんだったな!
「さあ達也君、残りの魔法も、全部覚えようか?」
僕は、残る4つの魔法を全て開封した。
……フフフ、これで僕も魔道士だぜ!
『タツヤ、大半が、980円の魔法だ。ある意味チートだね』
……そう言えばそうだな。なんて安上がりな魔道士なんだ。
「あと、これを持って行って欲しい」
マスターが僕に渡したのは、見覚えのある巻物。
「これは!」
〝夢幻回廊〟だ。なんで僕にこれを?
「亡くなったウチのじいちゃんがね、その魔法を眺めながら言ってたんだ。〝この魔法が生き甲斐だ〟って、ずっとね。親父も私も、たぶんそうだったんだよ。〝大地の王〟の真実を知りたかったんだ。それが叶ったから、この店にはもう、その魔法は必要ない」
「マスター……」
「まあ本当は、その魔法の力で叶って欲しかったっていうのが正直な所だけどね。でも、君には本当に感謝しているんだ。その魔法は、家宝であり、死に在庫であり、呪縛だった。今は清々しい気分だよ! だから、大地の王と一つになった君に、それを持って行って欲しいんだ。使うなり、売るなり、燃やすなり好きにしてくれて構わないからさ」
「……分かりました。有り難く、頂いて行きます! あと、僕とブルーの事は誰にも言わないで下さい」
「もちろんだ。こう見えて私は、口が硬いんだよ?」
人差し指を口の前に立ててニッコリ笑うマスター。
そして丁度、僕がマスターから〝夢幻回廊〟の巻物を受け取った時、カランコロンという音と共に扉が開いて、見覚えのある男性が入って来た。
「いらっしゃいま……やあ、あなたでしたか! 〝治癒連鎖〟の魔法、売れましたよ! 丁度、この少年に、買って頂いた所です。蓄魔石にもほら、ちゃんと魔法を掛けてもらいました」
どうやらこの人が〝治癒連鎖〟を売り、畜魔石をマスターに預けたみたいだな。だけど……
「おお! それは良かった。どうも有難うございま……あれ? あなた方は先程の」
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