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5年生 3学期 3月
すずなり
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守備隊員24人、非戦闘員37人が、この場所に閉じ込められていた。
ここは西の大砦、南ブロックにある守備隊の拠点。
すぐ背後に南門があり、正面には大きな貯水湖。
どうやら先程倒した〝凶獣〟が邪魔で、別のブロックとの行き来が出来なくなっていたようだ。
「ひどい……」
「おいおい、こりゃ……」
全員、痩せ細り、目には生気がなく、会話をするのも辛そうな状態だ。早く何とかしないと……
『タツヤ、食べ物を用意しよう』
『よし、じゃあ僕が!』
『達也さん、この前みたいな木の実だと、ちょっと……』
大砦までの道中。ブルーが地下室で用意した〝たわわに実った生で食べられる美味しい木の実〟をマネて、僕も〝使役:土〟で木の実を作ってみたのだが、出来上がった途端、プチプチと枝から落ち、足を生やして逃げ出したのだ。
『捕まえるの、大変だったわ?』
『タツヤ。ああいう風に作るほうが難しいのだが……キミは本当に面白いね』
逃げ惑う木の実は、捕まえると暴れるし、食べると悲鳴をあげるしで、食料としては些か難ありだった。
でも、勝手にああなっちゃったんだから仕方ないだろ?
『ここに居る人たちには、一刻も早い栄養補給が必要だ。あと、逃げたり悲鳴を上げる木の実の〝説明〟が出来ない』
『……ブルー、頼んだ』
『了解した。非常事態だが、一応、人目につかない場所に用意しよう……あの建物の影がいい』
>>>
『……たわわ過ぎだ! こんな都合の良い植物、無いだろ』
3本の木に、幹や枝が見えないほど実った木の実。
上から下まで隙間なく、みっちりと。
……気持ち悪っ! 〝集合体恐怖症〟って知ってるか、ブルー?
『人数分の栄養を補うには、これぐらいの量が必要だぞ?』
いや、確かにそうなんだけどさ。もっとこう、自然にというか……
『達也さん。ここに偶然、食べられる実があるだけでも、すごく不自然よ?』
彩歌が笑いながら言う。
そうなんだよな……なんかもう、何を隠して何を出せば良いのか、分かんなくなって来たぞ。
『それにタツヤ、キミがやったら、この実が一斉に逃げ出すんだ。その方が大惨事だよ』
それはもう良いって! いつまでも引っ張るなあ。
……まあいいや。
よーし! 急いで収穫してみんなに配ろう。
「……こんな所に何があるんです? おお! その実は!」
「あ、織田さん。すみません。手伝って頂けますか?」
>>>
「う……あ……! 食い……物?! 食い物……だ!」
「おいしい! おいしい! ああっ! 神様!」
「うう……わたしたち、助かった……の?」
「ゆっくり噛んで食べるんだ、まだまだ沢山あるぞ」
木の実を配ると、みんな一斉に食べ始めた。よっぽど空腹だったんだな……
『食べやすいように、水分を多めにして、出来るだけ柔らかく作っておいたよ』
さすがブルー。やっぱこういう時は〝おかゆ〟等から慣らすのがベストだもんな。
「でもよ、水が苦手な〝凶獣〟が貯水湖を渡れなかったのは分かるけど、ここまでフラフラなのに、よく悪魔に襲われなかったな!」
遠藤の言う通り、悪魔は何故ここを狙わなかったんだろう。
「それはきっと逆に、凶獣に守られていたんだろう。おかしな話だがな」
エーコが腕を組んだまま、ため息混じりに言う。
「えー? どういう事? サッパリわかんねーし!」
辻村は不思議そうに首を傾げる。
……なるほどな。僕はわかったぞ。
「つまり、凶獣は悪魔も見境なく襲っていたのですね?」
ちぇ。織田さんに先に言われたよ。
「そうね。凶獣は悪魔によって飼いならされて、操られたりするけど、失敗すれば悪魔でも食べられちゃうわ」
食われる可能性のある化け物を飼いならすなんて、超ハイリスクだな。
……って、そういえば人間も、猛獣を訓練して見世物にしたりするか。
「あの……有難うございます……!」
守備隊員であろう一人が、おぼつかない足取りで近付いてきた。
「私は、この拠点の守備隊長、北野秀敏です。あなた達は一体……」
ここの隊長さんか。この人なら、鈴木さんのお父さんを知っているかもしれないな。
「僕たちは、人を探しに来ました……えっと、鈴木さん?」
僕に呼ばれて、そっと歩み出る鈴木紗和さん。お父さんを探してか、キョロキョロ辺りを見回していたが、ちょっと残念そうな顔をして、隊長さんの方に向き直った。
「私、鈴木紗和と言います。ここの守備隊員だった父に会いに来ました。どなたか、鈴木……」
「サワちゃんか!? 大きくなったな!」
鈴木さんの声を遮って、隊長さんが驚いたように言った。
「え? っと、あの……?」
「……ああ、はは。キミは覚えてないかも知れないが、キミのお父さんと私は友達同士でね。何度かキミにも会っているんだよ。そうか……あいつを探しに来たのか」
まさかの知り合い発見だ。
でも、隊長さんの声のトーンが低いな……悪い予感がするぞ。
「父は……父は無事なんですか?」
恐る恐る尋ねる鈴木さん。
……隊長さんは、少し表情を曇らせて俯いたが、少し間を開けて口を開いた。
「良いかい? 落ち着いて聞いてほしい……」
地図を取り出し、机に広げると、ゆびで中央辺りを指差す隊長さん。
「ここだ。キミのお父さんは、中央本部にある地下ブロックの動力制御室長だったんだ。この大砦の門の開閉や結界などの動力となる〝魔導球〟の制御をする、重要な仕事を任されていた」
ゆっくりと、静かに語る隊長さん。
……鈴木さんのお父さん、偉い人だったんだ。
「5年前、西門が破壊されて砦の内部に悪魔が侵入した日だ。数日で、この砦全体の結界が消え、同時に門の開閉装置に動力が送られて来なくなった。恐らく、魔導球に何らかの問題が起きたのだろう」
歯を食いしばり、じっと話を聞く鈴木さん。
「その後の調べで、中央本部は壊滅し、地下への隠し扉がこじ開けられている事がわかった。地下ブロックがどうなっているのかは、分からない。ただ、動力制御室が機能しなくなっている状況から考えても……」
暗い空気がこの場を支配する。確かに話の通りだとすれば、地下ブロックは悪魔に……
「大丈夫だ! 心配ねぇって!」
「そうだし! とにかく行ってみないと分かんないよ!」
声を上げたのは、遠藤翔と、辻村富美。
「……フフッ。そうだな! 親父さん、腹を空かしているだろうし、急ごうか!」
エーコさんも、ニヤリと笑って言う。
そうだ。まだ絶望するには早いぞ!
……でも、今すぐにここを離れ中央ブロックを目指すとなると、この疲弊した人達を置いて行く事になる。
「〝凶獣〟が居なくなったから、いつ悪魔がここを襲ってもおかしくない……大丈夫かな」
僕の声に、隊長さんが反応した。
「行って下さい! 万全とまでは行きませんが、食料を頂けたので、体力も魔力も戻りつつあります。ここは自分達で、死守してみせますよ!」
一斉に頷く隊員たち。
「皆さん……ありがとう!」
涙ぐむ鈴木さん。
よし、目指すは中央本部、地下ブロックだ!
ここは西の大砦、南ブロックにある守備隊の拠点。
すぐ背後に南門があり、正面には大きな貯水湖。
どうやら先程倒した〝凶獣〟が邪魔で、別のブロックとの行き来が出来なくなっていたようだ。
「ひどい……」
「おいおい、こりゃ……」
全員、痩せ細り、目には生気がなく、会話をするのも辛そうな状態だ。早く何とかしないと……
『タツヤ、食べ物を用意しよう』
『よし、じゃあ僕が!』
『達也さん、この前みたいな木の実だと、ちょっと……』
大砦までの道中。ブルーが地下室で用意した〝たわわに実った生で食べられる美味しい木の実〟をマネて、僕も〝使役:土〟で木の実を作ってみたのだが、出来上がった途端、プチプチと枝から落ち、足を生やして逃げ出したのだ。
『捕まえるの、大変だったわ?』
『タツヤ。ああいう風に作るほうが難しいのだが……キミは本当に面白いね』
逃げ惑う木の実は、捕まえると暴れるし、食べると悲鳴をあげるしで、食料としては些か難ありだった。
でも、勝手にああなっちゃったんだから仕方ないだろ?
『ここに居る人たちには、一刻も早い栄養補給が必要だ。あと、逃げたり悲鳴を上げる木の実の〝説明〟が出来ない』
『……ブルー、頼んだ』
『了解した。非常事態だが、一応、人目につかない場所に用意しよう……あの建物の影がいい』
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『……たわわ過ぎだ! こんな都合の良い植物、無いだろ』
3本の木に、幹や枝が見えないほど実った木の実。
上から下まで隙間なく、みっちりと。
……気持ち悪っ! 〝集合体恐怖症〟って知ってるか、ブルー?
『人数分の栄養を補うには、これぐらいの量が必要だぞ?』
いや、確かにそうなんだけどさ。もっとこう、自然にというか……
『達也さん。ここに偶然、食べられる実があるだけでも、すごく不自然よ?』
彩歌が笑いながら言う。
そうなんだよな……なんかもう、何を隠して何を出せば良いのか、分かんなくなって来たぞ。
『それにタツヤ、キミがやったら、この実が一斉に逃げ出すんだ。その方が大惨事だよ』
それはもう良いって! いつまでも引っ張るなあ。
……まあいいや。
よーし! 急いで収穫してみんなに配ろう。
「……こんな所に何があるんです? おお! その実は!」
「あ、織田さん。すみません。手伝って頂けますか?」
>>>
「う……あ……! 食い……物?! 食い物……だ!」
「おいしい! おいしい! ああっ! 神様!」
「うう……わたしたち、助かった……の?」
「ゆっくり噛んで食べるんだ、まだまだ沢山あるぞ」
木の実を配ると、みんな一斉に食べ始めた。よっぽど空腹だったんだな……
『食べやすいように、水分を多めにして、出来るだけ柔らかく作っておいたよ』
さすがブルー。やっぱこういう時は〝おかゆ〟等から慣らすのがベストだもんな。
「でもよ、水が苦手な〝凶獣〟が貯水湖を渡れなかったのは分かるけど、ここまでフラフラなのに、よく悪魔に襲われなかったな!」
遠藤の言う通り、悪魔は何故ここを狙わなかったんだろう。
「それはきっと逆に、凶獣に守られていたんだろう。おかしな話だがな」
エーコが腕を組んだまま、ため息混じりに言う。
「えー? どういう事? サッパリわかんねーし!」
辻村は不思議そうに首を傾げる。
……なるほどな。僕はわかったぞ。
「つまり、凶獣は悪魔も見境なく襲っていたのですね?」
ちぇ。織田さんに先に言われたよ。
「そうね。凶獣は悪魔によって飼いならされて、操られたりするけど、失敗すれば悪魔でも食べられちゃうわ」
食われる可能性のある化け物を飼いならすなんて、超ハイリスクだな。
……って、そういえば人間も、猛獣を訓練して見世物にしたりするか。
「あの……有難うございます……!」
守備隊員であろう一人が、おぼつかない足取りで近付いてきた。
「私は、この拠点の守備隊長、北野秀敏です。あなた達は一体……」
ここの隊長さんか。この人なら、鈴木さんのお父さんを知っているかもしれないな。
「僕たちは、人を探しに来ました……えっと、鈴木さん?」
僕に呼ばれて、そっと歩み出る鈴木紗和さん。お父さんを探してか、キョロキョロ辺りを見回していたが、ちょっと残念そうな顔をして、隊長さんの方に向き直った。
「私、鈴木紗和と言います。ここの守備隊員だった父に会いに来ました。どなたか、鈴木……」
「サワちゃんか!? 大きくなったな!」
鈴木さんの声を遮って、隊長さんが驚いたように言った。
「え? っと、あの……?」
「……ああ、はは。キミは覚えてないかも知れないが、キミのお父さんと私は友達同士でね。何度かキミにも会っているんだよ。そうか……あいつを探しに来たのか」
まさかの知り合い発見だ。
でも、隊長さんの声のトーンが低いな……悪い予感がするぞ。
「父は……父は無事なんですか?」
恐る恐る尋ねる鈴木さん。
……隊長さんは、少し表情を曇らせて俯いたが、少し間を開けて口を開いた。
「良いかい? 落ち着いて聞いてほしい……」
地図を取り出し、机に広げると、ゆびで中央辺りを指差す隊長さん。
「ここだ。キミのお父さんは、中央本部にある地下ブロックの動力制御室長だったんだ。この大砦の門の開閉や結界などの動力となる〝魔導球〟の制御をする、重要な仕事を任されていた」
ゆっくりと、静かに語る隊長さん。
……鈴木さんのお父さん、偉い人だったんだ。
「5年前、西門が破壊されて砦の内部に悪魔が侵入した日だ。数日で、この砦全体の結界が消え、同時に門の開閉装置に動力が送られて来なくなった。恐らく、魔導球に何らかの問題が起きたのだろう」
歯を食いしばり、じっと話を聞く鈴木さん。
「その後の調べで、中央本部は壊滅し、地下への隠し扉がこじ開けられている事がわかった。地下ブロックがどうなっているのかは、分からない。ただ、動力制御室が機能しなくなっている状況から考えても……」
暗い空気がこの場を支配する。確かに話の通りだとすれば、地下ブロックは悪魔に……
「大丈夫だ! 心配ねぇって!」
「そうだし! とにかく行ってみないと分かんないよ!」
声を上げたのは、遠藤翔と、辻村富美。
「……フフッ。そうだな! 親父さん、腹を空かしているだろうし、急ごうか!」
エーコさんも、ニヤリと笑って言う。
そうだ。まだ絶望するには早いぞ!
……でも、今すぐにここを離れ中央ブロックを目指すとなると、この疲弊した人達を置いて行く事になる。
「〝凶獣〟が居なくなったから、いつ悪魔がここを襲ってもおかしくない……大丈夫かな」
僕の声に、隊長さんが反応した。
「行って下さい! 万全とまでは行きませんが、食料を頂けたので、体力も魔力も戻りつつあります。ここは自分達で、死守してみせますよ!」
一斉に頷く隊員たち。
「皆さん……ありがとう!」
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