プラネット・アース 〜地球を守るために小学生に巻き戻った僕と、その仲間たちの記録〜

ガトー

文字の大きさ
201 / 264
5年生 3学期 3月

約束

しおりを挟む
『……よくも、いけしゃあしゃあと帰ってこれましたね! この恥知らず!』

 ウォルナミスから発せられた言葉に、私の頭の中は真っ白になった。
 分からない……なぜ、この星は怒っているんだろう?





 >>>





 ……私は大波友里おおなみゆうり
 私は、またしてもみたいだ。
 〝夢幻回廊むげんかいろう〟の巻物スクロールを開封した時、私の頭の中には色々な情報が流れ込んできた。

『お前の中にある、全ての要素を使って〝大地の王〟へと繋がる迷宮を作り出す』

『魔力が足りないので、生命力を削る』

『生命力を削って魔力に変換。不足分の補完に成功』

 ……次々に説明が進む。拒否は出来ないみたい。

『迷宮の生成が完了したので、移送を開始する』

『目的地は、4つの扉の先』

『殺意を持った、多くの敵がいる』

『命を落とせば、死体は迷宮と共に消失し、巻物だけが元居た場所に戻される』

『〝大地の王〟の名は〝ウォルナミス〟』

 ……え? ちょっと待って! それって!

『移送完了まで、3、2、1……』





 >>>





『私は、惑星ウォルナミス』

『わが子よ』

わたしを傷つけ、捨てた子等の末裔まつえいよ』

 さきほど荒げた語調を必死で抑え込むように、ぽつりぽつりと、ウォルナミスは語る。

『あなたの先祖は、どこへ行ったのですか? なぜ、帰ってこなかったのですか』

「違うにゃあ! 私たちは……!」

『これをご覧なさい』

 空中に、映像が映し出された。これは?!

『この星に残された、我が子たちの、今の姿です』

「うっ! これは……!」

「なんと……これはひどいな……」

 たっちゃんとレッドが小さい声で呟く。私も思わず息を呑んだ。
 ワイヤーに繋がれ、強制労働をさせられる姿。
 首輪を付けられて、見世物にされている様子。
 檻に入れられ、街角で売られている人もいる。
 ……みんな、頭に耳がついている。ウォルナミス人だ。

「そんにゃ……あんまりにゃ……!」

 2000年近く前、この星は〝惑星オプラ・オブナ〟に侵略された。
 王族は皆殺しにされたと聞いたけど、そうか、それ以外の人たちは……

『分かりましたか? 永きにわたり、我が子たちは異星人たちの奴隷として、非道な扱いを受け続けています』

 やはり、怒りが収まり切らないのだろう。ウォルナミスの声が荒ぶる。

『あなたたちが、どこで何をしていたのかは知りませんが……彼らは、あなたたちの帰りを信じて、耐え続けてきたのですよ!』

「うう……うにゃぁ……」

 生き残った3人の戦士……地球から帰れなくなった〝ご先祖樣〟は、地球人を守り、地球で生きると決めた。
 でも、惑星ウォルナミスに残された人たちは、長い間こんな非道い事をされながら、救いを待ちわびていたのだ。

『ウォルナミス。話は分かったが、キミは〝光球〟を作れるほどの星だ。なぜ〝守護者〟を選ばなかったんだ?』

 ブルー曰く、星々にも力の差があり、その能力にもランクがあるらしい。
 意思すら持てない星もあれば、ブルーのように守護者を選び、自分の身を守れるような星もある。なんと自分の思うがままに動き回れる星まであるのだとか。

『選びたくても、選べなかったのです……』

 ウォルナミスは、悲しげにそう言ったあと、クルリと回転した。
 普通なら、まん丸でオレンジ一色のウォルナミスが角度を変えたとしても、気付くはずがないんだけど、それはすぐに分かった。

『な?! ウォルナミス……キミは一体?!』

 驚きのあまり言葉に詰まるブルー。

『ブルー様は、ご存知でしょう。このような不完全な光球では、ろくな力も使えません』

 大ちゃんとたっちゃんも、驚いているみたい。
 もちろん、私も。
 ……なぜなら、ウォルナミスは、かじられたリンゴの様に、一部が削り取られていたから。

『あなたたちの先祖が旅立ち、この地が異星の民に侵略される少し前。私の元に、数人の男女が現れました』

 ウォルナミスは、悲しげな声で静かに語り始めた。

『私は、彼らを心から歓迎しました。星の意思にたどり着けるほどの文明を築いた我が子たちを、とても誇らしく思ったのです。でも……』

 少しの沈黙。

『彼らは突然、私に襲い掛かりました。いくらやめるように求めても、彼らは聞こうとしません。とうとう私の一部は削り取られてしまいます』

「ええっ?! そんな! にゃんで?」

『彼らは言っていました。〝新型には、この素材が必要だ〟〝遠征までに完成させなければ〟と』

 新型……遠征? まさか……

『私は逃げました。執拗に追い掛けてくる彼らは、恐怖でしかなかった……』

 震える声で、ウォルナミスは続ける。

『なんとか、この場所まで逃げ延びた私は、削り取られた自分の〝光球〟が、大きな1つの欠片かけらと、小さな11の欠片かけらに分けられ、12の〝小さな何か〟に埋め込まれるのを、ここから見ていました』

 その〝小さな何か〟は、たぶん……
 私は、ポケットに手を入れ、ガジェットを握りしめる。

『やがて、光球の入った12個の〝何か〟と共に、私を削った者たちは、この星を出て行きました』

 やっぱりそうだ……! 惑星オプラ・オブナを攻略するために用意された12のガジェット……その中に、ウォルナミスの一部が使われていた?!

『その後、この星は異星人の攻撃を受けました。光球を削られていた私は〝守護者〟を選ぶ事も出来ず、もちろん時神クロノスの休日に抗うことも出来ず、星を守ろうとした5人の戦士の死を見た後、我が子たちが虐げられ続ける様を、延々と見続ける事になるのです』

 何て事だろう。星の意思は、削られ、持ち去られた。それが原因で、この星は侵略され、みんなひどい目に遭い続けている。その原因が……!

『そうです。あなたは、この星に災厄をもたらした者たちの末裔まつえい。どんな理由があろうと、それは言い逃れの出来ない事実です』

「っ! 待ってくれウォルナミス!」

 大ちゃんが、急に変身を解いた。

「俺は、地球人だ。見ての通り、地球人は……弱い! とてもじゃないけど、武装した異星人と戦えないぜ!」

『……チキュウの子よ。何が仰りたいのです?』

「ユーリの先祖は……あなたの子どもたちは、俺たちの星を守ってくれていたんだぜー! 命懸けで、ずっと……!」

『……ええ?! それはどういう事でしょうか?』

「私のご先祖様は、地球に墜落したんにゃあ」

 私は、ウォルナミスに全てを説明した。
 ……侵略という愚かしい行為の報いとも言える、あの惨事を。

『つまり地球は、ウォルナミス人のおかげで、今に至るまで侵略されず無事という事になる。とても感謝しているよ』

 と、ブルーが穏やかな口調で結んだ。

『……そうですか。そんな事が……えっ?!』

 私は、無意識の内にウォルナミスを抱きしめていた。
 涙があふれて止まらない。

「ごめんにゃあ……ごめんにゃぁあぁぁ!」

 私たちは、地球を守ることだけで精一杯だった。
 命にかえても守らなければならない地球人と、戦いに敗れて死んでいく仲間の事だけが全てだった。

「みんな待っててくれたのに! 助けてって叫んでたのにぃ! ごめんにゃあああ! にゃああああぁあ!」

 ウォルナミス、温かい。お母さんみたい。
 私たちは、お母さんを削ってまで、戦争をしてたんだ……

「ごめんにゃあ! 痛かったのにゃ? 辛かったのにゃ?! うにゃああああぁ!」

『……あなたは、優しい子ですね』

「そんにゃ事ないんにゃああぁ! 私は! 私は! んにゃああぁぁあ……!」

 優しくなんかない。私はこの星の人たちの、助けを呼ぶ声に、涙に、気付かなかった。

「にゃぐっ……ひぐっ……ごめんにゃぁ……ごめんにゃぁぁぁ……」

『助けに……来てくれますか?』

「ぐすっ……にゃぐずっ……にゃぁ?」

 ……え?

『私と、私の子どもたち……あなたの兄弟たちを、救ってくれますか?』

 ……!!

「えぐっ……えぐっ……」

 そうだ!

「にゃあっ! ……来るよ」

『……来て、くれるのですか?』

「絶対来るにゃあっ! 約束するよ!!」

 ウォルナミスが、暖かい光に包まれる。しあわせな気持ちで一杯になる!

『あなたに私の力を託しましょう。私はここから動くことは出来ませんが、これであなたは、かつて私の一部だった欠片かけらの力を〝正式〟に開放できます』

「にゃあ?! これ……!」

 ポケットが光っている。ガジェットが熱い!

『さあ、今はチキュウにお帰りなさい。あなたが助けに来てくれる時を、私たちは待っていますよ』

しおりを挟む
感想 142

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

チート魔力はお金のために使うもの~守銭奴転移を果たした俺にはチートな仲間が集まるらしい~

桜桃-サクランボ-
ファンタジー
金さえあれば人生はどうにでもなる――そう信じている二十八歳の守銭奴、鏡谷知里。 交通事故で意識が朦朧とする中、目を覚ますと見知らぬ異世界で、目の前には見たことがないドラゴン。 そして、なぜか“チート魔力持ち”になっていた。 その莫大な魔力は、もともと自分が持っていた付与魔力に、封印されていた冒険者の魔力が重なってしまった結果らしい。 だが、それが不幸の始まりだった。 世界を恐怖で支配する集団――「世界を束ねる管理者」。 彼らに目をつけられてしまった知里は、巻き込まれたくないのに狙われる羽目になってしまう。 さらに、人を疑うことを知らない純粋すぎる二人と行動を共にすることになり、望んでもいないのに“冒険者”として動くことになってしまった。 金を稼ごうとすれば邪魔が入り、巻き込まれたくないのに事件に引きずられる。 面倒ごとから逃げたい守銭奴と、世界の頂点に立つ管理者。 本来交わらないはずの二つが、過去の冒険者の残した魔力によってぶつかり合う、異世界ファンタジー。 ※小説家になろう・カクヨムでも更新中 ※表紙:あニキさん ※ ※がタイトルにある話に挿絵アリ ※月、水、金、更新予定!

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

クラス全員で転移したけど俺のステータスは使役スキルが異常で出会った人全員を使役してしまいました

髙橋ルイ
ファンタジー
「クラス全員で転移したけど俺のステータスは使役スキルが異常で出会った人全員を使役してしまいました」 気がつけば、クラスごと異世界に転移していた――。 しかし俺のステータスは“雑魚”と判定され、クラスメイトからは置き去りにされる。 「どうせ役立たずだろ」と笑われ、迫害され、孤独になった俺。 だが……一人きりになったとき、俺は気づく。 唯一与えられた“使役スキル”が 異常すぎる力 を秘めていることに。 出会った人間も、魔物も、精霊すら――すべて俺の配下になってしまう。 雑魚と蔑まれたはずの俺は、気づけば誰よりも強大な軍勢を率いる存在へ。 これは、クラスで孤立していた少年が「異常な使役スキル」で異世界を歩む物語。 裏切ったクラスメイトを見返すのか、それとも新たな仲間とスローライフを選ぶのか―― 運命を決めるのは、すべて“使役”の先にある。 毎朝7時更新中です。⭐お気に入りで応援いただけると励みになります! 期間限定で10時と17時と21時も投稿予定 ※表紙のイラストはAIによるイメージです

処理中です...