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5年生 3学期 3月
約束
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『……よくも、いけしゃあしゃあと帰ってこれましたね! この恥知らず!』
ウォルナミスから発せられた言葉に、私の頭の中は真っ白になった。
分からない……なぜ、この星は怒っているんだろう?
>>>
……私は大波友里。
私は、またしてもやってしまったみたいだ。
〝夢幻回廊〟の巻物を開封した時、私の頭の中には色々な情報が流れ込んできた。
『お前の中にある、全ての要素を使って〝大地の王〟へと繋がる迷宮を作り出す』
『魔力が足りないので、生命力を削る』
『生命力を削って魔力に変換。不足分の補完に成功』
……次々に説明が進む。拒否は出来ないみたい。
『迷宮の生成が完了したので、移送を開始する』
『目的地は、4つの扉の先』
『殺意を持った、多くの敵がいる』
『命を落とせば、死体は迷宮と共に消失し、巻物だけが元居た場所に戻される』
『〝大地の王〟の名は〝ウォルナミス〟』
……え? ちょっと待って! それって!
『移送完了まで、3、2、1……』
>>>
『私は、惑星ウォルナミス』
『わが子よ』
『星を傷つけ、捨てた子等の末裔よ』
さきほど荒げた語調を必死で抑え込むように、ぽつりぽつりと、ウォルナミスは語る。
『あなたの先祖は、どこへ行ったのですか? なぜ、帰ってこなかったのですか』
「違うにゃあ! 私たちは……!」
『これをご覧なさい』
空中に、映像が映し出された。これは?!
『この星に残された、我が子たちの、今の姿です』
「うっ! これは……!」
「なんと……これはひどいな……」
たっちゃんとレッドが小さい声で呟く。私も思わず息を呑んだ。
ワイヤーに繋がれ、強制労働をさせられる姿。
首輪を付けられて、見世物にされている様子。
檻に入れられ、街角で売られている人もいる。
……みんな、頭に耳がついている。ウォルナミス人だ。
「そんにゃ……あんまりにゃ……!」
2000年近く前、この星は〝惑星オプラ・オブナ〟に侵略された。
王族は皆殺しにされたと聞いたけど、そうか、それ以外の人たちは……
『分かりましたか? 永きにわたり、我が子たちは異星人たちの奴隷として、非道な扱いを受け続けています』
やはり、怒りが収まり切らないのだろう。ウォルナミスの声が荒ぶる。
『あなたたちが、どこで何をしていたのかは知りませんが……彼らは、あなたたちの帰りを信じて、耐え続けてきたのですよ!』
「うう……うにゃぁ……」
生き残った3人の戦士……地球から帰れなくなった〝ご先祖樣〟は、地球人を守り、地球で生きると決めた。
でも、惑星ウォルナミスに残された人たちは、長い間こんな非道い事をされながら、救いを待ちわびていたのだ。
『ウォルナミス。話は分かったが、キミは〝光球〟を作れるほどの星だ。なぜ〝守護者〟を選ばなかったんだ?』
ブルー曰く、星々にも力の差があり、その能力にもランクがあるらしい。
意思すら持てない星もあれば、ブルーのように守護者を選び、自分の身を守れるような星もある。なんと自分の思うがままに動き回れる星まであるのだとか。
『選びたくても、選べなかったのです……』
ウォルナミスは、悲しげにそう言ったあと、クルリと回転した。
普通なら、まん丸でオレンジ一色のウォルナミスが角度を変えたとしても、気付くはずがないんだけど、それはすぐに分かった。
『な?! ウォルナミス……キミは一体?!』
驚きのあまり言葉に詰まるブルー。
『ブルー様は、ご存知でしょう。このような不完全な光球では、ろくな力も使えません』
大ちゃんとたっちゃんも、驚いているみたい。
もちろん、私も。
……なぜなら、ウォルナミスは、齧られたリンゴの様に、一部が削り取られていたから。
『あなたたちの先祖が旅立ち、この地が異星の民に侵略される少し前。私の元に、数人の男女が現れました』
ウォルナミスは、悲しげな声で静かに語り始めた。
『私は、彼らを心から歓迎しました。星の意思にたどり着けるほどの文明を築いた我が子たちを、とても誇らしく思ったのです。でも……』
少しの沈黙。
『彼らは突然、私に襲い掛かりました。いくらやめるように求めても、彼らは聞こうとしません。とうとう私の一部は削り取られてしまいます』
「ええっ?! そんな! にゃんで?」
『彼らは言っていました。〝新型には、この素材が必要だ〟〝遠征までに完成させなければ〟と』
新型……遠征? まさか……
『私は逃げました。執拗に追い掛けてくる彼らは、恐怖でしかなかった……』
震える声で、ウォルナミスは続ける。
『なんとか、この場所まで逃げ延びた私は、削り取られた自分の〝光球〟が、大きな1つの欠片と、小さな11の欠片に分けられ、12の〝小さな何か〟に埋め込まれるのを、ここから見ていました』
その〝小さな何か〟は、たぶん……
私は、ポケットに手を入れ、ガジェットを握りしめる。
『やがて、光球の入った12個の〝何か〟と共に、私を削った者たちは、この星を出て行きました』
やっぱりそうだ……! 惑星オプラ・オブナを攻略するために用意された12のガジェット……その中に、ウォルナミスの一部が使われていた?!
『その後、この星は異星人の攻撃を受けました。光球を削られていた私は〝守護者〟を選ぶ事も出来ず、もちろん時神の休日に抗うことも出来ず、星を守ろうとした5人の戦士の死を見た後、我が子たちが虐げられ続ける様を、延々と見続ける事になるのです』
何て事だろう。星の意思は、削られ、持ち去られた。それが原因で、この星は侵略され、みんなひどい目に遭い続けている。その原因が……!
『そうです。あなたは、この星に災厄をもたらした者たちの末裔。どんな理由があろうと、それは言い逃れの出来ない事実です』
「っ! 待ってくれウォルナミス!」
大ちゃんが、急に変身を解いた。
「俺は、地球人だ。見ての通り、地球人は……弱い! とてもじゃないけど、武装した異星人と戦えないぜ!」
『……チキュウの子よ。何が仰りたいのです?』
「ユーリの先祖は……あなたの子どもたちは、俺たちの星を守ってくれていたんだぜー! 命懸けで、ずっと……!」
『……ええ?! それはどういう事でしょうか?』
「私のご先祖様は、地球に墜落したんにゃあ」
私は、ウォルナミスに全てを説明した。
……侵略という愚かしい行為の報いとも言える、あの惨事を。
『つまり地球は、ウォルナミス人のおかげで、今に至るまで侵略されず無事という事になる。とても感謝しているよ』
と、ブルーが穏やかな口調で結んだ。
『……そうですか。そんな事が……えっ?!』
私は、無意識の内にウォルナミスを抱きしめていた。
涙があふれて止まらない。
「ごめんにゃあ……ごめんにゃぁあぁぁ!」
私たちは、地球を守ることだけで精一杯だった。
命にかえても守らなければならない地球人と、戦いに敗れて死んでいく仲間の事だけが全てだった。
「みんな待っててくれたのに! 助けてって叫んでたのにぃ! ごめんにゃあああ! にゃああああぁあ!」
ウォルナミス、温かい。お母さんみたい。
私たちは、お母さんを削ってまで、戦争をしてたんだ……
「ごめんにゃあ! 痛かったのにゃ? 辛かったのにゃ?! うにゃああああぁ!」
『……あなたは、優しい子ですね』
「そんにゃ事ないんにゃああぁ! 私は! 私は! んにゃああぁぁあ……!」
優しくなんかない。私はこの星の人たちの、助けを呼ぶ声に、涙に、気付かなかった。
「にゃぐっ……ひぐっ……ごめんにゃぁ……ごめんにゃぁぁぁ……」
『助けに……来てくれますか?』
「ぐすっ……にゃぐずっ……にゃぁ?」
……え?
『私と、私の子どもたち……あなたの兄弟たちを、救ってくれますか?』
……!!
「えぐっ……えぐっ……」
そうだ!
「にゃあっ! ……来るよ」
『……来て、くれるのですか?』
「絶対来るにゃあっ! 約束するよ!!」
ウォルナミスが、暖かい光に包まれる。しあわせな気持ちで一杯になる!
『あなたに私の力を託しましょう。私はここから動くことは出来ませんが、これであなたは、かつて私の一部だった欠片の力を〝正式〟に開放できます』
「にゃあ?! これ……!」
ポケットが光っている。ガジェットが熱い!
『さあ、今はチキュウにお帰りなさい。あなたが助けに来てくれる時を、私たちは待っていますよ』
ウォルナミスから発せられた言葉に、私の頭の中は真っ白になった。
分からない……なぜ、この星は怒っているんだろう?
>>>
……私は大波友里。
私は、またしてもやってしまったみたいだ。
〝夢幻回廊〟の巻物を開封した時、私の頭の中には色々な情報が流れ込んできた。
『お前の中にある、全ての要素を使って〝大地の王〟へと繋がる迷宮を作り出す』
『魔力が足りないので、生命力を削る』
『生命力を削って魔力に変換。不足分の補完に成功』
……次々に説明が進む。拒否は出来ないみたい。
『迷宮の生成が完了したので、移送を開始する』
『目的地は、4つの扉の先』
『殺意を持った、多くの敵がいる』
『命を落とせば、死体は迷宮と共に消失し、巻物だけが元居た場所に戻される』
『〝大地の王〟の名は〝ウォルナミス〟』
……え? ちょっと待って! それって!
『移送完了まで、3、2、1……』
>>>
『私は、惑星ウォルナミス』
『わが子よ』
『星を傷つけ、捨てた子等の末裔よ』
さきほど荒げた語調を必死で抑え込むように、ぽつりぽつりと、ウォルナミスは語る。
『あなたの先祖は、どこへ行ったのですか? なぜ、帰ってこなかったのですか』
「違うにゃあ! 私たちは……!」
『これをご覧なさい』
空中に、映像が映し出された。これは?!
『この星に残された、我が子たちの、今の姿です』
「うっ! これは……!」
「なんと……これはひどいな……」
たっちゃんとレッドが小さい声で呟く。私も思わず息を呑んだ。
ワイヤーに繋がれ、強制労働をさせられる姿。
首輪を付けられて、見世物にされている様子。
檻に入れられ、街角で売られている人もいる。
……みんな、頭に耳がついている。ウォルナミス人だ。
「そんにゃ……あんまりにゃ……!」
2000年近く前、この星は〝惑星オプラ・オブナ〟に侵略された。
王族は皆殺しにされたと聞いたけど、そうか、それ以外の人たちは……
『分かりましたか? 永きにわたり、我が子たちは異星人たちの奴隷として、非道な扱いを受け続けています』
やはり、怒りが収まり切らないのだろう。ウォルナミスの声が荒ぶる。
『あなたたちが、どこで何をしていたのかは知りませんが……彼らは、あなたたちの帰りを信じて、耐え続けてきたのですよ!』
「うう……うにゃぁ……」
生き残った3人の戦士……地球から帰れなくなった〝ご先祖樣〟は、地球人を守り、地球で生きると決めた。
でも、惑星ウォルナミスに残された人たちは、長い間こんな非道い事をされながら、救いを待ちわびていたのだ。
『ウォルナミス。話は分かったが、キミは〝光球〟を作れるほどの星だ。なぜ〝守護者〟を選ばなかったんだ?』
ブルー曰く、星々にも力の差があり、その能力にもランクがあるらしい。
意思すら持てない星もあれば、ブルーのように守護者を選び、自分の身を守れるような星もある。なんと自分の思うがままに動き回れる星まであるのだとか。
『選びたくても、選べなかったのです……』
ウォルナミスは、悲しげにそう言ったあと、クルリと回転した。
普通なら、まん丸でオレンジ一色のウォルナミスが角度を変えたとしても、気付くはずがないんだけど、それはすぐに分かった。
『な?! ウォルナミス……キミは一体?!』
驚きのあまり言葉に詰まるブルー。
『ブルー様は、ご存知でしょう。このような不完全な光球では、ろくな力も使えません』
大ちゃんとたっちゃんも、驚いているみたい。
もちろん、私も。
……なぜなら、ウォルナミスは、齧られたリンゴの様に、一部が削り取られていたから。
『あなたたちの先祖が旅立ち、この地が異星の民に侵略される少し前。私の元に、数人の男女が現れました』
ウォルナミスは、悲しげな声で静かに語り始めた。
『私は、彼らを心から歓迎しました。星の意思にたどり着けるほどの文明を築いた我が子たちを、とても誇らしく思ったのです。でも……』
少しの沈黙。
『彼らは突然、私に襲い掛かりました。いくらやめるように求めても、彼らは聞こうとしません。とうとう私の一部は削り取られてしまいます』
「ええっ?! そんな! にゃんで?」
『彼らは言っていました。〝新型には、この素材が必要だ〟〝遠征までに完成させなければ〟と』
新型……遠征? まさか……
『私は逃げました。執拗に追い掛けてくる彼らは、恐怖でしかなかった……』
震える声で、ウォルナミスは続ける。
『なんとか、この場所まで逃げ延びた私は、削り取られた自分の〝光球〟が、大きな1つの欠片と、小さな11の欠片に分けられ、12の〝小さな何か〟に埋め込まれるのを、ここから見ていました』
その〝小さな何か〟は、たぶん……
私は、ポケットに手を入れ、ガジェットを握りしめる。
『やがて、光球の入った12個の〝何か〟と共に、私を削った者たちは、この星を出て行きました』
やっぱりそうだ……! 惑星オプラ・オブナを攻略するために用意された12のガジェット……その中に、ウォルナミスの一部が使われていた?!
『その後、この星は異星人の攻撃を受けました。光球を削られていた私は〝守護者〟を選ぶ事も出来ず、もちろん時神の休日に抗うことも出来ず、星を守ろうとした5人の戦士の死を見た後、我が子たちが虐げられ続ける様を、延々と見続ける事になるのです』
何て事だろう。星の意思は、削られ、持ち去られた。それが原因で、この星は侵略され、みんなひどい目に遭い続けている。その原因が……!
『そうです。あなたは、この星に災厄をもたらした者たちの末裔。どんな理由があろうと、それは言い逃れの出来ない事実です』
「っ! 待ってくれウォルナミス!」
大ちゃんが、急に変身を解いた。
「俺は、地球人だ。見ての通り、地球人は……弱い! とてもじゃないけど、武装した異星人と戦えないぜ!」
『……チキュウの子よ。何が仰りたいのです?』
「ユーリの先祖は……あなたの子どもたちは、俺たちの星を守ってくれていたんだぜー! 命懸けで、ずっと……!」
『……ええ?! それはどういう事でしょうか?』
「私のご先祖様は、地球に墜落したんにゃあ」
私は、ウォルナミスに全てを説明した。
……侵略という愚かしい行為の報いとも言える、あの惨事を。
『つまり地球は、ウォルナミス人のおかげで、今に至るまで侵略されず無事という事になる。とても感謝しているよ』
と、ブルーが穏やかな口調で結んだ。
『……そうですか。そんな事が……えっ?!』
私は、無意識の内にウォルナミスを抱きしめていた。
涙があふれて止まらない。
「ごめんにゃあ……ごめんにゃぁあぁぁ!」
私たちは、地球を守ることだけで精一杯だった。
命にかえても守らなければならない地球人と、戦いに敗れて死んでいく仲間の事だけが全てだった。
「みんな待っててくれたのに! 助けてって叫んでたのにぃ! ごめんにゃあああ! にゃああああぁあ!」
ウォルナミス、温かい。お母さんみたい。
私たちは、お母さんを削ってまで、戦争をしてたんだ……
「ごめんにゃあ! 痛かったのにゃ? 辛かったのにゃ?! うにゃああああぁ!」
『……あなたは、優しい子ですね』
「そんにゃ事ないんにゃああぁ! 私は! 私は! んにゃああぁぁあ……!」
優しくなんかない。私はこの星の人たちの、助けを呼ぶ声に、涙に、気付かなかった。
「にゃぐっ……ひぐっ……ごめんにゃぁ……ごめんにゃぁぁぁ……」
『助けに……来てくれますか?』
「ぐすっ……にゃぐずっ……にゃぁ?」
……え?
『私と、私の子どもたち……あなたの兄弟たちを、救ってくれますか?』
……!!
「えぐっ……えぐっ……」
そうだ!
「にゃあっ! ……来るよ」
『……来て、くれるのですか?』
「絶対来るにゃあっ! 約束するよ!!」
ウォルナミスが、暖かい光に包まれる。しあわせな気持ちで一杯になる!
『あなたに私の力を託しましょう。私はここから動くことは出来ませんが、これであなたは、かつて私の一部だった欠片の力を〝正式〟に開放できます』
「にゃあ?! これ……!」
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