230 / 264
春休み
カードゲーム(下)
しおりを挟む
私は七宮。この閉ざされた空間に来て、6年になる。
「そう、6年だ。長かった……!」
……ん? ああ、ガキ5人か?
アイツらは今ごろ、吸血鬼の元へ送られているだろう。日が暮れたら、順番に血を吸われて、晴れて〝眷属〟の仲間入りだ。
「おっと、もう新しい鍵が用意されたか。持っていかなきゃな」
噴水の前に転がっていた鍵を拾う。添えられた手紙は要らねえ。丸めてポイっと。
最後だ。この鍵を使って、あと1人! たった1人〝試練の扉〟に人間を放り込めば、私は自由になれる!
「……ここは、食料庫などではない。〝養殖場〟だ」
人間は、こんな場所でも勝手に増える。500年という歳月は、この閉ざされた空間さえも、人間が生活できる町にした。それほどまでに、人間の順応性は高い。
だが、その順応性が問題だった。吸血鬼と、その眷属から逃れ、隠れて生きる術を考え、学び、捕らえられなくなったのだ。
やがて、吸血鬼は腹を空かせ、奴らを探したが、時既に遅し。どこに居るのか分からない。捕まえることが出来ない。
「家の中に虫がいる。いるはずなのに見つからない……しかも、どんどん増えていく。腹立たしい上に、気味が悪いんだろう」
そこで吸血鬼は〝協力者〟を用意しようと考えた。
私は吸血鬼と約束したのだ。ここに隠れ住む人間を100人、あの扉に誘い込めば、晴れて自由の身になれる!
……今日の獲物は、なかなか手強いヤツラだった。若干の苦労はしたが、うまく引っかかってくれたものだ。所詮はガキだな。
「……ククク。そういえば〝見た目がガキなだけ〟のヤツもいたっけ。ククク……ハーハッハッハ!」
「えへへー。何がおもしろいの?」
「うわっ?!」
な、何だこのガキ。お、脅かすなよ!
ん? 日本語? コイツもしかして、アイツらが言ってた……
「僕はね、栗栖和也だよ」
間違いない。あのガキどもの仲間だ。
そうか、結局入って来ちまったのか。クックック。ご愁傷様だなあ。
「えーっと、僕、友だちを探してるんだけど……」
ククク。知ってるよ。
よし、折角だから会わせてやろう。そうすれば、私のノルマも達成だ。
「そうか……もしかして君の友達は、同い年くらいの4人組みじゃないか? 男の子2人に女の子2人の」
「わあ、良かった! おじさん、みんなのいる所、知ってるの?!」
食いついた! チョロいな。
「知っているとも! でもね、とても危険な所なんだ。それでも行くかい?」
「うん。どうしても行かなきゃならないんだ。あとね、もうひとり…………あ、そっか、一緒なんだね、えへへ!」
ん? 何だ、一緒って。
まあいい。とにかく、コイツを扉の中に放り込んで、こんな空間からは、さっさとオサラバだ!
>>>
扉の前で、ルールを説明する。これが大事だ。
「いいかい? 5つの〝試練〟を突破した者は未だ居ない……」
〝呪い〟や〝魔法道具〟は、決められた条件で発動する物が多い。
「君は全てを1人で突破しなければならない。〝試練〟の内容だが……」
この扉は、複雑な条件を満たすことによって、幾重にも編み込まれた呪いを掛ける。
まず〝ルール〟を強制して、違反した者の自由を奪う呪い。
そして〝試練〟に失敗した者の自由を奪う呪い。
最後に、鍵を持つ〝案内者〟に危害を加えた者の自由を奪う呪いだ。
「大切なルールをもう1つ。この扉の中にある物以外の、あらゆる道具は、使用禁止だ。使ったとたんに、負けとなる」
……これでよし。呪いの発動に必要な説明は、ここまでだ。これをやっておかないと、鍵を使うことも出来ない仕組みだからな。逆に、説明不足なら扉は開かない。まあ、だからこそ失敗は有り得ないんだけどなあ!
「すまないが、私は、この世界に閉じ込められている、多くの人たちのリーダーだ」
ククク。そのおかげで、養殖されて隠れているヤツラも、わざわざ向こうから来てくれるんだ。
「だから〝挑戦者〟として一緒には行けない。でもせめて〝案内者〟として、ついて行ってあげるよ」
「うん、ありがとう! すごく助かるよ!」
ククク。礼を言うのは私の方だよ。だって君のおかげで、もうすぐ、私は自由の身になれるのだからね!
……よし、扉が開いたぞ。
「さあ、まず〝挑戦者〟の、君が入るんだ」
コイツの友だちは、不可解なヤツらだった。
「うん。頑張るよ! でもちょっと怖いよね……」
そもそも、藤島彩歌……〝魔道士〟が〝アガルタ側〟から入ってきた時点で、普通じゃないのは分かっていたが、結局、ヤツらの正体は分からず仕舞い。
「私も一緒だから、勇気を出して行こう。友だちを助けるんだろう?」
ヤツらがタダのガキじゃない事を踏まえた上で、コイツの身に着けている指輪と首飾りが気になる所だ。〝ガキの分際で〟と思っていたが、もしも、何らかの力を秘めた、常時発動系の道具だったら……ククク。ルール違反で一発退場だ。
「えへへ! 不思議だねー。ドアだけだったのに、中はこんなになってるの?」
……チッ! 普通に入りやがった。期待させやがって!
指輪も首飾りも、ただのアクセサリーか?
「えっと、あ! アレだよね、試練の部屋!」
「え? あ……ああ。最初の試練は、さっき言ったように、ポーカーのようなカードゲームだ」
「うん、僕、頑張るよ!」
何だか調子狂うぞ。意外とグイグイ行くな。
……ほら、もう扉を開けて中に入って行ってるし。
「まあいい。ここでアイツもゲームオーバーだ」
今回は1人で左の部屋か。そういえば〝挑戦者〟が1人だけっていうのも久しぶりだな……
「……ん? なんか、おかしくないか?」
あのガキ、もう椅子に座ってやがる。
〝怖いよね!〟とか言いながら、全然怖がってないじゃないか。
ディーラーのおっさんも、出てきた途端にギョッとしてるな……あんな顔、初めて見たぞ。
『ジュ……ジュッのルールは、もう聞いていると思うが、ジュジュッのは、カードを使ったゲームだ。私に勝てば、次の〝試練〟に進むことができる』
いつもの妙なノイズのあと、ディーラーのおっさんの声が聞こえてきた。
「あ、そういえばアイツ、言葉わかるのか?」
『えへへ。大丈夫だよ! ……あ、じゃなかった。分かったよ!』
「ふーん。しゃべれるのか。まあ、ゲームを始めることは出来そうだな」
……ん? やっぱり、何か不思議な違和感があるな。
『このカードを使う』
おっさんは、大きく〝13〟と数字が入ったカードを4枚、テーブルに並べていく。
『カードは1から13まで。そして、どのカードに置き換えることも出来る〝ワイルドカード〟が1枚』
いつものように、大きく金色の〝星〟が描かれたカードを並べた。
……このディーラーのおっさんは〝眷属〟だ。
いや、そこら辺をウロウロしているヤツとは違うぞ。特別に〝吸血鬼〟に認められて、人間だった頃の記憶と自我を残してもらった、言わば〝エリート〟なんだってさ。
『まずは双方に5枚のカードを配る。カードの交換は2度。あなたが先で、次が私……』
今まで何度も聞いた説明が続く。
茶番だな。でもまあ、これをやるとやらないとでは、罠に掛かったと気付いた時の〝挑戦者〟たちの絶望感や怒りが、格段に違ってくる……のだそうだ。
『数字を1、2、3、4、5のように、順番に5枚揃えれば〝ストレート〟。ただし、13から1に続けることはできない』
だいたい、普通のトランプを使ったポーカー勝負でも、絶対に勝てるんだよな、このおっさん。
たしか〝眷属〟になる前は、どっかのカジノで〝天才ディーラー〟として、結構な有名人だったみたいだから。
『5つ、同じ数字を揃える〝ファイブカード〟。この〝役〟が、最強だ』
不敵な笑みを浮かべるおっさん。これが〝ワイルドカード無しでも同じ数字を5枚集められますよ〟っていう、最大のヒントなんだよな。
……同時に、ディーラーとしてのプライドが見え隠れしていて面白い。
『それでは、始めようか。まずは好きなだけ、カードをカットしてもらおう』
ガキは、カードの束を受け取り、妙に慣れた手つきでシャッフルする。
『えへへ。こんなもんかな』
『よろしい、それでは始めよう』
おっさんが、自分とガキ、双方に5枚のカードを配る。
配られたカードを見て、ガキは、ちょっと困った顔をした。
『交換は?』
『うーん、どうしようかな……5枚ください!』
ガキは、カードを5枚とも伏せてテーブルに捨て、おっさんから、カードを5枚受け取る。
フルでチェンジか、珍しいな。
おっさんは、自分にも相手にも、思い通りのカードを配ることが出来る。
……まあ、イカサマと言うより、技術だな。
おっさん、いつもは〝黒3枚〟と〝色違い2枚〟を引かせて〝フラッシュ〟に持っていかせようとするんだが、気付いていないのか?
所詮はガキか。次の〝誘い〟でノッて来なきゃ、場が盛り上がらねぇなあ。
『それでは、私は1枚……よし』
ニヤリと笑みを浮かべるおっさん。
うまいな。おっさんの方に良い〝役〟が来たと焦らせて〝フラッシュ〟……いや〝ストレートフラッシュ〟を誘うつもりだろ。さあ、乗っかっていけよ、ガキ。
『そうだなあ……えーっと。どうしようかなー』
何を考える事があるんだよ!
2枚交換……いや、おっさんの事だから、1枚交換するだけで〝ストレートフラッシュ〟が狙えるぐらいのカードが来てるだろ? まあ、おっさんは既に、同じ数字が4枚の〝クアッド〟を揃えてるんだろうけどな。
『決めた! 5枚変えちゃおっと!』
さっきと同じように、5枚のカードをテーブルに伏せて、おっさんから5枚のカードを受け取る。
『あー。全然ダメだったよ。今日はツイてないなあ!』
うぉいッ! この馬鹿ガキ! ルール分かってねえんじゃねえか?!
「ううん。大丈夫だよ?」
はぁ?! 何が大丈夫…………ん? いまアイツ、私の心の声に日本語で……?
『私はこれでいい。やれやれ、やはり子ども相手では、盛り上がらなかったな』
おっさんは半ば投げやりに、持ち札をテーブルに並べる。
いつもの〝うまく揃えた黒のフラッシュが、実はブタだと気づく〟パターンを崩されて、すっかり萎えてしまっているのだろう。
『6の〝クアッド〟だ。さて、残念だが、あなたは我が主の元に……』
『僕はね、9の〝ファイブカード〟だよ!』
『……は?』
……は?
『えっとね? 最初来たのが、7で、次に8の〝ファイブカード〟だったんだ。思い切って13のを狙ったんだけど、今日は調子悪いみたい!』
おっさんは、あわててテーブルの上に伏せてあるカードを裏返す。
……さっきガキが捨てたカードは、7の〝ファイブカード〟と8の〝ファイブカード〟。
『ええええええええええっ?!』
「ええええええええええっ?!」
ちょっと待て!
えっ?! ちょっと待て! 〝ファイブカード〟が3回連続で来るって、どんな確率だよ!
……いや、それ以前に、おっさんがカードを操作してるんだぞ? いったい何が起きた?!
『あり得ない……! 私は、たしかにカードを……!』
『えっと……〝偶然〟おじさんの手が狂ったのかもね』
このガキ、カードの操作にも気付いていたのか?!
『えへへー。僕ね、すっごく〝幸運〟なんだ。ほんのちょっとでも〝運〟が絡むもの……たとえば〝裏向きになってて表の見えないカード〟とかが、僕の〝運〟に逆らうことは、絶対に無いんだよ』
そんな……そんな……!
『そんなバカげた事があるか! どうやった? どんなトリックを使ったんだ?!』
うお! ビックリした! 初めて見るな、こんなに声を荒げているおっさん。
だが、たしかに、イカサマとしか考えられない。このガキ、一体……
『えへへー。トリックでもイカサマでもないよ? うーん……じゃあね、その残ってるカード、5枚、僕に配ってみてよ』
訝しげな表情で、カードを配るおっさん。
ガキはそれを受け取ると、ハッとした顔で言った。
『あ、そうか! それでさっき、僕の〝運〟は〝10以上のファイブカード〟を出さなかったんだね!』
カードを、ゆっくりテーブルに並べるガキ。
……う、嘘だろ?
『えへへ。でもこっちの方が、お星様がキレイでカッコイイよね!』
実は、このカードゲーム、5種類の絵柄があるため〝ファイブカード〟の出る確率は、ひとつ下の〝役〟よりも、格段に高い。
……ガキが並べたカードは〝黒猫のマーク〟で統一された、10、11、12、13そして〝ワイルドカード〟。
『な?! 〝ワイルドストレートフラッシュ〟だとおおおお?!』
……実質〝最強の役〟だ。初めて見た。
「そう、6年だ。長かった……!」
……ん? ああ、ガキ5人か?
アイツらは今ごろ、吸血鬼の元へ送られているだろう。日が暮れたら、順番に血を吸われて、晴れて〝眷属〟の仲間入りだ。
「おっと、もう新しい鍵が用意されたか。持っていかなきゃな」
噴水の前に転がっていた鍵を拾う。添えられた手紙は要らねえ。丸めてポイっと。
最後だ。この鍵を使って、あと1人! たった1人〝試練の扉〟に人間を放り込めば、私は自由になれる!
「……ここは、食料庫などではない。〝養殖場〟だ」
人間は、こんな場所でも勝手に増える。500年という歳月は、この閉ざされた空間さえも、人間が生活できる町にした。それほどまでに、人間の順応性は高い。
だが、その順応性が問題だった。吸血鬼と、その眷属から逃れ、隠れて生きる術を考え、学び、捕らえられなくなったのだ。
やがて、吸血鬼は腹を空かせ、奴らを探したが、時既に遅し。どこに居るのか分からない。捕まえることが出来ない。
「家の中に虫がいる。いるはずなのに見つからない……しかも、どんどん増えていく。腹立たしい上に、気味が悪いんだろう」
そこで吸血鬼は〝協力者〟を用意しようと考えた。
私は吸血鬼と約束したのだ。ここに隠れ住む人間を100人、あの扉に誘い込めば、晴れて自由の身になれる!
……今日の獲物は、なかなか手強いヤツラだった。若干の苦労はしたが、うまく引っかかってくれたものだ。所詮はガキだな。
「……ククク。そういえば〝見た目がガキなだけ〟のヤツもいたっけ。ククク……ハーハッハッハ!」
「えへへー。何がおもしろいの?」
「うわっ?!」
な、何だこのガキ。お、脅かすなよ!
ん? 日本語? コイツもしかして、アイツらが言ってた……
「僕はね、栗栖和也だよ」
間違いない。あのガキどもの仲間だ。
そうか、結局入って来ちまったのか。クックック。ご愁傷様だなあ。
「えーっと、僕、友だちを探してるんだけど……」
ククク。知ってるよ。
よし、折角だから会わせてやろう。そうすれば、私のノルマも達成だ。
「そうか……もしかして君の友達は、同い年くらいの4人組みじゃないか? 男の子2人に女の子2人の」
「わあ、良かった! おじさん、みんなのいる所、知ってるの?!」
食いついた! チョロいな。
「知っているとも! でもね、とても危険な所なんだ。それでも行くかい?」
「うん。どうしても行かなきゃならないんだ。あとね、もうひとり…………あ、そっか、一緒なんだね、えへへ!」
ん? 何だ、一緒って。
まあいい。とにかく、コイツを扉の中に放り込んで、こんな空間からは、さっさとオサラバだ!
>>>
扉の前で、ルールを説明する。これが大事だ。
「いいかい? 5つの〝試練〟を突破した者は未だ居ない……」
〝呪い〟や〝魔法道具〟は、決められた条件で発動する物が多い。
「君は全てを1人で突破しなければならない。〝試練〟の内容だが……」
この扉は、複雑な条件を満たすことによって、幾重にも編み込まれた呪いを掛ける。
まず〝ルール〟を強制して、違反した者の自由を奪う呪い。
そして〝試練〟に失敗した者の自由を奪う呪い。
最後に、鍵を持つ〝案内者〟に危害を加えた者の自由を奪う呪いだ。
「大切なルールをもう1つ。この扉の中にある物以外の、あらゆる道具は、使用禁止だ。使ったとたんに、負けとなる」
……これでよし。呪いの発動に必要な説明は、ここまでだ。これをやっておかないと、鍵を使うことも出来ない仕組みだからな。逆に、説明不足なら扉は開かない。まあ、だからこそ失敗は有り得ないんだけどなあ!
「すまないが、私は、この世界に閉じ込められている、多くの人たちのリーダーだ」
ククク。そのおかげで、養殖されて隠れているヤツラも、わざわざ向こうから来てくれるんだ。
「だから〝挑戦者〟として一緒には行けない。でもせめて〝案内者〟として、ついて行ってあげるよ」
「うん、ありがとう! すごく助かるよ!」
ククク。礼を言うのは私の方だよ。だって君のおかげで、もうすぐ、私は自由の身になれるのだからね!
……よし、扉が開いたぞ。
「さあ、まず〝挑戦者〟の、君が入るんだ」
コイツの友だちは、不可解なヤツらだった。
「うん。頑張るよ! でもちょっと怖いよね……」
そもそも、藤島彩歌……〝魔道士〟が〝アガルタ側〟から入ってきた時点で、普通じゃないのは分かっていたが、結局、ヤツらの正体は分からず仕舞い。
「私も一緒だから、勇気を出して行こう。友だちを助けるんだろう?」
ヤツらがタダのガキじゃない事を踏まえた上で、コイツの身に着けている指輪と首飾りが気になる所だ。〝ガキの分際で〟と思っていたが、もしも、何らかの力を秘めた、常時発動系の道具だったら……ククク。ルール違反で一発退場だ。
「えへへ! 不思議だねー。ドアだけだったのに、中はこんなになってるの?」
……チッ! 普通に入りやがった。期待させやがって!
指輪も首飾りも、ただのアクセサリーか?
「えっと、あ! アレだよね、試練の部屋!」
「え? あ……ああ。最初の試練は、さっき言ったように、ポーカーのようなカードゲームだ」
「うん、僕、頑張るよ!」
何だか調子狂うぞ。意外とグイグイ行くな。
……ほら、もう扉を開けて中に入って行ってるし。
「まあいい。ここでアイツもゲームオーバーだ」
今回は1人で左の部屋か。そういえば〝挑戦者〟が1人だけっていうのも久しぶりだな……
「……ん? なんか、おかしくないか?」
あのガキ、もう椅子に座ってやがる。
〝怖いよね!〟とか言いながら、全然怖がってないじゃないか。
ディーラーのおっさんも、出てきた途端にギョッとしてるな……あんな顔、初めて見たぞ。
『ジュ……ジュッのルールは、もう聞いていると思うが、ジュジュッのは、カードを使ったゲームだ。私に勝てば、次の〝試練〟に進むことができる』
いつもの妙なノイズのあと、ディーラーのおっさんの声が聞こえてきた。
「あ、そういえばアイツ、言葉わかるのか?」
『えへへ。大丈夫だよ! ……あ、じゃなかった。分かったよ!』
「ふーん。しゃべれるのか。まあ、ゲームを始めることは出来そうだな」
……ん? やっぱり、何か不思議な違和感があるな。
『このカードを使う』
おっさんは、大きく〝13〟と数字が入ったカードを4枚、テーブルに並べていく。
『カードは1から13まで。そして、どのカードに置き換えることも出来る〝ワイルドカード〟が1枚』
いつものように、大きく金色の〝星〟が描かれたカードを並べた。
……このディーラーのおっさんは〝眷属〟だ。
いや、そこら辺をウロウロしているヤツとは違うぞ。特別に〝吸血鬼〟に認められて、人間だった頃の記憶と自我を残してもらった、言わば〝エリート〟なんだってさ。
『まずは双方に5枚のカードを配る。カードの交換は2度。あなたが先で、次が私……』
今まで何度も聞いた説明が続く。
茶番だな。でもまあ、これをやるとやらないとでは、罠に掛かったと気付いた時の〝挑戦者〟たちの絶望感や怒りが、格段に違ってくる……のだそうだ。
『数字を1、2、3、4、5のように、順番に5枚揃えれば〝ストレート〟。ただし、13から1に続けることはできない』
だいたい、普通のトランプを使ったポーカー勝負でも、絶対に勝てるんだよな、このおっさん。
たしか〝眷属〟になる前は、どっかのカジノで〝天才ディーラー〟として、結構な有名人だったみたいだから。
『5つ、同じ数字を揃える〝ファイブカード〟。この〝役〟が、最強だ』
不敵な笑みを浮かべるおっさん。これが〝ワイルドカード無しでも同じ数字を5枚集められますよ〟っていう、最大のヒントなんだよな。
……同時に、ディーラーとしてのプライドが見え隠れしていて面白い。
『それでは、始めようか。まずは好きなだけ、カードをカットしてもらおう』
ガキは、カードの束を受け取り、妙に慣れた手つきでシャッフルする。
『えへへ。こんなもんかな』
『よろしい、それでは始めよう』
おっさんが、自分とガキ、双方に5枚のカードを配る。
配られたカードを見て、ガキは、ちょっと困った顔をした。
『交換は?』
『うーん、どうしようかな……5枚ください!』
ガキは、カードを5枚とも伏せてテーブルに捨て、おっさんから、カードを5枚受け取る。
フルでチェンジか、珍しいな。
おっさんは、自分にも相手にも、思い通りのカードを配ることが出来る。
……まあ、イカサマと言うより、技術だな。
おっさん、いつもは〝黒3枚〟と〝色違い2枚〟を引かせて〝フラッシュ〟に持っていかせようとするんだが、気付いていないのか?
所詮はガキか。次の〝誘い〟でノッて来なきゃ、場が盛り上がらねぇなあ。
『それでは、私は1枚……よし』
ニヤリと笑みを浮かべるおっさん。
うまいな。おっさんの方に良い〝役〟が来たと焦らせて〝フラッシュ〟……いや〝ストレートフラッシュ〟を誘うつもりだろ。さあ、乗っかっていけよ、ガキ。
『そうだなあ……えーっと。どうしようかなー』
何を考える事があるんだよ!
2枚交換……いや、おっさんの事だから、1枚交換するだけで〝ストレートフラッシュ〟が狙えるぐらいのカードが来てるだろ? まあ、おっさんは既に、同じ数字が4枚の〝クアッド〟を揃えてるんだろうけどな。
『決めた! 5枚変えちゃおっと!』
さっきと同じように、5枚のカードをテーブルに伏せて、おっさんから5枚のカードを受け取る。
『あー。全然ダメだったよ。今日はツイてないなあ!』
うぉいッ! この馬鹿ガキ! ルール分かってねえんじゃねえか?!
「ううん。大丈夫だよ?」
はぁ?! 何が大丈夫…………ん? いまアイツ、私の心の声に日本語で……?
『私はこれでいい。やれやれ、やはり子ども相手では、盛り上がらなかったな』
おっさんは半ば投げやりに、持ち札をテーブルに並べる。
いつもの〝うまく揃えた黒のフラッシュが、実はブタだと気づく〟パターンを崩されて、すっかり萎えてしまっているのだろう。
『6の〝クアッド〟だ。さて、残念だが、あなたは我が主の元に……』
『僕はね、9の〝ファイブカード〟だよ!』
『……は?』
……は?
『えっとね? 最初来たのが、7で、次に8の〝ファイブカード〟だったんだ。思い切って13のを狙ったんだけど、今日は調子悪いみたい!』
おっさんは、あわててテーブルの上に伏せてあるカードを裏返す。
……さっきガキが捨てたカードは、7の〝ファイブカード〟と8の〝ファイブカード〟。
『ええええええええええっ?!』
「ええええええええええっ?!」
ちょっと待て!
えっ?! ちょっと待て! 〝ファイブカード〟が3回連続で来るって、どんな確率だよ!
……いや、それ以前に、おっさんがカードを操作してるんだぞ? いったい何が起きた?!
『あり得ない……! 私は、たしかにカードを……!』
『えっと……〝偶然〟おじさんの手が狂ったのかもね』
このガキ、カードの操作にも気付いていたのか?!
『えへへー。僕ね、すっごく〝幸運〟なんだ。ほんのちょっとでも〝運〟が絡むもの……たとえば〝裏向きになってて表の見えないカード〟とかが、僕の〝運〟に逆らうことは、絶対に無いんだよ』
そんな……そんな……!
『そんなバカげた事があるか! どうやった? どんなトリックを使ったんだ?!』
うお! ビックリした! 初めて見るな、こんなに声を荒げているおっさん。
だが、たしかに、イカサマとしか考えられない。このガキ、一体……
『えへへー。トリックでもイカサマでもないよ? うーん……じゃあね、その残ってるカード、5枚、僕に配ってみてよ』
訝しげな表情で、カードを配るおっさん。
ガキはそれを受け取ると、ハッとした顔で言った。
『あ、そうか! それでさっき、僕の〝運〟は〝10以上のファイブカード〟を出さなかったんだね!』
カードを、ゆっくりテーブルに並べるガキ。
……う、嘘だろ?
『えへへ。でもこっちの方が、お星様がキレイでカッコイイよね!』
実は、このカードゲーム、5種類の絵柄があるため〝ファイブカード〟の出る確率は、ひとつ下の〝役〟よりも、格段に高い。
……ガキが並べたカードは〝黒猫のマーク〟で統一された、10、11、12、13そして〝ワイルドカード〟。
『な?! 〝ワイルドストレートフラッシュ〟だとおおおお?!』
……実質〝最強の役〟だ。初めて見た。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
最強無敗の少年は影を従え全てを制す
ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。
産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。
カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。
しかし彼の力は生まれながらにして最強。
そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。
異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします
Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。
現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編
おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう
お餅ミトコンドリア
ファンタジー
パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。
だが、全くの無名。
彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。
若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。
弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。
独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。
が、ある日。
「お久しぶりです、師匠!」
絶世の美少女が家を訪れた。
彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。
「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」
精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。
「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」
これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。
(※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。
もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです!
何卒宜しくお願いいたします!)
チート魔力はお金のために使うもの~守銭奴転移を果たした俺にはチートな仲間が集まるらしい~
桜桃-サクランボ-
ファンタジー
金さえあれば人生はどうにでもなる――そう信じている二十八歳の守銭奴、鏡谷知里。
交通事故で意識が朦朧とする中、目を覚ますと見知らぬ異世界で、目の前には見たことがないドラゴン。
そして、なぜか“チート魔力持ち”になっていた。
その莫大な魔力は、もともと自分が持っていた付与魔力に、封印されていた冒険者の魔力が重なってしまった結果らしい。
だが、それが不幸の始まりだった。
世界を恐怖で支配する集団――「世界を束ねる管理者」。
彼らに目をつけられてしまった知里は、巻き込まれたくないのに狙われる羽目になってしまう。
さらに、人を疑うことを知らない純粋すぎる二人と行動を共にすることになり、望んでもいないのに“冒険者”として動くことになってしまった。
金を稼ごうとすれば邪魔が入り、巻き込まれたくないのに事件に引きずられる。
面倒ごとから逃げたい守銭奴と、世界の頂点に立つ管理者。
本来交わらないはずの二つが、過去の冒険者の残した魔力によってぶつかり合う、異世界ファンタジー。
※小説家になろう・カクヨムでも更新中
※表紙:あニキさん
※ ※がタイトルにある話に挿絵アリ
※月、水、金、更新予定!
最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした
新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。
「もうオマエはいらん」
勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。
ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。
転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。
勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)
クラス全員で転移したけど俺のステータスは使役スキルが異常で出会った人全員を使役してしまいました
髙橋ルイ
ファンタジー
「クラス全員で転移したけど俺のステータスは使役スキルが異常で出会った人全員を使役してしまいました」
気がつけば、クラスごと異世界に転移していた――。
しかし俺のステータスは“雑魚”と判定され、クラスメイトからは置き去りにされる。
「どうせ役立たずだろ」と笑われ、迫害され、孤独になった俺。
だが……一人きりになったとき、俺は気づく。
唯一与えられた“使役スキル”が 異常すぎる力 を秘めていることに。
出会った人間も、魔物も、精霊すら――すべて俺の配下になってしまう。
雑魚と蔑まれたはずの俺は、気づけば誰よりも強大な軍勢を率いる存在へ。
これは、クラスで孤立していた少年が「異常な使役スキル」で異世界を歩む物語。
裏切ったクラスメイトを見返すのか、それとも新たな仲間とスローライフを選ぶのか――
運命を決めるのは、すべて“使役”の先にある。
毎朝7時更新中です。⭐お気に入りで応援いただけると励みになります!
期間限定で10時と17時と21時も投稿予定
※表紙のイラストはAIによるイメージです
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
