231 / 264
春休み
腕相撲(上)
しおりを挟む
『カズヤ……カズヤなのか?』
「あ、ブルーさん!」
今まで聞こえなかった、ブルーさんの声が聞こえて来たよ。良かった、無事だったみたい!
『いや、無事というわけでもないんだ。私たちは、ほとんどの行動を制限されていて、身動きが取れない。タツヤ、アヤカ、ダイサク、ユーリ、そして……』
「もしかして、河西千夏さん?」
『驚いた。さすが〝救世主〟だね。彼女も救いに来たのかい?』
えへへ。ブルーさんにほめられちゃった。
「うん! おじいちゃんとおばあちゃんに、頼まれたんだよ」
千夏さんは、3年前、家族旅行でルーマニアを訪れたとき、この空間に迷い込んでしまったみたい。その後、家族もおまわりさんたちも、必死で探してたんだけど、見つかるはずないよね。だってここは、普通のやり方では入ってこれない場所だもん。
『カズヤ。頼みの綱はキミだけだ。しかし5つの〝試練〟は、巧妙な罠を織り交ぜた、危険なものだった。果たしてキミひとりで、突破できるものだろうか』
「えーっと。たぶん大丈夫だよ? ぜったいに助けるから待っててね!」
みんなを助けるには、この空間を生み出した〝呪い〟をなんとかしなきゃならない。
えへへ。それは僕の得意分野だよ。
『よろしくお願いするよ、カズヤ。それでは、私の知る〝試練〟の情報を〝タツヤ視点〟の記憶情報で5つ、キミに送る。ひとつずつ小分けにするから、順番に開封してほしい』
やったあ! 〝試練〟の内容が分かれば、とっても心強いよね!
……あれ、5つ?
「待ってブルーさん! 最初の試練は、もうクリアしたよ?」
『すごいねカズヤ。予想以上だ』
やったー! また、ほめられたよ! よーし、この調子で頑張るぞ!
『それでは送るよ? 次の試練〝腕相撲〟には〝2〟と表記しておいた』
ブルーさんの言葉のとおり、頭のすみっこの方に、2、3、4,5と数字の書かれた〝箱〟のイメージが浮かんだ。うーん。よく考えたら〝1〟の試練の記録も、見たかったよね。
『脳内での再生は実際には一瞬で終わるけど、体感では、ひとつひとつが長時間なので、小分けに見たほうがいい。キミなら、どうやってそれらを開封するか、感覚で分かるはずだ』
「えーっと、こうかな?」
僕は〝2〟の箱を頭の中で開けてみた。やっぱりね!
あ、でも今の操作は、言葉で説明できそうにないよ。
『おっと。カズヤ、そろそろ交信が切れそうだ。あとの事は頼んだよ』
「うん、待っててね、必ず助けに行くよ!」
……ブルーさんの声が聞こえなくなっちゃった。急がなきゃだよね!
僕は開封された〝2〟の箱を、頭の中でのぞき込んだ。
>>>
ユーリは、動かなくなってしまった。
死んでいるわけではなく、眠っているのでもない。
「ユーリ、待ってろ! 必ず助けてやるからな……!」
大ちゃんは、歯を食いしばっている。
『あれが〝全てを禁じられた状態〟なんだね……タツヤ、残念だが、あの状態異常、キミでも回避できそうにない』
やっぱりそうか。さすがは〝魔界絡み〟の罠だ。僕の〝不死性〟を、軽々と脅やかしてくれるなあ。
『タツヤ、感心している場合ではない。この〝試練〟は、巧妙で悪質……とても危険だよ』
そうだな。まともに勝負させる気など微塵も無いんだろう。
……それにしても、大ちゃんは思った以上に冷静だ。僕とは大違いだなあ。
『ユーリを救うには〝試練〟を突破するしかない。ダイサクはそれ以外の事に、時間と労力を使うつもりはないのだろう』
残る試練は4つ。最後までクリアすれば、それまでに失敗した者も開放されるらしい。
……でも僕は、もし彩歌があんな目に遭わされたら、自分を抑えきれる自信がない。実際〝モース・ギョネ〟の時だって、記憶がすっ飛ぶほどに暴走してしまったし。
「あー。たっちゃん、ダメだぜ? 冷静になー?」
僕の顔を見て、大ちゃんが微笑む。
……ひどく引きつった笑顔だ。
無理させてごめんよ大ちゃん。泣き言を言ってる場合じゃなかったな。
「いいぜー? 俺だって、すぐにでも変身して、何もかもぶち壊してやりたい……でも、ユーリのためにガマンだ!」
やっぱりすごいな、大ちゃんは。よし、決めた! 僕も、何があっても絶対に暴走はしないぞ。
「たっちゃんなら大丈夫だぜ! 信じてるからなー!」
分かった。
……と、僕は、静かに頷いた。
『タツヤ、いまの会話には不可解な部分がある。念のため、説明したほうがいい』
えー? 誰も気付いていないんじゃないか?
『そんな事はない。細やかなケアは大切だよ?』
確かにそうだな。それじゃ念のため。
……いま、大ちゃんは〝凄メガネ〟を掛けていない。なぜなら、外から持ち込んだ道具を使ったら、即ゲームオーバーだからだ。という事はつまり、ブルーの声が聞こえていないという事だ。
『アヤカには逐一、必要事項は伝えているけどね』
そう。僕の思考は、彩歌には伝えられるけど、大ちゃんには伝えることができない。
つまり……なんと大ちゃんは、表情を見ただけで、僕が何を考えているのか読み取って、会話していたんだよな。これはもうほとんど〝精神感応〟の域だ。
「おいおい、言い過ぎだって! 照れるじゃんか」
ほら、また! 何度も言うけど、僕の声はきこえてないんだぞ。どんだけ天才なんだって話だよ。
……とにかく、僕たちは何としてでも〝試練〟を乗り越えてみせる! そうすれば、ユーリも元に戻るし、この隔絶された空間を支配している〝吸血鬼〟の所に行けるんだ。
「何をトロトロやってんだガキども。さっさと行くぞ!」
……この〝七宮〟が、ウソをついていなければ、だけど。
>>>
先ほどと同じように、左右2つのドアがある。
ここが第2の試練か。
「〝腕相撲〟は……クククッ。お前に決めた」
七宮が指差したのは……彩歌だ。
「〝魔道士〟である上に、弱体化されてガキの姿。いちばん非力なのは、お前だろう」
後衛職の花形である〝魔道士〟は、とても非力なイメージだ。
僕たち4人の中で、パッと見、腕相撲が弱そうなメンバーを選べと言われたら、誰もが彩歌を選ぶんじゃないかな。
「……とことん卑怯者ね」
そう言い放ち、彩歌は冷たい目で七宮を睨む。
ここで喜び勇んで試練に挑もうとすれば、七宮は気付いてしまうかもしれない……彩歌が人間離れした〝怪力〟の持ち主だという事に。
「ククク。卑怯者、か。何とでも言うがいい。それとも、怒りに任せて一か八か、私に得意の魔法でも撃ってみるかい?」
「お安い挑発には乗ってあげないわ……右の部屋でいいのね?」
つまり、この彩歌の対応は、冷静で賢い〝作戦〟だ。
オランダでの〝精算〟を経て、彩歌の身体能力は、後衛をさせるには惜しいほどにアップしている。ダンプカーを背負って投げられるほどに。これは勝ったんじゃないか?
「……おい、何をしてる! お前らは左だろう、グズどもが!」
へいへい。
コイツ、本当に最悪だ。きっと〝吸血鬼〟には、ペコペコしてんだろうなあ。
左の扉を開けると……さっきと良く似た構造の部屋だ。右の壁はガラスがはめられていて、その向こうには、椅子に座った彩歌が見える。たぶん、向こうからは見えないようになっているのだろう。
「な……何だあれ」
……そしてもうひとり、驚くほどの〝巨漢〟が、テーブルを挟んで、座っている。
「たしか、腕相撲の対戦相手は〝人間〟だって言ってたよなー?」
大ちゃんの言う通り、七宮は確かに、腕相撲の相手は〝人間〟だと言っていた。
……それを疑うほどの体格。しかも、あれは〝筋肉〟だ。ムダなお肉も相当量ありそうだけど。
「あーはっはっは! 大きいだろう? まさに〝巨人〟だ。アイツに力で敵うヤツはいない!」
七宮のバカ笑いが響く。うっさいな、黙って見てろ。
あのデブは、それでも〝人間〟なんだろ? だったら、彩歌に敵うわけない。
『ジュジュ……ジュジュ……れ様を見て逃げ出さなかったのは、ほめてやジュジュ……ぜ、お嬢ちゃん』
妙な雑音と共に、向こうの部屋の音が聞こえるようになった。
『勝負はカンタンだ。ワシに腕相撲で勝てば、お前は最後の〝試練〟に参加できる。負けたら、全て禁じられて〝吸血鬼様〟の餌食だ。ぐへへぇ!』
その前に、そんな体格差で、腕相撲できるのかよ……?
『あと、ヒジがテーブルから離れたら、即刻負けだぞう?』
『分かったわ。すぐに始めましょう』
腕まくりをして、ヒジをテーブルに乗せる彩歌。巨漢も、同じようにヒジを置き……いや、同じように置いたら、リーチが違いすぎる。かなり角度を付けて、彩歌の手を握る。
っていうか、絵面が犯罪チックなんだよ巨漢! 変なことするなよ?!
『うへへへ。それじゃあいくぞ。レディ……ゴー!』
ドン! という音と共に、こちらの部屋にまで衝撃が伝わる。
真っ赤になって歯を食いしばっているのは……巨漢の方だ。
『ぐ……?! くッ! クソお! バカなあ!』
対する彩歌は涼しい顔。ほらね、普通の人間が、彩歌に敵うはずがないんだ。
『ふーん? こんな物なのね』
「な? 何なんだ! たかが魔道士のガキに……どうなってるんだ?!」
七宮が、徐々に押され始めた巨漢を見て、驚いた表情で叫んだ。
『ぐおおおっ?! まさかあっ! そんなあっ?』
必死で力を込めるも、グイグイと押され続ける巨漢の腕。よし、勝った!
「ク、ククク。どういう事かは知らんが、まさか、藤島彩歌に苦戦するとはな!」
……突然、七宮は奇妙な笑い顔を浮かべる。
『その体で、ワシより力が強いとはなあ! だが、ここからだあ!』
急に、巨漢の腕が、彩歌の腕を押し返し始める。
……いったい、何が起こったんだ?!
「アイツはな、正真正銘、ただの人間だ。だが、デカイだけが取り柄じゃないんだぜ」
徐々に、巨漢の腕が小さくなっていく……? 何なんだよ、アレ!
「腕を組んだ相手の能力を、自分の力に上乗せする形で〝腕だけ〟そっくりそのままコピーするのが、アイツの特殊能力だ。胴体から伝わる力とか、身に付けている物まで全部だ。ずいぶんと人間離れしてるだろ?」
……みるみるうちに、巨漢の腕は彩歌とまったく同じサイズになった。確かに袖口が、捲り上げた彩歌の服になっている。アンバランス過ぎて気持ち悪い。
「っていうか、アイツ人間じゃないだろー!」
同意見だよ大ちゃん。あんな人間いないだろ!
「おいおい、失礼だな。世の中には色んな人間がいるんだぞ?」
……くそ。それも同意見だ。
ウチのメンバー全員、人間だからな? 誰が何と言おうと人間だからな!
『そ、そんな事が?!』
『ぐふふふ。ワシの勝ち』
やがて、彩歌の腕が完全に倒され、勝敗は決する。
……彩歌はユーリと同じように、虚ろな目をしたまま、動かなくなってしまった。
>>>
……彩歌さん、そんなすごい人と戦ったんだね。
よーし! 絶対に勝って、みんなを助けなきゃ!
「あ、ブルーさん!」
今まで聞こえなかった、ブルーさんの声が聞こえて来たよ。良かった、無事だったみたい!
『いや、無事というわけでもないんだ。私たちは、ほとんどの行動を制限されていて、身動きが取れない。タツヤ、アヤカ、ダイサク、ユーリ、そして……』
「もしかして、河西千夏さん?」
『驚いた。さすが〝救世主〟だね。彼女も救いに来たのかい?』
えへへ。ブルーさんにほめられちゃった。
「うん! おじいちゃんとおばあちゃんに、頼まれたんだよ」
千夏さんは、3年前、家族旅行でルーマニアを訪れたとき、この空間に迷い込んでしまったみたい。その後、家族もおまわりさんたちも、必死で探してたんだけど、見つかるはずないよね。だってここは、普通のやり方では入ってこれない場所だもん。
『カズヤ。頼みの綱はキミだけだ。しかし5つの〝試練〟は、巧妙な罠を織り交ぜた、危険なものだった。果たしてキミひとりで、突破できるものだろうか』
「えーっと。たぶん大丈夫だよ? ぜったいに助けるから待っててね!」
みんなを助けるには、この空間を生み出した〝呪い〟をなんとかしなきゃならない。
えへへ。それは僕の得意分野だよ。
『よろしくお願いするよ、カズヤ。それでは、私の知る〝試練〟の情報を〝タツヤ視点〟の記憶情報で5つ、キミに送る。ひとつずつ小分けにするから、順番に開封してほしい』
やったあ! 〝試練〟の内容が分かれば、とっても心強いよね!
……あれ、5つ?
「待ってブルーさん! 最初の試練は、もうクリアしたよ?」
『すごいねカズヤ。予想以上だ』
やったー! また、ほめられたよ! よーし、この調子で頑張るぞ!
『それでは送るよ? 次の試練〝腕相撲〟には〝2〟と表記しておいた』
ブルーさんの言葉のとおり、頭のすみっこの方に、2、3、4,5と数字の書かれた〝箱〟のイメージが浮かんだ。うーん。よく考えたら〝1〟の試練の記録も、見たかったよね。
『脳内での再生は実際には一瞬で終わるけど、体感では、ひとつひとつが長時間なので、小分けに見たほうがいい。キミなら、どうやってそれらを開封するか、感覚で分かるはずだ』
「えーっと、こうかな?」
僕は〝2〟の箱を頭の中で開けてみた。やっぱりね!
あ、でも今の操作は、言葉で説明できそうにないよ。
『おっと。カズヤ、そろそろ交信が切れそうだ。あとの事は頼んだよ』
「うん、待っててね、必ず助けに行くよ!」
……ブルーさんの声が聞こえなくなっちゃった。急がなきゃだよね!
僕は開封された〝2〟の箱を、頭の中でのぞき込んだ。
>>>
ユーリは、動かなくなってしまった。
死んでいるわけではなく、眠っているのでもない。
「ユーリ、待ってろ! 必ず助けてやるからな……!」
大ちゃんは、歯を食いしばっている。
『あれが〝全てを禁じられた状態〟なんだね……タツヤ、残念だが、あの状態異常、キミでも回避できそうにない』
やっぱりそうか。さすがは〝魔界絡み〟の罠だ。僕の〝不死性〟を、軽々と脅やかしてくれるなあ。
『タツヤ、感心している場合ではない。この〝試練〟は、巧妙で悪質……とても危険だよ』
そうだな。まともに勝負させる気など微塵も無いんだろう。
……それにしても、大ちゃんは思った以上に冷静だ。僕とは大違いだなあ。
『ユーリを救うには〝試練〟を突破するしかない。ダイサクはそれ以外の事に、時間と労力を使うつもりはないのだろう』
残る試練は4つ。最後までクリアすれば、それまでに失敗した者も開放されるらしい。
……でも僕は、もし彩歌があんな目に遭わされたら、自分を抑えきれる自信がない。実際〝モース・ギョネ〟の時だって、記憶がすっ飛ぶほどに暴走してしまったし。
「あー。たっちゃん、ダメだぜ? 冷静になー?」
僕の顔を見て、大ちゃんが微笑む。
……ひどく引きつった笑顔だ。
無理させてごめんよ大ちゃん。泣き言を言ってる場合じゃなかったな。
「いいぜー? 俺だって、すぐにでも変身して、何もかもぶち壊してやりたい……でも、ユーリのためにガマンだ!」
やっぱりすごいな、大ちゃんは。よし、決めた! 僕も、何があっても絶対に暴走はしないぞ。
「たっちゃんなら大丈夫だぜ! 信じてるからなー!」
分かった。
……と、僕は、静かに頷いた。
『タツヤ、いまの会話には不可解な部分がある。念のため、説明したほうがいい』
えー? 誰も気付いていないんじゃないか?
『そんな事はない。細やかなケアは大切だよ?』
確かにそうだな。それじゃ念のため。
……いま、大ちゃんは〝凄メガネ〟を掛けていない。なぜなら、外から持ち込んだ道具を使ったら、即ゲームオーバーだからだ。という事はつまり、ブルーの声が聞こえていないという事だ。
『アヤカには逐一、必要事項は伝えているけどね』
そう。僕の思考は、彩歌には伝えられるけど、大ちゃんには伝えることができない。
つまり……なんと大ちゃんは、表情を見ただけで、僕が何を考えているのか読み取って、会話していたんだよな。これはもうほとんど〝精神感応〟の域だ。
「おいおい、言い過ぎだって! 照れるじゃんか」
ほら、また! 何度も言うけど、僕の声はきこえてないんだぞ。どんだけ天才なんだって話だよ。
……とにかく、僕たちは何としてでも〝試練〟を乗り越えてみせる! そうすれば、ユーリも元に戻るし、この隔絶された空間を支配している〝吸血鬼〟の所に行けるんだ。
「何をトロトロやってんだガキども。さっさと行くぞ!」
……この〝七宮〟が、ウソをついていなければ、だけど。
>>>
先ほどと同じように、左右2つのドアがある。
ここが第2の試練か。
「〝腕相撲〟は……クククッ。お前に決めた」
七宮が指差したのは……彩歌だ。
「〝魔道士〟である上に、弱体化されてガキの姿。いちばん非力なのは、お前だろう」
後衛職の花形である〝魔道士〟は、とても非力なイメージだ。
僕たち4人の中で、パッと見、腕相撲が弱そうなメンバーを選べと言われたら、誰もが彩歌を選ぶんじゃないかな。
「……とことん卑怯者ね」
そう言い放ち、彩歌は冷たい目で七宮を睨む。
ここで喜び勇んで試練に挑もうとすれば、七宮は気付いてしまうかもしれない……彩歌が人間離れした〝怪力〟の持ち主だという事に。
「ククク。卑怯者、か。何とでも言うがいい。それとも、怒りに任せて一か八か、私に得意の魔法でも撃ってみるかい?」
「お安い挑発には乗ってあげないわ……右の部屋でいいのね?」
つまり、この彩歌の対応は、冷静で賢い〝作戦〟だ。
オランダでの〝精算〟を経て、彩歌の身体能力は、後衛をさせるには惜しいほどにアップしている。ダンプカーを背負って投げられるほどに。これは勝ったんじゃないか?
「……おい、何をしてる! お前らは左だろう、グズどもが!」
へいへい。
コイツ、本当に最悪だ。きっと〝吸血鬼〟には、ペコペコしてんだろうなあ。
左の扉を開けると……さっきと良く似た構造の部屋だ。右の壁はガラスがはめられていて、その向こうには、椅子に座った彩歌が見える。たぶん、向こうからは見えないようになっているのだろう。
「な……何だあれ」
……そしてもうひとり、驚くほどの〝巨漢〟が、テーブルを挟んで、座っている。
「たしか、腕相撲の対戦相手は〝人間〟だって言ってたよなー?」
大ちゃんの言う通り、七宮は確かに、腕相撲の相手は〝人間〟だと言っていた。
……それを疑うほどの体格。しかも、あれは〝筋肉〟だ。ムダなお肉も相当量ありそうだけど。
「あーはっはっは! 大きいだろう? まさに〝巨人〟だ。アイツに力で敵うヤツはいない!」
七宮のバカ笑いが響く。うっさいな、黙って見てろ。
あのデブは、それでも〝人間〟なんだろ? だったら、彩歌に敵うわけない。
『ジュジュ……ジュジュ……れ様を見て逃げ出さなかったのは、ほめてやジュジュ……ぜ、お嬢ちゃん』
妙な雑音と共に、向こうの部屋の音が聞こえるようになった。
『勝負はカンタンだ。ワシに腕相撲で勝てば、お前は最後の〝試練〟に参加できる。負けたら、全て禁じられて〝吸血鬼様〟の餌食だ。ぐへへぇ!』
その前に、そんな体格差で、腕相撲できるのかよ……?
『あと、ヒジがテーブルから離れたら、即刻負けだぞう?』
『分かったわ。すぐに始めましょう』
腕まくりをして、ヒジをテーブルに乗せる彩歌。巨漢も、同じようにヒジを置き……いや、同じように置いたら、リーチが違いすぎる。かなり角度を付けて、彩歌の手を握る。
っていうか、絵面が犯罪チックなんだよ巨漢! 変なことするなよ?!
『うへへへ。それじゃあいくぞ。レディ……ゴー!』
ドン! という音と共に、こちらの部屋にまで衝撃が伝わる。
真っ赤になって歯を食いしばっているのは……巨漢の方だ。
『ぐ……?! くッ! クソお! バカなあ!』
対する彩歌は涼しい顔。ほらね、普通の人間が、彩歌に敵うはずがないんだ。
『ふーん? こんな物なのね』
「な? 何なんだ! たかが魔道士のガキに……どうなってるんだ?!」
七宮が、徐々に押され始めた巨漢を見て、驚いた表情で叫んだ。
『ぐおおおっ?! まさかあっ! そんなあっ?』
必死で力を込めるも、グイグイと押され続ける巨漢の腕。よし、勝った!
「ク、ククク。どういう事かは知らんが、まさか、藤島彩歌に苦戦するとはな!」
……突然、七宮は奇妙な笑い顔を浮かべる。
『その体で、ワシより力が強いとはなあ! だが、ここからだあ!』
急に、巨漢の腕が、彩歌の腕を押し返し始める。
……いったい、何が起こったんだ?!
「アイツはな、正真正銘、ただの人間だ。だが、デカイだけが取り柄じゃないんだぜ」
徐々に、巨漢の腕が小さくなっていく……? 何なんだよ、アレ!
「腕を組んだ相手の能力を、自分の力に上乗せする形で〝腕だけ〟そっくりそのままコピーするのが、アイツの特殊能力だ。胴体から伝わる力とか、身に付けている物まで全部だ。ずいぶんと人間離れしてるだろ?」
……みるみるうちに、巨漢の腕は彩歌とまったく同じサイズになった。確かに袖口が、捲り上げた彩歌の服になっている。アンバランス過ぎて気持ち悪い。
「っていうか、アイツ人間じゃないだろー!」
同意見だよ大ちゃん。あんな人間いないだろ!
「おいおい、失礼だな。世の中には色んな人間がいるんだぞ?」
……くそ。それも同意見だ。
ウチのメンバー全員、人間だからな? 誰が何と言おうと人間だからな!
『そ、そんな事が?!』
『ぐふふふ。ワシの勝ち』
やがて、彩歌の腕が完全に倒され、勝敗は決する。
……彩歌はユーリと同じように、虚ろな目をしたまま、動かなくなってしまった。
>>>
……彩歌さん、そんなすごい人と戦ったんだね。
よーし! 絶対に勝って、みんなを助けなきゃ!
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム
ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。
けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。
学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!?
大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。
真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜
平明神
ファンタジー
ユーゴ・タカトー。
それは、女神の「推し」になった男。
見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。
彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。
彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。
その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!
女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!
さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?
英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───
なんでもありの異世界アベンジャーズ!
女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕!
※不定期更新。
※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
MP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
