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春休み
カードゲーム(上)
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七宮さん……ああ、もう〝さん〟は要らないか。
七宮は、扉を閉めて鍵をかけた。ニヤニヤと笑いながら、その鍵を懐に仕舞う。
「どうして? なぜです、リーダー!」
千夏が叫ぶ。その表情は、悲しみと不安に彩られていた。
「ククク。私はただの〝案内者〟だよ。それ以上でも、それ以下でもない」
七宮の蔑むような視線が千夏に向けられている。
これまでの爽やかな笑顔とは一変して、下卑た笑みだ。
「そんな! ずっとみんなを騙していたの?! ううっ、ヒドい……!」
千夏はポロポロと涙をこぼす。
それを見た七宮は、より一層、嬉しそうに顔を歪めて笑っている。この男、絵に描いたようなクズだな。
「ふぅん。冗談……というわけじゃないみたいね」
飄々とした態度で、彩歌が冷たく呟いた。
幼馴染のお兄ちゃんは、どうやら勝手に嫌われてくれたみたいだ。
「ふふふ。さあ、さっさと最初の試練に挑んでもらおうか」
……七宮の様子から見ても、これから受ける〝試練〟が、公正な物かどうか、怪しくなってきたぞ。
「おっと、怖い怖い。そんなに睨むなよ、ククク。大丈夫だ。ここに入ってしまったら〝案内者〟である私は、もう嘘をつけない。ここからの私は、聖人の如き正直者だと思ってくれていいぞ」
ふーん。〝ここからの私〟は、ねぇ。ホントかよ?
「着いたぞ。挑戦する者は右、それ以外は左の扉に入るんだ」
第1の試練は、たしか〝カードゲーム〟だったな。できればここは、大ちゃんに行ってもらいたいけど、第3の試練〝謎解き〟の方が合ってる気もする。
「よーし、それじゃあ……くせっ毛、お前が行け」
七宮が言い放った。
おいおい、ちょっと待て、まさか?!
「やー?! 私? にゃんで……?!」
ユーリは、驚いて頭をおさえている。
思わず、耳が出そうになってるんだな?
「早くしろ。もちろん、私の指名に逆らえば〝即〟敗北だ」
「あー。なるほどなー。誰が挑戦するか、自分たちで選べないのかよ」
貴重なパワー&スピード人員のユーリを、まさか頭脳系の試練に投入する事になるとは思わなかった。
こりゃ、この試練、荒れるぞ。
「にゃ……やははー! そんじゃちょっと行ってくるよ」
どうやら落ち着いたようだ。
頭から手を離すと、ユーリは右の扉に進む。
「おいおい、大丈夫かユーリ?」
「まかせてよ! トランプなら、ねーちゃんとか里人と、けっこう遊んだんだ。 ポーカーも知ってるよ」
……親戚で集まった時の〝子どもの遊び〟程度か。まあ、そりゃそうだよな。
ユーリは扉を開けて、中に入っていった。
「お前たちは、私と一緒に左だ。さっさと入れ」
ユーリのことが心配なのだろう。大ちゃんは少し急いだ感じで、左のドアを開けて中に入る。僕たちも、その後に続いた。
「ここから観戦するのね……」
予想以上に狭い部屋だ。
いくつかの木の椅子が置かれ、右側の壁の上半分は、全てガラス張りになっていた。
ガラスの向こうには、ユーリが居て、大ちゃんに向けて手をふっている。
「おかしいな。向こうからは、ただの壁に見えているはずなんだが……くせっ毛は、なんでこちらに気付いているんだ?」
七宮が首をひねる。なるほど、マジックミラーみたいな感じか……
ちなみに、ユーリが大ちゃんに手を振っているのは〝生命感知〟で、誰がどの位置にいるのか正確に分かるからだ。
「……まあいいだろう。覚えておくがいい。この場所でのあらゆる不正行為は、即、敗北となる。何らかの方法で、お前たちが、くせっ毛にサインでも送ろうものなら、即座に消えてもらうからな」
慌てた七宮が、少し余裕のない口調で言った。
チッ。対戦相手のカードをのぞき見て、ブルーを介した会話で伝えようと思ってたのに。
『タツヤ、それはやめた方がいい。相手が人間でないなら、私の声を聞けるかもしれないからね』
なるほど、ブルーの言うとおりか。
……けど、向こうは堂々と、汚い手を使ってくるんだろうなあ。
「ククク。対戦相手の登場だ。ヤツは強いぞ」
ユーリ側の部屋に、黒いスーツを身にまとった、細身の男が入ってきた。いかにもカードゲームが得意そうな風貌だ。
人間……じゃないな。顔色が悪すぎる。
「ゲームが始まれば、向こうの音は、こちらに聞こえるようになる。さあ、ゲームスタートだ」
こちらの声は、向こうには届かないんだろう。
黒服の男は、部屋の中央にあるテーブルの椅子を引き、ユーリに座るよう促した。妙に紳士的な態度が、逆に不安を誘う。
『ジュ……ジュジュジュ……は、もう聞いていると思……ジュ……カードを使ったゲームだ。私に勝てば、あなたも最終の〝試練〟に参加することができる』
妙なノイズのあと、黒服の男の声が聞こえてきた。
「待って! ブルー、友里さんの方の通訳って大丈夫なの?」
あ、そうか。外から持ち込んだ道具は、使用禁止だって言ってたぞ。大ちゃんもここへ入る前に、凄メガネとベルトは外してある。
『アヤカ、それは問題ない。私は〝星〟だ。道具ではないし〝物〟という括りにも、収まらないだろう』
「ふう。良かったわ」
ほんとだよ。アイツたぶん、慣れない頭脳戦で、一杯一杯だろうからな。その上、言葉も通じないとなると、さすがにもう、どうしようもなくなる。
『このカードを使う』
黒服の男は、カードの束を取り出した。少し手元が見えにくいが、サイズはトランプ大だな。
中央に大きく〝13〟と数字が入ったカードが4枚、テーブルに並べられた。数字の周囲には、赤、青、緑、黒の模様が、13個描かれている。
『カードは1から13まで。そして、どのカードに置き換えることも出来る〝ワイルドカード〟が1枚』
そう言って、大きく金色の〝星〟が描かれたカードを並べた。
『まずは双方に5枚のカードを配る。カードの交換は2度。あなたが先で、次が私。1度に何枚交換してもいいし〝役〟が十分なら、交換しなくてもいい。できあがった〝役〟の強いほうが勝ちだ。今回の勝負は1度きり。すぐに勝敗が決まるだろう』
なんだ。本当にポーカーみたいだな。
『次に、すべての〝役〟を説明しよう。何も揃っていない状態の〝ハイカード〟。まあ、いわゆる〝ブタ〟だね。同じ数字を集めれば〝ペア〟。それが2種類なら〝ツーペア〟。同じ数字3枚なら〝スリーカード〟だ』
ユーリは、真剣な表情で説明を聞いている。勝負となると〝戦士〟の顔になるのは、さすがだ。
『数字を1,2,3,4,5のように、順番に5枚揃えられれば〝ストレート〟。ただし、13から1に続けることはできない。ただ唯一、10,11,12,13と揃っている時〝ワイルドカード〟は特別に、9ではなく14という扱いになる』
今のはちょっとややこしいけど、これはもう、ほとんどポーカーだ。
良かった。難しいルールだと、ユーリは勝つどころか、プレイすら出来ないからな。
『次に強いのは〝フラッシュ〟だ。同じ絵柄を5枚揃える。さらに、同じ絵柄で、順番通りに揃えれば〝ストレートフラッシュ〟。そしてその上は、同じ数字を4枚揃える〝クアッズ〟』
テーブルの上の、星マークの入った〝ワイルドカード〟を手のひらで隠し、男は〝13〟の〝クアッズ〟を作ってみせる。
『この上の〝役〟は、ワイルドカードを含んで、それを14に見立てた〝ワイルドストレートフラッシュ〟か……もしくは』
男は〝ワイルドカード〟の上に置かれた手をどける。
『5つ、同じ数字を揃える〝ファイブカード〟。この〝役〟が、最強だ』
不敵な笑みを浮かべる黒服の男。顔色の悪さが、不気味な雰囲気に拍車をかける。
『それから、同じ〝役〟なら、5枚の数字すべてを合計して、多いほうが勝ちだ。それも同数なら、ドロー。引き分けで再戦となる。絵柄に優劣はない』
……ところどころ、普通のポーカーと違うけど、まあ、大丈夫だろう。
『私に負ければ、あなたはその時点で、全てを禁じられ、我が主の元へ送られる。それでは、始めようか』
ユーリは神妙な顔つきで、終始無言だ。たぶん、あまり使わない脳みそをフル回転させているのだろう。
『まずは好きなだけ、カードをカットしてもらおう』
カードの束を受け取り、慣れない手つきでシャッフルするユーリ。
『やー、これでいいよ』
『よろしい、それでは始めよう』
黒服が、自分ととユーリ、双方に5枚のカードを配る。イカサマの無いように、僕たちも目を光らせるが、マジシャンなんかは、どんなに人の目があっても、安々とカードの操作をするらしいからな……
ユーリは、配られたカードを見て、口をとがらせたり、目をパチパチして、唸っている。
『交換は?』
『決めた! 2枚ちょーだい!』
ユーリは、2枚のカードを捨てて、男から、替わりのカードを受け取る。
……この角度からだと、よく見えないな。
『それでは、私も2枚……なるほど、ふむ』
男は、アゴに手を当てて、深く考えている様子だ。
『よーし! 私はこれでオッケー!』
マジか! 大丈夫なのか、ユーリ?
『私は、あと2枚いただくとしよう』
さっきも2枚だったな。思ったカードが来ないのだろう。
さて、いま引いたカードはどうなんだ?
『……ふむ。こんな物か。私は〝10〟の〝スリーカード〟だ』
黒服の男は、少し不服そうな表情で、テーブルの上に自分のカードを置いた。
……ユーリの口元がゆるんでいく。もしかして〝スリーカード〟より強い〝役〟だったのか?
「ん? おいおい、待てよ? トランプの、ポーカーの〝ような〟? 4枚のカードをわざわざ……絵柄に優劣がない……?」
大ちゃんが急に、何かを思いついたようにブツブツとつぶやき始めた。
表情が、みるみる険しくなっていく。
「九条くん、どうかしたの?」
「……マズいぜ、たぶん、あのカード!」
大ちゃんが、何か言いかけたその時、ユーリが自分のカードをテーブルに並べた。
「やー! 見て見て! 私の勝ち!」
5枚全てが黒いマーク……〝フラッシュ〟だ。 すごいじゃないかユーリ!
『……残念だな』
「やははー! やった! やったよ、みんな!」
『それは〝ハイカード〟。いわゆる〝ブタ〟だ』
ええっ?! 何を言ってるんだ! 5枚とも、黒いマークが……
「ちくしょう、やっぱりそうかよー!」
大ちゃんが、深刻な表情で叫ぶ。
「ええっ?! 九条くん、どういう事?」
「あのカード、絵柄が5種類あるんだぜ。赤、青、緑と……黒が2種類だ」
……マジか!
「ククク、その通り。やはり君は頭がいいね。ちなみに、黒の絵柄は〝猫〟と〝虎〟だ」
クソ! そんなの見分けが付かないだろう!
「あいつ、説明の時にわざわざ〝13〟のカード4枚と〝ワイルドカード〟をテーブルに並べて、カードの絵柄が4種類であるように印象づけやがったんだ。さらに、本当は〝13〟も5枚あるのに、5枚目を揃えるには〝ワイルドカード〟じゃなきゃダメだと、錯覚させたんだぜー!」
なんて事だ! 僕たちは〝トランプに似ている〟という先入観だけで、あのカードが4種類の絵柄だと、思い込んでいたんだ!
「でも、九条くん。もしユーリさんの持ち札に、黒くて同じ数字のカードが来たら、気付かれちゃうわ?」
「これは俺の推測だけど、あいつ、ある程度、自分の思い通りのカードを、狙って配れるんじゃないか?」
……やっぱりそうか。一流のマジシャンやディーラーは、カードを自在に操れるらしいからな。
「おかしいわ。だってそれなら、わざわざ面倒な細工をしなくても、簡単に勝てるじゃない!」
彩歌の言うことはもっともだ。なんでこんな回りくどい事を?
「俺たちが、まんまと引っかかって、悔しがる様を見て楽しむためだろー?」
「ククク。それだけじゃないさ。人間は、普通にゲームに負けた時より、罠に掛かって負けた時のほうが、より多くの〝負のエネルギー〟を生むんだ。ここは、それを収集する場所なんだよ」
『さて、あなたは敗北した。よって全てを禁じられる』
次の瞬間、ユーリが、黒いモヤのような物に包まれた。その表情は虚ろで、肌の色は青白く変わっていく。
「ユーリいぃぃぃッ!」
大ちゃんの叫び声が響く。
ちくしょう! やっぱりまともな〝試練〟じゃ、無いじゃないか!
七宮は、扉を閉めて鍵をかけた。ニヤニヤと笑いながら、その鍵を懐に仕舞う。
「どうして? なぜです、リーダー!」
千夏が叫ぶ。その表情は、悲しみと不安に彩られていた。
「ククク。私はただの〝案内者〟だよ。それ以上でも、それ以下でもない」
七宮の蔑むような視線が千夏に向けられている。
これまでの爽やかな笑顔とは一変して、下卑た笑みだ。
「そんな! ずっとみんなを騙していたの?! ううっ、ヒドい……!」
千夏はポロポロと涙をこぼす。
それを見た七宮は、より一層、嬉しそうに顔を歪めて笑っている。この男、絵に描いたようなクズだな。
「ふぅん。冗談……というわけじゃないみたいね」
飄々とした態度で、彩歌が冷たく呟いた。
幼馴染のお兄ちゃんは、どうやら勝手に嫌われてくれたみたいだ。
「ふふふ。さあ、さっさと最初の試練に挑んでもらおうか」
……七宮の様子から見ても、これから受ける〝試練〟が、公正な物かどうか、怪しくなってきたぞ。
「おっと、怖い怖い。そんなに睨むなよ、ククク。大丈夫だ。ここに入ってしまったら〝案内者〟である私は、もう嘘をつけない。ここからの私は、聖人の如き正直者だと思ってくれていいぞ」
ふーん。〝ここからの私〟は、ねぇ。ホントかよ?
「着いたぞ。挑戦する者は右、それ以外は左の扉に入るんだ」
第1の試練は、たしか〝カードゲーム〟だったな。できればここは、大ちゃんに行ってもらいたいけど、第3の試練〝謎解き〟の方が合ってる気もする。
「よーし、それじゃあ……くせっ毛、お前が行け」
七宮が言い放った。
おいおい、ちょっと待て、まさか?!
「やー?! 私? にゃんで……?!」
ユーリは、驚いて頭をおさえている。
思わず、耳が出そうになってるんだな?
「早くしろ。もちろん、私の指名に逆らえば〝即〟敗北だ」
「あー。なるほどなー。誰が挑戦するか、自分たちで選べないのかよ」
貴重なパワー&スピード人員のユーリを、まさか頭脳系の試練に投入する事になるとは思わなかった。
こりゃ、この試練、荒れるぞ。
「にゃ……やははー! そんじゃちょっと行ってくるよ」
どうやら落ち着いたようだ。
頭から手を離すと、ユーリは右の扉に進む。
「おいおい、大丈夫かユーリ?」
「まかせてよ! トランプなら、ねーちゃんとか里人と、けっこう遊んだんだ。 ポーカーも知ってるよ」
……親戚で集まった時の〝子どもの遊び〟程度か。まあ、そりゃそうだよな。
ユーリは扉を開けて、中に入っていった。
「お前たちは、私と一緒に左だ。さっさと入れ」
ユーリのことが心配なのだろう。大ちゃんは少し急いだ感じで、左のドアを開けて中に入る。僕たちも、その後に続いた。
「ここから観戦するのね……」
予想以上に狭い部屋だ。
いくつかの木の椅子が置かれ、右側の壁の上半分は、全てガラス張りになっていた。
ガラスの向こうには、ユーリが居て、大ちゃんに向けて手をふっている。
「おかしいな。向こうからは、ただの壁に見えているはずなんだが……くせっ毛は、なんでこちらに気付いているんだ?」
七宮が首をひねる。なるほど、マジックミラーみたいな感じか……
ちなみに、ユーリが大ちゃんに手を振っているのは〝生命感知〟で、誰がどの位置にいるのか正確に分かるからだ。
「……まあいいだろう。覚えておくがいい。この場所でのあらゆる不正行為は、即、敗北となる。何らかの方法で、お前たちが、くせっ毛にサインでも送ろうものなら、即座に消えてもらうからな」
慌てた七宮が、少し余裕のない口調で言った。
チッ。対戦相手のカードをのぞき見て、ブルーを介した会話で伝えようと思ってたのに。
『タツヤ、それはやめた方がいい。相手が人間でないなら、私の声を聞けるかもしれないからね』
なるほど、ブルーの言うとおりか。
……けど、向こうは堂々と、汚い手を使ってくるんだろうなあ。
「ククク。対戦相手の登場だ。ヤツは強いぞ」
ユーリ側の部屋に、黒いスーツを身にまとった、細身の男が入ってきた。いかにもカードゲームが得意そうな風貌だ。
人間……じゃないな。顔色が悪すぎる。
「ゲームが始まれば、向こうの音は、こちらに聞こえるようになる。さあ、ゲームスタートだ」
こちらの声は、向こうには届かないんだろう。
黒服の男は、部屋の中央にあるテーブルの椅子を引き、ユーリに座るよう促した。妙に紳士的な態度が、逆に不安を誘う。
『ジュ……ジュジュジュ……は、もう聞いていると思……ジュ……カードを使ったゲームだ。私に勝てば、あなたも最終の〝試練〟に参加することができる』
妙なノイズのあと、黒服の男の声が聞こえてきた。
「待って! ブルー、友里さんの方の通訳って大丈夫なの?」
あ、そうか。外から持ち込んだ道具は、使用禁止だって言ってたぞ。大ちゃんもここへ入る前に、凄メガネとベルトは外してある。
『アヤカ、それは問題ない。私は〝星〟だ。道具ではないし〝物〟という括りにも、収まらないだろう』
「ふう。良かったわ」
ほんとだよ。アイツたぶん、慣れない頭脳戦で、一杯一杯だろうからな。その上、言葉も通じないとなると、さすがにもう、どうしようもなくなる。
『このカードを使う』
黒服の男は、カードの束を取り出した。少し手元が見えにくいが、サイズはトランプ大だな。
中央に大きく〝13〟と数字が入ったカードが4枚、テーブルに並べられた。数字の周囲には、赤、青、緑、黒の模様が、13個描かれている。
『カードは1から13まで。そして、どのカードに置き換えることも出来る〝ワイルドカード〟が1枚』
そう言って、大きく金色の〝星〟が描かれたカードを並べた。
『まずは双方に5枚のカードを配る。カードの交換は2度。あなたが先で、次が私。1度に何枚交換してもいいし〝役〟が十分なら、交換しなくてもいい。できあがった〝役〟の強いほうが勝ちだ。今回の勝負は1度きり。すぐに勝敗が決まるだろう』
なんだ。本当にポーカーみたいだな。
『次に、すべての〝役〟を説明しよう。何も揃っていない状態の〝ハイカード〟。まあ、いわゆる〝ブタ〟だね。同じ数字を集めれば〝ペア〟。それが2種類なら〝ツーペア〟。同じ数字3枚なら〝スリーカード〟だ』
ユーリは、真剣な表情で説明を聞いている。勝負となると〝戦士〟の顔になるのは、さすがだ。
『数字を1,2,3,4,5のように、順番に5枚揃えられれば〝ストレート〟。ただし、13から1に続けることはできない。ただ唯一、10,11,12,13と揃っている時〝ワイルドカード〟は特別に、9ではなく14という扱いになる』
今のはちょっとややこしいけど、これはもう、ほとんどポーカーだ。
良かった。難しいルールだと、ユーリは勝つどころか、プレイすら出来ないからな。
『次に強いのは〝フラッシュ〟だ。同じ絵柄を5枚揃える。さらに、同じ絵柄で、順番通りに揃えれば〝ストレートフラッシュ〟。そしてその上は、同じ数字を4枚揃える〝クアッズ〟』
テーブルの上の、星マークの入った〝ワイルドカード〟を手のひらで隠し、男は〝13〟の〝クアッズ〟を作ってみせる。
『この上の〝役〟は、ワイルドカードを含んで、それを14に見立てた〝ワイルドストレートフラッシュ〟か……もしくは』
男は〝ワイルドカード〟の上に置かれた手をどける。
『5つ、同じ数字を揃える〝ファイブカード〟。この〝役〟が、最強だ』
不敵な笑みを浮かべる黒服の男。顔色の悪さが、不気味な雰囲気に拍車をかける。
『それから、同じ〝役〟なら、5枚の数字すべてを合計して、多いほうが勝ちだ。それも同数なら、ドロー。引き分けで再戦となる。絵柄に優劣はない』
……ところどころ、普通のポーカーと違うけど、まあ、大丈夫だろう。
『私に負ければ、あなたはその時点で、全てを禁じられ、我が主の元へ送られる。それでは、始めようか』
ユーリは神妙な顔つきで、終始無言だ。たぶん、あまり使わない脳みそをフル回転させているのだろう。
『まずは好きなだけ、カードをカットしてもらおう』
カードの束を受け取り、慣れない手つきでシャッフルするユーリ。
『やー、これでいいよ』
『よろしい、それでは始めよう』
黒服が、自分ととユーリ、双方に5枚のカードを配る。イカサマの無いように、僕たちも目を光らせるが、マジシャンなんかは、どんなに人の目があっても、安々とカードの操作をするらしいからな……
ユーリは、配られたカードを見て、口をとがらせたり、目をパチパチして、唸っている。
『交換は?』
『決めた! 2枚ちょーだい!』
ユーリは、2枚のカードを捨てて、男から、替わりのカードを受け取る。
……この角度からだと、よく見えないな。
『それでは、私も2枚……なるほど、ふむ』
男は、アゴに手を当てて、深く考えている様子だ。
『よーし! 私はこれでオッケー!』
マジか! 大丈夫なのか、ユーリ?
『私は、あと2枚いただくとしよう』
さっきも2枚だったな。思ったカードが来ないのだろう。
さて、いま引いたカードはどうなんだ?
『……ふむ。こんな物か。私は〝10〟の〝スリーカード〟だ』
黒服の男は、少し不服そうな表情で、テーブルの上に自分のカードを置いた。
……ユーリの口元がゆるんでいく。もしかして〝スリーカード〟より強い〝役〟だったのか?
「ん? おいおい、待てよ? トランプの、ポーカーの〝ような〟? 4枚のカードをわざわざ……絵柄に優劣がない……?」
大ちゃんが急に、何かを思いついたようにブツブツとつぶやき始めた。
表情が、みるみる険しくなっていく。
「九条くん、どうかしたの?」
「……マズいぜ、たぶん、あのカード!」
大ちゃんが、何か言いかけたその時、ユーリが自分のカードをテーブルに並べた。
「やー! 見て見て! 私の勝ち!」
5枚全てが黒いマーク……〝フラッシュ〟だ。 すごいじゃないかユーリ!
『……残念だな』
「やははー! やった! やったよ、みんな!」
『それは〝ハイカード〟。いわゆる〝ブタ〟だ』
ええっ?! 何を言ってるんだ! 5枚とも、黒いマークが……
「ちくしょう、やっぱりそうかよー!」
大ちゃんが、深刻な表情で叫ぶ。
「ええっ?! 九条くん、どういう事?」
「あのカード、絵柄が5種類あるんだぜ。赤、青、緑と……黒が2種類だ」
……マジか!
「ククク、その通り。やはり君は頭がいいね。ちなみに、黒の絵柄は〝猫〟と〝虎〟だ」
クソ! そんなの見分けが付かないだろう!
「あいつ、説明の時にわざわざ〝13〟のカード4枚と〝ワイルドカード〟をテーブルに並べて、カードの絵柄が4種類であるように印象づけやがったんだ。さらに、本当は〝13〟も5枚あるのに、5枚目を揃えるには〝ワイルドカード〟じゃなきゃダメだと、錯覚させたんだぜー!」
なんて事だ! 僕たちは〝トランプに似ている〟という先入観だけで、あのカードが4種類の絵柄だと、思い込んでいたんだ!
「でも、九条くん。もしユーリさんの持ち札に、黒くて同じ数字のカードが来たら、気付かれちゃうわ?」
「これは俺の推測だけど、あいつ、ある程度、自分の思い通りのカードを、狙って配れるんじゃないか?」
……やっぱりそうか。一流のマジシャンやディーラーは、カードを自在に操れるらしいからな。
「おかしいわ。だってそれなら、わざわざ面倒な細工をしなくても、簡単に勝てるじゃない!」
彩歌の言うことはもっともだ。なんでこんな回りくどい事を?
「俺たちが、まんまと引っかかって、悔しがる様を見て楽しむためだろー?」
「ククク。それだけじゃないさ。人間は、普通にゲームに負けた時より、罠に掛かって負けた時のほうが、より多くの〝負のエネルギー〟を生むんだ。ここは、それを収集する場所なんだよ」
『さて、あなたは敗北した。よって全てを禁じられる』
次の瞬間、ユーリが、黒いモヤのような物に包まれた。その表情は虚ろで、肌の色は青白く変わっていく。
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ちくしょう! やっぱりまともな〝試練〟じゃ、無いじゃないか!
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クラス全員で転移したけど俺のステータスは使役スキルが異常で出会った人全員を使役してしまいました
髙橋ルイ
ファンタジー
「クラス全員で転移したけど俺のステータスは使役スキルが異常で出会った人全員を使役してしまいました」
気がつけば、クラスごと異世界に転移していた――。
しかし俺のステータスは“雑魚”と判定され、クラスメイトからは置き去りにされる。
「どうせ役立たずだろ」と笑われ、迫害され、孤独になった俺。
だが……一人きりになったとき、俺は気づく。
唯一与えられた“使役スキル”が 異常すぎる力 を秘めていることに。
出会った人間も、魔物も、精霊すら――すべて俺の配下になってしまう。
雑魚と蔑まれたはずの俺は、気づけば誰よりも強大な軍勢を率いる存在へ。
これは、クラスで孤立していた少年が「異常な使役スキル」で異世界を歩む物語。
裏切ったクラスメイトを見返すのか、それとも新たな仲間とスローライフを選ぶのか――
運命を決めるのは、すべて“使役”の先にある。
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※表紙のイラストはAIによるイメージです
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