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春休み
カードゲーム(上)
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七宮さん……ああ、もう〝さん〟は要らないか。
七宮は、扉を閉めて鍵をかけた。ニヤニヤと笑いながら、その鍵を懐に仕舞う。
「どうして? なぜです、リーダー!」
千夏が叫ぶ。その表情は、悲しみと不安に彩られていた。
「ククク。私はただの〝案内者〟だよ。それ以上でも、それ以下でもない」
七宮の蔑むような視線が千夏に向けられている。
これまでの爽やかな笑顔とは一変して、下卑た笑みだ。
「そんな! ずっとみんなを騙していたの?! ううっ、ヒドい……!」
千夏はポロポロと涙をこぼす。
それを見た七宮は、より一層、嬉しそうに顔を歪めて笑っている。この男、絵に描いたようなクズだな。
「ふぅん。冗談……というわけじゃないみたいね」
飄々とした態度で、彩歌が冷たく呟いた。
幼馴染のお兄ちゃんは、どうやら勝手に嫌われてくれたみたいだ。
「ふふふ。さあ、さっさと最初の試練に挑んでもらおうか」
……七宮の様子から見ても、これから受ける〝試練〟が、公正な物かどうか、怪しくなってきたぞ。
「おっと、怖い怖い。そんなに睨むなよ、ククク。大丈夫だ。ここに入ってしまったら〝案内者〟である私は、もう嘘をつけない。ここからの私は、聖人の如き正直者だと思ってくれていいぞ」
ふーん。〝ここからの私〟は、ねぇ。ホントかよ?
「着いたぞ。挑戦する者は右、それ以外は左の扉に入るんだ」
第1の試練は、たしか〝カードゲーム〟だったな。できればここは、大ちゃんに行ってもらいたいけど、第3の試練〝謎解き〟の方が合ってる気もする。
「よーし、それじゃあ……くせっ毛、お前が行け」
七宮が言い放った。
おいおい、ちょっと待て、まさか?!
「やー?! 私? にゃんで……?!」
ユーリは、驚いて頭をおさえている。
思わず、耳が出そうになってるんだな?
「早くしろ。もちろん、私の指名に逆らえば〝即〟敗北だ」
「あー。なるほどなー。誰が挑戦するか、自分たちで選べないのかよ」
貴重なパワー&スピード人員のユーリを、まさか頭脳系の試練に投入する事になるとは思わなかった。
こりゃ、この試練、荒れるぞ。
「にゃ……やははー! そんじゃちょっと行ってくるよ」
どうやら落ち着いたようだ。
頭から手を離すと、ユーリは右の扉に進む。
「おいおい、大丈夫かユーリ?」
「まかせてよ! トランプなら、ねーちゃんとか里人と、けっこう遊んだんだ。 ポーカーも知ってるよ」
……親戚で集まった時の〝子どもの遊び〟程度か。まあ、そりゃそうだよな。
ユーリは扉を開けて、中に入っていった。
「お前たちは、私と一緒に左だ。さっさと入れ」
ユーリのことが心配なのだろう。大ちゃんは少し急いだ感じで、左のドアを開けて中に入る。僕たちも、その後に続いた。
「ここから観戦するのね……」
予想以上に狭い部屋だ。
いくつかの木の椅子が置かれ、右側の壁の上半分は、全てガラス張りになっていた。
ガラスの向こうには、ユーリが居て、大ちゃんに向けて手をふっている。
「おかしいな。向こうからは、ただの壁に見えているはずなんだが……くせっ毛は、なんでこちらに気付いているんだ?」
七宮が首をひねる。なるほど、マジックミラーみたいな感じか……
ちなみに、ユーリが大ちゃんに手を振っているのは〝生命感知〟で、誰がどの位置にいるのか正確に分かるからだ。
「……まあいいだろう。覚えておくがいい。この場所でのあらゆる不正行為は、即、敗北となる。何らかの方法で、お前たちが、くせっ毛にサインでも送ろうものなら、即座に消えてもらうからな」
慌てた七宮が、少し余裕のない口調で言った。
チッ。対戦相手のカードをのぞき見て、ブルーを介した会話で伝えようと思ってたのに。
『タツヤ、それはやめた方がいい。相手が人間でないなら、私の声を聞けるかもしれないからね』
なるほど、ブルーの言うとおりか。
……けど、向こうは堂々と、汚い手を使ってくるんだろうなあ。
「ククク。対戦相手の登場だ。ヤツは強いぞ」
ユーリ側の部屋に、黒いスーツを身にまとった、細身の男が入ってきた。いかにもカードゲームが得意そうな風貌だ。
人間……じゃないな。顔色が悪すぎる。
「ゲームが始まれば、向こうの音は、こちらに聞こえるようになる。さあ、ゲームスタートだ」
こちらの声は、向こうには届かないんだろう。
黒服の男は、部屋の中央にあるテーブルの椅子を引き、ユーリに座るよう促した。妙に紳士的な態度が、逆に不安を誘う。
『ジュ……ジュジュジュ……は、もう聞いていると思……ジュ……カードを使ったゲームだ。私に勝てば、あなたも最終の〝試練〟に参加することができる』
妙なノイズのあと、黒服の男の声が聞こえてきた。
「待って! ブルー、友里さんの方の通訳って大丈夫なの?」
あ、そうか。外から持ち込んだ道具は、使用禁止だって言ってたぞ。大ちゃんもここへ入る前に、凄メガネとベルトは外してある。
『アヤカ、それは問題ない。私は〝星〟だ。道具ではないし〝物〟という括りにも、収まらないだろう』
「ふう。良かったわ」
ほんとだよ。アイツたぶん、慣れない頭脳戦で、一杯一杯だろうからな。その上、言葉も通じないとなると、さすがにもう、どうしようもなくなる。
『このカードを使う』
黒服の男は、カードの束を取り出した。少し手元が見えにくいが、サイズはトランプ大だな。
中央に大きく〝13〟と数字が入ったカードが4枚、テーブルに並べられた。数字の周囲には、赤、青、緑、黒の模様が、13個描かれている。
『カードは1から13まで。そして、どのカードに置き換えることも出来る〝ワイルドカード〟が1枚』
そう言って、大きく金色の〝星〟が描かれたカードを並べた。
『まずは双方に5枚のカードを配る。カードの交換は2度。あなたが先で、次が私。1度に何枚交換してもいいし〝役〟が十分なら、交換しなくてもいい。できあがった〝役〟の強いほうが勝ちだ。今回の勝負は1度きり。すぐに勝敗が決まるだろう』
なんだ。本当にポーカーみたいだな。
『次に、すべての〝役〟を説明しよう。何も揃っていない状態の〝ハイカード〟。まあ、いわゆる〝ブタ〟だね。同じ数字を集めれば〝ペア〟。それが2種類なら〝ツーペア〟。同じ数字3枚なら〝スリーカード〟だ』
ユーリは、真剣な表情で説明を聞いている。勝負となると〝戦士〟の顔になるのは、さすがだ。
『数字を1,2,3,4,5のように、順番に5枚揃えられれば〝ストレート〟。ただし、13から1に続けることはできない。ただ唯一、10,11,12,13と揃っている時〝ワイルドカード〟は特別に、9ではなく14という扱いになる』
今のはちょっとややこしいけど、これはもう、ほとんどポーカーだ。
良かった。難しいルールだと、ユーリは勝つどころか、プレイすら出来ないからな。
『次に強いのは〝フラッシュ〟だ。同じ絵柄を5枚揃える。さらに、同じ絵柄で、順番通りに揃えれば〝ストレートフラッシュ〟。そしてその上は、同じ数字を4枚揃える〝クアッズ〟』
テーブルの上の、星マークの入った〝ワイルドカード〟を手のひらで隠し、男は〝13〟の〝クアッズ〟を作ってみせる。
『この上の〝役〟は、ワイルドカードを含んで、それを14に見立てた〝ワイルドストレートフラッシュ〟か……もしくは』
男は〝ワイルドカード〟の上に置かれた手をどける。
『5つ、同じ数字を揃える〝ファイブカード〟。この〝役〟が、最強だ』
不敵な笑みを浮かべる黒服の男。顔色の悪さが、不気味な雰囲気に拍車をかける。
『それから、同じ〝役〟なら、5枚の数字すべてを合計して、多いほうが勝ちだ。それも同数なら、ドロー。引き分けで再戦となる。絵柄に優劣はない』
……ところどころ、普通のポーカーと違うけど、まあ、大丈夫だろう。
『私に負ければ、あなたはその時点で、全てを禁じられ、我が主の元へ送られる。それでは、始めようか』
ユーリは神妙な顔つきで、終始無言だ。たぶん、あまり使わない脳みそをフル回転させているのだろう。
『まずは好きなだけ、カードをカットしてもらおう』
カードの束を受け取り、慣れない手つきでシャッフルするユーリ。
『やー、これでいいよ』
『よろしい、それでは始めよう』
黒服が、自分ととユーリ、双方に5枚のカードを配る。イカサマの無いように、僕たちも目を光らせるが、マジシャンなんかは、どんなに人の目があっても、安々とカードの操作をするらしいからな……
ユーリは、配られたカードを見て、口をとがらせたり、目をパチパチして、唸っている。
『交換は?』
『決めた! 2枚ちょーだい!』
ユーリは、2枚のカードを捨てて、男から、替わりのカードを受け取る。
……この角度からだと、よく見えないな。
『それでは、私も2枚……なるほど、ふむ』
男は、アゴに手を当てて、深く考えている様子だ。
『よーし! 私はこれでオッケー!』
マジか! 大丈夫なのか、ユーリ?
『私は、あと2枚いただくとしよう』
さっきも2枚だったな。思ったカードが来ないのだろう。
さて、いま引いたカードはどうなんだ?
『……ふむ。こんな物か。私は〝10〟の〝スリーカード〟だ』
黒服の男は、少し不服そうな表情で、テーブルの上に自分のカードを置いた。
……ユーリの口元がゆるんでいく。もしかして〝スリーカード〟より強い〝役〟だったのか?
「ん? おいおい、待てよ? トランプの、ポーカーの〝ような〟? 4枚のカードをわざわざ……絵柄に優劣がない……?」
大ちゃんが急に、何かを思いついたようにブツブツとつぶやき始めた。
表情が、みるみる険しくなっていく。
「九条くん、どうかしたの?」
「……マズいぜ、たぶん、あのカード!」
大ちゃんが、何か言いかけたその時、ユーリが自分のカードをテーブルに並べた。
「やー! 見て見て! 私の勝ち!」
5枚全てが黒いマーク……〝フラッシュ〟だ。 すごいじゃないかユーリ!
『……残念だな』
「やははー! やった! やったよ、みんな!」
『それは〝ハイカード〟。いわゆる〝ブタ〟だ』
ええっ?! 何を言ってるんだ! 5枚とも、黒いマークが……
「ちくしょう、やっぱりそうかよー!」
大ちゃんが、深刻な表情で叫ぶ。
「ええっ?! 九条くん、どういう事?」
「あのカード、絵柄が5種類あるんだぜ。赤、青、緑と……黒が2種類だ」
……マジか!
「ククク、その通り。やはり君は頭がいいね。ちなみに、黒の絵柄は〝猫〟と〝虎〟だ」
クソ! そんなの見分けが付かないだろう!
「あいつ、説明の時にわざわざ〝13〟のカード4枚と〝ワイルドカード〟をテーブルに並べて、カードの絵柄が4種類であるように印象づけやがったんだ。さらに、本当は〝13〟も5枚あるのに、5枚目を揃えるには〝ワイルドカード〟じゃなきゃダメだと、錯覚させたんだぜー!」
なんて事だ! 僕たちは〝トランプに似ている〟という先入観だけで、あのカードが4種類の絵柄だと、思い込んでいたんだ!
「でも、九条くん。もしユーリさんの持ち札に、黒くて同じ数字のカードが来たら、気付かれちゃうわ?」
「これは俺の推測だけど、あいつ、ある程度、自分の思い通りのカードを、狙って配れるんじゃないか?」
……やっぱりそうか。一流のマジシャンやディーラーは、カードを自在に操れるらしいからな。
「おかしいわ。だってそれなら、わざわざ面倒な細工をしなくても、簡単に勝てるじゃない!」
彩歌の言うことはもっともだ。なんでこんな回りくどい事を?
「俺たちが、まんまと引っかかって、悔しがる様を見て楽しむためだろー?」
「ククク。それだけじゃないさ。人間は、普通にゲームに負けた時より、罠に掛かって負けた時のほうが、より多くの〝負のエネルギー〟を生むんだ。ここは、それを収集する場所なんだよ」
『さて、あなたは敗北した。よって全てを禁じられる』
次の瞬間、ユーリが、黒いモヤのような物に包まれた。その表情は虚ろで、肌の色は青白く変わっていく。
「ユーリいぃぃぃッ!」
大ちゃんの叫び声が響く。
ちくしょう! やっぱりまともな〝試練〟じゃ、無いじゃないか!
七宮は、扉を閉めて鍵をかけた。ニヤニヤと笑いながら、その鍵を懐に仕舞う。
「どうして? なぜです、リーダー!」
千夏が叫ぶ。その表情は、悲しみと不安に彩られていた。
「ククク。私はただの〝案内者〟だよ。それ以上でも、それ以下でもない」
七宮の蔑むような視線が千夏に向けられている。
これまでの爽やかな笑顔とは一変して、下卑た笑みだ。
「そんな! ずっとみんなを騙していたの?! ううっ、ヒドい……!」
千夏はポロポロと涙をこぼす。
それを見た七宮は、より一層、嬉しそうに顔を歪めて笑っている。この男、絵に描いたようなクズだな。
「ふぅん。冗談……というわけじゃないみたいね」
飄々とした態度で、彩歌が冷たく呟いた。
幼馴染のお兄ちゃんは、どうやら勝手に嫌われてくれたみたいだ。
「ふふふ。さあ、さっさと最初の試練に挑んでもらおうか」
……七宮の様子から見ても、これから受ける〝試練〟が、公正な物かどうか、怪しくなってきたぞ。
「おっと、怖い怖い。そんなに睨むなよ、ククク。大丈夫だ。ここに入ってしまったら〝案内者〟である私は、もう嘘をつけない。ここからの私は、聖人の如き正直者だと思ってくれていいぞ」
ふーん。〝ここからの私〟は、ねぇ。ホントかよ?
「着いたぞ。挑戦する者は右、それ以外は左の扉に入るんだ」
第1の試練は、たしか〝カードゲーム〟だったな。できればここは、大ちゃんに行ってもらいたいけど、第3の試練〝謎解き〟の方が合ってる気もする。
「よーし、それじゃあ……くせっ毛、お前が行け」
七宮が言い放った。
おいおい、ちょっと待て、まさか?!
「やー?! 私? にゃんで……?!」
ユーリは、驚いて頭をおさえている。
思わず、耳が出そうになってるんだな?
「早くしろ。もちろん、私の指名に逆らえば〝即〟敗北だ」
「あー。なるほどなー。誰が挑戦するか、自分たちで選べないのかよ」
貴重なパワー&スピード人員のユーリを、まさか頭脳系の試練に投入する事になるとは思わなかった。
こりゃ、この試練、荒れるぞ。
「にゃ……やははー! そんじゃちょっと行ってくるよ」
どうやら落ち着いたようだ。
頭から手を離すと、ユーリは右の扉に進む。
「おいおい、大丈夫かユーリ?」
「まかせてよ! トランプなら、ねーちゃんとか里人と、けっこう遊んだんだ。 ポーカーも知ってるよ」
……親戚で集まった時の〝子どもの遊び〟程度か。まあ、そりゃそうだよな。
ユーリは扉を開けて、中に入っていった。
「お前たちは、私と一緒に左だ。さっさと入れ」
ユーリのことが心配なのだろう。大ちゃんは少し急いだ感じで、左のドアを開けて中に入る。僕たちも、その後に続いた。
「ここから観戦するのね……」
予想以上に狭い部屋だ。
いくつかの木の椅子が置かれ、右側の壁の上半分は、全てガラス張りになっていた。
ガラスの向こうには、ユーリが居て、大ちゃんに向けて手をふっている。
「おかしいな。向こうからは、ただの壁に見えているはずなんだが……くせっ毛は、なんでこちらに気付いているんだ?」
七宮が首をひねる。なるほど、マジックミラーみたいな感じか……
ちなみに、ユーリが大ちゃんに手を振っているのは〝生命感知〟で、誰がどの位置にいるのか正確に分かるからだ。
「……まあいいだろう。覚えておくがいい。この場所でのあらゆる不正行為は、即、敗北となる。何らかの方法で、お前たちが、くせっ毛にサインでも送ろうものなら、即座に消えてもらうからな」
慌てた七宮が、少し余裕のない口調で言った。
チッ。対戦相手のカードをのぞき見て、ブルーを介した会話で伝えようと思ってたのに。
『タツヤ、それはやめた方がいい。相手が人間でないなら、私の声を聞けるかもしれないからね』
なるほど、ブルーの言うとおりか。
……けど、向こうは堂々と、汚い手を使ってくるんだろうなあ。
「ククク。対戦相手の登場だ。ヤツは強いぞ」
ユーリ側の部屋に、黒いスーツを身にまとった、細身の男が入ってきた。いかにもカードゲームが得意そうな風貌だ。
人間……じゃないな。顔色が悪すぎる。
「ゲームが始まれば、向こうの音は、こちらに聞こえるようになる。さあ、ゲームスタートだ」
こちらの声は、向こうには届かないんだろう。
黒服の男は、部屋の中央にあるテーブルの椅子を引き、ユーリに座るよう促した。妙に紳士的な態度が、逆に不安を誘う。
『ジュ……ジュジュジュ……は、もう聞いていると思……ジュ……カードを使ったゲームだ。私に勝てば、あなたも最終の〝試練〟に参加することができる』
妙なノイズのあと、黒服の男の声が聞こえてきた。
「待って! ブルー、友里さんの方の通訳って大丈夫なの?」
あ、そうか。外から持ち込んだ道具は、使用禁止だって言ってたぞ。大ちゃんもここへ入る前に、凄メガネとベルトは外してある。
『アヤカ、それは問題ない。私は〝星〟だ。道具ではないし〝物〟という括りにも、収まらないだろう』
「ふう。良かったわ」
ほんとだよ。アイツたぶん、慣れない頭脳戦で、一杯一杯だろうからな。その上、言葉も通じないとなると、さすがにもう、どうしようもなくなる。
『このカードを使う』
黒服の男は、カードの束を取り出した。少し手元が見えにくいが、サイズはトランプ大だな。
中央に大きく〝13〟と数字が入ったカードが4枚、テーブルに並べられた。数字の周囲には、赤、青、緑、黒の模様が、13個描かれている。
『カードは1から13まで。そして、どのカードに置き換えることも出来る〝ワイルドカード〟が1枚』
そう言って、大きく金色の〝星〟が描かれたカードを並べた。
『まずは双方に5枚のカードを配る。カードの交換は2度。あなたが先で、次が私。1度に何枚交換してもいいし〝役〟が十分なら、交換しなくてもいい。できあがった〝役〟の強いほうが勝ちだ。今回の勝負は1度きり。すぐに勝敗が決まるだろう』
なんだ。本当にポーカーみたいだな。
『次に、すべての〝役〟を説明しよう。何も揃っていない状態の〝ハイカード〟。まあ、いわゆる〝ブタ〟だね。同じ数字を集めれば〝ペア〟。それが2種類なら〝ツーペア〟。同じ数字3枚なら〝スリーカード〟だ』
ユーリは、真剣な表情で説明を聞いている。勝負となると〝戦士〟の顔になるのは、さすがだ。
『数字を1,2,3,4,5のように、順番に5枚揃えられれば〝ストレート〟。ただし、13から1に続けることはできない。ただ唯一、10,11,12,13と揃っている時〝ワイルドカード〟は特別に、9ではなく14という扱いになる』
今のはちょっとややこしいけど、これはもう、ほとんどポーカーだ。
良かった。難しいルールだと、ユーリは勝つどころか、プレイすら出来ないからな。
『次に強いのは〝フラッシュ〟だ。同じ絵柄を5枚揃える。さらに、同じ絵柄で、順番通りに揃えれば〝ストレートフラッシュ〟。そしてその上は、同じ数字を4枚揃える〝クアッズ〟』
テーブルの上の、星マークの入った〝ワイルドカード〟を手のひらで隠し、男は〝13〟の〝クアッズ〟を作ってみせる。
『この上の〝役〟は、ワイルドカードを含んで、それを14に見立てた〝ワイルドストレートフラッシュ〟か……もしくは』
男は〝ワイルドカード〟の上に置かれた手をどける。
『5つ、同じ数字を揃える〝ファイブカード〟。この〝役〟が、最強だ』
不敵な笑みを浮かべる黒服の男。顔色の悪さが、不気味な雰囲気に拍車をかける。
『それから、同じ〝役〟なら、5枚の数字すべてを合計して、多いほうが勝ちだ。それも同数なら、ドロー。引き分けで再戦となる。絵柄に優劣はない』
……ところどころ、普通のポーカーと違うけど、まあ、大丈夫だろう。
『私に負ければ、あなたはその時点で、全てを禁じられ、我が主の元へ送られる。それでは、始めようか』
ユーリは神妙な顔つきで、終始無言だ。たぶん、あまり使わない脳みそをフル回転させているのだろう。
『まずは好きなだけ、カードをカットしてもらおう』
カードの束を受け取り、慣れない手つきでシャッフルするユーリ。
『やー、これでいいよ』
『よろしい、それでは始めよう』
黒服が、自分ととユーリ、双方に5枚のカードを配る。イカサマの無いように、僕たちも目を光らせるが、マジシャンなんかは、どんなに人の目があっても、安々とカードの操作をするらしいからな……
ユーリは、配られたカードを見て、口をとがらせたり、目をパチパチして、唸っている。
『交換は?』
『決めた! 2枚ちょーだい!』
ユーリは、2枚のカードを捨てて、男から、替わりのカードを受け取る。
……この角度からだと、よく見えないな。
『それでは、私も2枚……なるほど、ふむ』
男は、アゴに手を当てて、深く考えている様子だ。
『よーし! 私はこれでオッケー!』
マジか! 大丈夫なのか、ユーリ?
『私は、あと2枚いただくとしよう』
さっきも2枚だったな。思ったカードが来ないのだろう。
さて、いま引いたカードはどうなんだ?
『……ふむ。こんな物か。私は〝10〟の〝スリーカード〟だ』
黒服の男は、少し不服そうな表情で、テーブルの上に自分のカードを置いた。
……ユーリの口元がゆるんでいく。もしかして〝スリーカード〟より強い〝役〟だったのか?
「ん? おいおい、待てよ? トランプの、ポーカーの〝ような〟? 4枚のカードをわざわざ……絵柄に優劣がない……?」
大ちゃんが急に、何かを思いついたようにブツブツとつぶやき始めた。
表情が、みるみる険しくなっていく。
「九条くん、どうかしたの?」
「……マズいぜ、たぶん、あのカード!」
大ちゃんが、何か言いかけたその時、ユーリが自分のカードをテーブルに並べた。
「やー! 見て見て! 私の勝ち!」
5枚全てが黒いマーク……〝フラッシュ〟だ。 すごいじゃないかユーリ!
『……残念だな』
「やははー! やった! やったよ、みんな!」
『それは〝ハイカード〟。いわゆる〝ブタ〟だ』
ええっ?! 何を言ってるんだ! 5枚とも、黒いマークが……
「ちくしょう、やっぱりそうかよー!」
大ちゃんが、深刻な表情で叫ぶ。
「ええっ?! 九条くん、どういう事?」
「あのカード、絵柄が5種類あるんだぜ。赤、青、緑と……黒が2種類だ」
……マジか!
「ククク、その通り。やはり君は頭がいいね。ちなみに、黒の絵柄は〝猫〟と〝虎〟だ」
クソ! そんなの見分けが付かないだろう!
「あいつ、説明の時にわざわざ〝13〟のカード4枚と〝ワイルドカード〟をテーブルに並べて、カードの絵柄が4種類であるように印象づけやがったんだ。さらに、本当は〝13〟も5枚あるのに、5枚目を揃えるには〝ワイルドカード〟じゃなきゃダメだと、錯覚させたんだぜー!」
なんて事だ! 僕たちは〝トランプに似ている〟という先入観だけで、あのカードが4種類の絵柄だと、思い込んでいたんだ!
「でも、九条くん。もしユーリさんの持ち札に、黒くて同じ数字のカードが来たら、気付かれちゃうわ?」
「これは俺の推測だけど、あいつ、ある程度、自分の思い通りのカードを、狙って配れるんじゃないか?」
……やっぱりそうか。一流のマジシャンやディーラーは、カードを自在に操れるらしいからな。
「おかしいわ。だってそれなら、わざわざ面倒な細工をしなくても、簡単に勝てるじゃない!」
彩歌の言うことはもっともだ。なんでこんな回りくどい事を?
「俺たちが、まんまと引っかかって、悔しがる様を見て楽しむためだろー?」
「ククク。それだけじゃないさ。人間は、普通にゲームに負けた時より、罠に掛かって負けた時のほうが、より多くの〝負のエネルギー〟を生むんだ。ここは、それを収集する場所なんだよ」
『さて、あなたは敗北した。よって全てを禁じられる』
次の瞬間、ユーリが、黒いモヤのような物に包まれた。その表情は虚ろで、肌の色は青白く変わっていく。
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ちくしょう! やっぱりまともな〝試練〟じゃ、無いじゃないか!
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これは――
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【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
MP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
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