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春休み
公務員
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今日、大きな動きがあった。
例の〝甲種超常的事象観測地点〟に、5名の少年少女が侵入したのだ。
「田所さん。すみません! まさか、あんなにスラスラと〝経路〟を辿るなんて……!」
「いや、お前は悪くねぇぞ。むしろ配属早々、良くやってくれてらぁな。こんなワケの分かんねぇ部署だってのによ?」
そう言って、田所さんは笑ってくれた。
だが、僕がしっかりしていれば、少なくともあの5人は、救えたかもしれないのだ。
「僕の責任です。この場所が危険だという事は、理解しているつもりだったんですが……油断してしまいました」
「いやぁ、どうだかな。お前が油断していようがしていまいが、ベテランだろうが素人だろうが、今回の件は防げなかったんじゃねぇか?」
言われてみれば、そんな気もする。
夜道に背後から襲われる方が、まだ対処の仕様があるというものだ。
「特に、最後に消えた子は、妙な感じだった。一度は消えずに済んだのに、わざわざもういっぺん、観測地点まで巻き込まれに行きやがったんだからな。しかも〝経路〟無視で消えるなんて、信じらんねぇ」
完全には把握できていないが、ここで失踪する人たちは、必ずある一定の複雑な〝経路〟を辿っているらしい。
ところが最後に見失った子の場合、他の4人と全く同じルートを辿った1度目の通過ではなく、道順を大幅に外れていた2度目で消えた。僕の目の前で。
「で、どうだ? チビどもについて、何か分かったか?」
「いえ、まだです。たぶん、写真が不鮮明で、照合に時間が掛かっているんでしょう」
警視庁のデータベースと、渡航者リスト。せめて、どちらかに記録があればいいんだけど。
ここルーマニアにある観光都市〝シギショアラ〟は、多くの観光客が訪れる。もちろん日本人も多い。
それでも、あの5人が一般観光客である確率は低いだろう。なぜなら……
「お? 能勢、電話鳴ってるぞ」
「おっと、いけない! もしもし。はい、はい。有り難うございます。ええっ?!」
驚いた。何でこんな所に……?
「どうした?」
「今日、消えた子たちの中に〝魔道士〟が居ました」
この場所について、政府は〝城塞都市〟の管理局に情報を渡していない。
……一体、どうやって嗅ぎ付けたんだ?
「子どもの魔道士かい。するってぇと……」
「ええ。藤島彩歌……ですね」
「ああ、間違いねぇ。〝炎の女帝〟……おっと、お前ら若者にゃあ〝雷神〟の方が分かりやすいか」
どちらも、最近覚えた言葉だ。
藤島彩歌。異名持ちの上に、高階級の魔道士。
「第11階級魔道士なんて、普通に仕事してりゃ、滅多に関わるような事ねぇからよぉ。お前にゃあ〝いい経験〟通り越して、荷が勝ち過ぎちまうかもしんねぇなあ」
〝警視庁公安部魔界関連特別対策課〟……通称〝魔特課〟は、その名の通り〝魔界〟に関する事件を担当する。
……なんて説明を受けた時は、まず夢だと疑い、ドッキリ系のテレビ番組かと疑い、最後は自分の頭を疑った。
研修所で実物の悪魔を見せられても、まだ半信半疑だった。
同期の一人が、教官の指示に従わずそいつに近付き過ぎて、魔法で焼き殺されるまでは。
「他の4人の情報はどうだ?」
「リストには見当たらなかったようです。ここ数ヶ月間の渡航記録もありません」
警視庁のリストで、顔写真を元に検索出来るデータは〝犯罪者〟と〝運転免許証〟からだけだ。あの若さで載る事はないだろう。
けど、渡航記録の方にも載っていないのは妙だな。
「箒にでも乗ってきたのかぁ?」
田所さんが、そう言って鼻で笑った。
魔道士が絡むと、冗談なのか本当なのかが、イマイチ分かりにくくなってしまう。〝魔特課〟あるあるだ。
「でも、魔道士が来ているなら、間違いないですね」
「ああ。一連の失踪事件は、魔界絡みだったって事だな。だが、そうなると……ルーマニア政府との協力体制は、ここまでだ。ダミーの情報だけ置いて、一旦、撤収する事になるかも知れねぇ」
魔界や魔道士の存在は、トップ・シークレット。少しでも漏らせば、僕も、家族も、知り合いも〝大規模な隠蔽工作〟に巻き込まれて、この世から消える。
〝アイツ、最近見ないな〟とかいう会話すら、されないんだ。そいつらの記憶も、なぜか一緒に消えるハズだから。
「しかし、噂には聞いていましたが……〝魔法で子どもの姿にされる〟なんて、本当にあるんですか?」
「さあなぁ。実際に見たわけじゃねぇからよ。詳しくは俺にも分かんねぇけど……」
田所さんは、内ポケットからタバコを取り出し、火をつける。
「憶えとけ能勢。魔界絡みの事件は、常識や先入観を捨てらんねぇヤツから、順番に死んでいくんだ」
ふわり。と、白い煙が、田所さんのため息と共に舞う。
それについては、きっと何度も見て来たに違いない。
「とにかく、だ。俺は、5番目に消えた子が接触していた老夫婦を見てっから、お前さんは、もう一度〝経路〟を見直してくれ」
その〝老夫婦〟とは、田所さんがこの場所で長年捜索している、河西千夏の祖父母だ。
彼らと接触していたという事は、やはり藤島彩歌以外の4人も、ただの子どもじゃないと見て、間違いないだろう。
「……撤収命令、出ますかね?」
「五分五分ってトコだろうな。あの魔道士サマが、無事に〝出て〟来れば、俺たちゃ居残りだ。だが、3日待って戻らなけりゃ、そこから先は魔道士たちに重い荷をサッサと渡して、選手交代。ハッハッハ! 久し振りに、日本へ帰れるぞ」
田所さんは、悪戯っ子のように笑う。
「はは。またまた、そんな事言って。笑い事じゃないですよ」
もちろん、この人がそんな事を望んでいないのは分かっている。何年も、血の滲むような苦労をしながら、この〝観測地点〟を捜査して来たんだ。
「笑えねぇよ。俺ぁ、運が良かっただけだ。何人もの同僚が、いつの間にか消えたり、目の前で消えたりすりゃあ、どんなヤツだって尻尾を巻いて逃げたいと思うって事さ」
そう言い残して、田所さんは雑踏の中に消えて行った。
さて。僕も仕事に戻るとするか。
>>>
「出て来ただと?! 本当か!」
ハァハァという息づかいと共に、田所さんが現れた。
ちょうど、あの5人が辿った〝経路〟を確認し終えた時、少年少女が、目の前の細い路地から、ヒョコヒョコと現れたのだ。
「どうしますか?」
「少し様子を見るぜ。あの〝路地の先〟で、何が起こったのか確認できるまで、接触は避けた方がいい」
「分かりました」
さすがは田所さんだ。場数を踏んでいる。
……あの路地に入って行ったのが〝無害〟な〝人間〟だったとしても、いま出てきたモノが〝有害〟な〝何か〟になっている可能性はあるのだ。
「見ろ、能勢。一人増えてやがるぞ」
「な?! まさかそんな!」
……本当だ。確かに6人居る。
「この距離なのに、よく分かりますね」
「へっへ。近ぇのは、眼鏡が無いと見えねぇがな。ん? ……おいおい! ありゃ、河西千夏じゃねえか!」
本当に目が良いな田所さん。僕が双眼鏡を覗くより早いってどういう……
河西千夏?!
「…………驚いた。間違いありません。写真と全く同じ……な?! ちょっと待ってくださいよ!」
いやいやいや、有り得ない!
「3年も経ってるんですよね? ……なんで写真と全く同じ背格好なんですか?!」
あの年頃の〝3年〟は、恐ろしいほどの成長期だろう。なのに、写真に写っているのと同じ姿で、河西千夏は現れた。
「これが〝魔特課〟の仕事じゃなけりゃ、本人かどうかすら、怪しい所だな」
「そうですね。あの藤島彩歌なんか、ああ見えて本当は26歳だって言いますし……あれ?」
藤島彩歌が、僕の方をずっと見ている?
…………まさかね。気のせいだろう。
「どうした?」
まだ見ている。
いや、これは……睨まれている?! ひいぃぃ!
「ごめんなさいっ! 許して下さいっ!」
僕がそう叫んだ途端、藤島彩歌は、プイっと向こうを向いた。
き、気のせいだよな? この距離でそんな……
怖い怖い怖い怖い!
「おい、大丈夫か?」
「だ、大丈夫です…………それより、どうしますか?」
「まずは報告だ。魔道士が直接出張って来てる事件に関しては、 城塞都市を通さなきゃならんからな。面倒くせぇが、俺がやろう」
「分かりました。とにかく今は見失わないように尾行を……」
と言いかけた時、例の老夫婦が現れた。
「近付くなよ? 記録だけに止めろ。その記録を残していいかどうかも、あっち次第だがな」
「はい、了解しました」
捜索対象、河西千夏は、祖父母と接触、会話内容は確認不可……と。
「感動の再会ってヤツだな。たぶんアレは、間違いなく河西千夏本人だろう」
田所さんは、携帯電話で本部に報告を終えると、目を細めて言った。
「僕もそう思います」
あの涙は、本物だ。
……そう信じたい。
そうでなければ、神も仏もない。
「決まりだな。今回の件は、あの藤島彩歌が〝魔界絡みの事件〟に巻き込まれた、河西千夏を救出したって事で間違い無いだろ。記録は抹消だろうなあ」
田所さんは、少しだけ残念そうな顔をした。
当たり前だ。理不尽過ぎる!
「納得いきませんよ! 田所さんは、何年も何年も、命懸けで追いかけて来たのに、結局、全部持って行かれてしまうなんて……!」
田所さんは、僕の頭をくしゃくしゃと撫でると、悪戯っ子に言い含めるように笑う。
「まあ、しゃあねぇな。俺たちみたいな〝一般人〟が、魔界関係の事件に、下手に関わりゃ、それこそ〝ミイラ取りがミイラ〟になっちまわぁ」
……笑えない冗談ですよ。
「それにな。ここからのアフターフォローが、俺たちの本当の仕事だ」
「……はい!」
そこへ、携帯電話が鳴った。
「はっは! ほら見ろ。忙しくなるぞ」
その電話の内容は〝シギショアラ〟における〝魔特課〟駐在の終了および、捜査に関連する記録情報の抹消。そして、河西千夏の警護だった。
例の〝甲種超常的事象観測地点〟に、5名の少年少女が侵入したのだ。
「田所さん。すみません! まさか、あんなにスラスラと〝経路〟を辿るなんて……!」
「いや、お前は悪くねぇぞ。むしろ配属早々、良くやってくれてらぁな。こんなワケの分かんねぇ部署だってのによ?」
そう言って、田所さんは笑ってくれた。
だが、僕がしっかりしていれば、少なくともあの5人は、救えたかもしれないのだ。
「僕の責任です。この場所が危険だという事は、理解しているつもりだったんですが……油断してしまいました」
「いやぁ、どうだかな。お前が油断していようがしていまいが、ベテランだろうが素人だろうが、今回の件は防げなかったんじゃねぇか?」
言われてみれば、そんな気もする。
夜道に背後から襲われる方が、まだ対処の仕様があるというものだ。
「特に、最後に消えた子は、妙な感じだった。一度は消えずに済んだのに、わざわざもういっぺん、観測地点まで巻き込まれに行きやがったんだからな。しかも〝経路〟無視で消えるなんて、信じらんねぇ」
完全には把握できていないが、ここで失踪する人たちは、必ずある一定の複雑な〝経路〟を辿っているらしい。
ところが最後に見失った子の場合、他の4人と全く同じルートを辿った1度目の通過ではなく、道順を大幅に外れていた2度目で消えた。僕の目の前で。
「で、どうだ? チビどもについて、何か分かったか?」
「いえ、まだです。たぶん、写真が不鮮明で、照合に時間が掛かっているんでしょう」
警視庁のデータベースと、渡航者リスト。せめて、どちらかに記録があればいいんだけど。
ここルーマニアにある観光都市〝シギショアラ〟は、多くの観光客が訪れる。もちろん日本人も多い。
それでも、あの5人が一般観光客である確率は低いだろう。なぜなら……
「お? 能勢、電話鳴ってるぞ」
「おっと、いけない! もしもし。はい、はい。有り難うございます。ええっ?!」
驚いた。何でこんな所に……?
「どうした?」
「今日、消えた子たちの中に〝魔道士〟が居ました」
この場所について、政府は〝城塞都市〟の管理局に情報を渡していない。
……一体、どうやって嗅ぎ付けたんだ?
「子どもの魔道士かい。するってぇと……」
「ええ。藤島彩歌……ですね」
「ああ、間違いねぇ。〝炎の女帝〟……おっと、お前ら若者にゃあ〝雷神〟の方が分かりやすいか」
どちらも、最近覚えた言葉だ。
藤島彩歌。異名持ちの上に、高階級の魔道士。
「第11階級魔道士なんて、普通に仕事してりゃ、滅多に関わるような事ねぇからよぉ。お前にゃあ〝いい経験〟通り越して、荷が勝ち過ぎちまうかもしんねぇなあ」
〝警視庁公安部魔界関連特別対策課〟……通称〝魔特課〟は、その名の通り〝魔界〟に関する事件を担当する。
……なんて説明を受けた時は、まず夢だと疑い、ドッキリ系のテレビ番組かと疑い、最後は自分の頭を疑った。
研修所で実物の悪魔を見せられても、まだ半信半疑だった。
同期の一人が、教官の指示に従わずそいつに近付き過ぎて、魔法で焼き殺されるまでは。
「他の4人の情報はどうだ?」
「リストには見当たらなかったようです。ここ数ヶ月間の渡航記録もありません」
警視庁のリストで、顔写真を元に検索出来るデータは〝犯罪者〟と〝運転免許証〟からだけだ。あの若さで載る事はないだろう。
けど、渡航記録の方にも載っていないのは妙だな。
「箒にでも乗ってきたのかぁ?」
田所さんが、そう言って鼻で笑った。
魔道士が絡むと、冗談なのか本当なのかが、イマイチ分かりにくくなってしまう。〝魔特課〟あるあるだ。
「でも、魔道士が来ているなら、間違いないですね」
「ああ。一連の失踪事件は、魔界絡みだったって事だな。だが、そうなると……ルーマニア政府との協力体制は、ここまでだ。ダミーの情報だけ置いて、一旦、撤収する事になるかも知れねぇ」
魔界や魔道士の存在は、トップ・シークレット。少しでも漏らせば、僕も、家族も、知り合いも〝大規模な隠蔽工作〟に巻き込まれて、この世から消える。
〝アイツ、最近見ないな〟とかいう会話すら、されないんだ。そいつらの記憶も、なぜか一緒に消えるハズだから。
「しかし、噂には聞いていましたが……〝魔法で子どもの姿にされる〟なんて、本当にあるんですか?」
「さあなぁ。実際に見たわけじゃねぇからよ。詳しくは俺にも分かんねぇけど……」
田所さんは、内ポケットからタバコを取り出し、火をつける。
「憶えとけ能勢。魔界絡みの事件は、常識や先入観を捨てらんねぇヤツから、順番に死んでいくんだ」
ふわり。と、白い煙が、田所さんのため息と共に舞う。
それについては、きっと何度も見て来たに違いない。
「とにかく、だ。俺は、5番目に消えた子が接触していた老夫婦を見てっから、お前さんは、もう一度〝経路〟を見直してくれ」
その〝老夫婦〟とは、田所さんがこの場所で長年捜索している、河西千夏の祖父母だ。
彼らと接触していたという事は、やはり藤島彩歌以外の4人も、ただの子どもじゃないと見て、間違いないだろう。
「……撤収命令、出ますかね?」
「五分五分ってトコだろうな。あの魔道士サマが、無事に〝出て〟来れば、俺たちゃ居残りだ。だが、3日待って戻らなけりゃ、そこから先は魔道士たちに重い荷をサッサと渡して、選手交代。ハッハッハ! 久し振りに、日本へ帰れるぞ」
田所さんは、悪戯っ子のように笑う。
「はは。またまた、そんな事言って。笑い事じゃないですよ」
もちろん、この人がそんな事を望んでいないのは分かっている。何年も、血の滲むような苦労をしながら、この〝観測地点〟を捜査して来たんだ。
「笑えねぇよ。俺ぁ、運が良かっただけだ。何人もの同僚が、いつの間にか消えたり、目の前で消えたりすりゃあ、どんなヤツだって尻尾を巻いて逃げたいと思うって事さ」
そう言い残して、田所さんは雑踏の中に消えて行った。
さて。僕も仕事に戻るとするか。
>>>
「出て来ただと?! 本当か!」
ハァハァという息づかいと共に、田所さんが現れた。
ちょうど、あの5人が辿った〝経路〟を確認し終えた時、少年少女が、目の前の細い路地から、ヒョコヒョコと現れたのだ。
「どうしますか?」
「少し様子を見るぜ。あの〝路地の先〟で、何が起こったのか確認できるまで、接触は避けた方がいい」
「分かりました」
さすがは田所さんだ。場数を踏んでいる。
……あの路地に入って行ったのが〝無害〟な〝人間〟だったとしても、いま出てきたモノが〝有害〟な〝何か〟になっている可能性はあるのだ。
「見ろ、能勢。一人増えてやがるぞ」
「な?! まさかそんな!」
……本当だ。確かに6人居る。
「この距離なのに、よく分かりますね」
「へっへ。近ぇのは、眼鏡が無いと見えねぇがな。ん? ……おいおい! ありゃ、河西千夏じゃねえか!」
本当に目が良いな田所さん。僕が双眼鏡を覗くより早いってどういう……
河西千夏?!
「…………驚いた。間違いありません。写真と全く同じ……な?! ちょっと待ってくださいよ!」
いやいやいや、有り得ない!
「3年も経ってるんですよね? ……なんで写真と全く同じ背格好なんですか?!」
あの年頃の〝3年〟は、恐ろしいほどの成長期だろう。なのに、写真に写っているのと同じ姿で、河西千夏は現れた。
「これが〝魔特課〟の仕事じゃなけりゃ、本人かどうかすら、怪しい所だな」
「そうですね。あの藤島彩歌なんか、ああ見えて本当は26歳だって言いますし……あれ?」
藤島彩歌が、僕の方をずっと見ている?
…………まさかね。気のせいだろう。
「どうした?」
まだ見ている。
いや、これは……睨まれている?! ひいぃぃ!
「ごめんなさいっ! 許して下さいっ!」
僕がそう叫んだ途端、藤島彩歌は、プイっと向こうを向いた。
き、気のせいだよな? この距離でそんな……
怖い怖い怖い怖い!
「おい、大丈夫か?」
「だ、大丈夫です…………それより、どうしますか?」
「まずは報告だ。魔道士が直接出張って来てる事件に関しては、 城塞都市を通さなきゃならんからな。面倒くせぇが、俺がやろう」
「分かりました。とにかく今は見失わないように尾行を……」
と言いかけた時、例の老夫婦が現れた。
「近付くなよ? 記録だけに止めろ。その記録を残していいかどうかも、あっち次第だがな」
「はい、了解しました」
捜索対象、河西千夏は、祖父母と接触、会話内容は確認不可……と。
「感動の再会ってヤツだな。たぶんアレは、間違いなく河西千夏本人だろう」
田所さんは、携帯電話で本部に報告を終えると、目を細めて言った。
「僕もそう思います」
あの涙は、本物だ。
……そう信じたい。
そうでなければ、神も仏もない。
「決まりだな。今回の件は、あの藤島彩歌が〝魔界絡みの事件〟に巻き込まれた、河西千夏を救出したって事で間違い無いだろ。記録は抹消だろうなあ」
田所さんは、少しだけ残念そうな顔をした。
当たり前だ。理不尽過ぎる!
「納得いきませんよ! 田所さんは、何年も何年も、命懸けで追いかけて来たのに、結局、全部持って行かれてしまうなんて……!」
田所さんは、僕の頭をくしゃくしゃと撫でると、悪戯っ子に言い含めるように笑う。
「まあ、しゃあねぇな。俺たちみたいな〝一般人〟が、魔界関係の事件に、下手に関わりゃ、それこそ〝ミイラ取りがミイラ〟になっちまわぁ」
……笑えない冗談ですよ。
「それにな。ここからのアフターフォローが、俺たちの本当の仕事だ」
「……はい!」
そこへ、携帯電話が鳴った。
「はっは! ほら見ろ。忙しくなるぞ」
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