プラネット・アース 〜地球を守るために小学生に巻き戻った僕と、その仲間たちの記録〜

ガトー

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6年生 1学期 4月

校長室

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「名前を呼ばれたら 元気よく返事をして起立。そして、自己紹介してくれるかな?」 

 簡単なヤツでいいからさ。
 と、新任の〝能勢のせ先生〟が微笑む。
 同時に、クラスの いたるところから ざわざわと声が上がった。 

「おっと。いきなりでビックリしたかな? ……それじゃあ、先生から先に自己紹介をしておこう。そうすれば、みんなも喋りやすくなるかもしれないからね」

 そう言って、先生は黒板に〝能勢圭司〟と大きく書いて、ニッと笑う。

「先生の名前は〝のせ・けいじ〟だ。けいじと言っても、警察官じゃないぞ?」

 というセリフに、栗っちが笑う。

『えへへ。面白いね!』

 ん? 今の〝面白い〟か?

『うん。先生は〝けいじ〟だからね!』

 いやぁ、その笑いはさすがに小学生向け過ぎる……あ、っていうか、今のも僕、喋ってないぞ。また〝精神感応せいしんかんのう〟か。
 栗っちが普通に〝心の声〟を読み取って返事するから、それが普通になって来たな。

「先生は、少し前まで外国に居たんだけど、色々と事情があって、この学校に来る事になったんだ」

 外国……ねぇ。

「特技は、絵を描く事と、運動全般かな。特に、空手と柔道、そして剣道、それから合気道は〝段持ち〟だ。もしみんなの中に、武道をやってる子が居るなら、先生に何でも聞いてくれ。一応、一通りの武術は、そこそこかじってるからな」

 へぇ。それはスゴい。

「それじゃ、出席番号順に行くぞ? 〝内海達也うつみたつや〟くん。先鋒せんぽうだから、景気よく元気に頼む」

 え? ……ああ、そうか! クラス替えしたから、僕が出席番号〝1番〟になったんだっけ。

「はいっ! えーっと……内海達也です。将来の夢は〝正義の味方〟です!」

 クラスの至る所から、笑いが起こる。

「あはは、たっちゃん! 6年生にもなって、ヒーロー志望かよ!」

「頑張れよ! みんな応援してるからな!」

 野次やじまで飛ぶ始末だ。

「そうか。達也くんは世界の平和を守るんだな! 先生も応援しているぞ」

 ふっふっふ。お分かり頂けただろうか。
 この自己紹介のポイントは、小学生向けである上に、分かる人には分かるジョークを含んでいるって所だ。

『えへへ。さすがたっちゃん! さっきの先生の自己紹介と同じだね!』

 え? 栗っち、それってどういう事……

「よし、それじゃ、次は〝内海うつみるり〟さん」

 おっと。るりも同級生だった。
 ちなみに出席番号は、男女混合だ。そうじゃない学校もあるみたいだけどね。

「はい……内海るりです。私は基本的に〝子どもを傘に着た冗談〟は好きじゃありません」

 おいおい。お前はもう少し〝子どもの仮面〟を被れよな。

「はい、ありがとう……あ、そうか。るりさんも〝内海〟だったね。キミは、校長先生には呼ばれていない」

 なるほど。さっきの〝校長先生の伝言〟で〝内海〟とだけ言ってたからか。

「うーん。けど……」

 能勢のせ先生は、少し考えた後で付け加えた。

「……もし今回、お兄さん……達也くんたちが〝校長先生に呼ばれた〟事に、自分が少しでも〝関係している〟と思うなら、一緒に校長室に行ってくれてもいいよ」





 >>>





 放課後。校長室では、校長先生と能勢のせ先生が待っていた。 

「初めまして。校長の〝田所たどころ〟です。どうぞ座って」

 校長は、始業式の時より少し表情が硬い。
 長いソファに、5人が座る……いや、4人と1体か。
 お気付きとは思うが、大ちゃんとユーリは、今日は出張中。ここに居るのは、愛里あいりさんと大ちゃんロボだ。
 るりは、先に帰ってもらった。少なくとも、今回の件……〝シギショアラ〟や河西千夏かわにしちなつに関しては、アイツは関わっていないからな。

「さて……本題に入る前に、まずは藤島彩歌ふじしまあやかさんに、おたずねします」

 校長先生は、少し間を開けて、と切り出した。

「他の4人は、あなたの〝素性すじょう〟を知っていますか?」

 この質問は〝彩歌が魔界人だと知っているか?〟という事だろう。
 ……やっぱり〝魔界がらみ〟か。
 彩歌は少し考えた後、コクリとうなずく。

「お2人は〝魔特課まとっか〟の方ですね?」

 マトッカ? 初めて聞く言葉だ。

「はい。我々は、お察しの通り〝警視庁けいしちょう公安部こうあんぶ魔界関連特別対策課まかいかんれんとくべつたいさくか〟の者です」

 警察?! 魔界課なんてあるのか!
 校長と担任が警察官って……色々と面倒な事にならなければいいけど。

「我々2人は〝ルーマニア〟〝シギショアラ〟で、魔界に何らかの関連があると思われる〝事件〟を追っていました。ご存知とは思いますが、それは3年前に起きた〝邦人女児失踪事件ほうじんじょじしっそうじけん〟です」

 おいおい。この2人もしかして、あの場所に居たのか?!

「その事件、失踪したのは河西千夏かわにしちなつさんね」

「はい。3年前、彼女が消えた〝甲種こうしゅ超常的事象ちようじょうてきじしょう観測かんそく地点ちてん〟……他にも多くの失踪事件が多発していたポイントで、あなた方が消えるのを、能勢のせ刑事が目撃しておりました」

 あの場所に居たっていうか、直接見られてた!
 ブルー、知ってたか?

『いや、さすがにあの雑踏ざっとうの中で〝プロによる監視〟に気付くのは無理だね』

「あなた方が現れた日。河西千夏かわにしちなつは、失踪した当時の姿のまま、帰ってきました。我々の任務は、即日、彼女の〝身辺警護〟に変更され、今日に至ります。ちなみに、私は〝お飾り〟ですが、能勢のせは教員免許を持っています。安心して頂きたい」 

 ……それで、2人は〝教員〟として、ここに来たのか。

「我々は、藤島ふじしまさんが、魔界……城塞都市じょうさいとしから派遣されたとばかり思っていました。しかし城塞都市側は〝知らない〟の一点張り。最終的には、正式に〝書面〟で〝無関係だ〟という通知を受けました」 

『ちょっとマズいわね。城塞都市に、私の行動が伝わってしまったみたい』

 そうか。彩歌は、城塞都市に報告をせず、ゲートを閉じて回っているんだった。

『ごめんなさい! もしかしたら、達也さんの事が城塞都市に知られてしまうかも……』

 確かに、ゲートが開いた状態だという事がバレたら、僕や〝魔界の軸石ルナ〟の事を説明しないと辻褄つじつまが合わなくなる。
 ……けど、それならそれで、別にいいや。

『大丈夫だ彩歌さん。最悪、僕が何とかするよ』

 力技ちからわざでね。

『ありがとう達也さん! ……ふう。今はとりあえず、私に出来る事をやってみるわね』

 彩歌は、安心したように微笑んだあと、校長を静かに見据えて言った。

「……それで、私を呼んだのね?」

 校長は、静かにうなずくと、話を進める。

「城塞都市が〝無関係〟と正式に表明したおかげで、我々は、こうしてあなたと接触することができた。能勢のせ、こっちへ来い」

「はい」

 能勢のせ先生と校長が並んで立つ。
 ピシッと姿勢を正した後、敬礼のポーズを取った。

「ここからは、城塞都市とは無関係の話となります。〝魔特課まとっか〟から外に情報を漏らさないよう徹底します。教えて下さい。あなたたちは一体、何者なんですか? 〝シギショアラ〟には、何があったのですか?」

 2人は、敬礼して、背筋をピンと伸ばしたまま、動かない。

『えへへ。二人とも、ウソはついてないよ? それに、僕たちに不利になるような事は、上には報告しないって考えてるみたい』

 栗っちが言うんだから間違いないだろう。
 つまり〝魔特課まとっか〟と情報を共有して欲しいというより、どちらかと言うと、あの2人が真実を知りたいだけって事か。

『達也さん、ブルー。この人たちは〝魔界関連〟の事件を捜査するために作られた組織の人間。私たちの事を外部に漏らす事は無いわ。それに〝城塞都市〟と無関係な事件として、私と接触しているから魔界側に漏れる事も無い…………私たちの事、話してもいいかしら』

『僕はいいと思うよ。どっちにしろ1年間は、この人たちの監視下で学校に通う事になるわけだし、むしろ知っておいて貰ったほうがいいかもね』

『私も同感だ。アヤカの好きにしていい』

『ありがとう。それじゃ……』

 彩歌は、静かに立ち上がった。

「分かりました。全てお話します。まずは〝魔特課まとっか〟の中でなら共有して頂いて構わない情報からです」

 校長と能勢のせ先生は、敬礼を解き、足を開いて〝休め〟の体勢をとった。

「有難うございます。では、その前にこれを」

 2人は、懐からそれぞれ1通ずつ、封筒を取り出した。
 〝辞表〟と書かれたその封筒を、テーブルの上に置く。

「我々は、職を辞する覚悟があります。あなた方の不利になる情報は、たとえ義務違反に問われようと、課には報告しません」

『えへへ。ね? 大丈夫でしょ?』

 栗っちが嬉しそうにしている。確かに、この2人なら大丈夫だろう。
 ……どこまで話すかにもよるけど。

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