プラネット・アース 〜地球を守るために小学生に巻き戻った僕と、その仲間たちの記録〜

ガトー

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6年生 1学期 4月

旧校舎

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「それでは、我々は失礼します」

「お仕事ご苦労様です」

 そう言って、警察官たちは去って行った。
 ふぅ。まさか校門前で職務質問されるとは思わなかったな。

「仕方ないよね。だって先生、重装備なんだもん」

 栗栖君は、ニコニコと笑う。
 今夜の僕の装備は、怪しいゴーグルに、手の甲だけ分厚い手袋。左右の腰に下げた警棒。ちょっと背広をめくれば、両脇のホルスターには奇妙なアンテナの付いた拳銃が二丁。更に、背広とズボンのポケットに突っ込んだ、微妙に発光する弾が、合計120発。
 ……確かに、怪しさMAXだ。
 これらを全部見られたら、さすがの警察手帳も、効果が疑わしくなって来ると思う。

「僕、警察手帳って、初めて見たよ! あとでゆっくり見せてね!」

 いや、見せびらかす物でも無いんだけど。

「えへへ。勿体ぶる物でもないよね!」

 ウマい事言うなあ。
 ……おっと。念の為に補足を。
 僕の〝カギ括弧かっこが付いていないセリフ〟に栗栖君が返事をしているのは、彼の〝精神感応せいしんかんのう〟っていう能力に拠る物で、別に間違いって訳じゃないんだ。覚えておいて欲しい。

「それじゃあ、行こうよ!」

 栗栖君は、僕の気苦労も知らずに、閉じられた校門をヒョイと飛び越える。
 今の身のこなし……やっぱりこの子、只者じゃない。

「あ、先生。僕、先生の気苦労はよ?」

 ……それは悪かった。
 あと、と思うけど〝校門の鍵〟も、ちゃんと預かっているから、飛び越えなくて良かったんだぞ?

「えへへ、ごめんね。旧校舎がちょっと良くない状態だから、焦っちゃったんだよ」

 良くない状態か。〝悪霊系〟の研修は一通り受けたけど……
 スコープのスイッチを入れて警棒を構える。

「さすがに中に入るまで〝銃〟は装備するわけにはいかないか」

 〝赤外線外線兼紫外線外線せきがいせんがいせんけんしがいせんがいせんスコープ〟
 これは、赤外線や紫外線の波長を超えた先。X線、マイクロ波、電波、更には実在し得ないはずの〝マイナス波長〟を、無理やり感知する事が出来る〝霊視機器〟だ。
 〝プラズマロッド〟
 世界中で確認されている、7千余りの宗教における〝鎮魂ちんこん〟に関する経文、呪文、技法を、電子的に再現して内蔵した特殊警棒。触れるどころか見ることさえ出来ない筈の存在に、物理法則を超えてダメージを与えることが出来る。
 ちなみに、どの宗派の、どの部分が〝霊的に有効打〟となっているのかは不明らしい。

「よしよし。正常動作を確認……っと」

 実戦でこれらの装備を使うのは初めてだ。

「……先生!」

 っていうか、いきなりルーマニア行きだったからな。霊体相手自体が初めてだよ。
 こんな事なら、もっとシミュレーターで訓練しとけば良かった。

「気を付けて先生! 前! 前!」

 ……前?

「うわあっ?!」

 目の前に、いつの間にか血まみれの男性が立っていて、僕に向けて手を伸ばしている。
 咄嗟とっさに右手の警棒を斜めに振り上げると、バチッ! と音が鳴って、男性の手が霧のように飛び散った。

「な?! 何で校庭に霊が居るんだよ?!」

 一瞬ひるんだ男性の霊は、血走った目をギラリと僕に向けて襲い掛かって来た。
 僕は咄嗟に、左手の手袋を握り締めて〝盾〟を起動させる。

「ちょっと待ってくれ! まだ心の準備が出来て無いって!」

 〝電離柵生成籠手でんりさくせいせいこて
 電離気体でんりきたいを噴出し、霊体からの干渉を阻む障壁とする。
 大量の電力を使うため、長時間の使用は出来ない。また、少量だが〝オゾン〟が発生するため、屋内などではマスクの着用が推奨されている。

「せいやっ!」

 霊の体当たりを〝盾〟で受け止め、すかさず頭部目掛けて、警棒を叩き込む。
 苦悶の表情を浮かべて、男性の霊体は粉々になって消えてしまった。

「えへへ。さすが先生! 今のは剣道なの?! スゴいねえ!」

「いや、今のは〝十手術じってじゅつ〟の応用で……いや、そんな事より校庭に霊が? しかもあの霊は……」

 スコープに備え付けのゲージが〝赤〟に振り切っていたぞ?! 混じりっけ無しの〝怨霊〟じゃないか!

「うーん。旧校舎の〝良くない物〟に引き寄せられて、集まって来てるみたい」

 おいおいおい! そんなの聞いてないぞ?!
 よくよく見渡すと、あっちにもこっちにも、ボンヤリと霊体らしき姿が見える。

「栗栖君。これ、大丈夫なのか?」

「あの子たちは旧校舎を目指しているから、今の所は僕と先生以外に危害を加える事は無いと思うけど……」

 僕には危害を加えるのかよ……
 栗栖君は、ちょっとだけ困った顔で続ける。

「急いで〝七不思議〟をなんとかしないと、霊的に飽和状態いっぱいいっぱいになって、外へあふれちゃうかも」

「うわ! そりゃあ大変だ。急ごう!」

 何て事だ。ただの霊体ならまだしも〝怨霊〟は、生身の人間を襲う。
 ……最悪、死人が出るぞ。
 僕と栗栖君は、急ぎ足で旧校舎へと向かった。





 >>>





 木造2階建ての、時代を感じさせる佇まい。
 昼間に見るのと真夜中に見るのとでは、雰囲気というか〝迫力〟が全然違う。
 ……こんなホーンテッドな建物が、小学校の敷地内に有って良いのかよ。

「絶対にヤバいの居るよな」

 この建物が〝学校〟として使われていたのは、今から30年前まで。
 つまり僕が生まれる前から、既に立入禁止になっていたという事か。

「それじゃ、開けるね」

「あ、待て待て! 鍵があるんだって!」

 僕が内ポケットから取り出した鍵は、旧校舎の扉に元々付いている鍵ではなく、頑丈そうなボルトで固定した金具を、グルグル巻きにしている鎖に通された、南京錠の物だ。

「しかし妙だな。純木造の建物だから、この入口だけ補強しても仕方無いだろうに」

 よく見ると、古びた木製の扉は鉄板で補強され、蝶番ちょうつがいも複数追加されている。
 だが僕の知る限り、ここ以外の出入り口や窓は、塞がれている訳でもなく、補強もされていない。

「……中の子たちにとって〝出口〟はここだけなんだ」

 栗栖君が、少し悲しげにつぶやく。
 中の子たち? どういう事だ?

「えっとね。職員室や保健室にも扉はあるし、もちろん窓もあるけど〝生徒〟は、そこから出ちゃいけないんだよ?」

 生徒は出ちゃいけない? 

「……なるほど〝校則〟か!」

 新校舎になった今も、生徒は下駄箱がある出入り口以外からは、原則、外に出てはいけない。もちろん、窓から出たりすれば、叱られるのは当然だ。

「うん。だから中の子たちは、ここからしか出られないんだ」

 だけど〝七不思議〟は〝生徒〟じゃないだろう? どうして〝校則〟を守ろうとするんだ?

「〝七不思議〟は、学校から出ようとはしないよ? 外へ出ようとしているのは、とっても悪くなって大きくなった〝生徒〟の霊なんだ」

 そっちが本命?! 想定外だ。僕はてっきり〝七不思議〟と戦うんだと思っていたぞ?

「ちゃんと説明しなくてごめんね。でも、それで合ってるよ?」

 ……合ってる?

「先生は〝七不思議〟と戦って欲しいんだ。僕が〝生徒の霊〟と、お話ししている間ね」

 待ってくれ! 分業なのか?! 僕が〝七不思議〟と戦うだって?!
 〝栗栖君が居れば楽勝〟とか思っていたんだ。いや、情けない話だが。

「大丈夫だよ。先生は強いから! あと、気を付けてね。外から近付いて来てる悪い霊は〝生徒〟じゃないから……」

 窓からも入って来るのか?! いきなりハード過ぎるよ!

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