透明色の魔物使い~色がないので冒険者になれませんでした!?~

壬黎ハルキ

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第一章 色無しの魔物使い

027 別行動と再認識

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 微妙な空気と化し、魔物たちの散り散りとなってしまった。
 しかしそれも仕方のないこと――そうマキトたちは捉えており、割り切っているつもりでいたが、やはり沈む気持ちは拭えない。

「まぁ、お主たちはワシが認めた客人じゃ。すぐに出て行けとは言わんよ」

 長老スライムがそう語りかける。淡々とした口調ながら、今までで一番気を遣ったような優しさが出ている――アリシアはそんな気がしてならなかった。

「……どうも」

 その一言しか出てこなかった。どう返していいか分からなかったのである。もう少し何かあるんじゃないかと思ったが、やはり何も浮かんでこない。
 なんとも言えない気まずい空気が漂っているところに――

「にゃあ」

 緑色の小さな猫のような魔物が近づいてきた。
 何故かアリシアをジッと見上げており、そして長老スライムに向かって鳴き声で何かを語りかける。

「――なんと! それは本当か?」
「にゃっ!」

 驚く長老スライムに、猫の魔物はコクリと頷く。自分に対してそんなに驚く要素があるだろうかと、アリシアは首を傾げる。

「あの……私が何か?」
「おぉ、すまん。ちと尋ねるが――」

 ポヨンと弾みながら、長老スライムが振り向いてくる。

「お主、魔力を持っておるな? しかも普段は魔力を使うような者でない」
「――っ!?」

 アリシアが目を見開く。どうして分かったのかという無言の訴えが、長老スライムを笑いに誘った。

「またえらく顔に出ておるの」
「あ、いや、それは別にどうでも……てゆーか、何で……」
「分からんのか? こやつが教えてくれたんじゃよ」

 長老スライムが猫の魔物に視線を向ける。

「こやつは少々特殊でな。相手が魔力を持っておるかどうか、どんなふうに魔力を使うのかを見抜く力を持っておるんじゃ」
「へぇ……もしかして、霊獣?」
「そうではない。あくまで『グリーンキャット』の亜種に過ぎんよ」

 サラリと紹介される事実に、アリシアは再びポカンと呆けてしまう。

「亜種、だったんですね」
「そうじゃ。何も見た目が変わるだけが亜種ではないぞ」

 してやったりと言わんばかりに長老スライムがニヤリと笑った。
 すると――

「その猫も亜種なの?」
「見た目だけじゃ分からないのです」

 マキトとラティが近づいてきて、興味深そうにグリーンキャットを見つめる。原種と見た目が全く同じであり、見分けが全くつかない。
 そこに長老スライムが、ホッホッホッと笑いながら言った。

「あくまで魔力を読み取れる能力があるだけじゃ。魔法そのものは使えん。何かと役に立っておることも確かじゃがな」
「へぇ、そっかー。お前もなかなか凄いんだな」
「にゃあ♪」

 マキトに頭を撫でられ、グリーンキャットは嬉しそうに鳴き声を上げる。大人しくて逃げる様子が全く見られない。どうやらマキトに懐いたようだと、アリシアは思っていた。
 明らかに我が道を行くスタイルを貫き通している。
 その姿はまさに『猫』と言ったところか。

「あ、そういえば――」

 ここでマキトが思い出しつつ、顔を上げて周囲を見渡す。

「一緒に来たスライム、どこへ行ったか知らない?」
「へっ?」

 そう言われて、アリシアもようやく気づいた。この場にいるスライムは、赤いスライム一匹のみであることに。
 隠れ里に来た時は、ついてきた青いスライムも確かに一緒だった。
 なのにいつの間にか姿を消していた。
 赤いスライムや長老スライムでさえも気づいていなかったのか、揃って驚きを示しながらキョロキョロと見渡す。

「ピキィー」
「うむ。もしかしたら、里の奥へ行ってしまったのかもしれんな」

 長老スライムが視線を向けた先には、明るく光が差し込んでいた。すると赤いスライムがポンポンと弾み出す。

「――ピキィッ、ピキピキピキィ!」
「ん? お主が少年たちを?」
「ピキャッ♪」

 赤いスライムが長老スライムに呼びかけたのち、マキトの元へやってくる。

「ピキィー、ピキキィ」
「どうやら案内してくれるみたいなのです」
「そっか、頼むよ」

 ラティの通訳にホッとした表情を浮かべるマキトだったが、ここで数分前の出来事を思い出す。

「……でも、いいのか? 俺らが里の奥へ入るのはマズい気がするけど」
「少しくらいなら大丈夫じゃよ」

 答えたのは長老スライムだった。

「案内役がしっかりしておれば尚更じゃ。警戒する魔物もほんの一部。さっきみたく一気に懐かれるお前さんなら、恐らく心配いらんじゃろうて」
「そ、そうかなぁ?」

 確かに長老スライムの言うとおりではあるだろう。しかしマキトからすれば、魔物に懐かれるという自覚があるのかないのか微妙なところであり、自身を持って頷くことはできなかった。

「まぁ、とにかく行ってみるのですよ」

 ここでラティが、気を取り直すかの如く明るい声を出す。

「スライムさんを見つけたら、すぐに戻って来ればいいだけの話なのです」
「それもそうか。じゃあ案内よろしくな」
「ピキィー♪」

 赤いスライムが飛び跳ねながら、お任せあれと返事をする。早速向かおうとマキトも動き出そうとするが、アリシアは佇んだままだった。

「私は待っているわ。ついて行ったところで騒がれるだけだろうし」
「あぁ、分かった」
「行ってくるのですー♪」

 マキトとラティもアッサリそれを受け入れ、赤いスライムについて行く形で歩き出していった。
 彼らを見送ったアリシアに、長老スライムが近づいてくる。

「時にアリシアよ。普段のお前さんは何をしておるのかね? 魔力を使わん働きをしていることは読めておるのじゃが……」
「錬金術師です。薬草とか色々な素材から、モノを生み出すんですよ」

 アリシアは補足がてら、ここ数日で行ってきたことの簡単な説明をする。それを聞いた長老スライムは目を見開いた。

「ほう、魔力を素材にモノを生み出すか……こりゃまた面白いことをするな」
「マキトのアイディアのおかげなんですけどね」
「なるほどな。あの少年は、閃きにも冴えておるということかの」
「えぇ……あっ!」

 アリシアが頷いたところで、あることが頭に浮かんだ。

「勿論アレですよ? ここの素材を無暗に持ち帰ったりするとか、そーゆーことはしませんから!」
「ホホッ、そうしてもらえると助かる。外に広まってもいかんからな」

 長老スライムも驚きを隠しながら笑った。割と必死なアリシアを見て、少しだけ安心したのは彼の中だけの話である。
 そこに――

「にゃあ!」

 グリーンキャットが呼びかけた。そういえばいたんだっけと思いながら、アリシアが視線を合わせる。

「なぁに? どうしたの?」
「にゃ!」

 アリシアが問いかけると、グリーンキャットはすぐさま走り出す。しかしすぐに立ち止まり、チラリと振り向いてきた。
 それが何を示すのか、アリシアも長老スライムもすぐに理解する。

「ふむ。どうやらアイツは、ある場所をアリシアに紹介したいようじゃ」
「ある場所?」
「行ってみてのお楽しみじゃよ。ワシも同行しよう」

 そう言って長老スライムもポヨポヨと弾みながら動き出す。
 あまりにも警戒心がなさ過ぎやしないかと思い、アリシアは目を細くした。

「……いいんですか? 誰かに話すかもしれませんけど?」
「構わんよ」

 しかし長老スライムは冷静だった。そしてピタッと止まり、振り返りながらニヤリと笑う。

「そうなったらそうなったで、魔物たちが黙っておらんじゃろうな。あまり魔物を甘く見るでないぞ」
「――っ!」

 その瞬間、アリシアは背筋が震えた。
 すっかり忘れていた。自分たちヒトからすれば、魔物とは本来、途轍もなく恐ろしい存在と言われているのだ。
 その気になればいつでも命を刈り取れる――たとえスライムでも油断は禁物。
 アリシアは今更ながら、それを改めて思い出した。
 同時にこの数日で、すっかり自分の中で魔物に対する認識が変わってしまっていたことを痛感する。
 その原因は、もはや考えるまでもない。
 目を離した隙に魔物と仲良くしてしまう少年の顔が、思わず浮かんできた。

「えっと、まぁその……ご心配なく」

 なんとか気持ちを落ち着けながら、アリシアは言う。

「私もこんな綺麗な場所を汚すようなマネは、したくありませんから」
「うむ。それを聞いてワシも安心したぞ♪」

 長老スライムはニッコリと笑い、再びポヨポヨと弾みだす。スライムとグリーンキャットに連れられる形で、アリシアもゆっくりと歩を進めるのだった。

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